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第8話『もう1人の……!?』

 監察官生活の1日目が終了した俺は、早々にジョージと羽多野と別れて帰宅する。

 帰宅といっても校内の寮だけど。流石、国内ナンバーワンの魔導学校だけあって金かかってるわ。


 さて、まずは今日の出来事を踏まえた上でのデータの確認だ。このために理事長に無理を言って個室にしてもらったんだ。

 理事長から貰ったデータに、今日新たに知り得た情報を書き込んでいく。特に性格に関しては入念に。



 柳沢やなぎさわ譲治じょうじ、通称ジョージ。

 ガキ大将気質の兄貴分。オープンな変態で女子からはキモがられているが、男子からの人望は厚い。

 障壁魔法がずば抜けて得意で、学園ランキングは30位。


 羽多野はたの耀よう

 レイスの魔人。

 無口で無気力。冷静沈着で意外と口が悪い。観察眼に優れており、空気を読むのが上手い。クラスでは空気そのもの。地味に頭がいい。

 幻影魔法と火炎魔法が得意。学園ランキングは31位。


 安浦やすうら葉由流ハユル

 ウサギ系獣人の魔人。

 新聞部に所属している記者の卵。明るく優しい性格だが臆病なところがある。俺に対してはモロにビビってる様子。

 魔法適性はそこまで高くないが、この学園に入れるだけの素質はあるようだ。学園内ランキングは358位。


 メアリー・サンプソン。

 魔法界からの留学生。

 クールでサバサバとした性格。自身がトラブルの火種になりそうなことを自覚しているのか、あまり人と関わろうとしない。俺の最優先監視対象。

 高い魔法適性と身体能力を誇るが、何かまだ隠している様子。学園内順位は――8位。トップランカーだ。



「ん、こんなもんでいいか」


 今のところ、そこまでデータとの乖離は無い。

 それでもデータと違っている可能性もある以上、こうしてこまめにデータを更新していかなきゃならない。

 俺は別に面倒だとは思わないし、むしろ少し楽しい作業でもあるので苦にはならない。


「でもなぁ……悩みの種が多すぎるよなぁ……」


 今、一番解決しなきゃならない悩み。それは俺のイメージ改善だ。

 監察官として生徒と関わろうにも、今の「ヤバい不良」というイメージから脱却しない限りは動けない。

 

 俺の今後の方針としては、まずクラスの中心人物になること。難しいことではあるが、こうでもしないと動けないのが現状。

 ノブさんからは目立つなと言われてるけど、すでに十分悪目立ちしてしまっている。だったら逆に悪印象を帳消しにするような好印象で目立ってしまおうという発想だ。

 

