宗教とは
坂木 良子は晴空小学校の教師である。
1-2担任で晴空小学校、中学校、高校は密集して存在していた。
そのため、初等部、中等部、高等部とも呼ばれることもある。
今日、この日は良子が授業を行っていた。
科目は算数。
小学校では国語、算数、理科、社会、英語、道徳、体育が教えられていた。
「みんな、1+5は何かな?」
「はーい! 6です!」
「はい、正解です。それじゃあ、次の問題です。10-7は何かなー?」
「はーい! 3です!」
「その通り、正解です」
良子は生徒たちに算数を教えていた。
その様子を眺める影があった。
「さて、神への信仰……それがどれだけ強いか見せてもらいましょうか……」
セリオンは坂木家の家の中を歩いていた。
周囲に危険がないかチェックしていたのだ。
それにしても坂木家の姉妹たちが立て続けに悪魔に襲われるのは異常だった。
セリオンは窓を開ける。
新鮮な空気が入ってくる。
「おや?」
セリオンは不意に電気がついている部屋を見つけた。
「あれは……良子の部屋か? まだ明かりがついているな」
セリオンは良子の部屋に行った。
「良子、どうかしたのか?」
「…………」
セリオンは外から声をかけたが、内からの反応はなかった。
「……入るぞ?」
セリオンは良子の部屋に入った。
すると良子は机にもたれかかって眠っていた。
良子の前にはスクリーンセイバーを起動したノートパソコンがあった。
「良子……眠っているのか……毛布があるな。これで……」
セリオンは毛布を良子にかけた。
そして電気を消した。
「おやすみ、良子」
次の日の朝。
「セリオンくーん! ごめんねー! 昨日は電気を消してくれたでしょう? ありがとー!」
良子は恥ずかしそうにセリオンにお礼を言った。
「仕事を家に持ち帰ってきているのか?」
「うん。やっぱり学校にいるあいだだけじゃあ、終わらなくて。やっぱりね、夜遅くまで学校の電気がついていると、クレームが来るの。それでみんな家で残業をやっているわけなの。これもサービス残業みたいなものね。教師ってけっこうブラックな仕事なのよね。もちろん、やりがいもあるんだけど……」
「そうか。大変なんだな……もし、俺で手伝えることがあるなら言ってくれ。手を貸そう」
「うん、ありがとう、セリオン君」
「ねえ、良子、聞いた?」
「何?」
話しの相手は良子の同僚「紫 すみれ」だった。
二人は学校の職員室にいた。
「どうしたの、すみれちゃん?」
「校長先生が言っていたけど、良子のクラスに転校生が来るらしいわよ」
「え? そうなの?」
良子は目を丸くした。
「なんでも外国から来たって話ね。帰国子女みたい。来るのは来週って聞いたんだけど……」
「ふうん、そう……ちなみにどの国から来たの?」
「うーん、まだよくわかっていないみたい。でも確かイギリスからって」
「イギリスから?」
「まあ、まだ噂のうちだしね。良子は大変そうだけど……」
「サンプル通りにマルバツをつけてくれればいいからね。うふふ、セリオン君はのみ込みが早いから助かっちゃうわ」
満面の笑みで良子が答えた。
セリオンは良子の部屋でプリントの採点をしていた。
どうやら翻訳機能があるらしく、セリオンは日本語を理解できた。
「それにしても、いろいろな問題があるんだな」
「点数は書かなくていいわ。それは私がやるからね」
「ああ、わかった」
セリオンはまず、算数のプリントをマルつけした。
もう一つは国語のマルつけも、セリオンはした。
「それにしても……」
「なあに?」
「おまえたちの学校では宗教を教えないのか?」
「……」
「なぜ、黙る?」
良子は複雑な表情をして。
「あのね、日本国憲法では国または公共の機関は宗教を教えてはいけないと定められているの」
「なぜ?」
「それは戦前に国家神道というものがあってそれが「国民」に強制されたからよ。日本はアメリカと戦争をした。今では「太平洋戦争」と呼ばれているわ。日本はアメリカに負けた。そして日本はアメリカに占領されて、今の憲法が作られた。そういう歴史があるの」
「なるほどな。国は宗教を教えたくとも教えられないわけか……」
しかし、倫理に最も影響を与えるのは宗教だ。宗教を教えないでどうやって善悪を教える? 宗教なしでどうやって規範を創成するつもりだ?」
「それは担当の官庁でもいろいろ試行錯誤しているみたいなんだけどね。上の方が道徳教育をしろって言ってるから……」
「どうして、そんな意味不明なことを日本人はしているんだ?」
「それはね、宗教テロとかカルト教団とかがあったからだと思う」
「宗教テロ?」
セリオンがけげんな顔をした。
「うん、そう。ある宗教団体が地下鉄に猛毒をばらまいたり、危険人物を殺害したり、ビルに飛行機で突っ込んだりしたから……それ以来宗教は危険なものとされてしまったわ。それで本格的に日本人が宗教離れになってしまったんだと思うの」
「それも宗教の一側面であるのは確かだ。そういう危険性はどの宗教にもあるだろう」
「日本国憲法では信教の自由は保障されているから、私はシベリウス教を信じているけど。だから公の世界で、信仰を出しにくいの」
「……そういえば、冴子もそんなことを言っていたな。俺は神を信じる。良子は神を信じるか?」
「もちろん、私は神を信じているわよ。でもそれは日本人の中でも一部だけになの。大多数は無宗教、無信仰なのよ。だから私もシベリウス教の考えを生徒に押し付けないようにしているのよ」
「日本人は宗教がなくても生きていけるのか?」
「たぶん、日本人の宗教性は無自覚、無意識なんじゃないかしら?」
「それはというと?」
「日本人は生活と密着した身近な領域に宗教性を持っていた。たとえば、掃除に対するこだわりとか、食べる前に『いただきます』とか食べた後に『ごちそうさまでした』と言うとかそんなところよ。ただ……」
「ただ?」
「高度経済成長がそういう身近な要素をことごとく変えて……いえ、消してしまったんじゃないかしらね。それもバカな話だわ。私たちは宗教的実存を持っているけれど、ほとんどの日本人にそれはない。私たちは経済成長のために生きているんじゃないんだから。いい加減に国も理解すればいいのにね。でも、過去の成功を再び味わいたいという幻想を人間は持っているのかもしれないわね。『勝利病』という言葉もあるし」
「それは何を意味しているんだ?」
「それはね、過去の成功体験が邪魔して、新しいことに挑戦しなくなる心理よ」
「なるほどな」




