第57話『血戦技能』
説明回です。
ここからが「異能」バトルの本領。
翌日の放課後。
「窓口」の部室にメンバーを招集する。しかしその場に集まったのは、俺含めて4人だけ。
というのも、ハユルちゃんとユエちゃんの2人は騎士団お抱えの病院で検査を受けているのだ。
搬送されたのは彼女たちだけでなく、ジョージや波多野を含め、洗脳と黒い触手の影響を受けた全員だ。
おかげで学園内はいつもより少し人が少なく、先生も何人かはバタバタしている様子だった。
それは中執もまた同じ。俺もさっきまでは中執の臨時会に出席していたのだ。
「よーし、じゃあ出席とりまーす。綾瀬先輩」
「はい、ですわ」
「佐伯」
「……はい」
「徹」
「はい」
「いや、誰ですかこの人!?」
おお、見事なツッコミだ。影薄いモードに入ってる徹にここまで突っ込める人材がいたとはな。ツッコミ界の将来は安泰だ。
「なんか最初から普通にいましたけど、この人ウチの生徒じゃないですよね!? こんな人ボク知りませんよ!?」
「何言ってるんだ、ちゃんとウチの制服着てんじゃねえか。ほら、挨拶しろ」
「初めまして、2-Aの環舘徹です。昨日ロサンゼルスから引っ越してきました」
「嘘つけぇ! ほんとに誰ですかこの人!? 気になって仕方ないんですが!」
「うるせえですわ、佐伯君。そんな事をいちいち気にしていては将来ハゲやがりますわよ?」
「綾瀬先輩は化けの皮が剥がれかけてますから!」
「いいじゃねーかですわ。どうせ身内しかいやがらねーですので」
「身内なんですかこの人!?」
突っ込みどころ満載の空間に放り出され、早くも佐伯の脳がショートしかかっているので、茶番はここまでにする。
制服まで用意して徹を呼んだのは、単純に顔を合わせて話した方がいいと思ったからだ。
あとから話し合った内容を報告するのも面倒だし、ボイスチャットで参加するのもなんか違う気がしたからな。
「んじゃ、メンツも揃ってることだし作戦会議始めまーす。突然だけど、あのクソみたいな洗脳の正体が発覚しましたー」
「本当に突然ですね!? 確かにあの場で解析したのは九頭龍先輩ですけど……それで、何だったんですか? 新手の呪術か何かですか?」
「違うな、呪術なら解析なんざしなくても俺が一目で見破る」
もちろん魔法でもない。アレはそんな生易しいものではなく、もっとタチの悪い能力だ。
もしあの洗脳が魔法や呪術によるものなら、あそこまでの被害を出す前に対処できていただろう。
あの洗脳の正体は――
「――『血戦技能』だ」
俺がそう言うと、佐伯は顔を強張らせた。
マリアさんは「やっぱりな」と頷き、徹もその厄介さに辟易するように溜息をつく。
「佐伯、血戦技能については知ってるか?」
「……少ししか」
「よし、じゃあイチから説明してやる。まずその前に、『マナ』と『ネガ』については知ってるな?」
「はい。大雑把に言うと「善性の魔力の素」がマナ、「悪性の魔力の素」がネガ……ですよね?」
「ま、アバウトに言やあそうだな」
俺たちが魔法を行使するには「魔力」が必要だ。
その「魔力」の源は、空気中に漂っている2種類の物質――それこそがマナとネガ。
マナは「善性」の力の源。
世界のあらゆる現象の力の根源であり、超常的な力を秘めた元素のようなモノ。俺も魔法学者じゃないので詳しくは知らないが、要するに「プラスの元素」ってことだ。
俺たちが魔法に使うのは基本的にこっち。安全だし。
対して、ネガは「悪性」の力の源。
あらゆる生物に害を及ぼす世界の毒で、魔物の肉体を構成している物質でもある。災いをもたらす「マイナスの元素」だ。
