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転生ヤンキー、異世界で天下一(てっぺん)をとる! ボンタン狩り編  作者: 知恵利一


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【プロローグ】

はじめまして。

『転生ヤンキー、異世界で天下一をとる!』を読んでいただきありがとうございます。

不良少年が異世界へ転生し、仲間との友情や強敵との戦いを経て天下一を目指す、王道バトルファンタジーです。

少年漫画のような熱い展開や、思わず拳を握りたくなるような物語を目指して書いています。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは、プロローグをお楽しみください。

深夜の街を走る一人の少年。

制服のシャツは乱れ、学ランの袖はボロボロになっている。

彼の名は咬噛善二こうがみぜんじ、地元の高校では名の知れた不良だ。


善二が不良として名を馳せるようになったのは、中学二年生の冬だった。父親は小さな町工場の経営者で、母親は専業主婦。決して裕福ではなかったが、家族三人で穏やかに暮らしていた。しかし、ある日突然、父親が倒れ、帰らぬ人となった。家計を支えるために母親は昼も夜も働くようになり、家族の笑い声は次第に消えていった。

 「善二、しっかりするんだよ。お前が頼りなんだからね」 母親の疲れきった声は、当時の善二の胸に深く突き刺さった。

だが頼りにされるどころか、善二は自分の無力さを痛感する日々を送ることになる。

学校では優等生だった善二も、父の死を境に成績が落ち込み、次第に周囲から浮いていった。そんなとき、同級生との些細な喧嘩をきっかけに、自分が喧嘩に強いことに気づいた。

 「お前、あの大柄な奴を一発で倒したのか?」 「すげえじゃん、善二!」

周囲のざわめきが、空っぽだった善二の胸に小さな充実感を与えた。次第に不良グループとつるむようになり、喧嘩で名を上げていくことで、いつしか自分の存在価値を見出すようになっていた。

だが、家に帰ればそこに待つのは、疲弊した母親の背中と、自分に対する苛立ちだった。

 「これでいいのか? こんな俺で……」 善二は何度も自問したが、その答えは見つからなかった。

  

高校生になってからの善二は、ますますその「強さ」を周囲に知らしめる存在になっており、地元の高校では、彼の名前を知らない者はいないほどだった。

見た目も、赤毛に染めあげて無造作に散らしたヘアスタイルが余計に認知という波を立たせていた。

最初は目立つことが目的ではなく、ただ、喧嘩を通じて自分の居場所を確認したかっただけだった。だが、ある日を境に状況が変わる。

 「咬噛、また喧嘩したってな」 そう言って善二を呼び出したのは、体育教師の神山だった。身長が二メートル近くある大柄な男で、生徒たちから恐れられていた存在だ。

 「先生、俺に何か用っすか?」 善二は気怠げに答える。

 「お前、そんなことばっかりやってて、将来どうするつもりだ?」

 「将来なんてどうでもいいっしょ」

その言葉に、神山は拳を机に叩きつけた。

 「お前の親御さんは、そんな考えのためにお前を育てたんじゃないだろうが!」

その一言に、善二は一瞬だけ口を閉ざした。頭をよぎったのは、いつも疲れた顔で働く母親の姿だった。しかし、それを素直に認めることはできなかった。

 「別に、俺の人生っすから」 そう言って、善二はその場を立ち去った。

それ以降も、善二は喧嘩を続けていたが、どこか虚しさを感じるようになっていた。拳を振るうたびに湧き上がる苛立ち。それは、強さを示しても埋まらない心の空洞のせいだった。


