表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南部のバザー  作者: 貴神
1/2

南部のバザー(前編)

南部でバザーが開かれる事になり、


異種たちは、それぞれ行く事に胸を逸らせ・・・・。

ゼルシェン大陸南部の港は大陸最大の港で在り、其の港街は都会的で常に人が溢れていた。


港には毎日の様に交易船が出入りしており、近年では豪華客船も行き交い、


個人的に大陸を出入りする人々も日々増していた。


そんな大陸最先端のあらゆる物が入って来る此の港街で、近日、


大きなバザーが開かれる事となっていた。


噂によると海外の商品ばかりを扱うバザーとの事で、


民衆から貴族まで皆が強く興味を抱いていた。


バザー期間は七日間で、開催されたならば南部に暮らす誰もが一度は行ってみたいと、


既に思いを馳せていた。


そして其の噂は当然ながら異種の耳にも届いていた。


南部に在るゆきの館では一人の異種がバザーの日を思い浮かべ乍ら、


優雅に赤ワインを飲んでいた。


曲線を描いた金のテーブルには、常に金のフレームの鏡が置いて在る。


彼・・・・しろの貴公子は、グラスを口許に運び乍ら鏡を見る。


そして鏡に映る自分に、ふっと笑うと、うっとりとした声で呟き始める。


「一日目は、モンテール婦人。二日目は、マリル婦人。三日目は、キララ婦人。


四日目は・・・・」


少し顔の角度を変えて又、鏡を見る。


其の鏡に映る自分に、ふう・・・・と溜め息をつくと、白の貴公子はグラスをテーブルに置いた。


挿絵(By みてみん)


「美しい・・・・」


思わず心の声が唇から漏れる。


鏡に映るのは、此の世で最も美しい貴公子だ。


神聖なる白滝の様に真っ白なストレートの長い髪。


肌は雪の如く白く、顔は此の上なく端正、薄い唇は赤く線を描いた様で在り、


白く透き通る瞳は甘過ぎる程に美麗に垂れている。


完璧だ。


完璧な存在が此処に在る。


「ふぅ。


こうして寛いでいる姿も此れ程に美しいとは・・・・私は、なんて罪作りな男なんだ・・・・」


ふう。


何度となく鏡の前で溜め息をつく此の白の異種を、同族たちはナルシストだとひいているが、


本人は全く以て其の自覚がなかった。


白の貴公子は又、少し角度を変えて鏡に映る自分を見ると、ほくそ笑む。


そして其れを飽きる事なく何度も何度も何度も繰り返す。


一体どれだけ、そうをしていたのか・・・・白の貴公子のナルシスト行為を止めたのは、


窓辺に降りて来た橙銀とうぎんの鳥だった。


夏風なつかぜの貴婦人か」


白の貴公子は立ち上がって窓辺に寄ると窓を開ける。


部屋に橙銀の隼が舞い込んで来ると、テーブルに留まった。


右足には銀のホールが付いている。


白の貴公子がホールから折り畳まれた紙を取り出して開くと、こう書かれて在った。


<バザーの間、アス・ドロップ等を扱っている怪しい店がないかを探れ>


アス・ドロップ及びアス・トリックは異種を拘束する呪物の事で、


異種は常に此れ等が南部・東部に出回っていないかを調査していた。


人の手に渡れば自分たちの命をも脅かすかも知れない危険な物ゆえ、


どうやら夏風の貴婦人は今回のバザーを気にしている様だ。


ならば厳密に取り締まれば良いものかも知れないが、


異種にとって弱点で在るアス・ドロップやアス・トリックの存在について、


異種たちは人間に話してはおらず、長年、隠し通してきていた。


もし大きく人に知られれば、其れこそ自分たちの大陸での立場が危うくなると云うものだろう。


故に此れ等の調査は、常に異種たちだけで極秘で行われているのだ。


そして今回の調査員として、夏風の貴婦人は白の貴公子を選んだ様である。


「了解」


白の貴公子は微笑むと、紙を握り締めた。


其の途端、手の中の紙が凍り付くと、パリンと割れて粉々になる。


テーブルに留まっていた筈の橙銀の鳥も、もう姿を消している。


バザー開催まで間も無くだ。









バザー初日は、五月晴れの様な爽やかな天気の良い日だった。


おそらく初日から繁盛しているであろうバザーを想像し、行きたくてうずうずしているのは、


年がら年中、落ち着きのない異種の女、らんの貴婦人である。


「ああ~~!! 行きたい、行きたい、行きたい~~!!」


子供の様にバンバンと両手で机を叩く蘭の貴婦人に、丁度、


外出から帰って来た夏風の貴婦人が、どかりと執務椅子に座り乍ら言った。


「其の机の書類が無くなったら行ってもいいわよ」


だが其の言葉に、蘭の貴婦人はキィッと怒りを露わにする。


「こんな山の様な書類、片付けてたら、バザー終わっちゃうじゃない!!」


書類など、毎日、毎日、新しい物が来るのだ。


「行きたい、行きたい~~!!」


「バザーなんて暇人が行くものよ」


後は主婦の買い出しか。


あっさり却下する夏風の貴婦人に、だが蘭の貴婦人はひたすら駄々をこねる。


「行きたい、行きたい、行きた~~い!! ね~~!! 御願~~い!!


