2楽章。小さな月と黒い断頭台。6
今回は1楽章の9編を見てきたら理解しやすいと思います。
同じ日。誰もいない公園。
玄は今日も「何もない公園」を訪れた。
いつものようにやる気のない表情で、
『少し早がっだが。まあ、レポソにこもっていて、マチルダがうるさくなるに比べばましが…』
そうして玄はいつも座っていたベンチに座って夜空の月を鑑賞した。 何故かその月を見ていると、何よりも冷静になれた。
冷静な怪物、デペンサであるカダルーゾでいることができた。
だから冷静であるこの時、彼は自分に質問した。
「いったい俺は、何をしているんだ?」
薄い純白のワンピースに古着のぬいぐるみを抱える黒髪の少女。
自分をミツキと紹介したあの少女を自分はどう思っているのか?
彼にとって、いつも自分と他人との一線を画して、自分の本音を隠すのが日常だった。長年の知り合いの自分の管理者であるレイラや、レポソのウェイトレスであるマチルダ、ナオミにも知らせなかった自分の名前をミツキには教えた。
自信をあらわにした。
彼にとってその少女の存在は妙だった。
最初は同質感だと思った。
でも2度目に会ったとき、少女は泣いているように歌った。
それが見るのももどかしかった。
まるで人が人を思うようなそんな──
『私を…殺して…』
突然玄の耳元にそんな言葉が聞こえてきた。
最近は聞かなかったその声。
幽霊や悪霊がいたらこんな声を出しただろうか。
「……」
8年前、彼は人を殺した。
自分と同じ年頃の少女を殺した。
名前もはっきり覚えている。
「……空」
空のように明るく微笑む少女。
そのため空と呼んだ。
そして彼は彼女を殺してデペンサになった。
「カダルーソ」というコードネームを受けた。
そして自分の名を、玄を捨てた。
そうしてこの8年間,デペンサという怪物として生きてきた。
『殺して…』
いつも彼女を忘れる頃、こんなふうに『忘れるな』と想起させるように、空のと同じ声の幻聴が聞こえてくる。
頭が痛くなる。
まるで彼に安息などは許せないという呪いのようだ。
「……うるさい」
だから玄はそこで考えることをやめた。
『また』やめた。
それ以上自分がミツキに抱くこの気持ちを考えないことにした。
努めて無視した。
そしてその音はまるで嘘のように静まり返った。
♪~ ♬~
そんな中、澄んだ歌声が聞こえてきた。
ミツキの歌だ。
その声を聞いた玄は「やれやれ。」と言いながらベンチから立ち上がった。
「まったく、放っておけない『お姫様』だ。」
まあ, 少なくとも俺が言う事ではないが。
そう言いながら、『黒い断頭台』は『小さな月』に向かってのびのびと歩いた。
☪
同じく同日。
レイラはアルセナル公爵家。「センター」で一人で資料を検索していた。
玄が10日前に倒した「女王」と、同じ日に逃した「白夜の魔女」……10日前のことは明らかに何かがある。
そしてそこには「モシュコヴィッチ工作を北と中央の境界に誘導した人物」がいるはず。
そのため、「センター」のデータベースを開き、5年前にも同じ場所に出没した女王の情報を調べる。
「5年前の653年に現れたのは、Nタイプ女王の『分体』…これもまたマスターの手で討伐された。考えて見れば当時は理由が分からなかった。……凶獣が活発だった時期を見てみましょうか。」
こうしてレイラは、年間の胸水発生頻度のグラフを調べ、ある時点でグラフが垂直上昇した時期を突き止めた。
「8年前に急に上がっだ。この時から下がったことはない。太陽暦650年。この時何があった? この後1年後になって、私はマスターに会ったのだから… ──待って? 8年前?」
瞬間、レイラの頭の中に何かが通り過ぎた。
「その時は確かにマスターが『デペンサに任命された年度』だ。」
偶然かもしれない。
しかし、グラフ的にはプエルタ王国で凶獣の出現頻度が増えた期間とかみ合う。レイラは650年の時期に起こった出来事をすべて調べ始めた。いくら些細なことでもかまわない8年前にイシューになっただけで十分だった。
「うん?」
そうして8年前の情報をあさる途中,レイラの目に留まった記事があった。
『工作家から子供を養子縁組?』
5大公爵の1人である「ディーン・ガルシア公爵」は当時、幼い女の子を養子に入れた。
当時は後継者が生まれなかったため納得できないわけではないが、貴族でもない出身不明の女の子を養子にして問題になった。
