22話 甘味
性的描写、傷描写含む。
放課後、バスに乗って家の近くまで辿り着いた。
コンビニの前を通りかかる。
「...アイス買って帰る?」
何でもない一言。あこがれの一言。
なぜなら、晴にとって寄り道もアイスも初めてだった。
「うんっ」と、晶が笑顔で同意する。
ガラス扉をくぐる。冷房が火照った顔を冷やした。
アイスの棚の前で立ち尽くしている。
「どれがいいのかわからない」
「だね」
二人してアイスを選べない高校3年生がここにいる。
しばらく眺めて、晴が手を伸ばす。
「...これにする。バニラアイス」
「おそろいで」晶も同じのを手に取った。
「たのしみ」と晴が微笑む。
レジを通って外に出て、ベンチに座る。
蓋を開けて、一口。
「冷たい」
「ん...おいし…」
アイスを晴に寄せる。
「はい、あ~ん」
「ぱく」素直に食べた。
熱ですぐに溶け始めてきた。
慌てて自分のに口をつける。
アイスが指を伝って垂れている。二人とも同じタイミングで気づいて、同じ顔をしていた...
(なんか、えろい...)
指についたアイスを見て晴も固まっている...
浴室でのことを思い出したのは晶だけではなかったらしい。耳まで赤くなっている。
「俺にも、あーんして?」
スプーンで掬って、ぎこちなく「あーん」
晶は、スプーンを無視して晴の手を舐めた。
びくっと手が跳ねる。
「あまい」と晶が甘い声で囁く。
晴は手を引っ込められない。
通行人がちらっとこちらを見たが、タ暮れのオレンジが二人を包んで、逆光で見えなくなっていた。まるで世界が気を遣っているようだった。
「全部...溶かしたい、食べたい」
と、甘く冷たい目線で晶が言う。
冷たい雨に溶かされてしまう予感がした...
晴は、アイスを見下ろして「家、帰ってから」と制した。
「...うん」と、晶は不服そうに頷く。
食べかけのアイスを二つ袋に入れて、帰路についた。
途中雨が降って来たが、今日は二人とも足早に帰った。
───
帰宅。玄関の鍵が閉まった瞬間
───晴から口を塞いだ。
ほのかにバニラの味がする。
「んっ」
溶けたアイスの入った袋は床に落ち、忘れ去られた。
「ん...とへそう」晶が溶けた目で言う。
晶を壁に押し付けるように抱いた。昨日よりも力が強い
「....ん」
「ん、ぅ」
バニラの残り香が二人の間で溶けていく。
晴のキスはとても上手くなっていた、つい最近初めてしたとは思えないほど。
「ふぁ…..うまく、なりすぎ...」
「んぅ...ほんと?」
額をくっつける、息が荒い。
「足りない」
「おれも....」
そのまま畳まれた布団に倒れた。
「...積極的」と晶がニヤリと笑う。
晴の抑えていたものは外れかけていた。
「昨日のじゃ足りなかった」
「えっち...」
そう言って、晴の唇に指し指を当てた。
その指を咥える。
「あ....たべられ、るの、俺の方かも....っ」
(指先なんて感じたことないのに...気持ちいい)
ちゅ、と音を立てて離した
「もっと食べていい?」
「たべて....ほしい、いっぱい」
首筋に顔を埋めた。舌が晶の鎖骨をなぞる。
「んうっ、やさしい...くすぐった」
耳たぶを甘く噛んだ。
「うあっ....おいしいの?」
晶の耳元で囁く。
「おいしい」
「ひぅ...」
声が出た。晶自身も驚くくらい高い声に、口を抑えた。
晴が、手首を掴んで外す。
「聞きたい」
「あぁ....みみ、だめっ」
晴は止めない、息を吹きかけた。
「ぁう..とけちゃう...」
「とけていいよ」
低い声。こんな声、教室では聞いたことがない。
「うっ、晴...かっこいい」
ふ、と笑った息が晶の耳にかかる。
「晶だけに見せてる顔」
「...うれしい。もっと色んな顔みせて」
───晶を...食べたい。
(あ、食べてもらえる)
「全部、食べて....」
窓の外では、雨が強さを増していたが、二人は気づかない。そのくらい、お互いに夢中になっていた。
お互い触れられた箇所が溶けそうになる感覚。
晶のシャツの裾に指を滑り込ませる。
昨夜つけた噛み跡の列が露わになる、一つ一つなぞった。
「まだ残ってる」
「うん、消えないでほしい」
お願い通りに、新しく一つ腰に落とした。
───
雨脚が、更に強くなる。二人の世界を閉じるように。
「んうっ」
手のひらが晶の腹を撫でた。
「ここも、僕の」
「ぜんぶ...晴の。」
晶も晴の腰に傷を落とす。
「あっ──」
同じ場所。同じ形。鏡合わせのように。
晶が腰を引き寄せて、傷どうしでキスをした。
息が詰まった。
傷と傷が重なる。
痛くて、温かい...
「っん....」
晴の目尻から涙が一粒落ちた。悲しいのではなかった。ただ満たされすぎて、器から溢れた。
泣きながら、キスをした。
塩の味。バニラはもう消えて、互いの涙だけが混ざり合う。
「「...はぁっ」」
二人は泣きながら笑っていた。
「なんで僕ら、泣いてるんだろう」
「ふふっわかんない...その顔...好き」
雨音が二人を覆い隠していた。
世界から切り離された、たった二人の箱庭。
「はる...」「...っあき」
名前を呼ぶだけでもう限界に近かった。
───
「...はあっ」「ぁ....はぁ...」
吐息がお互いの耳にかかる。
荒い呼吸のまま晶を見つめた。
目が潤んでいる。黒い瞳に晴だけが映っていた。
「もっと......」
晶の甘い声に、頷く。
晶を見る、傷だらけの身体。白い肌に刻まれた赤と白の界線。先程の雨で、濡れた猫のように艶めいている。
「…?」
「きれい」晴が微笑む。
「...汚いよ」と、晶は顔を赤くした。
傷のひとつに唇を落とす
「汚くない」
「っ...ぜんぶ、綺麗にして...」
晴と溶け合うことで、きれいになっていく気がするから。
傷と傷、凹凸が噛み合った。最初からそれが完成であるかのように。
ゆっくりと溶け合う。
───
雨はまだ降っている。止む気配はなかった。
横になって晶を引き寄せた。
乱れた敷布団も気にしない。傷だらけの肌同士がぴたりと合わさる。
「....とけた」
晶の髪を優しく梳く「溶けちゃったね」
「うん」と幸せそうな顔で晶が頷く。
「ずっとこうしてたい」
「してよう」
雨音だけの世界。時計も見ずに二人はそのまま動かなかった。
目を閉じる──二人はそのまま眠った。
抱きしめ合って、傷を合わせたまま。
甘くとろけるような空気が、この部屋を満たしている。
ありがとうございました。
r18版はムーンライトへ。




