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~12~ サヴァールの闇と魔王Ⅰ

 ダンジョンが消えて二晩が経った。

 未だにレンツ王子は目を覚まさない。

 王族専属の医師達によれば、彼は眠っているだけで、身体に問題がある訳では無いが、眠り続ければやがては衰弱死してしまうだろう、との事だった。

 救ったはいいが手の打ちようがない。


「レンツ……」


 彼が眠るベッドの傍らに立つパスクヮーレの面持ちは沈み、弟の名を呼んで、そっと伸ばした手をレンツの頬にあてる。


「どうして、お前の部屋に魔素がたまったのだ」


 そう言えばと、パスクヮーレは思い出す。


(ルカがレンツの部屋によく遊びに行っていた)



「魔力を持つ者は、人間の目に見えない魔物を見る事が、出来たりするのだろうか?」


 ルカが時折、何もいない場所を見ている時がよくあった。


(あ、ルカがレンツの部屋へ余り行かなくなってから、レンツは消えたのだ)


 もしかしたら、ルカは魔物をレンツの部屋から、排除していたかもしれないと、パスクヮーレは思う事にした。


 パスクヮーレにとってルカもレンツも可愛い弟だ。


(たまたま魔力を持って生まれただけの、私の愛する弟だ)


 まだ眠るレンツから離れ、パスクヮーレは気を取り直して、公務に戻った。






 流石に城に籠りっきりでは気が滅入るので、アルメイルは守護騎士ヴァンとネザルと共に、息抜きに城を離れ、城下の散策に出た。

 ニルドニアの城下、海の近くには交易の為の商人や船乗りが通りを行き交う。通りを行く荷車には、船から下ろされた積み荷が倉庫へ運ばれている。

 ニルドニアの海上貿易国としての風景だ。


 アルメイル達は暫く歩くと、海岸沿いの岩肌に大きな洞窟を見付け、興味本位で洞窟に入った。


「この貝がくっ付いている岩壁まで、満潮の時は海水が来るのかな」


 アルメイルは壁を見ながら、洞窟の中を見渡す。

 灯りが無い為、彼らは太陽の光が届くところまでしか行けない。光が薄らぐ場所に、岩があった。その岩は二メートル程の高さで、幅と奥行きは五メートル位だろうか。

 アルメイルはその前に立ち、一応、周囲に自分達しかいない事を確認する。


 そしてその岩にアルメイルは


「えいっ」


 と拳を軽く当てた。

 すると、サヴァールにいた時は粉砕出来た筈の岩が、洞窟内にガゴッと音を響かせ、真っ二つに割れた。


(父上が一カ月しか継続滞在の許可をくれなかったのは、この為か)


「実際に体感してみないと、解らなかったな、これは」


 アルメイルは初めての体験に感心し、割った岩を掌で撫でる。


「自分達騎士は国外でも戦えるように、加護に頼らない訓練を受けておりますので、どうぞ、御安心を、アルメイル様」


 その様子を見ていた守護騎士ヴァンが、手を己の胸に恭しく当て、言う。


「あっ、守護騎士の皆様の事は信頼しています!」


 自分を守ってくれている守護騎士に、加護が弱まると王子を守れないのでは?と勘違いさせてしまった、と申し訳なさそうに慌てるアルメイルに、ヴァンはニコリと笑みを作り言う。


「私自身、加護は全く所持しておりません」


 ヴァンはアルメイルの守護騎士の中で年長になる守護騎士であり、王族守護騎士隊副隊長だ。加護を持たずにその地位にいる彼は、かなりの強さと部下からも上官からも、そして王からの信頼も厚い騎士だ。


「何か悩んでおられるようですが、差し支えなければお聞きしても?」

「実は迷っています、僕が持つ新生加護を使って、眠る王子を目覚めさせるべきか…」


「アルメイル、それは使わない方が良い」


 洞窟の入り口にソアが立っていた。


「えっ、ソア!?」

「キュイが泣きながら探しているぞ」

「あーー……、キュイ姉様に言うの、忘れてた……

 って、ソアはいつからそこに居たのです?」


「岩を割るところからだ」


「さっきの使わない方がいいというのは…どういう?」

「そのままの意味だ

 あれはダンジョンに、生体エネルギーを吸収されたから、目覚めぬのだ

 お前の治癒能力で、あの者は回復せぬ」


(あ~~~~ッ、そうか、ソアに聞けば答えてくれたんだ!)


 ダンジョンの仕組みを知っていたソアが、第三王子が目覚めない理由を、知っていて当然だった。

 アルメイルは己の間抜け具合に、自分の髪を両手でワシワシした。


 神格級の存在のアースドラゴンであるソアは、基本、人間に親切ではない。


 ソアはキュイが一番大事だ。

 例外として、キュイが溺愛する双子にしか、ソアは親切に対応しない。

 特に、アルメイルの方にソア自身が、興味を持っている。



 この世界の『受け継がれ』加護の力は、サヴァールの土地から離れると、一年程で力は薄れるのだ。

 『神聖雨しんせいう』以外の加護は、サヴァールの土地でしか継続しない。


 新生加護は別で、一代限りで子孫に受け継がれない。

 その代わり、この世界のどこでも使い続けられる、加護とは言うがスキルに近い。

 だから敢えて、サヴァールでは二つの加護を区別して認識している。



(ゲームではそんな制約はなかった、新生と受け継がれ加護を区別する事もなかった)


 アルメイルはここで、漸く違和感に気付く。


(なぜ、こんなにも違う?)


 サヴァール国内では感じなかったが、国外へ出ると、アルメイルは受け継がれ加護の力が少しずつ弱まっていると肌で感じた。


(受け継がれた加護の力が、身体から抜けていく感覚が、本当にある)


 アルメイルは両掌を見ながら、不思議な感覚を感じている。


(しかし、なんだろう……とても、身体が楽になっている?)


 最初にはっきりと、アルメイルが受け継がれた加護が弱っていると、自覚したのは、ダンジョンで床に穴を明けた時だ。

 アルメイルの想定より、明けた穴が小さかった。


(サヴァールの受け継がれていく加護とは、何からの加護なのだろう?)


 サヴァールには宗教は無い。

 それはゲームにおいてもそうだったので、アルメイルは違和感を持たずに生きてきた。

 しかし、加護とは神から授かるものではないだろうか?と彼は考えたが思い当たらない。

 アルメイルが考え込んでいたら、ソアが優しく語りかけた。


「私としては、お前たちの呪いが抜けるまで、この国に滞在した方が良いと思うが、そうもいかぬのだろう?」


 ソアがアルメイルの頭を撫でた、それは不安を感じた子供を、安心させるような行動だ。



「ソア、今……なんて?」

「ん?」

「呪いが抜けるまで、って言いましたよね?」

「嗚呼、言った」

「それは、どういうことなのですか?」


 アルメイルは声を僅かに震わせ、ソアを見上げる。


「お前たちが言う『受け継がれ』加護、というものは、ただの()()だ」

「呪い?」

「ニルドネアの地下に、()()()()()()()()()()()から()()()()()()()()()()()()の、()()だ」



 アルメイル達は、ソアの言葉にサヴァールの闇を垣間見、驚愕の余りその場に固まった。



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