「地道に男子からの好感度を上げるのが確実か? ジョージも羽多野も女子から嫌われてるわけではないし……いやダメだ。時間がかかりすぎる」


 男子と打ち解ける→女子とも打ち解ける→クラスに馴染む、という工程だと回りくどい。

 その途中で何か事件が起こった時、俺の行動が不自然に映るのは避けられないだろう。監察官だとバレてはいけない以上、それは頂けない。


「何かドカンとイメージを変えられるようなものが必要だな……新聞部のハユルちゃんを使うという手もあるか」


 ハユルちゃんと個人的に仲良くなって、学級新聞か何か、もしくは噂として俺が不良じゃないことを流してもらう。

 これならすぐにクラスに打ち解けられる。信用を得るのに時間がかかる奴もいるだろうが、そこは俺の立ち回りで何とかしよう。


 問題はどうやってハユルちゃんと仲良くなるかだな。

 何が趣味なんだろう、あの子。よくわからん。とりあえずカメラのことは一夜漬けで勉強するとしよう。

 このぐらいやってのけられなきゃ監察官やれませんとも。


 俺が資料を広げていると、急に部屋のドアがノックされた。

 誰だろう? 十中八九、ジョージか羽多野のどっちかだろうな。

 現時点でわざわざ俺の部屋に来るやつなんてあいつらしかいないし。


 一応、覗き穴を確認しておくか。

 木製のドアの小さな覗き穴から、来訪者の姿を確認する。


 鬼がいた。


「えっ」


 もう一度覗いてみる。

 紛うことなき鬼がいた。岩のようにゴツゴツした、赤黒い肌の大男。

 厳しい顔面からは2本の角が突き出しており、表情は金剛力士像によく似ている。バケモンかと思った。でもよく考えたら俺もバケモンみたいなもんだった。


「……」


 えっと、誰だっけコイツ。

 まだデータ全部にしっかり目を通したわけじゃないから、全校生徒を把握できてない。

 こんな制服着てなかったら生徒かどうかもわからんような奴、データにあったっけ……?


「……開けるか」


 殺されないよね、俺? あ、殺されても死なねえわ。

 そう思うと気が楽になった。

 俺は自然な動作でドアを開けて、謎の大鬼を自室に招き入れた。


「えっと、何の御用でしょうか……っつーか誰っスか?」


「え!?」


 俺の疑問に対して、テーブルに着いた大鬼は驚きの声を上げた。

 そんな驚くことか? 何に驚いてんの?

 というかなんでそんなに声高いの!? 声変わり前かよ、ギャップすげえな!


「な、何も聞いてないんですか……!? い、いえ、何の断りもなしにお邪魔したボクが悪かったです。……これボクが悪いのかな? うん、ボクが悪いんだろうな」


「えーっと、まずは名前を聞いても?」


「はぁ……情報がちゃんと伝わってなくてすいません。ボクは佐伯さえき優斗ゆうとといいます。1-Cです」


「ああ、そりゃどうも。俺は九頭龍巳禄。2-Aだ」


「それは知ってますよ……」


「え、なんで? あのウワサって全校生徒に知られてんの?」


 だとしたら俺、かなり詰んでない?

 自分のクラスだけでも手一杯なのにほかの学年も全部とか無理ゲーだぞ?


「ウワサ? それは知りませんけど……本当にボクのこと聞いてないですか?」


「いやだから何が」


「ボク、ここの1年生担当の監察官ですよ?」


「……へ?」


 ちょっと待て。

 監察官? こいつが? この「目立たない」って監察官のセオリーの正反対にある奴が?

 しかもノブさんから何も聞かされてないんだけど。俺の他にも監察官がいるとか初耳だぞ。


「やっぱり何も聞かされてないんですね……小野屋団長ももう少し真面目にやってくれないと……」


「あー……うん、事情はわかった。今日のところは確認と顔合わせって感じ?」


「はい。改めまして、東京騎士団第6師団所属、オーガの魔人の佐伯です。本当は進捗を報告し合おうと思ってたんですけど……それはまた今度にしましょう。3年生担当の先輩にもそう伝えときますね」


 3年生にも監察官いたのか……。

 この学園デカイから、俺の他に監察官がいてもおかしくないとは思ってたけどね。

 そういうことはちゃんと知らせろよクソ団長。ホウ・レン・ソウは基本だぞアラフォー侍め。


「ではボクはこれで……」


「ちょっと待ってくれ」


 席を立とうとした佐伯を座らせる。

 佐伯は首を傾げて不思議そうな顔をしていた。その凶悪ヅラでやられるとシュールだ。


「お前に聞きたいことがあるんだ」


「は、はぁ。何でしょう?」


「お前……どうやってクラスに打ち解けたんだ!?」


 その後30分ほど、佐伯からクラスへの馴染み方のいろはを伝授してもらった。

 クッソ情けない先輩ですまんな。こうでもしないとヤバイんだわ。


 そして佐伯のコミュ力が化け物クラスだったことが発覚した。

 こんなパッと見モンスターな奴よりも友達が少ないという事実に、俺はたっぷりと打ちひしがれたのだった。



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