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第55話『憤怒と復讐の記憶』

ユエの過去回その2


【警告】今回の話には残酷な描写が多く含まれます。


苦手な方のためにあとがきに内容のまとめを用意致しますので、グロいの無理!って人はそちらを見るのをオススメします。

 お兄ちゃんと約束した次の日。

 わたしは久々に中学へ行った。入学したてで引きこもっていたわたしは、存在すら忘れられていた。


 けど、別にそれを苦痛に感じたりすることはなかった。

 そうなって当然だと思っていたし、いじめの予兆があったわけでもなかった。久々に来たわたしを珍しがり、少しだけ会話した。ただそれだけ。


 しかし、わたしにとっては十分だった。お兄ちゃんは「アホになれ!」と言ってたけど、それはまだ無理だ。

 人との接し方も知らないわたしがアホになったところで、ただ頭のおかしい奴だと思われて終わりだろう。それはちょっと嫌だ。


 だから、もっとお兄ちゃんの下で修行を積んでから。

 アホになるのはそれからだ。


「……ふふ、楽しみ」


 その時が来たら、クラスメイトはどんな反応をするだろう。お兄ちゃんはなんて言うだろう。

 それを想像するだけで、嫌いだった外が少しだけ好きになった。それをお兄ちゃんに少しでも早く報告したくて、わたしは小走りで家に帰った。


「あれ……鍵、開いてる……?」


 おかしい、今日は店も定休日のはずなのに。家族全員が家にいる日だから、もしかしたら誰かが開けっぱなしにしてるのかもしれない。

 お爺ちゃんあたりかな。意外と抜けてるところあるからなぁ、と呆れながら家の中に入る。


「え……」


 目の前に飛び込んできた光景を、わたしは数秒受け入れられなかった。



 お母さんが、血まみれで倒れていた。

 玄関全体に血が広がっていて……その全てがお母さんの胸から流れ出ていた。



「ぅ……あ……」


 どうして、何が、誰が、なぜ、何故、なぜナゼなぜなぜナゼ何故なぜナゼ何故なぜ――?

 わたしの頭を恐怖と疑問符が埋め尽くす。その直後、ガタンという物音がしてわたしは尻餅をついてしまった。ビシャリと血の生暖かい感触がした。


「ユエ――?」


 奥の扉から、お父さんが出てきた。お父さんは苦しげな様子で、悲痛な顔をしていて――右腕が無かった。

 

「ユエ……ッ、早く、逃げ――」


――グチャリ。


 という音がして、お父さんのお腹を背後から何かが貫いた。それは鋭く尖った刃のような形をしていた。

 血を噴き出し、お父さんは血の海に崩れ落ちた。また1人、家族が失われた瞬間だった。


「ひっ……!?」


 金縛りに遭ったみたいに体が震えて動かない。わたしは、お父さんの背後から「何か」が現れるのを瞬きすらできないまま直視した。

 

「魔人め……悪魔の……魔法界シャンバラの使い魔めが……殺して、やる、皆殺しに、ミナ、殺して、コロ、殺、殺殺憎憎、死死、死、ね――!」


 そいつは、狂ったような笑いを浮かべた冴えない男だった。着ているスーツは返り血で真っ赤に濡れ、その背中からは無数の歪な刃が触手のように連なって生えている。

 くたびれたような凡庸な容姿に、異形の触手――そのアンバランスさは、わたしの胸に深く恐怖を植え付けた。


「ひ、ヒひ、ひはハっ、魔人、まジンの臭イがする……! おマえ、魔人の、子? 家ぞク? 汚らワシい、死すべし、死、死、殺殺、殺、さねバ!!」


「い、や……っ!」


 バケモノが壊れた人形のような動きで突進してくる。にもかかわらず、わたしの体は動かないままだった。

 死ぬ――そう直感した次の瞬間。バケモノは足元の血で滑って転倒、無防備なままわたしの真横へと転がってきた。


「っ!? いやぁっ!!」


 ようやく体が動くようになり、わたしは体を跳ね起こして走り出した。

 すぐ後ろの出口ではなく、家の奥へ。あのまま出口から逃げようとしていたら、起き上がったバケモノに即座に殺されていただろう。


 今思えば、その選択は間違っていたのだ。

 だからと言って、出口から逃げても助かるわけもなく。

 わたしはその時点で詰んでいたのだ。


「はやく、逃げ、なきゃ……っ」


 階段を上へ、上へと上がっていく。少し痛い思いはするけど、3階のベランダから飛び降りれば助かる! そんな考えだった。

 家の奥へと進む途中、お爺ちゃんとお婆ちゃんの死体も見えた。わたしは唇を噛み締め、涙を堪えながらベランダへと向かった。


 そして――


「う、そ、でしょ……」


 やっとベランダの手前まで辿り着いて……絶望した。

 ベランダに出るためのガラス戸は、結界のようなもので封じられていた。


 まるで、わたしがここに逃げるのを知ってたみたいに。

 もしくは、こうなるように追い込んだみたいに。


「ギ……ひ、はハっ、オロかなガキ、だ……! オいツメた、ぞ……ひひハははハハッ!!」


「……ッ」


 バケモノがわたしに追いつき、完全に逃げ場を失った。

 もうダメだ、おしまいだ。わたしは家族を殺したバケモノに一矢報いることもできず、このまま嬲り殺されるのだ。


 約束、したのに。

 ハワイに行くって約束したのに。お兄ちゃん、おにいちゃん、お兄ちゃん――!


