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エンラセ  作者: 和惟
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第十話 契リ

第十話 契リ


 マーゴラスにゆっくりと歩む少女アリス。

 その姿はセーラー服を着た華奢な少女にしか見えない。しかし、その形容はすぐさま覆される。 

 マーゴラス達は、先ほどまで見せていアナリティックな言動を捨て去り、むしろ、焦燥に満ちた攻撃をアリスに繰り出していく。3体同時の流れるような剣激……金属のぶつかり合う音が地面の水溜と鼓膜を震わせる。

 誰の目にも止まらないほどのマーゴラス達の切り込みを退けるアリスの身のこなしは人間のそれとは明らかに違っていた。

「あの子、まさかヒューマノイド?でも、何か違うような」

 神谷は混乱する。しかし、この状況を覆す力を秘めた少女に賭けるしかない……固唾をのんで見守った。

 

 突如、ナーゲルの隣で少年が叫んだ。

「同時に、”エラスウェーブ”やって蒸発させな!」

 その声に呼応して、3体のマーゴラスは左手を上げアリスに向かい光を放った。歩みを止めた少女は、地面を踏みしめたかと思うと、瞬時に上空10mほどの跳躍を見せる。そして、上空の何かを高速の剣技で破壊していく。その何かは、リホ達からも確認できなかった。しかし、素早い刀の太刀筋に沿って、何かが爆発し破壊されているようだった。

「しまった……見えていたか」

 マーゴラスの1体が呟くと、上げた左腕を下ろしてしまった。

 神谷は、その状況からあることに気づく。


 同時に、丘の上にいた者たちにも状況が理解できた。

「あれの正体わかったか?」

「ああ、”焦点照射”だな」

「ある種の高出力電磁波を上空のマイクロドローンで座標計算し、そこの座標にある物を瞬時に蒸発させる……だな」


 マーゴラス達は更に焦燥した。しかし、まだ銃弾をも吸収してしまう”盾”がある。そう慢心したのか、少女が着地するであろう地点に3体全員で突進を開始。少女の足が地面に着いた、その時、三方向からの敵の刃と拳が少女へ直撃した……。かに思えた。しかし、土煙から現れたのは、少女の周りで粉々の機械片と化した3体の骸だった。

「な、なに?!何が起きたの?!」

 神谷も叫ばずにはいられなかった。土煙のせいで分らなかったのではない。あまりにも早すぎて見えなかったのだ。

 後方で余裕の構えであった少年も思わず身を乗り出し、呆気に取られる。

「な、なんだぁ?!ふ、ふざけやがって!い、いけっ!ナーゲル!」

 陣速のナーゲルが少女に向かいナイフを突き立てようと襲い掛かった。

 っと、少女は刀を鞘に納め、一呼吸したかと思うと、ナーゲルと接触する瞬間、その刀を抜刀し、また鞘に納めた。

 その静かで速い動きとともにナーゲルは少女に触れることなく、体の中心より真っ二つに切り裂かれ、2つの機械片となり、左右に滑り倒れたのであった。


「うぎゃあぁぁぁーー!」 


 少年は、耳からの蒸気を噴出させる。そして、白濁した眼球を反り返らせ、立ったまま絶命してしまった。


「なんだ、なんなんだあれは!圧倒的じゃないか……とんでもない機体だぞあれは……」

「いや、あれ、B-SABotなのか?人間にしか見えない」

「あんな動き、人間にできるわけないだろ!!ウラジオストックの悪魔が一瞬でチリになったんだぞ!」

「急いで、国に返って報告をしないと……日本はとんでもない”兵器”を開発してたってな」

「ああ……」

 

 神谷と後藤は目の前で起きた事実を俄に信じ得ないという表情でアリスを見つめていた。リホも同様である。目の前の少女は一体何者なのか……現実が理解を取り残す。

 

 ふと、神谷は、アリスが海上に顔を向け何かを見据えている事に気づく。


「おい!今、うちの上層部から連絡があった。DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が動き出すそうだ。例の新型EMLの発射コードの入力を拾ったらしい」

「まさか?!そこに駆逐艦が来てるって……それが」

「ああ、そのまさかだ。人に向けるなんてクレイジーだ。合衆国は一体何を考えてるんだ。一刻も早く退避しないと巻き沿いを食う事になりそうだ」



小豆島 南西1.2km沖 

ズムウォルト級ステルス駆逐艦 ワイゼリオン 


「距離4.3km、目標物捕捉完了。絶縁体角修正」

「電源供給率94%」

「プラズマ化に伴う振動波修正値修正……0.4、0.3、0.2、0.1……固定完了」

「ブロワ作動。発射準備完了まであと70秒」

「よし、残り30秒でカウント開始」



「や、やりましたね!神谷さん?聞いてますか?神谷さん!」

 神谷の腕の中で呼ぶ後藤の声が耳に入らない様子の神谷は、アリスから眼が離せないでいた。それは、絶望的な状況をたった一人の少女が圧倒的な戦闘能力で打破した事で放心していた訳ではない。危機が去ったかに思える今に至っても尚残るその少女の殺気に満ちた眼差しが、不思議な違和感となって神谷の注意を釘付けにする。


