すれ違い
ユーグに拒絶された夜から、ジェシカは彼に触れることができなくなった。また欲情に駆られてしまい、彼に嫌われるのが怖かったからだ。毎晩抱きついていたジェシカがそうしなくなっても、ユーグは何も言わなかった。
ユーグはずっと迷惑に思っていたのかもしれない。彼が出した子どもを作らない条件は、単純な肉体関係の話ではなく、親しく接しないという意味だったのかもしれないと今さら気づいた。こちらの都合で強引に同室にした上、ジェシカからは手を出さないと宣言したのに、破ってしまった。嫌われる要因ならいくらでも思い浮かぶ。
ジェシカは魔道具作りに逃避した。連日居残り、夕食は研究室でとった。ユーグとは挨拶くらいしか会話がなかった。
魔道具ができたら、謝って、気持ちを伝えよう。そのためにも早く完成させなくては、と自分に言い訳して三日――魔道具はやっとできあがった。
魔道具は呪文とは別の方法で起動する魔術を仕込む必要がある。しかも、今回は指輪にしたため、コンパクトで効果の高い魔術を考えなくてはならなかった。難しい作業だったけれど、魔道具作りの勉強にもなったし、魔術陣研究の面でも有意義だった。ルイスにアドバイスをもらったのも最初だけで、あとは自力で仕上げることができたのもうれしい。
完成の興奮でユーグとぎくしゃくしていたことなど、頭から抜け落ちていたジェシカだった。
喜び勇んで屋敷に帰ると、ユーグは居間にいた。
「おかえり」
「ただいま。あのね」
「今日はいつもより早かったんだな」
ユーグの口調に棘を感じ取って、ジェシカは二人の現状を思い出して顔色を変える。
「ええ。魔道具が完成したから」
綺麗に包装する余裕もなく、そのまま持って帰ってきた指輪をジェシカは取り出そうとした。しかしユーグの声がそれを遮った。
「ずっとあいつと一緒だったのか? だから、俺に触らなくなった?」
「違うわ。魔道具を作っていただけ。あなたは迷惑に思っているかもしれないけれど、やっぱり私はあなたに触れたいわ。だって私」
「やめてくれ!」
ジェシカに最後まで言わせず、ユーグは声を荒げた。
「もう限界なんだ。我慢できない。君に触れられると、俺は……」
ユーグは険しい顔で、頭を振った。
そんなに嫌だったとは知らなかった。
ジェシカは何も言葉を返せない。
なんとか絞り出したのは、「ごめんなさい」という謝罪だけだった。
「いや、俺が悪い。少し時間をくれないか。改めて話をしよう」
居間の扉の前に立ったままのジェシカの横を、ユーグはすり抜ける。
「どこに行くの?」
「商会に泊まる。馬車はその辺で拾うから」
ジェシカはユーグを引き止めることができず、彼のために作った魔道具の指輪はジェシカの手のひらにぽつんと残された。




