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月光の歌  作者: サンジン
虚空月 篇
35/39

4楽章。怪物を哀れむ歌。8


同じく12月31日。23時50分。中央地域広場の公開処刑場。

ペプ·アルセナルは玄がミツキを救った光景を眺めている。


「本当にやりやがったな。カダルーソ」


──この状況が起こるまで、まず12月30日の夜に戻る。


玄はレイラに任せただけでは少し足りないと思ったので第2の協力者としてペプ·アルセナルを選んだ。

もちろん──


「そう簡単に『あ、そうですか』──と、協力すると思うか?」


玄にかなり敵対的な語気(ごき)()びるペプ·アルセナル。

最近の残業でまともに睡眠をとっていないらしく、目の下にはクマさえ見える。

あきれた表情でタバコを取り出して口にくわえたペプとは違い、玄は堂々と言う。


「思ったとも。まぁ、確かに他のデペンサならお前にこんな風に口もきけないだろう」


堂々な玄の言葉にしばらくペプの顔面筋肉が動いた。

真面目に聞き始めたという意味。玄は自分を親指で指してペプに言う。


「でも、『(カダルーソ)』は違うだろう?」

「……チッ、気づいたが? 本当に()()()()()()()()()()()()()()は面倒だ」

「素直に認めてくれてありがとう。おかげで俺の推測は確定に変わった」

「うるさい。話を続けろ」


舌打ちしながらペプはタバコに火をつけた。

続けろというように、あごを振るペプに玄は口を開く。


無冠(アン·クラウンズ)を阻止する核は、デペンサ。しかし、俺の役割だけは他のデペンサとは違う。俺は不死大帝を殺す断頭台。それがカダルーソの役割」

「……」

「しかし、そんな俺が抜けたら?たとえ帝国の王女を殺しても、プエルタ王国はその不死大帝を止める対抗策がない。俺が抜けた時点で」

「正解だ」


玄は最強のデペンサであるカダルーソだ。国王がデペンサとして無冠(アン·クラウンズ)の各個撃破を狙うなら、皇帝を倒す役割はカダルーソである玄に与えられた役割。

しかし、そんな彼が離脱すれば?

国王のその理論は崩れる。

ペプのその肯定はそれを(いさぎよ)く認めた発言だ。

逆に言えばそれは──


「しかし、それは国王陛下が困ること。俺としては貴様の逃走を止める理由はない。俺は戦争が起きない方を望むから」


──玄を止める理由がペプにはないということを意味する。


「それでもあの国王ならそんなことを気にせず、帝国の王女を処刑するかもしれない。だから-」

「ゲート帝国も考えがあるなら言うまでもない。『億単位の国民』と『疫病姫ひとり』……天秤にかける必要もないだろう?貴様がプエルタ王国の外に出るだけで戦争は防げる。これは確定事項。それ以上はリスクだけだ」

「……」


ここだ。ここだけはペプとの妥協点を見いだせない。

ペプにしては国王に背を向けて帝国の王女を救うというリスクよりは安全で確実な方法を選ぶ。

とはいえ、これに対する備えをしていない玄ではない。


「でも、『これ』なら話は違うだろう?」


その言葉とともに、玄は羊皮紙を取り出して見せた。

アルセナル公爵家の紋章入り羊皮紙。

内容はない。

そこには夕焼色を帯びたリビドが放出されているだけ。

ペプは羊皮紙が何を意味しているのか非常によく知っているらしく、彼の眉がかすかに動いて、顔から表情がにじみ出る。


「貴様。…正気か?」

「正気さ。『これ』を使えばお前の協力を()られるだろう?」

「その意味じゃない。これは()()()1()()だろ?8年前にした『盟約ギアス』を破棄するための保険として()()()()()だったはずだが?貴様はその最後の1枚を使うというのか?」

「お前にはどっちにしても悪くない提案だろう?」


盟約ギアス』という言葉に表情が真剣になるペプとは違い、まるでもう決めたかのように、ためらうことのない玄の瞳にペプはため息をついた。


「はぁ、わかった。──で、内容は?」

「俺がミツキを助けるのに協力しろ。期限は()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

「やっぱりそうきたか」


まるでこのような状況をある程度予想したかのように、ペプはため息をついた。


「ならば俺も貴様に要求するものがあるのは分かるだろう?あくまでもその『盟約書』は命を担保に()()()()()()()()()()()()にあり、貴様の頼みを全部かなえてくれる便利なものではないんだから」

「分かっている。お前の要求はもう『この目』で見切った」


黒く黒い、深淵しんえんをのぞくような瞳を帯びながら玄はそう言った。


「俺は『俺の私的なことで黒血(こくけつ)の力を使わない』こと。そして黒血(こくけつ)の力を『プエルタ王国に向けない』こと。お前が望むのはこの2つだろう?」

「そうだ。貴様の黒血(こくけつ)を封印するのが一番大事だから。──それで?俺にどのような協力を望む?逃げるためのルートか?亡命のための費用か?それとも人力か?」

「全部。──と言いたいけど、何も考えずにお前に全部任せるつもりはない。いくらお前が契約は守る性格だとしても、それとは違う問題だから」

「……」

「頼むごとは3つ」


そうやって玄は指を3本上げて言う。

どのようなものかペプ·アルセナルは耳をそばだてて聞く。


「一つはミツキに食事をちゃんと食べさせること」

「……俺の聞きまちがいが?」

「いや。まちがってない」


玄は否定せずに言った。

ペプにこの行動の目的を説明するように話す。


「人間を人間にしてあげるもの。それは人間的な行動にある。死を目前にした人間は大体2つの反応を見せる。死を恐れてビクビクしたり、諦念(ていねん)する。ミツキは諦念(ていねん)より『死ななければならない』という強迫観念だが、そんなに変わらない」

