16、平和な日常をありがたく思う。
「ねえ見て?この泥だんご、私こんなにキレイにしたのよ?ほら、他のみんなも見てよ〜」と歳の頃は4歳ぐらいの女の子が真っ黒な手にピカピカに磨かれた泥だんごを誇らしげに皆んなに見せた。
「うわ〜。本当だ、きれ〜い」とその子の普段の仲良しさんなんだろうか?側にいた女の子が感嘆の声を上げた。
「まあ、本当だ!よく出来ているわね。先生も頑張ったけどそこまでキレイには出来ないわ。凄いわね〜」と一緒に砂場で遊んでいた先生も感心していた。
ここはルグランのとある施設だ。下は3歳から5歳までこの施設で過ごす。その子供達の様子を数名のルグランの視察団が真剣に見ていた。
「まぁまぁ、リヒト様本日はお越し頂きありがとうございます。お陰様で施設の運営は順調に進んでおります。ごゆっくりとご覧ください。」と年配の女性が施設を案内しがてらリヒトの前で破顔している。
清潔な遊戯室、子供たちが遊ぶ為のしっかりとした造りの遊具。ざっと見ただけで子供達も40名近くはいるだろう。
立地は街の中よりどちらかと言えば郊外に近い。子供達がのびのびと過ごせる様にと考慮して作られた。
この教育課程の特徴の1つは、すでに子育てが終わった母親を一定期間、特定の地域の施設で学んで貰い今度は先生として送り出している所だ。特に報酬としては高くはないが、本人の年金に加算され後々ゆっくりと支給される仕組みだ。
「ここは我が国初の国営の幼児預かりです。これからも経過を何度か見に来ます。皆さん決して気を緩めないよう子供たちに心を砕いて下さい。」と言いながらこの保育園を後にするリヒトの姿があった。
「あと何か所だ?」
「はい、リヒト様。これから6歳を迎える子供たちを勉強する場になる小学校、その上のいわゆる青年たちが3年間通う中学校、大人になる一歩手前、勉強しながら社会勉強もできる高校など、本日はあと8校の視察が入っております。まあ、今回の視察だけで20を超えるのですから休めるときは必ず休んでくださいね。」とお付きの従者のアーサーは忠告していた。
「ああ、わかってるよ。少し休む。着いたら起こしてくれ。」と馬車に乗るなりリヒトは目を瞑った。
「了解いたしました。しばらくお休みください。」
◇◇◇◇◇◇
トールと要塞の任務をしてから1年が過ぎた。
1人で受ける任務も増えて、お客様にも指名して頂ける事も有り、収入は順調に増えて行った。
実はギルドの仕事の合間にも、貴族のご息女相手のピアノのレッスンだったりマナーレッスンだったりを請け負うようになった。こちらは口コミだ。
とにかくお金が欲しくて色々な仕事をしていた。その合間に乗馬を学んだり、ギルド長に練習を見て貰ったりと毎日が充実していた。
気が付けば追われる様にルグラン王国を出て、5年が経過していた。
この国へ来た時には短かった髪は元の長さに戻り、依頼の時はいつも後ろで括っている。秋波を送ってくるヤツが多いが、ギルド長とこの人が防波堤になってくれていると思う。
「なぁ久乃。お願い僕と付き合って?今日こそは良い返事を聞かせてほしいな。」とギルド帰りの街中でトールに掴まっていた。
「とは言われましても、私はトールさんに好意はありませんし、私はとにかくS級になるのが夢なので。」と断っている。
「ん〜惜しいな久乃。剣の方はあと少しって所だ。」とギルド長が言ってくれている。だからこそS級を取っておきたいのだ。
一口にS級と言っても剣だけではない。素養や立ち振る舞いも求められる。よくあるイメージの腕の立つならず者ではS級は取れない。いわゆる[心・技・体]が求められるのだ。
「ちぇ、僕が持ってるから良いじゃん。」
「ふふっ、それとこれとは違いますよ。」と笑っておいた。
「へぇ、ルグランで子供相手の武道の先生を募集してるって。結構ギャラ良いじゃん。久乃、あなた久しぶりに祖国へ帰ったら?」とカウンターからアリスが身を乗り出す様に話している。最近はこうして良い案件を見つけるとせっせとアリスは久乃に薦めてくれるのだ。いい奴だアリス、とてもいい奴だ。
「久乃向いてるよぉ~。教えるの上手いでしょ?」と募集要項を見ながら上目遣いにこちらをチラチラ見ている。
ーーーーあぁ、報酬良いのね。と察した。私、出来る女ですから。
「それより久乃、今日の呑み会行くデショ?」とアリスがこちらを見てニンマリと笑った。
「もちろん!隣町のギルドとの合同だもんね~。」と頷きあって笑った。
「久乃、絶対おめかしして来て?絶対よ?貴女美人だから男共喜ぶし。」とアリスが嬉しい事を言ってくださる。
「アリスありがとう。そんな嬉しい事言ってくれるのアリスだけだよ。」と泣きまねをしてアリスを笑わせた。




