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南部のバザー  作者: 貴神
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南部のバザー(後編)

夏風の貴婦人の御許しが出て、


やっと、バザーに行ける事になった蘭の貴婦人は・・・・。

バザー六日目。


初日から、ずっと「バザーに行きた~い!!」とぐずっていた蘭の貴婦人に、


夏風の貴婦人は肩を竦め乍ら「日帰りで行って来い」と許可を出した。


かくして蘭の貴婦人は一人では在るが、南部のバザーに来る事が出来た。


御忍びなので、帽子と薄紫のベールを頭から被っている。


連れが居ないのは少々寂しいが、そんな気持ちも吹き飛ぶくらいにバザーは賑わい溢れており、


初めて目にする物ばかりが店先に並んでいた。


「わぁ・・・・凄い。家具屋さんとかも在る~~!!」


きっと纏めて買う人とか居るんだろ~~な~~。


等と思い乍ら蘭の貴婦人は店を覗きつつ、別の店へと移る。


店の大きさは様々で、出店から小さな薬屋、土偶屋、大きな店構えの絨毯の店まで在る。


蘭の貴婦人は一人で人ごみを歩き乍ら、ふと夏風の貴婦人に土産を買って行こうと思った。


「御土産って何がいいかしら?? アクセサリーとか、ありがちだし」


人形・・・・とかは違うだろう。


夏風の貴婦人が貰って喜ぶ物とは、何なのだろうか??


「うーん・・・・」


よくよく考えてみると夏風の貴婦人の好きな事と言えば、


食べる事と運動する事の様な気がする。


運動は自分でする事であるし・・・・そうなると食べ物か??


「うーん・・・・でも、何か形に残る物がいいのよねぇ」


食べ物・・・・形に残る物・・・・其処まで考えて、蘭の貴婦人は閃いた。


「そうだわ!! 食器よ!! 食器、いいじゃない?!」


思わず拳を握った蘭の貴婦人の目に、屋根だけの赤と黒の店が飛び込んでくる。


「ええっと、食器屋さんを探そう」


赤と黒の店は食器屋ではなさそうだ。


そう思って、其の店を通り過ぎようとした時・・・・


「あと、もう、ちょっと!! もうちょい御願い!!」


「えー・・・・御客さん、勘弁して下さいよぉ」


何やら何処かで聞いた事の在る声がする。


其の声の先を蘭の貴婦人が見ると、フードを被った小さな背中が見えた。


「4カル!! あと、4カル!!」


「そう言われてもねぇ・・・・」


どうやら、あの子供は商品を値切っている様だ。


蘭の貴婦人はスタスタと其の子供の隣まで歩いて行くと、失礼さ乍ら顔を覗き込んだ。


すると、やはり其の顔は、よく知る顔だった。


「や・・・やっぱり、あかの貴婦人だ!!」


店先にしゃがんでいた子供が、フードの中から蘭の貴婦人を見上げる。


「あ。蘭の貴婦人だ」


フードを被った子供は、子供ではなく・・・・赤の貴婦人であった。


赤の貴婦人が居ると云う事は・・・・


「うわ!! やっぱりあかの貴公子も居た!!」


店内を同じくフードを被った巨大な岩の様な男が、ぬぼ~っと見て歩いている。


「此処、何屋さんなの~~??」


蘭の貴婦人がきょとんとした顔で訊くと、


「漆塗りの御店だよ。御主人!! 3カル!! あと3カルでいいから!!」


勢い良く値切りを再開する、赤の貴婦人。


「うーん・・・・ま、負けやした。御客さん」


「やった!!」


ぐーっ!! と拳を握る赤の貴婦人。


「ええ?? 何買ったの??」


蘭の貴婦人が不思議そうに訊いてくる。


「丼の御椀」


「どんぶり?? 御椀って・・・・御皿?? 其れって食器って云う事??」


「んー。まぁ、食器みたいな物だね」


「そっか~~!! じゃあ、此処、食器の御店なのね!!」


「いや、だから、漆塗りの御店だってば」


「食器、買おうと思ってたの!! 夏風の貴婦人に御土産をって思って!!」


今一判っていない蘭の貴婦人であったが、赤の貴婦人は頷いた。


「じゃあ、蘭の貴婦人も、御椀、買いなよ。もっと小さめの手頃な御椀。色々使い道、在るよ」


「うんうん、買う買う!!」


勧められて、様々な形の漆の椀を見回す。


「黒も綺麗だけど、やっぱり赤がいいかな~~。此の金の花びらの柄が入ってるの、素敵~~!!」


蘭の貴婦人は丁度、手に乗る程の深めの赤い椀を手に取る。


「おじさん、此れ二つ頂戴」


「あいよ。ついでに箸もどうかね??」


「箸??」


「匙・・・・スプーンも在るよ」


「じゃあ、えっと、スプーンも買おうかな」


食器を買うならフォークかスプーンも必要よね!! と声を弾ませる蘭の貴婦人。


「あいよ、ちょっと待ってね」


店主は丼と椀と匙をカウンターへ持って行くと、紙で丁寧に包み始める。


待っている間、赤の貴婦人が話し掛けてきた。


「あのさ、ついでに味噌も買えば??


