17話 浴室
性的描写あり。
ユニットバス。
一人用。どう考えても二人で入る設計ではない。
───
「あ....ち、かい」提案した晶が言う。
目を泳がせて「せ、狭いよ」
「うん....ぴったり。」晶が微笑む。
晴は、背を向けたまま固まっている。
170cmと169cm。向かい合えば密着は避けられない設計だった。
「このまま...開かなかったら...」
晶の言葉に肩が跳ねた。
湯気で曇ったドア...開かないわけがない。ただの安いアパートの風呂だ。そんなに建て付けは悪くない。でも万が一開かなかったら、誰かが見つけてくれない限り飢え死にするだろう。
「幸せ...」
晶が嬉しそうにそう言った。
どこまでも純粋に、死にたがっている。
晴は何も言わなかった。
「...洗えないね」と晶が笑う。
ようやく振り返り「洗えないよ」と困った顔をした。
「がんばろう」真剣な顔で晶が言った。
晴は、何をがんばるのか分からない顔をしている。
「お互いを洗うしかないね♥」
シャンプーを渡される。拒否権はなかった。
ぎこちない手つきで晶の頭に泡を乗せた
「目、つぶって」
「んっ」
指の腹で頭皮を洗う。丁寧に。爪は立てない。
妙に上手かった。誰かにしてやったことなどないはずなのに、手つきに迷いがない。
「......こう?」
「じょうず...なんで?」
手を動かしながら「自分で毎日やってるから」
「それは俺もだよ笑」
「人の頭、初めて」
「また...はじめて、くれた」と嬉しそうに晶が言った。
黙ったまま、泡を流す。顔が熱い。
シャワーの湯が晶と晴の間で弾けた。狭い浴室に反響する水音だけが響く。
───
「次、僕?」
「うん。痛くしたら、ごめん」
晴は小さく笑った「痛いの平気。」
(うっ優しくしたい...痛めつけたい....)
晶の中で二つがせめぎ合う。優しくしたい手と、傷つけたい衝動。シャワーヘッドを持つ指が微かに震えた。
晴は目を閉じて待っている。
晶は、優しく洗った。震えは止まっている。
「...ん」
小さな声。気持ちいいらしい。
「同じ匂いに....なってく」と晶が呟く。
目を開けて「おそろい、増えた」と晴が微笑んだ。
「どうしよう...幸せすぎて、爆発する.....」
何かが当たった気がして振り返ろうとしたが、振り返れなかった。
流し終わって、ぽつりと
「.....僕も、(爆発しそう)」
「......?」
耳まで真っ赤にして、言えなかった。
「なんでもない」
「えっ....」
湯気が二人の顔を隠してくれていた、ありがたいことに。
立ち上がろうとして、足が滑る
───「わっ」
バランスを崩した晴が晶の方に倒れた。
「......う...ぁ」
晶は顔を真っ赤にして、言葉にならない声を出した。
晴も顔を真っ赤にして、黙り込んでいた。
密着。言い訳のしょうがない距離
互いの熱が湯温とは別の場所から伝わっていた
晶 (...)
晴 (動けない...)
数秒。永遠のような数秒
「っか、からだ、あらおう....(?)」と晶が提案する。
声にならない声で頷いた。
───
向かい合ったまま、お互いの体を洗う。
手のひらが肩を撫で、腕を滑り、背中に回るたびに息遣いが荒くなった。
ボディソープの安い花の香りが蒸気に混じる。
「ここ、柔らかい」と晴が笑う。
「むっ...ふとってるって?」
首を振る「気持ちいい」
「こら」と晶が仕返しにつつく。
「ひゃっ」と声が出た
...もう一度つつく
「やっ......くすぐったい」
「意地悪言うから」...つん
びくっとして晶にもたれかかった。
「やめっ......」
「っ.....」
晴が見上げる形になった。水滴が睫毛に引っかかっている
(かわいい...もうほんとに、爆発する。このまま死ねるかも)
上目遣いのまま「.....続き、洗って」
「ひぅ...はい....」(晴って魔性だよな...)
二人とも、息を呑んだ。
泡のついた手が丁寧に洗う。指先一つ一つに神経が通っているような、ゆっくりとした軌道だった。
晴は、耳の先まで真っ赤に熱を帯びている。
晶がじっと見つめる。
唇を噛んだ。声を殺そうとしている。でも、殺しきれなかった。喉の奥から細い音が漏れる。
「は、あ......晶さ.....」
「.....」無言で続ける。
シャワーが流れっぱなしだった。水音と吐息だけの空間
晶にしがみつく。細い指が肩に食い込む。
「だめ........んぅっ」
「ん...」晶がキスをした。
口の中で声ごと塞がれてしまう。
晴から力が抜けた。完全に晶に預けている。
「はあっ...ん....とけちゃいそう」
とろんとした目で「もう...んっ...とけへる...んぅ」
「んう....」「んっうぅ....」
離れる、糸はしばらく繋がったままだった。
額をつける。呼吸が整わない。
「はぁ」「っはぁ」
シャワーだけが律儀に湯を吐き続けていた。
同じように、晶を洗う。晶が涙目になっている。涙を見て躊躇った。でも晶が止めなかったように、続ける。
耳元で「泣かせてるの、僕......?」
「はっ...だめ....それ、みみ...っうん...晴に泣かせ、られてるっ...ぁ」
首筋にキスを落とす。
「晶、かわいい」
「んっ...うぅ、んん....」
二人とも余裕なんてなかった。
───
しばらく、呼吸の音しかなかった。シャワーだけが何も知らない顔で湯を降らせている。
互いの息が耳にかかる。
隣にへたり込んだまま、肩に頭を預けた。
どちらも動く気力がない。ぬるい湯が背中を打ち続けている。
「.....死ぬかと思った」と晴。
「おなじく…」(俺...慣れてるはずなのに、なんでこんな...)
「.....初めて、だった」
「ふふっ知ってる。──俺も、こんな気持ちいいのは、初めて....」
それを聞いて、肩口に顔を埋めた。返事の代わりに、耳だけが真っ赤に主張していた。
同じようで違う、違うようで同じ2人の初めてだった。
しばらくそうしていた。
湯が冷め始めた頃、どちらともなく立ち上がり、今度こそ本当に体を洗い直す。
お互いほとんど後ろ向きで、そそくさと浴室から出た。
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r18版はムーンライトへ。




