かわうそカフェ
「話題沸騰!かわうそカフェ」というネットニュースの記事を見たのは、大切な人が亡くなった日の夜だった。
家族のいるその人の突然の死を私は会社のメールで知った。交通事故だった。日曜日の夜、慌ただしく私とのSEXが終わると「明日は早いから」と、彼は急いで家族の待つ家に帰った。「ごめんね」と言いながら情けない顔で私に許しを請う彼に「いいよ」と送り出しながら、「死んでしまえばいいのに」と思っていた。
「通夜、葬式は家族葬で行います」総務部からのメールはそう記されていた。メールには日取り以外は式場名も書かれていなかった。
会社から帰宅すると私の部屋には彼の残骸が残っていた。彼のパジャマや下着、歯ブラシ、マグカップに箸や茶わん。捨ててしまうか、彼の家に送るか?部屋に残された彼の欠片たちを見ながら、彼と過ごした3年間を想った。私は疲れた彼を癒していたつもりだった。「お前といると安らぐよ」と言いながら、いつも家族の元に帰る彼の心は、一体どこにあったのだろう。そして、私は定期的に訪れる彼の欲望のサイクルをいつも待ち望んでいた。
彼の葬式の日。会社を休んで埼玉にある彼の家の前まで行ってみた。誰も家にはいないようだった。きっと今頃、彼は家族に見守られて火葬場で骨になっているのだ。空を見上げると白い雲がただ浮いていた。もうすぐ春なのだと思った。ここにはもう何もないのだとふと感じた。午後の3時を過ぎて、私は池袋に向かった。駅に着いて少し街を歩いた。
「話題沸騰!かわうそカフェ」昨日スマホで見た看板が目の前にあった。小さな雑居ビルの3階に「かわうそカフェ」はあった。店に入ると20代の若い女の店員が一人でいた。今の私にはちょうどいい静けさだった。4匹のかわうそが透明の部屋に閉じ込められていた。店員にホットコーヒーをたのみ、じゃれ合うかわうそを見ていた。一番大きなかわうそが立ち上がって、私に媚びを売るように甘えた顔をした。別れ際の彼の顔によく似ていた。
しばらく店にいた。何も考えていなかった。コーヒーを飲み終えると店を出た。エレベーターに乗り「1階」のボタンを押すと、涙が頬を伝った。