此処のバザー、味噌も売っててさー、あたし、白味噌と赤味噌買ったよ」


「みそ?? みそって??」


「味噌は味噌だよ。御味噌汁に使うんだよ。あと、炒め物にも合うよ~~」


「調味料なのね?? じゃあ、其れも買おうかしら。案内してくれる??」


「いいよ~~」


店主が念入りに紙で包んだ商品を持って来ると、


蘭の貴婦人と赤の貴婦人は代金を払って、それぞれ大きな手提げバッグに入れる。


そして、二人・・・・もとい三人で、味噌が売られている店を目指す。


赤の貴婦人は兄の赤の貴公子から、何やら茶色のボールの様な物を受け取ると、


ボールに刺さっている植物の茎のストローから、ちゅーっと何かを飲む。


「何、其れ~~??」


蘭の貴婦人が訊ねると、


「飲む?? 椰子の実だよ」


茶色の椰子の実を蘭の貴婦人に渡す。


蘭の貴婦人は恐る恐るストローに口を付けて見ると、ちゅーっと吸い上げる。


挿絵(By みてみん)


口の中に広がる初めての味・・・・。


「甘くて美味しい・・・・」


やはり海外には海外の色々な美味しい物が在るのだなぁと、蘭の貴婦人は感心した。


「此れも、夏風の貴婦人に買って行って上げようかなー・・・・」


最初は何を土産にすれば良いのか判らなかったが、バザーの中を歩けば歩く程、


買いたい物が増えていく。


蘭の貴婦人が積極的に様々な珍しい店へ入っていると、


其の隣を歩く赤の貴婦人がぼそぼそと言った。


「あのさー、あたし達に逢った事は、夏風のねえには言わないでね」


「え?? あ、う、うん」


借金を負ってる身で在り乍ら南部に遊びに来ていたと知れては、雷が落ちると云うものである。


「でも勿体ないよね~~。こんなに楽しいのに~~。主も来られたらいいのにな~~」


溜め息をつく蘭の貴婦人だったが、次の赤の貴婦人の一言に思わず目を剥いた。


「翡翠のにいなら、来てたよ」


「・・・・えっ?! ど、何処っ?!」


「昨日」


「昨日?!」


「うん。昨日、御忍びでミッシェル君と来てたけど、若い女の子たちに見付かってさ、


群がられて、結局、直ぐ帰っちゃったよ」


「えええええ!!」


愛する翡翠ひすいの貴公子が来ていただなんて!!


ああ、私ったら、どうして、あと一日早く来なかったのかしら!!


馬鹿、馬鹿、馬鹿~~!!


私の馬鹿~~!!


いや・・・・今、腹を立てるべき所は、群がって主の邪魔をした女たちか?!


一目でも近くで主の顔を見ておき乍ら、主の邪魔をした、にっくき女たちめ!!


私だって!!


私だって!!


主に逢いたかったのに~~!!