「で? なんで食事なんだ?」

「正直人間的なものなら何でもいい。ただ俺が一番人間らしい行為だと思うのが食事だからだ」

「まあ、食器を使って食事をするのは人間だけだから」

「そうだ。そして、その(わく)が無意識に自分の役割を決める」

「ああ。『囚人と看守実験』みたいにが?」


ペプは突然ひらめいたようにそう言った。

囚人と看守実験。

実験参加者に任意に囚人と看守。その役割を与え、彼らの反応を見る実験。

囚人役は忠実に囚人役を、看守役は着実に看守役をさせる。

しかし実験中。監修役にあまりにも心酔した実験参加者の度が過ぎた行動で、実験期限の半分も満たせずに数日で終了。結局、その実験に対する倫理性について議論が多かったという。


「まあ、確かに似ている。…それよりてめえの口からその話が出るとは」

「何か言った?カダルーソ」

「とにかく。ミツキがあえて飢えているのは、『自分は食事をする資格がない化け物』というフレームに被せられているからだ」


──だから、そのフレームを砕く。

玄のその言葉にペプは理解したかのようにうなずいた。


「なるほど。どういう意味なのかよく分かった。このような遠回しのやり方でなければ、貴様は正直に言えないということを」


いや、理解しなかった。


「何を言っているんだ。全部必要な──」

「ただルナ姫が何も食べないのが心配だと正直に言え。それより2つ目は何だ?」

「2つ目は…、遺言を聞いてくれ」

「遺言?…理由は?」

「聞くこと自体が目的だ」

「は?」


理解できないというような、表情を浮かべるペプに玄は理解しやすいように説明してくれる。


「最後に残す言葉。 意外とそれを考えずに、ただ死にいく人も相当いる。現在のミツキがそう。だから()()()聞くんだ」

「意味を分からん」

「最後の言葉を残すというのは…、本当に最後だということだ。その意味を思い出し、死の前に立つ。……そういう意味だから」


「なるほど。俺は共感できない感性だ。──それで最後は?」


正直これが本題だろう?

──と言わんばかりの顔を浮かべたペプ‧アルセナルに玄は静かに口を開く。


「デペンサを辞める俺を邪魔するな」

「…………なるほど。とてもシンプルだ。同時に()()()()()()()()()()()()()だ。わかった。そうしよう」


しかし

──とペプは玄に向かって目を細めて尋ねた。


「俺は()()()()を貴様がデペンサを辞めたと思えばいいのかい」


すぐに言葉の本質を見抜いたペプに玄は笑いながら言う。


「ミツキを処刑から助け、処刑場の外に連れ出したその瞬間から」

「…ふっ、なるほど。よかろう」

「そして盟約ギアスを破った者は──」

「命を失う。…だろ?まあ、命一つでプエルタ王国を貴様の狂気から守れれば安いことだが」

「いざとなれば自分の命を捨てて破るという考えはあきらめろという意味だ。現在、5大公爵のうち2人も欠けている状況で、それを率いる『ペプ·アルセナルという席』は、今は絶対に死んではならない」

「わかってる。冗談だ」


玄はそのように頷くペプ·アルセナルを後にする。

そんな彼に、ペプは最後の質問らしく聞く。


「──貴様は人類の救世主(セイビア)ではなく、化け物の救援者(メシア)になる気か?カダルーソ」

「何だそれ」


門を開きながらペプに顔を見せないまま、玄は言う。


「世界のためとか、そんな大層な戦いではない。これは極めて利己的な俺個人のための戦いだ」


彼は怪物だからこそ、もう一つの怪物の立場に立つことができた。

人間なら決して立つことができない、怪物の立場に──

それが玄という怪物一匹がミツキという不死と殺害を繰り返す怪物のために戦う理由。


「俺たちは化け物だけど。同時にもろいし、こわれやすいからな」


──その言葉を最後に現在に戻る。

ペプの目にはデペンサ·バルデオと敵対している玄とミツキが見える。


「あそこだ!処刑を邪魔し、魔人殺し(アイオン·マタンサ)を壊した大逆罪人を許すな!」


ペプは玄に向かってそう叫んだ。

もちろん、これは契約違反ではない。

玄が言った「邪魔するな」というのはあくまでも彼がデペンサをやめた瞬間。それは、玄がミツキを救い、処刑場から脱した瞬間を意味する。

逆に言えば、処刑場にいる間は、ペプが彼を妨害しても盟約ギアスに違反することはない。


「邪魔だ」


もちろんそれは玄も知っている。


だからペプがかけた盟約ギアスである()()()()()()()()()()をこの時に決めたのだ。

まだ処刑場を抜け出していない状態で()()()使()()()()()()()()()()()()この時を!


「ペプ様!あの黒いリビドはデストルド!カダルーソの力です!」

「ここはバルデオ様に任せましょう!私たちではカダルーソに勝てません!」

「ちくしょう!エスコペタを呼べ!接近戦がダメなら、狙撃で撃墜させろ!」


他のデペンサを呼んでくることを口実に、近くにいる掃除者(リムピアドル)を退却させるペプ。

玄を王国最強のカダルーソの座まで上げてくれた黒血(こくけつ)の力を使う彼に敗北はない。


『これで十分だろう? カダルーソ。早くこのばかばかしい処刑を止めろ。貴様の理想を実現してみろ。俺は貴様が成功するまで邪魔してやる』


顔は怒りにゆがんだように見えたが、その中でペプ·アルセナルは笑っていた。

ちなみに今日は私の誕生日です~祝ってください!

一人の誕生日は何か寂しい。(´;ω;`)

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