死ぬ…はずだった
今回から、直斗視点でどうぞ。
熱い。
熱い熱い熱い熱い熱い。
なんでこんな熱いんだよ?まだ6月の終わり頃だぞ。
おかしい、何かがおかしい。羽織っていた薄めの布団を蹴り飛ばし、そっと辺りを見回す。
「あぁぅ…」
うめき声が微かに漏れ出る。それもそのはず、辺り一面を炎が踊り狂っていた。
「マジ…かよ…」
俺もようやく今の状況を理解した。簡単に言えば…
「俺は二階の自室で焼け死ぬのか…人生完全にバッドエンドじゃねえか。」
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。叫び声、怒号、罵声。野次馬の声が頭の中に響き渡る。
落ち着け、そんなことが聞こえるんだからまだ生きているじゃねえか。生きているんだから、希望を失ってはダメだ。
「どっかに逃げ道は…あ。」
ふと、見上げた窓。5センチほどの隙間が開いている。暑くて寝る前に開けといたんだった。
そっと近くに置いてあった通学用のバッグを持ち出し、中に入っている古語辞典を隙間にねじ込む。
窓サッシは 金属製だ。今頃凄まじい熱さになっているだろう。窓はビクともしない。
「ここで死ぬのだけはゴメンだぜ。俺は生き、るん、だぁぁ!」
思い切り古語辞典に力を入れる。ギギ、ギィ、と鈍い音を立てて窓の隙間が15センチほどになる。
さらに力を入れると、ようやく30センチほどになる。
「おい、窓が開いてるぞ!」
「中に人が残っているのか?」
「人だ!人がいるぞ!」
「消防はまだなのかよ!」
外から野次馬の声が聞こえる。
涼しい風が部屋の中に入ってきた。
「焼け死ぬくらいだったら、ここから…」
そして俺は、二階から飛び降りた。
ドスッ、バタン。
「イテテ…」
下が芝生だったおかげで、骨折や捻挫はしなかったようだ。
刹那、二階がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
「今頃死んでたかもな。」
そう自嘲ぎみに呟く。ふと向こうに人影が見えた気がした。
「幻覚が見えるなんて、頭のネジがぶっ飛んだのか?」
いや、幻覚ではない。間違えなく本物だ。そして人影はいきなり俺の方に向かってくる。
「Ко си ти?」
いや、何語だよ。てか、このアパートに外国人住んでたっけ?
「си ти、Одговор!」
え、何言っているのか分からねー!
と、とりあえず、
「Who are you?English OK?」
ヤバイ、中学レベルの英語しか思い出せん。
本当に頭のネジがぶっ飛んだかもしれないな。
「За сада, молим вас, дођите овамо」
ガシッ。
いきなり腕を掴んでくる。
「おい、なんだよいきなり!」
「За сада, молим вас, дођите овамо!」
さっきよりも語気を強めて言うと、走り出す。
「おい、なんで俺を連れてうぶvっgdchんk」
前につんのめり、転ぶ。そしてフッと意識の糸が切れた。




