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ハー シークレット

最終話です。

こちら、いきなりの『解決編』となっております。

見直したいーー考察し足りないーーそんな方は、

一度お戻りください。















それではどうぞ。

 とある高校の正門は混雑していた。

 そこの掲示板には合格者の番号が列記されているからだ。

「やった……。やったやった! あった番号。合格だぁ!」

 彼女が歓喜した。眼がうるんでいた。

「良かったね。おめでとう、皆元(みなもと)さん」

「これで、寧々香(ねねか)も、エビヤくんも、そして真斗(まこと)くんも、春から一緒の高校だよ。よかった。やったあ、ほんとに、よかった……」

 彼女は白いハンカチを取り出して、目尻を拭う。花柄に滴が吸われてゆく。

「うん。僕もとても嬉しいし、達成感と安堵がすごいんだけど。いやでも、それにしてもよくエビヤくんが、この高校に合格できたよね……」

「ううっ……うん」彼女は涙声で答え返した。「でもでも真斗くん。それは……失礼じゃない? いや、それは、まあ、私もそう思うけど……」

「たしかに最後の数ヶ月の追い込みが尋常じゃなかったしなぁ……」感情が籠っていた。

「うん。ぐずっ、正志くんのおかげだよね」涙を拭きとりつつ話す。

「ああ、うん。そだね。――『おいおいエビヤ。be動詞プラス動詞ICBMってなんのことだと思っていたが、これ現在進行形のINGじゃねえか。動詞にミサイルくっつけて、どこに飛ばすつもりだ、お前は』――とか、相当に苦労したらしい。今の正志の真似だけど」

「ぐずん。あはは」彼女は泣きながら笑った。「てか、真斗くん、正志くんのモノマネうまいね。実感こもっているところが、特に……」

「まあ、双子だから、ね。――それより、混み合ってきたし、そろそろここを離れよう。皆元さんには話したいこともあるし」

「ん? なにかな」

 彼と彼女はその場を後にした。





 帰宅のために桜の花びらが舞う道を歩く。

「春からこの道を真斗くんといっしょに歩くのかあ。楽しみだなあ」

「いや、皆元さん自転車だよね。僕、たぶん電車なんだけど。――それに、部活があるから、下校時間がいっしょになるか、わからないし」

「ええっ! そなの? てか、真斗くんどこかに入部するの?」

「まだどうするか決めていないけど。エビヤくんから熱烈な勧誘を受けているんだ。それから、とある彼女から演劇部に入れってうるさいほど言われている」

「そーかあ。でもでも、やりたいことや、才能があることなら、絶対にやった方がいいよね。せっかく一緒の高校なのに、いっしょに帰れないのは、ちょっと……悲しいけど。ううっ」

 彼女が泣いた。ハンカチを取り出した。

「ウソ泣きやめてもらえますか、そこの女優志望の方」

「あはは」見破られた瞬間に笑い始めた。「でもでも真斗くん、ぜったい才能あるよ」

「はいはい」適当な返事だった。

「ところでところてん、さっき話したいことがあるって言っていたけれど、なに?」

「ああ、話すべきか迷っていたけど、あまりにあからさまだから、もういいよ、というメッセージと受け取ることにした。だから暴くよ」

「えへへ。なんのことかな」彼女は笑みを浮かべて聞く。


「それ、あのときのハンカチだよね?」

 彼は彼女の持っているハンカチーフを指差した。


「ん。あのとき? ……ああ、もしかして、真斗くんは、去年、3年2組教室に落ちていたMNハンカチのことを引き合いに出しているのかな?」

「もちろん。それ、白色の花柄ハンカチだよね」

「たしかに同じようなハンカチかも。でもでも、これは寧々香のモノとは違うよ。私が購入した私のモノだから。私のイニシャルも書いてあるし」


「あのハンカチは皆元さんのハンカチだったんだ。いいや、皆元さんの手にあるソレだ」


「エー。そそそ、そんなバカなー」

 おおげさに動揺。

 大根役者の演技だった。隠す気がない。明かされてもかまわない。

 ――まったく無駄なハンカチ落し事件の真実が、いま彼の口から語られる。



「あのハンカチの件すべてが、皆元さんの誘導――ミスリードだったんだ」

「えー、私が苗倉くんをだましたってことですかい?」

「うん。そう。――まず、あの件でおかしいと思ったのは、皆元さんの行動だ」

「どこがどこが?」

「放課後になってすぐに落ちているハンカチを見つけた、と皆元さんは話していたけれど、どうして、その場で声をあげてハンカチの持ち主を探さなかったの?」

「え。だって、イニシャル書いていたし」

「そうだね。でも、皆元さんならそんなの確認する前に『ハンカチ落ちてるよー誰か違うー』とクラスに叫ぶはずだ。らしくない対応だよね。放課直後ならばクラスメイトも全員まだクラスに残っているはずだし。行動力のある皆元さんの対応とは思えない」

