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婚約者といちゃつく奴を注意したら決闘となり敗北~すべてを失った男の物語  作者: 松ボックリ


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春の訪れ2 出発、喜ばしいハプニング

 リリィの探知魔法は10秒、1分、5分、15分の4種類がある。10秒だと半人前魔法使いの無詠唱探知魔法と同じくらいの効果だが15分の詠唱だと範囲は200メートル、時間は3時間と言うとんでも性能になる。高レベルの隠密スキルを持つ個体じゃない限り隠れきれません。おかげで道中いらない戦闘は回避できるのです。


 魔法使いの狩りは集団行動でサーチアンドデストロイである、戦闘を避けると言う選択肢はありません、むしろ主な仕事は討伐任務なので積極的に攻撃します。なのでリリィのように戦闘を避ける必要がないのです。

 早朝6時、まだ薄暗い中、町の門番に許可証を見せ門をくぐり外に出る。雪はもう降っていないが残雪が残る。


 「よーし、さっさと行っていっぱい取って何個か天ぷらにしてもらおう、味噌もあるからフキ味噌もつくるぞ」


 「ぉぅぃぇ・・・」


 少し遅れてリリィの返事が来る。どうした?元気が無いぞ。


 「あなた、何でそんなにハイテンションなのよ。まだお日様も顔を出してないのよ?わんちゃんじゃないんだし走ろうとしないで」


 (この子、見た目厳ついけど18歳って言ってたわね、本当ならまだ男子って年齢ね、普段は大人ぶってるけどこうやってはしゃいでいるのを見ると年齢は本当のようね。下級武家貴族の三男とかで卒業後の騎士入隊試験に落ちたのかしら?異世界転生小説ばっかり読んでて勉強出来なさそうだし)


 そんな事はない、そこそこの規模の貴族の長男で勉学の成績も常に上位20%には入っていた。インテリ系マッチョである。婚約者のオリビアが常にトップ層にいたので格好いい所を見せるために父親に頼み込んで高価なコーヒーをがぶ飲みして厳しい訓練後も勉強も頑張ったのだ。士官候補コースの中では座学はブッチギリのナンバー1であった。


 何度か休憩を取りつつ森を進み、10時になる頃にリリィの探知魔法が異変を察知した。


 「100メートルくらいの崖下に何かいるわ、大きさ的に猪か大猪のどちらかね」


 猪は野生動物で食用に向いている、皮はレザークラフトなどの皮革製品や毛皮製品に利用できる、大猪は魔獣に分類され、肉は人が食べるとまずくて食あたりを起こす、皮は強くしなやかで兵士や冒険者の防具に使用され、牙は加工すればナイフや刺突武器となる。上位個体になると体内に魔核と呼ばれる鉱石があり高額で取引される。


 100メートルほど慎重に歩き崖に到着する。崖下に動くものが見える。


 「んー、猪ね、この距離で探知魔法で確認したから間違いないわ、猪にしては大きいわね。若い大猪と遜色がない。ちょっと前にこの崖から落ちて気を失っているようだわ」


 「よっしゃ、とどめ刺してくる!この時期の猪はうまいぞー、近くに川があったはずだ、しらべておいてくれ」

 

 言うが早いか動くのが早いか、崖を飛び降り着地と同時にククリナイフで猪にとどめを刺す。鳴き声すら上がらなかった。


 「おーい、川で血抜きと解体するから川の方向教えてくれー」


 「すぐそこよ、フキノトウはどうするの?間に合わなくなるわ」


 猪を発見した時からこうなるとは予見していたけど一応聞いてみる。


 「そうだな、今日は野営決定だな、一応野営セット持ってきてよかったよ、春先の猪はうまいぞー」


 厳しい冬を越えた個体は脂が落ちているが、その分肉質が引き締まり、赤身本来の濃厚な旨味を楽しめる。そして繁殖期を終えたばかりで匂いも少ない。


 「皮と肉とふきのとうを売って余ったお金で赤ワイン買ってギルドの厨房に頼んで赤ワイン煮込みつくってもらおう」


 あまりに魅力的な提案に野営と言うめんどくさいイベントも許す気になる。


 「それは、凄い魅力的ね、川まで行かずとも私が自動水路になってあげる、何時間でも出しっぱなしでも大丈夫よ、さっさとやって頂戴」


 10分以上の長い詠唱の後に谷底に川ができた、これ大丈夫?生態系壊さない?土魔法で水路を作り、その水路に大量の水が比喩ではなく本当に川のように流れている。魔法科の連中ってとにかく早く攻撃魔法を出す事に評価をしたがるけどリリィの能力もぶっ壊れだと思うけどなぁ。


 魔法使いの戦術はシンプルである、絶対に複数で行動して探知魔法に敵が引っかかると魔法を連射する係と休憩する係を分けて遠距離から交代しながら常に弾幕を貼り続けるという騎士隊よりよほど脳筋戦法である。


 なので詠唱がアホみたいに長いリリィみたいなタイプは評価されにくい。詠唱が長いだけで圧倒的な探知範囲や長時間の魔物除けの魔法を行使できるのは単独、もしくは少人数で行動をする冒険者向きなのかもしれない。オリバーという優秀なタンク役がいれば詠唱中も隙が無い。


 血抜き、解体が終わり、遅めの昼食が終わればもう夕方に差し掛かっていた。リリィは先に進みたがったがやめておいた、騎士隊のサバイバル術の格言に「まだ大丈夫はもうダメだ」というものがある。無理をしないでいい時は安全策を取れという意味だ。


 リリィの方向感覚を狂わせる魔法と魔獣除けの薬をまき散らし野営の準備を整える、今夜の食事はバーベキューと言いたいが野営中に食べ過ぎるのはよくない、食物を消化するのにもエネルギーを消費するし便意も近くなる。必要量だけ食べ、交代で寝る事になるだろう。


 けど人間の心はそこまで強くない、目の前のお肉、冬が明けての久々の解放感、大自然の中、胸に秘めていた話を語りたくなる。

オリバー君はまだ10代なのでお肉大好きです。塩コショウを振ってワイルドに焼くのも好きだけど、高位貴族には珍しく趣味が料理である母親の作るイノシシのほほ肉のワイン煮込みが大好物である。


リリィも年に数回食べられるワイン煮込みと一緒に飲む赤ワインは好物である、しかし本当はワイルドに炭火で焼いて塩コショウで味付けした肉を冷えたビールと一緒に食べる方が好き。

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