元々、このネガは魔法界にのみ存在した物質だ。しかし、120年前に異界門が開いたことでネガが物質界にも流入、今に至る。
先ほども説明した通り、ネガは毒物だ。
元からネガに耐性を持っていた魔法界の民とは違い、一部の物質界の民はその毒を分解できなかった。
その結果、ネガは宿主の肉体を侵食し続け、その体を魔物へと近付けさせていったのである。
「コレが魔人の正体ですよね」
「そうだ。そんでネガへの耐性が低ければ低いほど、そいつはより「魔物らしく」なっていく。俺みたいな高位のモンスターの魔人ってのは、つまりそういうこったな」
ネガへの耐性というのは、元来の体質に加え、そいつのメンタルにも関係している。
メンタルが弱ればネガへの耐性も落ちる。「病は気から」とはよく言ったものだ。そうしてネガの影響を受けまくった結果、魔人は魔獣となる。
言うまでもなく、ネガは危険だ。
だから魔人は常人以上にメンタルのケアに気を配らねばならず、俺たちのような監察官が存在しているのだ。
――しかし。
「そんな危険なネガの影響も、体質によっちゃ克服できる。そうやって上手いことネガが肉体に適応すると、ネガは今までになかった特殊な力を発揮するんだよ」
「……それが、血戦技能ですか」
「その通り。魔人になるのは物質界の人間オンリーだが、血戦技能には魔法界の奴も覚醒する」
むしろあっちの方が覚醒してる奴多いんじゃないか? 元から耐性あるんだし、適応もしやすいだろう。
ただ、なぜか物質界の人間の方が強い血戦技能に覚醒しやすい傾向にある。ネガはリスキーなのがお好みらしい。
「で、この血戦技能の何がえげつないかってーと……まず初見殺しすぎるってことだな」
魔法の延長のような効果の血戦技能ならまだいい。ちょっと変則的だったり、対処法が違ったりするだけだ。
しかし予測できない物は本当に何が起こるかわからない。「触られたと思ったら死んでました」が普通に起こるレベルだ。
「今回の場合は、魔法とか呪術の延長みたいな能力だったから俺も解析できた。けどここから何が起こるかは全く予想できない」
「そんな理不尽な……」
「佐伯、お前も注意しろよ。血戦技能持ちだってわかってる相手にはタネが割れるまで不用意に近付くな。コレ鉄則だぞ」
「は、はい……肝に命じておきます……!」
よし、と佐伯の肩をポンと叩く。脅しには十分だろう。
ヤバい奴は冗談抜きでヤバイからな。このぐらいは念押ししとかないと。
「ま、俺も血戦技能持ちなんだけどな! はっはっはっはっ!」
「……え、えええぇぇっ!? ちょっ、さっき肩叩かれたんですけど!? 何もしてないですよね! ね!?」
「あはは」
「あはは、じゃなくてぇぇぇ!!」
いやぁ、佐伯もいいリアクションするよなぁ。
ハユルちゃんもイジり甲斐あるけど、あの子にあんまりやり過ぎるのはよくない。その分はこっちで発散しよう。
「ま、そんなとこだ。相手が血戦技能持ちってなると対応も変えざるを得ない」
「洗脳が血戦技能だってのは、よーくわかったぜ。それがどんだけ厄介なのかもな」
けど、とマリアさんは前置きして、
「実際どうすんだよ? 洗脳もそうだし、あの黒い触手についてもなんもわかってねーんだぜ? 動こうにも動きようがねーよ」
改めて現実を突きつけられる。
ドヤ顔で血戦技能の講義をしたところで、状況は何も変わっていないのだ。
しかし。
この状況を変えられるかもしれない情報なら持ってる。
「その触手なんスけどね。俺なりにちょっと考えてみたん
スよ。あの洗脳の仕組みについてもね」
「アレ多分、ラジオの電波みたいなもんだと思うんスよ」
俺は考えを整理しながら、ゆっくりと考察したことを話し始めた。