後に3年後に長男が生まれ、このことはそれ以上明らかにならず、養子縁組した少女もどうなったかは不明。
『その3年後。653年。Nタイプ女王の『分体』が出た時期と重なった。はたしてこれは偶然なのか?』
しかし、そこからレイラは確実なつながりを探し出した。
「スチュアート子爵家?」
ディーン・ガルシアの繫がりにエリオット・スチュワートとその妹のカロル・スチュワートが出てきた。
確かにこの2人は10日前に女王に殺害されたリストにいた。
そして民間軍事会社『シールドキーパー』に移籍するまで、この兄妹はガルシア公爵家の加護を受けて活動した経歴がある。
「そしてガルシア公爵はモシュコヴィチ公爵に親交の意味でその2人を戦力として貸してくれた? つまり、ガルシア公爵とモシュコヴィチ公爵は親交があるということ。部下を貸し、そして借りた部下を信じてくれるほどの信頼が。」
そして10日前。シールドキーパーは女王によって壊滅し、モシュコヴィッチ公爵も死んだ。
偶然も重なれば必然だと言う。
しかし、率直に言って、ここでガルシア工作を疑うには証拠がまだ足りない。ほとんどの状況が偶然というには、あまりにもよく合致しているから疑わしいと思われる心証だけ。
それでもそれだけで調べる価値はあった。
「マスターは今回のことに自己責任になっている。ガルシア公爵が黒幕だという証拠をつかめば、マスターの罪悪感も少しは──」
「何してるんだ? レイラ・メネアドル」
「!」
その瞬間、後ろから聞こえてきた聞き慣れた声に、レイラは後ろを振り返った。
その声の主はレイラでもよく知っている。
長い金髪を垂らして、夕焼け色の瞳を浮かべた長髪の男。
ペフ・アルセナル公爵
「『以前の命令』の通り、10日前のことを調べていました。」
「ほお、君がそんなに一生懸命するとは。変な店を作って、主人の機嫌ばかり取ると思った。」
ペフは以前レイラが自分に見せた無礼さを皮肉りながらレイラが調査した資料に目を通した。
「ほう。たった10日で容疑者さえ絞り出したのか。相変わらずメネアドル家に腐らせておくのが惜しい人材だ。『カダルーソの管理者』さえいなかったら本家に入れたかも知れないな。」
「丁重にお断りします」
「冗談だよ。君みたいな、ねじの抜けたやつは、才能があっても私の方からことわる」
そう言いながらも、ペフの目はレイラの資料から目を離さなかった。
言葉には毒気があるが、ペフなりにレイラの実力を認めているのだ。
結果さえ出せば過程など大して気にしない男。
これがアルセナル公爵家のトップだ。
「ガルシア公爵はやっかい貴族だ。モシュコヴィチ公爵がシールドキーパーという会社を作ったのと同じように彼は【南の杖】と呼ばれるほどの「魔術師」。正直に言って、ドラクルクォーターのモシュコヴィッチ公爵より面倒。」
「まだ犯人だとは確定しません」
「君からして、……他の容疑者はいないだろう? 私もこれ以上有力な容疑者はいないと思う。 5大公爵の中で、最も『プエルタ王国に忠誠を見せない貴族』だから。ガルシア工作は。…こいつは私と違うものを見ている。」
「違うもの…?」
「断言はできないが。そうだね。裏切りの匂い。『君のような』たぐいの匂いだ。」
「……」
その言葉にレイラは沈黙した。
ペフは固まったレイラの肩に手を置き、
「冗談だよ。信じているさ。カダルーゾがプエルタ王国に忠義をみせている限り君は絶対にアルセナルを裏切らない。できない。彼は君のすべてであり、君はただの『人形』……『管理者』であるだけだから。」
「……」
「まあ、モシュコヴィッチ公爵が亡くなり、私ももっと『国を思う貴族』を公爵に上げる必要があると思っていたところだ。中途半端な強い貴族が国を守るよりも、デペンサのような化け物がこの中央地域だけでなく、国全体を守ることが国民のためだということを知らないバカが多い。」
『5大工作も、これで変わる時が来た』ということだろう。
そう言って、ペフは笑う。
「今回は別のデペンサを送る。カダルーゾはまだ温存しておきたいから……われらの切り札の管理を任せる。レイラ・メネアドル。」
まるで裏切りは許せないというような声を残して、ペフはレイラを後にした。
「……」
レイラも知っている。
自分が『人形』ってこと事くらい──
人形は自分の意志を持てないこと事くらい──
「マスター…私は…」
──だから彼女に決定権はない。
ルビー文字の使い方を覚えた!




