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忽雨  作者: ゆきのひ
三章 変化
21/26

21話 彼氏

傷だらけの体でことん、と晶の肩に頭を預けた。

「...明日、学校どうしよう」

「親は...来ないかな?」


晴は首を横に振った。

「来ない。興味ないから」


「そう....興味ないのに、500点、暴力?努力も苦しみも知らずに...。───消えちゃえばいいのに」


晴は目を伏せた。

「....消えたら、500点取れって言われなくて済む」


「殺しちゃう?」


少しの沈黙。


「.....冗談だよね」


「晴が望むなら...?」


晴は、息を吐いた。

「望まない」はっきりした声だった。

「晶にそんなこと、させたくない」


「そっか」

晶は少しだけ残念そうな顔──すぐに笑顔に戻した。

が、それを見逃さなかった。


「なぁに?」と晶がはぐらかす。

じっと目を見た「本気だったでしょ」

「別に...」と晶は気まずそうに目を逸らした。


頬に手を添えて、こっちを向かせる。

「嘘、下手」

「はじめて言われた」


親指で頬を撫でる。

「僕にはわかる」

「...敵わないな〜」

そう言って晴の手に頬をすりすりした。あざとい....


雨音だけが部屋を満たしていた。時計は夜の十一時を回っている。二人で布団を敷き始める。

「明日も学校行こう。」

「晴が行くなら。」

洗い物もそのままに、風呂も入らず、寝落ちしてしまった。


───


朝六時。雨は上がっていた。

晴が先に起きていた。洗い物は片付いていて、風呂場から湯気が出ている。

「おはよう」

「はよう...え...昨日落ちてた...」


タオルを差し出す「お風呂、沸かした」

「わ、ありがとうっ」


湯船に浸かると、傷口にとても染みた。昨夜の噛み痕が全身で主張している。鏡を見れば、首から鎖骨、肩、あちこちに赤紫の花が咲いていた。


「うれしい...晴のもの....」


シャワーを浴びて傷が心みるのも構わず、晶はいつもより丁寧に体を洗った。


晴は、台所でトーストを焼いていた。

「制服、長袖ある?」

「うん、服少ないから、学校の服一応全部持ってきてる。

けど...隠さなきゃだめかな~、見せびらかしたいんだけど」


晴のバターを塗る手が止まる。

「だめ」

「なんで〜」


耳を赤くして「僕が恥ずかしい」

「かわいい。半袖で行く」

晴が、むすっとして言う「長袖」

「かわいい.....」


目を合わせない「置いていくよ」

「それはいやーっ」

結局、二人とも長袖を着て家を出ることになった。


───


通学路、隣を歩く。

校門が見えた。生徒たちがぞろぞろと吸い込まれていく

「今日もまたこんなゴミ溜に...」


下駄箱。晴の靴には画鋲が入っている。

黙って指先で摘み出し、ポケットにしまった。もう慣れた手つきだ。

「危ないから頂戴?」

「昨日散々噛み合ったのに?」

「俺以外に傷つけられるのは嫌なの!」

少し迷ってから渡した「気をつけて」

「うん」晶は、それを落し物箱に入れた。

廊下を並んで歩く。すれ違う生徒がちらちらと視線を投げた。


いじめの主犯格が、教室の入口に腕を組んで立っていた。

「よお、昨日はよくもやってくれたな」

「何その登場の仕方、うけるw」晶が笑う。

相手のこめかみに血管が浮いた「舐めてんのか」

「ぜーーーっったい舐めたくない!」

晶が笑顔でそう言うと、主犯が舌打ちをした。


取り巻きが五人ほど後ろに控えている。

「今日はお前の番だからな晶」

気持ち悪い笑顔で主犯が笑う。

晴は、すっと晶の横に立った。

「お前もだ、二色。昨日の借り返してやるよ」

「...晴にさわんな」

鼻で笑った「命令すんなよ」

そう言って主犯が晴に向かって手を伸ばす。


晶が相手の急所を蹴った「触んなっつっただろ!!!」


───「ぐあっー!」

膝を抱えてうずくまった。

取り巻き「お、おい!」

教室中の視線が集まる。

取り巻きが前に出ようとしたが、昨日晶が言った「失せろ」がまだ効いているのか、足が重い。


「なぁに?」と晶が微笑む。


殺意の覗く綺麗な笑顔に、取り巻きは立ち止まる。誰も助けなかった。主犯は、床に這いつくばったまま言う。

「てめぇ....先生に言うからな...」

「ガキかよ、ここの教師が助けるわけねぇだろ」

それは正論だった、残酷なほどに。


晴が口を開く「ありがとう」

瞬間、晶は晴の触られたところに抱きついた。

晴は受け止める。

「大丈夫?」

「大丈夫...晴がいれば。」

担任が遅れて入ってきた。床でうずくまる主犯には目もくれず、出欠を読み上げ始める。

それを見て晶は笑いが堪えられなかった「っぶw」


───


一時限目数学。

例の教師が仕掛けててきた。

「じゃあこの問題、二色ぃ!!」

絶対に解けない応用間題。大学レベルの微積分、この前より難易度が高い。教師は、ちらりと晶を見る。

「解けなかったら、隣も道連れなぁ!!」

「何にですか?」晶が冷静に尋ねる。

「掃除当番一週間、二人分だぁ!!」

軽い罰に聞こえるが、この教師の一週間は土日も含む。


「わ〜、厳しい」

と、晶はわざとらしく辛そうな演技をした。

でも内心、一緒なら掃除も悪くないと思っている。

「解きに行かなくても、大丈夫だよ。」

と晴に微笑む。それを見て、教師は眉をひそめた。


晴は静かに「ありがとう」と言って立ち上がった。

黒板の前に歩いていく背中は、いつもと違う。


「俺の彼氏...かっこよすぎ...」

と、晶は目を輝かせて言った。


チョークが走る音。教室が静まり返る。

晴は淡々と解いていく。全員の顔が青ざめる。

解けるはずのない問題を、晴は平然と解いた。けれど、いつもより少しだけ手元が震えていた。怒りか、それとも別の何かか。

「...正解だ」教師はいつもの元気を失って、絞り出すような声で言った。


晴が席に戻ると、晶が抱きしめる。

小声で晴が言う「彼氏って言った...」

「聞こえてた?」悪戯に微笑む。

晴の耳が真っ赤に染まっている。


クラス中がざわついていた。

「え、今の」「付き合ってんの」「マジ?」ひそひそ声が波紋のように広がる。

晶は、傷を見せつけたくなる衝動に駆られた。

(俺は晴のものだって自慢したい...)

……が、ぐっと堪えた。

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