24話 約束
長い通学路、朝日は残酷なほど明るかった。
一緒にコンビニでメロンパンを二つ買った。
「むぐっメロンパンは食べたことあった?」
「ぱくっ...ない。甘い」
「甘いね~」
「メロンは?」
と晶に聞かれて、晴は首を傾げる。
「今、食べてる...?」──「俺は食べたことない」
同時に言って、二人で顔を見合わせる。
それからどちらともなく笑い出した。
メロンパンの中身がメロンでないことを、十八年生きてきて初めて知った朝だった。
「メロン入ってると思ってたの?」
「思ってた」
「ふふっ、本物ちょっと気になるよね」
晶の目を見て頷く。
「いつか一緒に食べてみよう」
───いつかが来る前に、死ぬかもしれないけれど。
未来への賭けとして、自己満足の願掛けとして、約束を沢山増やそうと晴は思った。
晶は笑って頷いた、守れないかもしれないと思いながら。
───
校門が見えた。生徒たちの喧騒か聞こえる。
晴の顔から、すっと表情が消えた。
優等生の仮面。背筋が伸び、目から光が引いた。
晶が手を握った。手をゆるく握り返す。
晶はにこにこの笑顔でみんなに挨拶する。
「おはよう今日はいい朝だね〜」
朝から隣の僕と首を絞め合ったとは誰も思わないだろう。
今日の晶は気分が良いみたいだ。
昨日のことがあったから?それとも朝のこと?どちらが晶を明るくさせているのか分からなかった。
一緒に過ごしていても、晶の深層は掴めない。
───
特に何事もなく6限が終わった
今日は、晶のいじめっ子に対してのかわし方が上手だった。
最初に会話した日のような、妙な安定感がある。少し怖いくらいに。
諦めにも似たその態度は、初めはかっこいいと思っていたが、今はそれが何故だか苦しく感じる。僕とは別の仮面を、僕と同じように被っているような息苦しさがある気がする。
本当の感情が剥き出しになった姿を見たからだろうか。今は、何を思っているのだろう。出会った時からずっと、晶は何かを秘めているように思う。どうして今朝、首を絞めたのだろう。僕は、晶のことを何も知れていない。もっと、知りたい。些細なことも、重くて苦しいことも、全部全部知りたい。全部知って、全部教えて、知らない事なんて無くなれば、本当に溶け逢ってひとつになれる気がするから。その為にも、もう少しだけ一緒に生きて欲しい。
この思いが届くようにと、机の下で晶の手を強く握りしめた。届くはずないのに。
急に握られて晶は驚いたが、すぐに嬉しそうに握り返してくれた。
届いていないなと、当たり前のことを思いながら笑い返した。
僕は晶に出会って頭が悪くなったんだろう、いい意味で。
───
「ホームルームを始めるぞぉお!!来週全校集会で成績優秀者の表彰がある!」
担任が意気揚々と言うと、教室が騒がしくなる。
「でた公開処刑w」「満点じゃないのにねー」「今回はどんな風にお祝いしてあげよっかーw」
クラス中が気持ち悪い熱気に包まれる、逃げられない。
またゴミを投げつけられるのか、ゴミで済むのだろうか。なにより、全校生徒からの気持ち悪い目線が1番嫌だ。逃げられない。鼓動がうるさい、熱い。逃げたい。
───「逃げたい?出なくていいんじゃない」
晶が囁く。その声で心臓が涼しくなって、落ち着きを取り戻した。
晴は首を振った。約束をするために。
「晶、表彰見ててくれる?」
「...もちろん」
「それなら、頑張れる」
「頑張らなくていいのに...」
晶は寂しそうな顔でそう言った。
「晶のために」(本当は自分のためだ)
「それ言われると何も言えないんだけど」
「知ってる」
「いじわる」
「晶にだけだよ」
「っどこでそんなこと覚えてきたの」
「晶」
「....」
「顔赤い、かわいい」
「晴の方が可愛いけどね」
「...」
二人のイチャつきに皆はもう慣れ始めていたが、昨日までよりも明らかに近い距離に、いつの間にか教室は静まり返っていた。あの熱血教師すらも。
「...何か、あったのかぁ?」
「せんせー、セクハラですよ〜」
晶がそう言って、自分の唇に人差し指をあてて笑う。
クラス全員が、何かあったんだなと悟った。
一部の女子は悲鳴を上げ、また別の一部の女子は歓声を上げた。男子は、微妙な表情をしていた。
が、そんな事二人は気にしていない。
ありがとうございました。




