第22話『私の宝物』
「これが、私が勇気に固執する理由です。……失望しましたよね」
「………そんなことないさ。立派な理由だ」
ハユルちゃんは気に病んでいるけど、この件に関して言えば誰も悪くない。
ハユルちゃんもそうだし、ハユルちゃんの両親も、真実を隠蔽したメディアも悪くないのだ。
結界に対する安心感というのは大きい。
このカオス極まりない、いつ死んでもおかしくないような街で、それでも人々が暮らしていけるのは結界と騎士団のおかげだ。
もしその二本柱のうちの1つが崩れれば、社会は大混乱に陥る。それを考えれば、当時はそれを明かすべきでは無かったと思う。
「ハユルちゃんが気負う必要なんて無いと思うよ。そんな状況で、子供が冷静になれるわけがない。その青年だって、きっと許してくれるさ」
「そう……でしょうか?」
「ああ。むしろその青年が悪い! なんで幼い女の子にトラウマ残すような態度取るんだよ!? そこはもっとやりようがあるだろ! バーカ! そいつのバーカ!」
「く、九頭龍くん!? ちょっと言い過ぎでは!?」
「そんなことないって! もし次にそいつに会ったら謝るよりも前に「よくもトラウマ植えつけやがったな!」ぐらい言ってやればいいんだよ!」
「やめてください、申し訳なさで私がショック死しちゃいますから!」
俺としては半分は冗談のつもりだったが、ハユルちゃんは本気で俺が「青年」に対して憤慨してると思ったらしい。
冷や汗を流してあたふたするハユルちゃんに俺は思わず吹き出してしまい、
「なっ、なんですか!? 私なにかおかしいこと言いました!?」
「いや? 安浦さんは天然で可愛いなぁと」
「かっ、かかかわっ!? もっ、もう! からかわないでくださいってばっ!」
腕をブンブン振り回して怒るハユルちゃん。
また気落ちしているかもしれないと思ったが、それだけ怒る元気があるなら大丈夫かな。
「さっきのは冗談だよ。どうせ勇気を出すなら、もっとほかのことに使ってもいいんじゃない? ってこと。たかだか1人に謝るのに人生捧げるなんて勿体無いしさ」
「ほかのこと……ですか。考えたこともなかったです……どうすればいいんでしょう?」
「もっと気楽に考えればいいんだよ。例えば……「ごめんなさい」よりも「ありがとう」って言うのに勇気を使えばいいんじゃないかな?」
「ありがとう、ですか……あ、そういえばあの騎士さんにお礼言わないと!」
「あの騎士?」
「はい! 私が撃たれそうになった瞬間に バッ! と来てドカーンッ! ってテロリストを吹っ飛ばしたんです! かっこよかったなぁ、あの蛇のマスクの人!」
「あ、あぁ……」
それ俺です、と言えないもどかしさ。
「でもなんで顔隠してたんでしょう? 声もぼやっとしてたし、なのに何となく懐かしいような、安心するような……」
「そりゃあ……ほら、あれじゃない? 戦うんなら顔守らないと危ないじゃん? 認識阻害もプライバシーとか色々あったり……」
「認識阻害? そんなのあったんですか? 九頭龍くん、なんでそんなこと知って……」
あああぁぁぁ墓穴掘ったああぁぁぁ!!
なんとか誤魔化せ! 何か丁度いい言い訳とかないか!? あ、そうだ!