 「くそ、また神山先生に捕まるところだった……」

息を切らしながら小さな路地に飛び込む。拳にはまださっきの喧嘩の感触が残っている。

――夜の繁華街。

少し前、善二は地元の不良グループとの乱闘を終えたばかりだ。善二一人に対し相手は多人数。多勢に無勢な状況下だが、相手が誰であろうと、この街で善二に敵う奴はいない。

だが、勝利の余韻に浸るわけでもなく、善二はいら立ちを募らせていた。

 「これで、何になるってんだ……」

壁に背を預けて見上げる空には、薄雲が月を覆っている。

手の中にはくしゃくしゃになったテストの答案用紙。

赤ペンでつけられた『23点』の文字が目を刺す。

喧嘩は強い。それだけはだれにも負けない自信がある。

でも、それがどうした? 誰かの役に立つわけでもない。

『強さ』なんて、この世界じゃ何の価値もない――そう思い知らされる日々だ。

 「おい、そこの高校生! そこにいるのは分かっているぞ!」

突然、遠くから聞こえる警官の声。路地に赤いランプの光が差し込む。

 「やっべ……」善二は咄嗟にその場を飛び出した。

暗い路地を駆け抜けながら、自分でもよく分からない感情が胸の中で渦巻いていた。

 「どうせ捕まったって説教されるか、最悪少年院だろうな。つまんねぇ……」

胸に抱く虚しさは、さらなる苛立ちを募らせる。


ある日の放課後、帰路へと向かう善二の足が止まった。

河川敷の高架下に、見慣れない段ボール箱があることに気づく。

よく見ると子犬が顔をのぞかせていた。

辺りを見渡しながら近づくと、子犬は弱々しくもキャンキャンと吠えた。

 「お前も独りぼっちなのか?」

善二が呟くように問いかけると、子犬は尻尾をちぎれんばかりに振って返事をした。


 「よし、待ってろ!」善二はカバンを放り投げ、来た道を引き返すように駆け出した。

数分後……。

善二の手には、コンビニで買ったであろうビニール袋が握られていた。中にはパンと牛乳が入っている。

 「これであいつも元気になんだろ!」

子犬のもとに近づくにつれ、何やら人の笑い声が聞こえてきた。

 「――なっ‼」

善二の目に飛び込んできたのは、十人以上はいるであろう不良のグループが、さきほどの子犬をサッカーボールかのように蹴りあっていた。

 「……この……くそ野郎どもが‼」

ビニール袋を勢いよく放り投げると、地を蹴って駆け出した。靴底がアスファルトを叩く鋭い音が、走る距離を刻む。

 「おい……あれ」グループの一人が迫る善二に気づいた。

 「鷲尾さん、誰か来ました!」

 「なに? ……マジか、和泉高の咬嚙じゃね~かよ!」

ひときわ、図体がでかい男が善二の前に立ちはだかる。

 「……戦草寺高の鷲尾!」

名の挙がる二人は、互いに顔を合わせればすぐに殴り合いに発展するような因縁があった。噂では、やり合えばどちらかが命を落とすほどの激しさだと言われている。

 「この犬はてめぇ~のペットだったか?」子犬の頭を鷲掴みにし、善二の目の前に突き出す。

その瞬間、善二は怒りをあらわにした。

 「そのクソきたねぇ~手を放せやコラ!」

 「……粋がってんじゃね~ぞ咬嚙‼」

鷲尾は子犬を善二に向かって放り投げた。その瞬間、善二は咄嗟に手を差し出して受け止める。だがその直後、顎に強烈な衝撃が走った。

 「出た! 鷲尾さん得意のアッパー!」グループの一団が沸き立つ。

善二は後方へ大きく吹き飛ばされる。

 「咬嚙~、お前の弱点はその中途半端な優しさよ~」不意を突いてくらわせた一撃を、自慢気にしながら鷲尾は勝ち誇った。

 (……あ~、こんなやつにやられんのか? 俺……)

顎に食らったことにより、脳が揺さぶられ、下半身が言うことをきかない。

 「……そんな……だせぇ~のは許されねぇ~よな」

善二は、口から血を滴らせながら歯を食いしばり、全身の力を足に集中させる。

 「――なっ、俺の渾身の一撃をくらって……立ち上がれるのか?」

鷲尾は驚愕の表情で善二を見据えた。

子犬は善二の頬をぺろりと舐める。その小さな温もりに手を伸ばし、頭を優しく撫でる。

 「犬っころ、ちょっと離れてろ」――その仕草は、血の味よりも先に、確かな人間らしさを示した。

 「……不意打ちとは、とんだ卑怯者だな――お前」

 「なっ、んだと……」顔を赤らめる鷲尾。

 「おいっ、お前らこいつをぶち殺せ!」

その命令は、グループの一団をドン引きさせるのに十分だった。

 「いや、鷲尾さん……これはタイマンじゃ……」一人が声を発する。

 「誰がタイマンだって言った? てめぇ~らは俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ! それとも直にぶっ飛ばされてぇのか? あんっ⁉」その眼光は自分より弱い者には効果抜群だった。

 「――くっ! や、やるぞお前ら!」集団の一人が先陣を切る。

その一連のやり取りを見ていた善二は、襲い掛かってくる集団ではなく、鷲尾に向けて言葉を放った。

 「そこまで腐ってんのかよ! 鷲尾~~~‼」


          

どのぐらいの時間が過ぎたのだろうか。子犬はしきりに、うつ伏せに倒れている善二の顔を舐めている。

周囲には誰もいない。

汚れた犬と、集団に打ちのめされた人間だけ。

その人間――善二はピクリとも動かない。

やがて静寂が戻った。

子犬はうつ伏せになった善二の顔をせわしなく舐め続け、やがて動きが止まる。周囲に残ったのは、泥と血の匂いだけ。人影は消え、足跡だけがそこかしこに残っていた。

そして子犬は鳴くのをやめ、うずくまるように動かなくなった。

 善二の瞼がかすかに上がる。

 「……俺は……死ぬのか……」少しずつ腕を持ち上ながら、子犬の体に手を乗せた。

 冷たくなっている。

 「……くそっ、結局こんな小さな命さえ守れねぇ~じゃね~か」血反吐を吐きながら、立ち上がった。

 善二は微かにまぶたを開ける。意識の端に薄い光が差し込むような感触。再度震える手で子犬の体に触れる。やはりその体からは温もりがなっていた。絶望は重く、だが彼はそれでも立ち上がろうとした。

 (……くそっ、結局俺は何も……)

 「ぐっ……!」善二は下から熱を感じた。

 血混じりの嘔吐を堪え、彼はゆっくりと身体を起こす。腹部に確かな異物感が走る。バタフライナイフが深々と刺さっているのを見下ろし、力がまた抜ける。

 「……誰だ……こんなもん出しやがったのは」

 膝をつき、前に倒れ掛かる上半身。

 その瞬間、善二は悟った。

 「これ……ダメだな……。母ちゃん……ごめん……俺は何も返せてない……。俺が死んだら母ちゃんは……一人になっちまう……死ね……な……」善二の意識はそこで途絶えた。


プロローグを読んでいただきありがとうございました。

ここでは主人公・咬噛善二の過去や人柄を描いています。

次回からはいよいよ異世界へ。

善二がどんな仲間と出会い、どんな強敵とぶつかり、どうやって天下一を目指していくのかを描いていきます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価、感想などいただけると励みになります。

それでは次回もよろしくお願いします!

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