あるじと行きたいだなんて、其処まで我が儘は言わないから~~!!」


蘭の貴婦人が指を絡めて御願いポーズを取ると、夏風の貴婦人は少し考える様にし、


「そうねぇ、接待としてなら行ってもいいけど」


と言う。


「接待~~??」


「此の館の面会待ちの男と一緒なら、いいわよ。


まぁ、相手がバザー行ってくれるかどうかも判らないし、行ったら行ったで一泊するだろうから、


其の対処をどうするのか私は知らないけど」


男女が仲睦まじく御祭り騒ぎのバザーに行って一日一緒に過ごし一泊するとなったら、


男の方が好意を持っている以上、夜は承諾したも同然であろう。


其の夏風の貴婦人の発言に、蘭の貴婦人は身震いする。


「や、辞めてよ!! 私は主一筋なのよ!!」


だが夏風の貴婦人は、ぐはは!! と笑う。


「いいじゃん。バザー代だと思えば」


「嫌ー!! 不潔だわ!! もうっ!! そーゆーの、ほんとに辞めてよねっ!!」


「白の貴公子としろの貴婦人は、其れでバザー行くのよ」


「あの二人と同じにしないでよっ!! もう、いいっ!!」


蘭の貴婦人は勢い良くそっぽ向くと、「バザーに行きたい」とは言わなくなった。


其れこそが夏風の貴婦人の計算の内だったのかは・・・・神のみぞ知る、である。









バザー二日目、白の貴公子はマリル婦人とデートがてらにバザーに来ていた。


勿論、初日も他の貴婦人と来ていたが、


昨日は何処にどんな店が在るのかを頭に入れるだけで一杯であった。


「ねぇ、白の貴公子。わたくし、異国のドレスが在ったら欲しいの」


腕を引いてくるマリル婦人に、白の貴公子は微笑むと、


「異民族の服屋が、きっと在る筈です。見物をし乍ら探しましょう」


そう言い乍ら、さりげなく貴婦人を誘導する。


勿論、白の貴公子は何処に異国の服屋が在るのかを知っている。


だが敢えて今日初めて此処へ来た振りをするのが、プレイボーイの彼の技の一つなのである。


服屋が近付いて来ると、白の貴公子は態と気付かない振りをする。


するとマリル婦人が声を上げた。


「まぁ!! 白の貴公子!! あれは服屋じゃないかしら??」


「おお、其の様ですね。さ、入ってみましょう」


優雅に白の貴公子が店の扉を開くと、マリル婦人は嬉しそうに中へ入る。


店内は割りと広く、異風な外国衣装が一杯にハンガーに掛けられて並んでいた。


「まぁ!! 面白い服が一杯だわ!!」


マリル婦人は目を輝かせると、ずらりと店内に並ぶ服を見回す。


「海外では、どれが流行っているのかしら??」


「全部、流行りものですよ」


店の女主人が出て来て、にこりと笑って言う。


「あら?? でも、まぁ・・・・此れなんて、ちょっと娼婦が着る服みたいだわ」


局部しか隠す所のない派手な黄色の服に、女主人が笑う。


「此れはジルって云う国で、祭りの時に女性が着る物なんですよ。


飾りを一杯つけて着ると、そりゃ、美しいですよ」


「まぁ・・・・」


思わず開いた口が塞がらないとするマリル婦人に、白の貴公子が、そっと囁く。


「マリル婦人なら、此の服も見事に着こなせてしまうでしょう。ですが其の姿を見たら、


私は興奮の余り自我を抑えられなくなってしまうかと・・・・。


マリル婦人なら此方の服も、さぞ御似合いですよ」


さりげなく別の服を勧める、白の貴公子。


其れは異国の空気を漂わせる雅な和な衣で在り乍ら、


マリル婦人の好みそうな派手な生地の服だった。


「まぁ、此れは素敵だわ!! 此れは何処の国の服なの??」


輪郭はザクザクと一見大雑把に見えるのに、


色とりどりの刺繍で、細かい絵が風刺画の様に施されている。


「其れは、テンと云う国の民族衣装です。綺麗でしょう」


女主人が言うと、マリル婦人は気に入った様に頷いた。


「わたくし、此れを着てみたいわ!! 試着室は在るかしら??」


「勿論、ございます」


女主人が案内すると、マリル婦人は白の貴公子にウィンクする。


「ちょっと着てみるわね」


「はい。御待ちしております」


白の貴公子は微笑むと、マリル婦人が奥に消えたのを見届けてから、窓から店の外を見る。


不審者が居ないか、さりげなく辺りを見渡す。


すると視界の端に、一人フードを被った客を見付けた。


背格好から見て男で在る事は判断がつく。


其の男と出店の男が話し込んでいる。


世間話をしている・・・・風には見えない。


商品の値の遣り取りか・・・・??


