11話 入水
入水-水中に身を投げて自殺すること。
自殺表現を含む。
───「世界に二人きりみたいだ」
晶がそう言ったので、驚いた。
「僕も、同じこと考えてた」
そう言うと、二人で見つめ合って笑った。
晶が波打ち際まで歩いて、立ち止まった。
隣を着いていく
靴の中に波が入ってくる
冷たさもにならなかった
「きれい....」
「うん....綺麗」
晶は、隣を見つめてそう言った。
小雨が霧のように二人を包んでいた
朝焼けのない曇天の海がどこまでも広がっていく
その朧に、飲み込まれてしまいそうだった。
隣の視線に気づいて晶を見上げる
「...?」
「綺麗だね」
晴の朧気な瞳を見て、晶がそう言った。
一瞬、海のことじゃないのかと思ってしまい、恥ずかしくて目を逸らす
「......うん」
───ばしゃっ
晶が水を蹴り上げた。
水しぶきが顔にかかって目を瞑る
目を開けて、濡れた前髪の向こうで笑う晶を見る
「やったな」
しゃがんで水をすくい、思いっきり晶にかけた。
「わーっ!」
──ぱしゃ──ばしゃ─ばしゃ
───ははっ──ふはっ
────ざばーん────ざばーん─────
水しぶきと笑い声と波の音だけが聞こえる。
「2人とも、風邪まっしぐら」と晶が笑う。
晴が笑いながら、足を滑らせて尻もちをついた
「わっ!」
「あ....大丈夫?」と手を差し出す。
その手を見て、一瞬動けなかった。
差し伸べられた手。
この手はいつも引っ張り上げてくれる。
掴んだ。力強く
「うおっ」
勢い余って晶まで引き倒された。
二人して砂浜に倒れ込む。
二人共砂まみれで目を丸くして
それから声を出して笑った。
「一緒」──「一緒♩」
砂の上で二人の笑い声が重なった。
初めて聞くの心からの笑い声、初めて見る本当の笑顔だった。
起き上がって砂を払う。目尻にまだ笑みが残っている
「ごめんなさい、勢いつけすぎた」
「俺も、力弱くてごめん笑」
首を横に振りながら
「誰かと一緒に倒れたの.....初めて」
それを聞いて晶が口を開く
───「共犯に...共倒れ…..」
共犯、あの日のキスのことだ。
共倒れ、今この瞬間一緒に倒れたこと。
その次は、
晶が晴を少し沖まで引き連れる
腰まで浸かった
「冷たっ」
晴の声に構わず、晶は沖に進み続けた
───「...心中」
そう言って晴を抱きしめて後ろに倒れる。
水の中に沈む。目を閉じなかった。
波の音が遠くなる
制服が重く沈む
指先だけ強く掴まれている
晶が口付けをする
──息ができないのは、水のせいだけじゃなかった。
『好き』
声にならない晶の言葉が水の中で溶けた。
唇だけが伝えている。
目を開けたまま涙を流していた。
海水と混ざって分からない。
二人はしばらくそのまま動かなかった。波だけが二人の体を撫でていく
ぷはっ、と二人同時に水面に顔を出して息を吸った
「死ねなかった」
「ふふっ失敗…..」
二人とも、無邪気に笑っていた。
びしょ沸れの顔で真っ直ぐ見つめ合う。
「もう一回」と、晴が言った。
「うん。」
たぶん二人は、生きる為にこの行為をしていた。
波の音がすべてを覆い隠す。
目を開けると、晴の虚ろな瞳に光が戻りかけていた。
「...変なこと、言ってもいい?」と、晶が言う。
晴が頷くのを見て、晶は口を開く
───「愛してる、たぶん。」
晶には、これが愛なのかわからなかった。
晴は、息を呑んだ。波が二人の肩を洗う。
震えている、寒さのせいじゃない。
「たぶん、でいい」
そう言って晶にもたれかかる
「僕も.....たぶん...愛してる」
「...うれしい」
朝日が雲の切れ間から顔を出した。二つの影を海面が金色に照らす。
朝日を見たのは久しぶりだった
「あったかい」
「うん」
しばらく二人はそのまま海に浸かっていた。
やがて体の芯まで冷えて、どちらからともなく浜へ上がった。二人とも、歯がカチカチ鳴っている。
「.....さっっっむ」と晶が震えながら言う。
「死因.....凍死になりそう」晴は笑ってそう言った。
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