「そ、そりゃどうも」行動力をほめられて少し照れる。

「当時、僕は皆元さんのこと、よく知らなかったから、大声を出すのが恥ずかしかった、と考えていたけれど、今なら僕は皆元さんのこと、わかる。――おかしい」

「でも、そうかなぁ。恥ずかったのかもよ? 私」

「それに、そのハンカチは、キレイだったんだ。新品のように。掃除をして汚れた手を拭いて落したのならば、そういう形跡が――シミや水気が付着するはず。おかしいよね」

「ふむふむ。なるほどー。――あ、でもでも、イニシャルNWから、寧々香のモノだと真斗くんが推理して、私が連絡したら、寧々香もそれは自分のだって答えたけれど」

「あれは、皆元さんの一人芝居だろ?」

「……え、わかる?」

「その時はわからなかったよ。やっぱり女優向きだと思うよ。あれは――スマホをいじり連絡をしたフリをしてタイマーをセット、アラーム音で連絡がきたフリをして推理通りだった、そんな演技だったんだ。皆元さんは僕に口止めしているし、鷲尾さんにバレることはない」

「さっすが真斗くんだね。しかし、だ。このハンカチには私のイニシャルが記入されてます」

「一本線を足しただけじゃん」

「……え」

「MM。光乃里(みのり)・皆元。――これで皆元さんのイニシャルになる。Nに一本線を加えれば、Mに書き換えられるよね」

「ま、まさか……」うろたえて驚愕する彼女。「うそでしょ。まさか真斗くんが私のファーストネームを覚えていただなんて……」

「ええぇ。そこなのか?」

「でも、嬉しいな。真斗くん、実はちゃんと私の名前を覚えていたんだ。えへへ」

 彼女は、ほんわかとした笑顔だが――

「皆元さんだけじゃなくて直衛薫(なおえかおる)さんも鷲尾(わしお)寧々香さんも、記憶していたけどね」

「……むむむっ」一変、険しい顔になった。「どゆこと」不機嫌に投げかけた。

「ほら、僕、基本オタクだろ? だから、そんなヤツがあまり交流のないクラスメイト女子の名前を覚えていたら、キモイとか、そういう風に思われるんじゃないかと。だから、あえて皆元さんに名前を覚えているけど言わなかったんだ。あえて知らないフリをした」

「自己評価が低すぎるよ! 自己意識が酷すぎだよ」

「と、まあ、そういう理由だよ。これを話したのは――最近、弟の件や、彼女の件で、自分に自信ができたからさ。だから打ち明けることにしたんだ」

「なるほど。――じゃ、私も、このハンカチの件の動機、真斗くんに打ち明けるよ」



 彼女はモジモジしながら――

「実は、私、その、前々から真斗くんのこと、……好きだったの。でも、話すこともないし、話題もないし。……だから、話しかけるための話題が欲しくって。きゃーっ言っちゃった」

 赤面を手のひらで覆った。気恥ずかしさをごまかすように。


 不思議そうに彼は首を傾げた。

「え。電話番号が知りたかっただけでしょ?」

「……」絶句。

「皆元さん言っていたよね。クラスメイトの連絡先は、ほぼ全員知っているって。だけど僕の連絡先だけは知らなかった。あと僕の連絡先さえゲットできれば、3年2組の連絡先オールコンプリートだった。それで僕に近付いて聞き出そうとした」

「……」硬直。

「でも皆元さんは自分から連絡先を教えてほしいと言うのが恥ずかしかったんだね。だから、さりげなくみんなの連絡先を知っているということを伝えて、僕の方から皆元さんに教えたり、聞き出し易いように画策していた」

「……」発汗。

「だから、できるだけ僕を教室に留めようとした。鷲尾さんの名前を出して捜査を打ち切ったのは、もうすぐ完全下校時刻になってしまうし、もしもあとで出来事が露見しても友達だからジョークでごまかせる。それに連絡をするという名目でスマホをアピールできるから」

「……」蒼白。

「以前、皆元さんが、秘密があると話していたのは、たぶんこの案件だよね。めちゃくちゃにつまらない真相だけど。まあ、秘密にはしておきたいよね。あまりにも、くだらないから」

「ぐはっ……」彼女が死んだ。

 残酷な彼がオーバーキルをかました。

「私、ここまで暴かれるはずじゃなかったのに……。でもでも、そこまでわかっていて、なぜ真斗くんは私に連絡先を教えてくれなかったの? ひどいよ」

「僕、基本ボッチだよ。一人身。だから普段、連絡先や電話番号を聞かれることなんてない。よって番号を覚える必要がない。だから自分の番号がわからない。皆元さんに連絡先を教えたくても、教えられなかったんだよ。スマホは基本、家に置いて学校にいくからね」

「さいですか……」

 なんというか、さびしい理由だった。

 そんなところで、彼と彼女の二人を見つけた友人が、後ろから声をかけた。

「やあ、真斗くん、ミナモトさん。高校合格おめでとう。――あれ、なんだかミナモトさん、顔色悪いけど、なにかあったの?」

「……私が真斗くんに丸裸に暴かれた件について」

「ええっ! 真斗くん……それは――」彼を不義な眼で見つめる。

「あらぬ誤解を招いているので滅多なことは言わないでほしい件についてぇ!」

 春の空、彼の叫びがこだました。


【END】

「ツインスタンダード」

これにて完結でございます!


ここまでお読みいただき

ありがとうございました!

そしてお疲れさまでした!






あと続編もありまする。

1番上の『稲多夕方』のページから飛べるかと思われます。

もしくは『ツインスタンダード』で検索しても発見可能かと。


続編も楽しんでもらえたら

とてもうれしく思います。

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