「ほら! 俺もその蛇マスクの騎士に保護してもらったし! その時になんとなく気付いたっつーか!?」
「あ! そういえば九頭龍くんも保護したって言ってました! すごいですね、一発で認識阻害を見破るなんて。さすが九頭龍くんです!」
「お、おう! やっぱ俺天才!? あはっ、あはははは……っ!」
な、なんとか誤魔化せた……危ない危ない、ちゃんと気を張ってないとすぐバレそうだ。
蛇マスクの話はどこかに置いておこう。絶対ボロが出る。
「そ、そうだ! 写真! 写真撮ろう!」
「へ? しゃ、写真ですか? なんでいきなり?」
「なんつーか……今日がハユルちゃんが目標に向けて一歩踏み出した記念日ってことで! 事件のあとで不謹慎かもだけど……」
「……いえ、撮りましょう! 今日は私にとってすっごく大事な日になりましたから!」
「ん、わかった。でもほかの人に撮ってもらうのもなぁ……自撮りする?」
「あ、私いい方法知ってます! ちょっと準備しますね」
ハユルちゃんはテキパキと用意をすると、カメラを重力魔法で俺たちの正面に浮かべた。
この状態で、シャッターは携帯端末から遠隔操作で押すらしい。便利な機能だし、ハユルちゃんも手慣れてる。
「はい、じゃあ撮りますよ! はいチーズ!」
「いきなり!? ちょっ、待っ」
パシャパシャとシャッターが数回切られ、満面の笑みのハユルちゃんと、驚き顔の俺のツーショットが撮られる。
それを確認してハユルちゃんははにかみ、俺は苦笑した。
「撮り直さない? 俺、すごい変な顔してるよ?」
「これでいいんです。いつもの作り笑いより、こっちの方がよっぽど九頭龍くんらしいですよ?」
「う……バレてた?」
「人間観察は得意なので。もっと気楽に行きましょうよ。九頭龍くんも、私も、お互いに。さっきそう教えてくれたのは九頭龍くんなんですよ?」
アドバイスしたつもりが、どうやら無意識のうちにブーメランになってたらしい。
俺がしてやられた顔をしていると、ハユルちゃんは写真を見て「えへへ」と笑いをこぼした。
「大切にしますね。私の宝物です」
「宝物って、そんな大袈裟な……」
「ふふふっ」
それからハユルちゃんは別れるまで、ずっと写真を見てはニヤついていた。
そんなに俺の顔が面白かったか……? 変顔の研究でもしてみるかな。
そんなこんなで、俺とハユルちゃんの長い1日は終わりを迎えた。
別れ際の夕日に照らされたハユルちゃんの笑顔は、あまりにも綺麗で、俺の心に深く刻み込まれていた。
◇◇◇
事件があった次の日の朝。
深夜まで今回の報告書の作成にいそしんでいた俺は、完全に寝坊してしまっていた。
急いで身支度を終えて寮を出ると、教室まで猛ダッシュする。
幸い、教室にはホームルームの3分前くらいに到着。朝から猛ダッシュして疲れきった俺は、溜息をつきながら教室の扉を開く。
「はぁ……何とか間に合っ――」
「おはよう、九頭龍」
「お、おう……」
あー、そういやいたな。俺に挨拶してくる数少ない人。
山田だっけ? 佐藤だっけ? あ、田中だった。中執の反対もあったのに物好きな……と思ってたが、それだけでは終わらなかった。
「あ、九頭龍だ! おはよう!」
「おっはよー!」
「おう、ヒーローのお出ましじゃねえか!」
「今まで疑って悪かった! 見直したぜ!」
えっ、ちょっ、何これ? ドッキリ? それとも夢?
ぼっちが心苦しすぎてついにこんな夢まで見るようになったか……と遠い目をしていると、
「よう相棒。オレらが休んでる間にやってくれたみたいじゃねえか」
「……1日で人気者だな」
「お、おう、ジョージに羽多野……これ何だ? どういうこと?」
「そりゃアレを見ればわかる」
ジョージが教室の後ろの掲示板に貼ってある、1枚の紙を指差した。
どうやら新聞部が発行している学園新聞らしいが、見出しに「特別号」「スクープ」と書いてある。まさかと思って内容を見てみると――
「これ昨日の……」
「テロリスト集団の制圧に2人の生徒が大貢献ってな。そこら中、お前と安浦の話で持ちきりだぜ?」
「……良かったな。イメージ改善作戦するまでもなく不良のイメージは取っ払われたぞ」
「じ、情報早すぎだろ……」
と、俺が戦慄している間にも、
「すげえなお前! オレじゃこんなのできねえよ!」
「テロリスト何人もぶっ倒したんだろ!? バシッと!」
「やっぱり振動魔法? あんな制御難しいのを実践で使えるなんて凄い……!」
「今まで九頭龍くんのこと勘違いしてたよ! お詫びの印に何か奢らせて!」
「また今度対戦しようぜ! 戦い方教えてくれよ!」
お、おおう……嬉しい反応ではあるけどすごい気恥ずかしい……ッ!
誰だよ、昨日の今日でこんなことできるのは! あの時その場にいて全貌を知ってる奴じゃないと無理だろ!
……と、俺を賞賛するクラスメイトの中に、たった1人の該当者が。
「や、安浦さん? これはどういう……?」
「ふふっ、称賛は素直に受け止めないとダメですよ? 義務ですもんねー?」
含み笑いをしながら、ハユルちゃんは悪戯っぽく笑った。事件直後にからかわれた意趣返しのつもりらしい。
「は、はは……違いない、な……」
まんまとしてやられた俺は、嬉しさ半分・気恥ずかしさ半分で口角をひくつかせることしかできなかった。
まぁ、これはこれで悪くないか……。もうしばらく、この余韻と気恥ずかしさに浸るのも悪くない。
俺の監察官任務は、今始まったばかりだ。
これで1章は終わりです。
2章からは書き溜めの問題で更新ペースが落ちるかもですが、何卒よろしくお願いします。




