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忽雨  作者: ゆきのひ
二章 二人
11/26

11話 入水

入水-水中に身を投げて自殺すること。

自殺表現を含む。

───「世界に二人きりみたいだ」


晶がそう言ったので、驚いた。

「僕も、同じこと考えてた」

そう言うと、二人で見つめ合って笑った。


晶が波打ち際まで歩いて、立ち止まった。

隣を着いていく

靴の中に波が入ってくる

冷たさもにならなかった


「きれい....」

「うん....綺麗」


晶は、隣を見つめてそう言った。

小雨が霧のように二人を包んでいた

朝焼けのない曇天の海がどこまでも広がっていく


その朧に、飲み込まれてしまいそうだった。


隣の視線に気づいて晶を見上げる

「...?」


「綺麗だね」

晴の朧気な瞳を見て、晶がそう言った。


一瞬、海のことじゃないのかと思ってしまい、恥ずかしくて目を逸らす

「......うん」


───ばしゃっ


晶が水を蹴り上げた。

水しぶきが顔にかかって目を瞑る

目を開けて、濡れた前髪の向こうで笑う晶を見る

「やったな」

しゃがんで水をすくい、思いっきり晶にかけた。

「わーっ!」


──ぱしゃ──ばしゃ─ばしゃ

───ははっ──ふはっ

────ざばーん────ざばーん─────


水しぶきと笑い声と波の音だけが聞こえる。


「2人とも、風邪まっしぐら」と晶が笑う。


晴が笑いながら、足を滑らせて尻もちをついた

「わっ!」

「あ....大丈夫?」と手を差し出す。

その手を見て、一瞬動けなかった。


差し伸べられた手。

この手はいつも引っ張り上げてくれる。

掴んだ。力強く

「うおっ」

勢い余って晶まで引き倒された。

二人して砂浜に倒れ込む。

二人共砂まみれで目を丸くして


それから声を出して笑った。

「一緒」──「一緒♩」

砂の上で二人の笑い声が重なった。


初めて聞くの心からの笑い声、初めて見る本当の笑顔だった。

起き上がって砂を払う。目尻にまだ笑みが残っている

「ごめんなさい、勢いつけすぎた」

「俺も、力弱くてごめん笑」

首を横に振りながら

「誰かと一緒に倒れたの.....初めて」

それを聞いて晶が口を開く


───「共犯に...共倒れ…..」


共犯、あの日のキスのことだ。

共倒れ、今この瞬間一緒に倒れたこと。

その次は、


晶が晴を少し沖まで引き連れる

腰まで浸かった

「冷たっ」

晴の声に構わず、晶は沖に進み続けた


───「...心中」


そう言って晴を抱きしめて後ろに倒れる。


水の中に沈む。目を閉じなかった。


波の音が遠くなる

制服が重く沈む

指先だけ強く掴まれている


晶が口付けをする

──息ができないのは、水のせいだけじゃなかった。


『好き』

声にならない晶の言葉が水の中で溶けた。

唇だけが伝えている。


目を開けたまま涙を流していた。

海水と混ざって分からない。

二人はしばらくそのまま動かなかった。波だけが二人の体を撫でていく

ぷはっ、と二人同時に水面に顔を出して息を吸った

「死ねなかった」

「ふふっ失敗…..」

二人とも、無邪気に笑っていた。


びしょ沸れの顔で真っ直ぐ見つめ合う。

「もう一回」と、晴が言った。

「うん。」


たぶん二人は、生きる為にこの行為をしていた。

波の音がすべてを覆い隠す。


目を開けると、晴の虚ろな瞳に光が戻りかけていた。

「...変なこと、言ってもいい?」と、晶が言う。

晴が頷くのを見て、晶は口を開く


───「愛してる、たぶん。」


晶には、これが愛なのかわからなかった。

晴は、息を呑んだ。波が二人の肩を洗う。

震えている、寒さのせいじゃない。


「たぶん、でいい」


そう言って晶にもたれかかる


「僕も.....たぶん...愛してる」

「...うれしい」


朝日が雲の切れ間から顔を出した。二つの影を海面が金色に照らす。

朝日を見たのは久しぶりだった

「あったかい」

「うん」

しばらく二人はそのまま海に浸かっていた。


やがて体の芯まで冷えて、どちらからともなく浜へ上がった。二人とも、歯がカチカチ鳴っている。

「.....さっっっむ」と晶が震えながら言う。

「死因.....凍死になりそう」晴は笑ってそう言った。

読んで頂きありがとうございます。

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