エピローグ
ボンタン狩りから三日後。
善二たちは、次なる大陸へ向かう準備を始める。
しかし、旅立ちの前に明かされるのは、チェリーの正体。
そして、この世界を創った“神”にまつわる真実だった。
戦いを終えた先に待っていたのは、終わりではなく、新たな旅の始まり。
エピローグです。
◆三日後の朝――。
宿屋の前に、善二たちの姿があった。
善二の顔色はだいぶ戻り、歩けるほどに回復している。
「完全に動けるようになったしよ……これからどうする?」
善二の問いに、ピックルが紙束を広げる。
「色々調べたけど、この大陸の四天王はあの鴉丸狂人だったみたい。ケルベロスを追って上代龍平が来たのは偶然ね。で、なんであいつがボンタン狩りに参加したかは……不明」
「なるほど。狂人もハンパなく強かったからな。あいつが四天王の一角だったのか。――てことは、次の大陸を目指すってことで間違いねぇな」
美柑は腕を組み、真剣な面持ちで頷いた。
「次の大陸の名は――【ラバーズランド】、そこはスケバンが国を仕切ってる。つまり……次の四天王は女よ」
「女……? おい俺、女とはやりたくねぇんだけど」
「甘く見てると殺られるわよ。四天王=番核持ち。ヤンキースキルの格も違う」
善二は肩を回しながら歩き出す。
「そんじゃまっ、とりあえず向かうとしますか。考えんのはあとだ――」言葉尻に善二は突然立ち止まり、周囲を見渡した。
「……あれ? チェリーは? 誰かあいつ見てねぇか?」
一同が揃って首を横に振る。
「まったくもう! あのバカ犬! 気がつくといっつも消えてるんだから!」ピックルの額に青筋が浮かぶ。
「そういえば……チェリーの姿、見てないわね。テンテンは?」
美柑の問いに、テンテンは人差し指と親指を顎に添え、少し考え込むような仕草を見せた。
「……少し、よろしいでしょうか」
その声音はいつになく慎重だった。
「善二さん。チェリーさんとは、どのような経緯でお仲間になったのですか?」
問われ、善二はチェリーとの出会い――前世での出来事、転生後の再会、そして共に行動するようになった経緯を、簡潔に語った。
話を聞き終えたテンテンは、静かに目を伏せる。
「……やはり、腑に落ちません」
「――え?」
「チェリーさんの前世は犬です。ですが、この世界に転生してくる存在は、例外なく人間であり、ヤンキー、あるいはスケバンです」
その言葉に、場の空気が一瞬止まる。
「そ、そう言われると……確かに」善二は言葉を詰まらせた。
「私も、何の疑問も持たずに受け入れてたわ」ピックルも小さく頷く。
「いや、でもよ……」
善二は苦し紛れに言葉を探す。
「犬だって、やんちゃな奴はいるだろ? それがヤンキー判定されて――」
「それはありません」テンテンはきっぱりと言い切った。
「善二さんがチェリーさんを庇おうとする気持ちは理解できます。ですが、その理屈が通るなら、他の犬や猫、あらゆる動物も転生していなければなりません」
「……」
「しかし、そのような前例は一切確認されていません」
善二は反論できず、口を閉ざした。
「チェリーさん……彼は危険な――」そこまで言いかけた瞬間。
《テンテンは鋭いね》
静かな声が、背後から響いた。
一同が振り返ると、そこには――銀色の体毛をまとった、巨大な狼の姿があった。
「ち、チェリー!? お前、今までどこに――」
《落ち着いて聞いてほしい》
チェリーは善二の言葉を遮り、静かに続ける。
《みんなは、この世界について、どこまで知ってる?》
そう言って、チェリーはテンテンへ視線を向けた。
「……私もすべてを知っているわけではありません。ですが、この世界は“神”によって創られた――そう理解しています」
《じゃあ、その神がどんな存在かは?》
矢継ぎ早の問いに、テンテンは一瞬言葉を失う。だが頭の回転が速い彼女は何かを察した。
「……まさか……神もヤンキーなのでしょうか?」
《正解!》チェリーは楽しそうに声を弾ませた。