いや、そんな風にも見えない。


何か・・・・臭い。


すると、フードを被った男が店を離れた。


後を追うべきか??


だが。


「白の貴公子、ど~ぉ~??」


奥からマリル婦人の声がして、白の貴公子は笑顔で振り返る。


「おお、此れは、何処の国の貴婦人でしょうか??


きっと其の国で最も美しいと謳われる美姫ですね」


白の貴公子が賛美すると、マリル婦人は嬉しそうにくるりと回って見せる。


「うふ。そんなに似合って??」


「ええ。貴女がどんな衣装でも美麗なまでに着こなせてしまう事を判っているつもりでしたが、


まさか、こんなにも美しいとは・・・・開眼させられた気分です」


「まぁ。白の貴公子ったら。ふふ・・・・此れ戴くわ」


そうして、マリル婦人が元の服に着替え直して二人で店を出た頃には、


先程のフードを被った男の姿は何処にも見当たらなかった。









バザー四日目。


白の貴公子は又、別の女性の御供をしては、バザー内を歩いていた。


バザーの盛況は凄いもので、初日よりも一層人の波が激しかった。


太陽が南中に掛かる頃、白の貴公子は隣の貴婦人にさりげなく言った。


「ユーラ婦人。右手側に、オープンレストランが在りますよ。


異国の味も舌で感じてみませんか??」


「まぁ、そうね!! わたくし丁度、御腹が空き始めておりましたの」


気の利く白の貴公子に喜ぶと、ユーラ婦人は彼と共にオープンレストランへと向かう。


既にバザーに来て四日目の白の貴公子は、


何処の店の食べ物がどの貴婦人にうけるのかを把握していた。


なので、さりげなく、


「あのチリコンカネルと云う物が美味しそうですね」


ユーラ婦人が好きそうな料理を指差してみる。


そうして貴婦人を席へと案内し、料理を取りにカウンターへと行く。


カウンターには様々な身分の人々が群がっていた。


貴族も居れば、酒飲みの男に町娘や小さな子供も居る。


こう云った隔たりのなさは、異種が百年掛けて創り上げてきたものだ。


今迄、白の貴公子は平民の娘には興味はなかったが、最近は只の町娘でも可愛いものだなぁ、


と思う様になっていた。


甲高い声を上げて笑っている娘たちを、いいなぁと、あくまでさりげなく眺める。


するとカウンターに群がる人の中で、一人すらりと背の高い男の背中が見えた。


「チリコンカネルとシュハスコのピッカーニャ。それと、テパチェを二つ」


男がカウンターに注文したのは、白の貴公子が注文しようと思っていたものと全く同じだった。


こいつ・・・・そう思って、白の貴公子が其の男の隣に並ぶと、


「あ~~!!」


と互いに声を上げた。


きんの貴公子!!」


「白の貴公子!!」


なんと同じ注文をしていたのは、金の貴公子だったではないか。


「貴様!! 東部に棲んでいるくせに、何故こんな処に居る?!」


鋭い眼光で睨む白の貴公子に、金の貴公子は、ふふん、と鼻高々に笑う。


「仕事だよ。仕事に決まってるじゃん。


バザー一緒に行きましょう、って誘ってくる御婦人が多くてさ~~」


正当に接待遣ってます、と云わんばかりの金の貴公子に、白の貴公子は「けっ」と呆れ顔で言う。


「最近、少し稼ぐ様になったからって調子に乗るなよ。


言っておくがな、私の目のつく所には居るなよ」


「其れは、こっちの台詞だぜ」


だが実際、料理を手に席に戻ってみると、目と鼻の先に自分たちが席を陣取っていた事を知る、


白の貴公子と金の貴公子であった。


食事の間、二人が互いに貴婦人たちに気付かれぬ様、


火花を散らし合っていた事は言うまでもない。

この御話は、まだ続きます。


バザーに不審者が居ないかを見て回る白の貴公子だったが・・・・。


このゼルシェン大陸編を順番通りに読まれたい方は、


「夏の闘技会」から読まれて下さいな☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