サバイバルだよ
「ハァ…ハァ…」
湿り気のある土と、腐葉土の生臭い匂いが鼻をつく。
マップを開いても、俺の現在地は不気味な雲のマークで遮られ、機能していない。
頭上を覆い尽くす巨木の葉が日光を遮り、朝方のはずなのに世界は夕暮れ時のように暗かった。
「どこなんだよ、ここは……」
荒い息を吐きながら、俺は右腕のガントレットに触れた。
カーボンシェルはすでに冷えつつあるが、内部のモーター軸と精密遊星ギアは完全に焼き付き、異音すら立てない。
パソコンのCPUと同じだ。一度限界を超えて熱暴走し、フレームまで歪みかけた精密機器は、システム上のインターバルなどではなく、物理的に数日間冷やし切り、パーツを馴染ませなければ再起動すら受け付けない。
「クソが…」
残されたHPは150。敵の強力な攻撃どころかかすり傷1つで瀕死状態に落とされる数値だった。
その時だった。
ゾクッ……!
うなじの皮膚が一瞬で粟立つような、強烈な《殺気》が背後から襲いかかってきた。
(何か、いる——!)
後ろを見るが、倒木と深い苔、薄暗い樹影が視界を遮り、敵の姿が見えない。
グラップラーは使えない、頼れるのはこの鉄の片手剣だけだ。
死ぬかもしれない。
一瞬の判断ミスで、脳が焼かれて終わる。
現実では何もかも投げ出していたはずの俺の脳細胞が、死への猛烈な拒絶反応を起こし、感覚という感覚を極限まで研ぎ澄ましていく。
風の揺らぎ。
皮膚に触れる湿気。
その瞬間——頭の中に無機質なシステムアナウンスが響いた。
【条件達成:極限状態における継続的感覚集中】
【パッシブスキル《気配感知》を獲得しました】
【パッシブスキル《心眼・一式》が解放可能です】
瞬間、薄暗い視界の中に、青白い透過ラインが浮かび上がった。
(……見えた)
頭の中の立体マップに、背後の巨大な樹の影から俺の首元を狙って躍り出ようとしている「何か」の輪郭が、くっきりと浮かび上がる。
大型モンスターの気配が感じる。
「グラップラーが使えなくても目が使える。対処のしようがある」
そう言い背中の片手剣に手を伸ばし抜き出す。
「ここだぁ!」
低く構えた片手剣を斜め下から一閃。
『ガリッ……!!』
トカゲが弾丸のごとき速度で飛び出してきた。
鋭い鉤爪が長剣のようにしなり、俺の首元を刈り取らんと迫る。
「——そこだ」
《心眼》が弾き出した最適の回避軌道。
俺は一歩だけ左へ軸をずらし、爪が皮一枚を掠めるギリギリの紙一重でかわす。
ッバシャアン!
空を切って体勢を崩したトカゲが地面に着地するその一瞬
トカゲにも、明確な弱点が存在する。——首根っこと、柔らかい腹部だ。
「死ねッ!」
スキル《心眼》の補正に従い、最小限の無駄のない動作で片手剣を斜め下から一閃させた。
『剣技:スラッシュ』
青の光のエフェクトと共に軌跡を描き、鋭い一撃がトカゲの柔らかな首の隙間へと正確に切り込む。
ズバァッ!!!!
「ガ、アッ……!?」
「ハッ……!」
体重のすべてを乗せ、直剣を顎下から脳天へと深々と突き立てる!
ドスッ……!!!!
『ギシャアアアッ……!!』
絶叫と共に、トカゲの巨体がビクビクと痙攣し、やがて青いポリゴンの粒子となって弾け飛んだ。
視界の端で【Exp +90】の文字が躍る。
俺は荒い息を吐きながら、片手剣を軽く振ってポリゴンの残滓を払い、納刀した。
テテテーン!
豪華な音源と共に俺の目の前にウィンドウが出た。
【レベル2】
ゲーム開始2日目、俺のレベルは2に上がった。
胸の奥から溢れ出す感動と共に俺はバツボタンを押し閉じた。
これで俺のHPが弱々しい400から450に上がった。