「何してるんだ?早く離脱するぞ!」

 丘の上では、2人の人影のうち一人が、未だにその場を離れようとしせず、もう一人に焦燥を向けている。

「っち……世話の焼けるお嬢さんだぜまったく!」

 離脱を渋っていた1人が、徐にインナートランサーに手を当てる。すると、傍らのB-SABotが立ち上がり、携帯していた銃口を空に向けた。


「とにかく、ヒューマノイドだと思われますが、敵ではなさそうですし……先輩!ん?あれ、何だ?」

 後藤は、すぐ近くにある丘の上から放射線を描いて伸びる赤煙を発見し指を指す。神谷は既に煙に視線を送り叫んでいる。


「後藤君!頭は平気?歩けるわよね?!この子は私が連れてくわ。すぐにここを離れるわよ!急いで!」

 神谷の形相に何かを察した後藤。腰の抜けてしまったリホの両脇を神谷と抱えながら、出来る限りの力で走り出す。

 リホは顔だけをアリスに向けていた。



「8、7、フライホイール接続、5、4、3、2、1……」

「撃て!」


「あ、足が……先輩、その子を連れて先に行ってください!」

「何弱気な事言ってるの!気合いで立ち……」

 その時神谷達は、後方からの凄まじい爆音と爆風により5m以上も前に吹き飛んでしまった


「っててて……大丈夫?早瀬さん!後藤君も立てる?」

「な、なんとか……何ですか今の」

「あの子は?どうなった?見える後藤君」

「いえ、粉塵で何も……」



「着弾確認」

「よっし。上陸して残骸を回収する。準備しろ」

「監視ドローンからの映像はいります」

「さすがに粉微塵で何も……ん?おい、おいおい、あれは何だ?」

「画像をオースθにて解析した結果、99%で対象物と確認しました。先ほどの砲撃にるダメージはほぼ無い模様です。着弾時の映像を流します」

「おい、何だこれは……伍長、貴様には今どう見えた?」

「はっ。対象が弾丸を上空に弾き飛ばしたように見えました」

「冗談だろ?マッハ9の飛翔物だぞ……刀で弾いただと?……くそっ!直ちに第2射装填!船尾のレールガンも準備しろ!2発同時に見舞ってやる」


「後藤君、急いで!さっきのは海から砲撃を受けたのよ!まだ来そうだわ。とにかくここからはなれるのよ!」

「はい!」

《神谷さん、神谷さん!き……聞こえますか?!》

 インナートランサーに手を掛けた神谷は慌ただしく返答を返す。

《か、角田?どうした?》

《やっと繋がった!た、大変です!本部から連絡来てないですか?!今、石川の宗教施設にいるんですが、内部の人間約500人が突然、意識不明で倒れたんです。同時に、石川県警からの報告で県内でも次々に人が意識不明で倒れてるらしいんです。おそらく、全国的に起こってるんじゃないかと思って》

《今、こっちも大変なの!生きてたら後で話すわ!とにかくあなたも直に本部に戻りなさい!》 

「どうしたんですか?神谷さん」

「分からない……一体、何が起き始めてるというの……」


 リホは、両脇を抱えられながら遠のいていくアリスをじっと見つめている。

 海上に顔を向けていたアリスは、その一瞬、リホの方に視線を送り、少し微笑んだ……


 次の瞬間、海上から迫る光の固まりが眩しさを増しながらアリスとその周囲を包み込んでしまう。

 

 アリスへと、虚しく伸びたリホの腕先は、光に消えたアリスを捉えようと空を掴んでいた。

 

 程なく、猛る爆風が神谷達は大きく吹き飛ばした。




同時刻

日本政府 内閣危機管理室


 すでに、首相以下閣僚すべてと関係する者大勢が、今、日本で起きているだろう有事の情報収集を

慌ただしく行っている。


「各地の状況は?」

「現在確認が取れているだけでも各都道府県の市町村単位で平均1000名以上、精神的な植物状態、専門家の意見でここでは“ロスト”と呼称します。ロストに陥ってるということです。救急の医療機関はすでに対応できないほどの数で、実際にはその数倍はいるかと。原因は全く分かっていません。すでに行政機能にも影響が出始めています」

「感染症対策チームはどうなってる?!」

「現在、厚労省から各都道府県と関係大学に指示を出していますが、メンバーの数名も犠牲になっているということで機能するには時間がかかりそうです」

「とにかく、厚木と横須賀の米軍にも応援を要請してだな……う、ううぅ……うう!」

「総理!総理……速く医者を呼べ!」


「こ、この国で一体何が起こってるんだ」 

 政務官の1人が首相を抱えながらそう叫んだ。

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