《さすがテンテン。理解が早いね》
「神様も……ヤンキー?」美柑は目を丸くする。
「……いや、でも」
善二が腕を組み、低く呟いた。
「そう考えると、妙に納得できる」
「どういう意味?」
「普通の異世界なら、騎士とか魔法使いとか僧侶がいてもいいはずだ。でも、俺たちはまだ一度も見てねぇ。それに、この世界……やたらヤンキー用語が多いし、ボンタン狩りなんてイベントも不自然すぎる」
「……あんた、意外と考えて生きてるのね」美柑の、鋭利に研がれたナイフのようなツッコミが飛ぶ。
「おいコラ! 俺をどんだけ脳筋扱いしてんだ!」
「はいはい、そこまで!」
ピックルが割って入る。
「今は痴話喧嘩してる場合じゃないでしょ!」
二人は気まずそうに目を逸らした。
《……続けてもいいかな?》
チェリーが、少し遠慮がちに言った。
《今みんなが感じている疑問――なぜ犬であるボクが、この世界に転生できたのか》
全員が息を呑む。
《結論から言うよ。ボクは――神様のウォッチャーなんだ》
――沈黙。
「……え?」
「……は?」
「か、神様の……ウォッチャー!?」ピックルがようやく声を絞り出した。
《そう。そして神様の命令で、善二たちの世界へ一時的に犬の姿で転生していたんだ》
「……なんで、そんなことを?」善二は完全に混乱していた。
《この世界の神はね、自分の座を次の世代に譲ろうとしているんだ》
「意味が分からなすぎるだろ!」
《詳しいことは、本人に直接聞いてほしいな」
チェリーは肩をすくめる。
《ボクはそれまでの案内役を任されているだけだから》
「……条件はあったのか?」
善二が真剣な眼差しで尋ねる。
「それとも、誰でもよかったのか?」
《条件はあるよ》チェリーは、まっすぐ善二を見た。
《強さはもちろん。正義感があって、思いやりがあり、仲間から自然と認められる“器”を持つこと》
《……そして善二。キミは、その条件に合致した》
その瞬間――善二の中で、怒りが一気に噴き上がった。
「ふざけんな……! 俺は好きで死んだわけじゃねぇ! 神の都合で勝手に連れてこられたってのかよ!」
《……だから、詳しい理由は本人に聞いてほしいんだ》
チェリーは困ったように笑った。
《それに、善二も候補の一人にすぎない》
チェリーは淡々と、だが重みのある口調で続けた。
《神様がいる中央魔大陸へ向かう道は、生半可な実力では辿り着けない。幾多の試練を潜り抜け、最後まで生き残った真の強者だけが認められ、ようやく謁見の場が与えられるんだ》
「……つまり、そこまで行けた奴しか会えねぇってことか」
《そういうこと。それに善二、キミは願いを叶える龍を探しているよね?》
「ああ」
《その龍もまた、神様が召喚した神獣だ。神様に会わずして、龍に辿り着くことも、願いを叶えることもできない》
「……なんだと」
善二は舌打ちし、露骨に顔をしかめた。
「結局、一回は神とやらに会わなきゃ話にならねぇってわけか。……面倒くせぇ」
その様子を見て、チェリーは再び小さな犬の姿へと戻る。
《じゃあ、話は決まりだね。行こうか》
「はぁ?」善二は眉をひそめる。
「お前、神のペットみたいなもんだろ。正直、今の話聞いて神も気に食わねぇし、そのペットも当然好きになれねぇ」
《ちょっと待ってよ!》チェリーは即座に反論した。
《ボクはペットじゃない! 案内役として任命されてるんだ。それに、善二の行動は逐一チェックしろって言われてる。嫌でも一緒に行くよ》
「私は反対ね」
ピックルが冷ややかな視線を向ける。
「どう見ても、何か企んでる犬じゃない」
「でしたら――」テンテンが一歩前に出た。
「私が、チェリーさんを常に監視するという形ではいかがでしょうか?」
「ちょっと!」
美柑が即座に噛みつく。
「それって、アタシも一緒に行く前提になってない?」
「ここまで来たら旅は道連れです」
テンテンは穏やかに、しかし揺るがぬ口調で言った。
