親父が急いだ理由が、今わかる
第二部「刺の冠解体編」開幕です。
結婚式から一年。オリバーは父となり、そして父イワオから新たな敵の存在を聞かされます。
蛮族という外の脅威は去りました。しかし国の内側には、まだ膿が残っていました。
あの結婚式から1年ほどが過ぎた。結婚をしてすぐに妻であるリリィの妊娠が発覚し、出産が近くなると、リリィには故郷であるショーベリ領の両親の元で過ごしてもらっている。
俺は定期的にリリィと連絡を取りながらアヤノ領内で蛮族に破壊されたインフラ整備に携わっている。
そしてリリィの出産が近くなり出産に立ち会うためにショーベリ領に旅立つ前日に父親であるイワオに呼び出された。
「ハジメ、いやオリバー。お前が出発する前に話しておきたいことがある。ワシはお前達が安心して暮らせる世にしようと思ってがむしゃらに蛮族と戦ってきた。お前にも父親として子供に対して何か残してやりたいと思う事はあるか?」
「親父、正直まだ父親としての実感がわかないんだ、俺はもうアヤノからは抹消されてオリバーとしてショーベリ家に婿入りしてオリバー・ショーベリになったからショーベリ領の発展に尽くすべきだと思っているけどショーベリ領を継ぐのは長男のアンテロ君だ、その役目はアンテロ君がするべきだと思う。もちろんなるべく手伝う気ではいるけどショーベリ領には王国軍がインフラ整備やブドウ畑を作っていると聞く、正直俺の出番は限られると思うんだ」
「そうだな、そこまでわかっているなら話は早い。元々お前は文官より武官向きの性格と技能を持っているしそう育ててきた。今から話す組織の事を頭に入れておいて欲しい」
父イワオから聞かされた組織の話はこうだ。
・家督を継げない一部の貴族の次男以降が組織した刺の冠と言う反社組織があるとの事。
・最初は商人の脱税を見逃す代わりに裏金を受け取ったり脱法行為をお互いにカバーし合う互助会的な組織であったこと。
・ある日から急に反社化してブゥタ三男を中心に孤児院と繋がり奴隷貿易し始めて大金をかせぐようになった。
・蛮族と裏取引をして国家転覆を狙うようになった。
・蛮族が使えないとなると現地のマフィアと手を組み手口も巧妙になり様々な悪事を働いている上に規模は徐々に大きくなっているとの事。
「これからの時代は蛮族と言う脅威がなくなった事で同盟諸国の結束も緩み、国境を跨ぐ刺の冠の検挙は難しくなっていくと思う、ワシは何とか王国内の刺の冠を一掃したいと思っているがワシだと北の国に簡単に手出しをする事は難しい、そこでオリバー、北の国の貴族になったお前には北の国にはびこる刺の冠の解体を頼みたい。ショーベリ領にはロッシ家の息がかかった人間がたくさんいるから活用してほしい、刺の冠は残念だが少しずつ拡大しつつある、今叩かないと最悪同盟諸国内で戦争の可能性まで出て来るというのがマルコの見解だ、次男以降とはいえ貴族が国境を跨いで大規模に犯罪行為をしているのだ、マルコの見解の可能性もある、北の国で動きやすい立場のお前に動いてほしい」
その後刺の冠が行ったとされる様々な犯罪行為を聞かされる。
「そうか、ショーベリ領を落とす手引きをしていたのも刺の冠だったのか、その他にも投降に応じた蛮族の捕虜の拉致している......奴隷扱いをしない事を条件に投降させたのに拉致をしているのがばれると反乱の可能性もあるかもな、わかった親父、俺もこれから生まれる子供のためと北の国の貴族になった以上、貴族の義務を果たそうと思う、差し当たって何をすればいいんだ?」
「まずはショーベリ領に向かってリリィさんが無事出産できるように見守る事だ、時期がマルコから何かを指示されるだろう、それに従ってくれ。マルコの話だとある程度慣れてくればお前に部下と裁量権を渡すそうだ。それまではマルコのやり方を学んでくれ、アヤノは戦う事には強いが諜報などの搦め手には弱い、そのあたりをしっかり学べ」
「わかった、そうする。それじゃあ俺はもうショーベリ領に向かうよ、風向き的にグライダーは使えないから徒歩と鉄道馬車で向かうからもう行くよ、落ち着いたら孫の顔を見せに来る」
「そうか、それは楽しみだな。お前も子供の顔を見て接するうちに父親としての自覚がでると思う、そろそろ寒くなるから体に気を付けて過ごせ」
「わかった、親父も気をつけろよ」
こうして親子の会話を終えてオリバーは徒歩や鉄道馬車を使ってショーベリ領に向かっている、大体1か月ほどの旅路だ。
(体に気を付けて過ごせか、蛮族とも決着をつけて親父も丸くなったな、しかし刺の冠か。家督を継げないからって何を甘い事を言っているのか?俺は冒険者になって様々な事を知った、貴族は例え次男だろうが三男だろうがある程度真面目にやっていれば文官になれたり指揮をする側の兵士になる事ができる、庶民は真面目に生きていても冒険者になるか小作人になるかしか選択肢が無い人間がたくさんいる、あいつらはそんな事も知らないのだろうな)
長い旅路の末にショーベリ領に到着して久しぶりにリリィの顔を見る事ができた。会った瞬間に急に愛おしくなり思わず抱きしめてしまう。
「いらっしゃい、あなた。冬の間はいれるんだよね?一応冬前に出産予定だから出産後もいてくれるのは心強いね、いっぱい働いてもらうね」
「あぁ、出産後はリリィは体を休める事に専念してくれ。なるべく俺が支えるからさ」
「ありがとね、あなた。期待している」
そして本格的な冬に入る前にリリィは出産をした元気な男の子だ。出産前から名前は決めていた。今日から俺の長男の名前はヴィクトルにした、長い事戦争状態にあった蛮族との決着がついた節目の時代に生まれた子なので「勝利者」を意味するヴィクトルはぴったりだと思う。
最初はぎこちなかったが2か月ほどたつ頃にはヴィクトルの世話にも慣れてきた、小さな指で必死に自分の指を掴んでこようとする息子が愛おしい、この頃になって何故親父は蛮族との決着を急いだのかわかる気がする。息子の時代に禍根を残したくなかったのだろう。今、自分もそう思う。この息子が少しでも平和な時代を生きられるように最大限の努力をしよう、自分の父親のように誇りに思ってもらえる父親になろうと自然と思えるようになった。
そうして春になる、早速マルコさんを通して大きな仕事をする事になる。ジパンから使節団が来るようだ、表向きはこっちの地で栄えているアヤノ家への表敬訪問と今後の貿易に関する会議などの予定だが向こうで何かしらの犯罪を犯したこっち側の人間も護送して来るとの事、マルコさんの話だと刺の冠が関与をしている可能性が高く、最初の任務はその男が口封じで殺されないように警護をしつつ出身国の司法機関に引き渡す事になった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
第二部の開幕として、オリバーが人生の目標を定める回になりました。第一部では「すべてを失った男が幸せを掴むまで」を描きましたが、第二部は掴んだ幸せを次の世代へ繋ぐための戦いになります。
息子ヴィクトルの名前には「勝利者」という意味があります。長い戦争に決着がついた節目に生まれた子として、この名前を選びました。
敵は蛮族のような分かりやすい軍勢ではなく、国境を跨いで根を張る組織です。オリバーがどう立ち向かっていくのか、引き続きお付き合いいただけますと嬉しいです。
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