「たす、けて……っ!」




「ああ、助けてやるッ!!」



 そんな声がしたかと思うと、バケモノは真横の壁に叩きつけられていた。

 恐る恐る目を開けると、そこには汗だくのお兄ちゃんが仁王立ちしていた。そのは鱗に覆われ、硬化している。初めて見る、お兄ちゃんの魔人形態だ。


「お兄ちゃんっ!」


「怖かったな、よく頑張ったな。けど、もう大丈夫だ。こんなバケモン、お兄ちゃんがすぐにやっつけてやる! 危ないからそこを動くなよ!」


「う、うん!」


「き、さまも、魔人……魔人まじん魔人マジンまじんンンンンッ!!」


「うるッせえぇぇ! ユエに、触んなぁぁッ!!」


 お兄ちゃんは硬化した拳でバケモノを殴り飛ばす。すると、バケモノが殴られた箇所が発火した。

 コレがお兄ちゃんの……火蜥蜴イフリートの魔人の力。その炎はバケモノを容赦なく焼き焦がす。


「ぐっ、おッ、おオオおォアアあッ、あ、熱い、熱イ熱い熱いィィィ!!」


「うおおおおォォォッ!!」


 お兄ちゃんが見たこともない怒りの形相で、炎の拳を叩き込み続ける。

 体感で5分近く殴り続けただろうか。ようやくバケモノは沈黙し、黒焦げになっていた。


「はっ、はぁっ、もう、大丈夫、だ……ユエ……っ」


「お兄ちゃんっ!」


 堪えていたものが決壊し、お兄ちゃんへと抱きついた。

 お兄ちゃんは「もう大丈夫、大丈夫だからな……!」と何度も呟いて、わたしを抱きしめていた。


「ユエ、ケガは無いか!? あいつに痛い目遭わされたりしなかったか!?」


「うん、大、丈夫……でも、でもっ、みんなが……っ」


「ああ、わかってる。寂しいよな、辛いよな……! でも俺は絶対……絶対ユエを残していなくなったりはしな――」



――バキンッ



「え……」


 何かがへし折れるような音。

 ボトリ、とわたしのすぐ側に何かが落ちる音。


 わたしはお兄ちゃんを見上げた。




 お兄ちゃんには、首が無かった。



 何が起こったのか、わからなかった。わかりたくなかった。わたしはそっと、自分の足元を見た。


「い、や……」


 そこには。


「ぁ……いや……ああっ……っ!!」



 お兄ちゃんの生首が、転がっていた。



「お兄ちゃんっ! お兄ちゃっ、いやあああぁぁッ!!」


 叫んだ。何も見たくなくて叫んだ。現実を受け入れたくなくて叫んだ。叫んで、叫んで、声が枯れても叫び続けた。


「あヒっ、ヒャはっ、あはははははははッ!! 死んダ、死んだ死ンダ殺した殺しタ! 魔人、いっぴき、殺した!! 教祖サマの、お導キの、ままにィィィ!!」


 死んだはずのバケモノが、黒焦げのままグチャグチャと音を立てて再生する。

 なんで。どうして。お兄ちゃんが殺したはずなのに。なんで、おまえが、お兄ちゃんを、殺して……


「る、さない……殺す……殺す殺す殺す殺すッ!! わたしが、お兄ちゃんの……みんなのっ、仇を……ッ!!」


 その瞬間、感じたことのない熱が全身に広がった。

 その熱はわたしの体を壊し、変容させ、作り直し――



 この瞬間、わたしは魔人となった。

 同時に、わたしは魔獣へと成り果てようとしていた。


「次、はっ、お前の番だガキィィィ!!」


「うあああああああっ!!」


 叫びながら、がむしゃらに腕を振るった。すると、わたしの腕がまるでゴムか()()()()みたいに伸び、刃に変形し、バケモノの腕を切り落とした。


「ぎァっ!?」


 腕を無くしたバケモノは、悶絶しながらも再生しようとしていた。それを再び抉り抜き、別の部位も切り落とす。


「あ゛ァ……ッ!?」


「ころす……っ」


 切る。


「ころす、ころすころす……!」


 切る、斬る、切る。


「ころすころすころすころすころすころすッ!!」


 切る、斬る、切る、キル、斬る、切る、切ru


「あはっ、あはははははッ!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇっ!!」


 斬ル斬る切る切るkill切ル切る斬ruキるきru切る斬るkill切るキルきるkill切る斬るキル斬る切ルkill切る斬るきるkiル斬ルkiる斬るkill斬る切llキル切るkill切るkill斬る――


「ゆるサなイ……! マグダラ教会……っ!! わたしが、ゼンぶ、ぜンブ、殺して、殺シテ、殺し尽クシてやル――!!」


 わたしは何度も、何度も、バケモノを切り刻みながら、慟哭した。









 


「お母さん、お父さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん……お兄ちゃん……っ、なんで、わたしをのこして、しんじゃったの……?」


 わたしは、バラバラになった臓物と肉片のベッドで。

 返り血で頭から爪先まで真っ赤に染めながら。

 お兄ちゃんの生首を抱いて、最後の涙を流してから。



 わたしは、深い深い眠りに落ちた――。

 


【まとめ】

・ユエの家をマグダラ教徒の男が襲撃

・男は精神に異常をきたしており、暴走の仕方も魔獣化とは少し違う様子だった。

・ユエはその男に家族全員を惨殺される。

・ユエの兄も、殺したと思った男が超速再生し、不意打ちで首を飛ばされ死亡

・ユエは怒りと同時に魔人に覚醒・暴走。男が再生しなくなるまでバラバラに切り刻み殺害する。


以上です。

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