「この先は、今まで以上に手強い猛者たちが待ち受けています。一人では乗り越えられない局面も、必ず訪れるでしょう」
「……はぁ」美柑は肩を落とす。
「まぁ、いいわ。どうせ今はやることもないし、善二と一緒なら退屈はしなさそうだしね。それに……次の四天王が女ってのも、ちょっと気になるし」
「あのな! 勝手に話を進めんな!」善二が声を荒げる。
「これは俺の問題だ。もしお前らに何かあったら――」
「あんた、アタシを舐めてんの?」美柑は鼻で笑った。
「これでも番核持ちよ」
「……ああ、そうだったな。悪い」善二は一瞬目を伏せ、正直に続ける。
「でもな、俺の願いは前世に戻ることだ。そんな個人的な理由を承知で、この危険な旅についてくるって言うのか?」
「もちろん」美柑は即答した。
「神様とかいう、ふざけた存在の顔――一度は拝んでみたいからね」
こうして、旅の仲間は揃った。
この先、どんな怪物が現れ、どんな試練が立ちはだかり、どんな強者と出会うのか――そのすべてを、彼らはまだ知らない。
だが確かなのは一つだけ。
この旅が、善二の運命を大きく動かすということだった。
夜明け前の空は、まだ薄紫に沈んでいた。
宿屋を離れ、街道に立つ善二たちの背中を、冷たい風が押す。
振り返れば、クレイジータウンはもう遠い。
ボンタン狩り、四天王、狂人、龍平――命を削り、拳を交え、心をぶつけ合った日々は、すでに過去になりつつあった。
善二は無意識に、胸元に手を当てる。
そこに刻まれた消えない感覚。
それは傷ではなく、失った時間の重みだった。
「……寿命、どんぐらい削れたんだろうな」冗談めかして呟いた声に、誰も即座に答えなかった。
「考えんな」美柑が肩越しに言う。
「どうせ進むしかないんでしょ」
「そうよ」ピックルが腕を組む。
「戻れない道を選んだんだから」
テンテンは一歩遅れて、静かに頷いた。
「この先には、三大陸があり、その抜けた先に中央魔大陸へつながる橋があります。神へと至る道――選ばれし者しか辿り着けない場所」
その言葉に、善二は小さく鼻で笑う。
「選ばれし者、ねぇ……そんな大層なもんじゃねぇよ」
そして前を向いた。
「俺はただ――母ちゃんを悲しませないために、帰りたいだけだ」
その背後で、チェリーが一瞬だけ立ち止まる。銀の瞳が、善二の背中を静かに見つめていた。
《……それでも》
誰にも聞こえない声で、彼は呟く。
《キミは、すでに神の想定を超え始めている》
空の彼方、雲のさらに向こう。
そこには、まだ姿を見せぬ神と、願いを叶える龍が待っている。
だが――そこへ辿り着くまでに、善二はあと何時間、何日、何年分の命を削るのか。
それを知る者は、まだいない。
ただ一つ確かなのは、この旅が、もはや後戻りできないということだけだった。
善二は歩き出す。
仲間たちも、その背中を追う。
やがて道は、大陸へと続く闇の中へ溶けていった。
エピローグまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
これにて、善二たちの最初の大きな戦い――クレイジータウン ボンタン編は一区切りとなります。
ボンタン狩り、狂人との死闘、龍平との因縁、そしてチェリーの正体。
善二の旅は、ただ天下一を目指すだけではなく、神や願龍へと繋がる大きな物語へ進み始めました。
次なる舞台は、スケバンが支配する大陸【ラバーズランド】。
善二たちがどんな強敵と出会い、何を選ぶのか。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
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今のところ続編を書く気はないです。
評価やブックマーク、コメントもないのでモチベ下がりまくりなのでw読まれてはいるのに何も意見がないのが一番のショックw
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