sonata その2。
少女は部屋で今日、彼からもらった品物を一つ一つ開いてみる。
最初は白い帽子。
彼の話では「ウシャンカ」という防寒帽らしい。
主に雪の降る【白の辺境伯国】地域でよく使われるというが、帽子に耳の部分に付いた布で寒い時、耳を覆うと暖かいという。
「これは、何か耳がついているみたいで、かわいいです。」
そう言って、ミツキは二度目のプレゼントを開けてみる。
二つ目は真っ白なケープ。
普通の上半身だけ覆う服だが、ミツキには大きくて太ももまで届く。ミツキにとってはケープよりコートやマントと呼ぶべきサイズだ。
特殊な糸と製棒技術で作られ、通常の数倍は暖かいという。
これも同様に【白の辺境伯国】で人気の商品らしい。
両方とも真っ白なものでミツキの黒い髪型と似合う。
12月の冬だから両方ともいいと思う。
「前にケープは短い服だと聞いたけど……これは何か大きいです。」
鏡を見ながらミツキはそっとほおをふくらませながら次のものを開いてみる。
三番目はベージュのアグブーツ。
足首ほどの高さにかかとも高くないので、動きやすいように選んだと思う。ブーツの中を畳むと毛飾りがでてきて可愛くて子どもや女性が喜びそうなデザイン。どうやらこの冬にも裸足で通うミツキが心配で選んだようだ。
「私は裸足の方が楽ですけどね。」
しかしミツキが玄のそんな気持ちを知ることはながっだ
そうして4番目の箱を開ける。
四番目は、郡庁のマフラー。
マフラーは首に巻くものだから、白い帽子と白いケープの間にあるから群青は悪くないと思う。
「まるで、夜空色のようですね」
そして待望の最後──
一番小さいボックスを開ける。
先の四つのプレゼントは、これを自然に伝えるための伏線に過ぎない!
「……」
中身を見て頭の上にクエスチョンマークをいっぱいつけるミツキ。
「どうして、………下着があるんでしょう?」
そうだ!下着だ! パンツだ!
子供用!それも動物が描かれたパンツ!
ミツキがノーパンであることを知った玄は、どうやってミツキにパンツを着せるか悩んだ。
いきなり下着をプレゼントするとただの変態!
しかし、ほかのプレゼントを渡しながら自然に入れれば、変な誤解は生じないだろうと、玄は信じて疑わなかった。
どっちでも変態確定ってことを知らないまま!
「うーん。もしこの4つの商品を買うとパンツをあげること……とか、それとも勘違い?もともと私はパンツは履きませが……」
だが不発。
変態という誤解はされなかったが、同時にノーパンは我慢してほしいという玄の気持ちが届くことはなかった。
「最後は、お渡し間違いのようですね」
そう言って、ミツキは今日、公園で玄がプレゼントを渡しながら言った言葉を思い出す。
「──もらえません。」
「……」
最初にミツキがそう反応したとき、玄は何も言わなかったが、その中では世界が崩壊していた。
「正直に言うとうれしいです。 ものすごく。でも私にはそれを受ける資格はありません。」
「歌のお礼だと思え。」
「それもちょっと…、むしろ玄さんが聞いてくれて、私が感謝すべき立場なのに…」
「なら……遅い誕生日プレゼント。」
「誕生日ですか?どっちかというと、遅いクリスマスプレゼントじゃないですか?何で誕生日で…?」
「昔誰かに聞いたのが、誕生日は唯一主人公になれる日らしい。 …だから無理してもいい日じゃないか?」
「無理ですよ、それ。」
「それでは、主人に会えなかったのは薪になるだけだ。ちょうど寒がっだし…」
そのように玄が積んでおいた贈り物に火をつけようとする瞬間──
「わかりました。プレゼントもらいます。いや、欲しいです! プレゼント。」
「本当?」
「あ。」
「ハハッ」
「ううっ。玄さんはずるいです。」
ミツキがそう言うと、彼は初めて笑った。
まるで少年のような純粋なえがおを浮かべていた。
これ以上あの人と係わるといけないことを知っているのに…
「まあ、今年もあと数日なので、かなり遅い誕生日プレゼントだけど。」
彼はそう言った。
まぶしい。
ミツキはそう思った。
「私は、…何してるんだろう?」”
そうミツキは自分に答えを求める。
「玄さん… わたし── 私の本当の名前は…」
それでも答えは出てこない。
☪
基本的な家具しか──いや、その基本さえ守られていない薄暗い部屋で、玄は静かに、死んだ魚の目を帯び、依然として意欲の感じられない目で横たわっている。
「……」
玄はしばらく監獄のような自分の部屋の鉄窓を見た。外はもう出たばかりに見える月が自分の部屋の中を照らしている。
ここはアルセナル公爵家の分家。
メネアドル男爵家にある監獄。
特に罰を受けるわけではなく、彼が自ら進んで入っている場所。
少し記憶が欠けている。
「公園であいつにプレゼントをあげたことは覚えているが…その次、どうしたっけ?」
そのあとは考えるのをやめた。
とりあえず、プレゼントは手渡したから、次からはミツキがちゃんとパンツを着てくることを祈るしかない。
「まあ、『本名』は別にあるみたいけど」
彼はそうつぶやいた。
ミツキという名前が仮名というのは、一発で気づいた。
その時、本名を言う時、ためらった彼女の動きがとても不自然だった。
「何より、『プエルタ語』が苦手すぎ。数年前までは他の国に住んでいたという意味だろう。それに名前を言う時も──」
──ミツキ、…ただのミツキです。
玄は自分の名前を言う時の彼女の姿を思い浮かべる。
まるで別に名字があるそうな雰囲気。
生まれつき名字がなかったら普通はそんなことに気を使わない。
つまり──
「その時の反応を見ると、他の国の高貴なお嬢様だろう。名字は家門名がばれ、本名はたぶん月にかんする名前。そうだとしたら多分──」
しかし玄はそこで口を閉ざす。
それ以上深く考えるのをやめる。
言語化することをやめる。
それ以上考えると現在の関係も維持できないと思ったので──
「ちぇっ…」
しかし、彼はそうしてはならない。
あの少女のそばにいたいなら、彼はもっと知らなければならなかった。
考えなければならなかった。
「ほんとに、……めんどうだ。」
考えるのをやめること。
それは彼なりの自己防衛。
やめることをやめるのはできなかった。