「もおおぉぉ!! な~ん~で~な~の~よおおぉぉ~~!!」


蘭の貴婦人の雄叫びに周りの人たちが振り返ったが、


其れも直ぐにバザーのざわめきの中へと掻き消えてしまった。









バザー、最終日。


白の貴公子は相変わらず別の貴婦人を連れて、バザーを満喫していた。


だが流石に七日も通して来ると、店の内容は隅々まで知り尽くし、


客の中には見覚えの在る顔もしばしば見られた。


あとは当初の使命で在る不審者を探す事だったが、二日目に一人見付けた限り、


其れらしい人物は見なかった。


どうやら今回のバザーは、そう気を張り詰める事はなかった様だ・・・・と、


白の貴公子が余裕で貴婦人をエスコートしていると、


薬屋で話し込んでいる者が居るのを発見した。


「あの男・・・・」


フードを被った客の後ろ姿に見覚えが在った。


そう。


バザー二日目、骨董屋で見た怪しげな男だ。


男と店主が、何やらずっと話している。


此処からは声は聞こえない。


すると店主が一旦、店の奥に入った。


そして手に小さな袋を持って出て来る。


男は其の袋を受け取り、中身を確認すると、懐から金を渡した。


そして足早に其の店を離れたではないか。


白の貴公子は直感した。


「ねーねー、白の貴公子。此のトルコ石の首飾り、どうかしら??」


甘えた声で言ってくる貴婦人に白の貴公子は、


「ちょ、ちょっと、済みません!! 直ぐ戻ります!! 少々、此処で御待ち下さい!!」


そう言って走り出す。


男は、もうバザーには用はないのか、人ごみを擦り抜け、小走りになりそうな速度で歩いて行く。


白の貴公子は男の背中まで追いつくと、ガシリ、と男の腕を捕まえた。


「待て。ちょっと其の手の物を見せて貰おうか」


引き止めてきた白の貴公子に男は振り向いたが、黙ったまま答えようとしない。


顔はフードによって深く隠されている。


此の男が何かを隠している事は明らかだった。


「まずは・・・・・顔を見せろ!!」


白の貴公子が、ばっ!! と男のフードを跳ね上げた。


一瞬、宙を舞ったフードが男の背中に落ちる。


パサリ・・・・と黒髪の男の顔が露わになる。


「お・・・御前は・・・・!!」


白の貴公子は白い目を瞠った。


何故ならば・・・・


漆黒しっこくの貴公子!!」


だったからである。


「お・・・御前・・・・何で、こんな処に・・・・」


「・・・・・」


漆黒の貴公子は黙ったまま立っている。


「じゃあ、其の手の物は・・・・?!」


白の貴公子は漆黒の貴公子から小さな袋を取り上げた。


そして中を見て、


「!!」


激しい衝撃を受けた。


何故ならば・・・・


「おま・・・・おま・・・・御前・・・・此れは・・・・」


此れは・・・・


「亀じゃないかっ!!」


「・・・・ミドリガメだ」


「亀だろうがっ!!」


袋の中には、瓶の中に小さな緑色の亀が入っていた。


どうやら漆黒の貴公子は薬に使われる筈だった亀を買おうと、店主に相談していた様である。


亀の入った袋を持つ白の貴公子の手が、ぷるぷると震える。


すると、


「もう返してくれ。早く屋敷に帰って水槽に入れてやらないと、可哀想だ」


漆黒の貴公子が抑揚の無い声で言う。


「・・・・・」


脱力とは今正に此の事だと・・・・白の貴公子は人生最大級に実感せずにはいられなかった。









バザー期間が終了すると、翌日、太陽の館へ純白の孔雀が飛んで来た。


「白の貴公子からだわ!!」


蘭の貴婦人が窓辺に駆け寄って窓を開けると、白孔雀が窓の桟に留まる。


足に付いている銀のホールから蘭の貴婦人が手紙を取り出すと、


デスクワークをしている夏風の貴婦人に其れを渡した。


夏風の貴婦人は片手で受け取ると、パッと手を振って手紙を広げる。


手紙には白の貴公子の字で、こう書かれて在った。


<バザー期間中、怪しい者は居なかった。いや・・・・・一人居たが、解決済みだ>


「ふーん。解決済みって何かしらね」


言い乍ら、夏風の貴婦人は手紙を机に置いて頬杖を着く。


「みーんな、バザー、楽しんだみたいねぇ」


意味有り気に橙の瞳で蘭の貴婦人を見る。


「え?? え?? 何?? 何??」


蘭の貴婦人が思わずきょどると、夏風の貴婦人は目を据わらせ、歯茎を見せて笑う。


「椰子の実はともかく、あんたが漆の椀と匙と味噌を土産に買ってこられる様な、


気の利く奴だったなんて知らなかったわ~~」


ふっふっふ・・・・と咽喉の奥で笑う夏風の貴婦人。


「あ、あ、あ・・・・バレてるぅ~~・・・・」


蘭の貴婦人は慌てて目の前の書類に没頭する振りをしたが、


あかの兄妹がバザーに遊びに来ていた事は、夏風の貴婦人には筒抜けの様であった。


ひえ~~!!


怒られるぅ~~!!


内心バクバク鼓動を鳴らし乍ら蘭の貴婦人が書類をチェックしていると、


夏風の貴婦人は頬杖を着いたまま再び手紙を手に持ち、ひらひらさせ乍ら見る。


手紙の最後には、こう追記されていた。


<追伸。私以外にバザーの監視をしていた奴は居るか??>


夏風の貴婦人は引き出しからメモ紙を一枚、取ると、


<あんたと漆黒の貴公子だけ>


走り書きして折り畳む。


「はい」


夏風の貴婦人が差し出すと、蘭の貴婦人は、


「はい!! はい!!」


と立ち上がって受け取ると、窓辺で待っている白孔雀の銀のホールに手紙を入れる。


純白の孔雀が柔らかな翼を広げて、空へと舞い上がる。


其の姿を見送り乍ら、蘭の貴婦人は溜め息をついた。


「白の貴公子の羽根って、見事だよねぇ」


白の貴公子自体は特に好きではないが、彼の純白の孔雀は豪華絢爛で、


同族の中では特に美しいと思う。


いや・・・・自分にとっての一番の羽根は、翡翠の鷹なのだが。


蘭の貴婦人は窓から入る風に暫し当たると、再び書類作業に戻った。









自分の羽根が戻って来ると、白の貴公子は待っていたと云う様に直ぐに返信の紙を読んだ。


そして今回のバザーの監視役が自分と漆黒の貴公子に任せられていた事を知り、


ぐーっ!! と拳を握る。


「ふっふっふ・・・・勝った・・・・ざまーみろ、金の貴公子め。


最近ちょっと稼ぐ様になったからと云って調子に乗っているが、私は滞りなく接待をし乍らも、


他の任務も遂行していたんだ。ま、実力の差だな」


バザーでのラスト、置いて行かれた貴婦人がカンカンにおかんむりだったのは、


予定外の失敗では在ったのだが。


「しかし、漆黒の貴公子も監視役を任されていたのか」


結局、バザー二日目に見た怪しい男は漆黒の貴公子だったのだが、果たして漆黒の貴公子が、


きちんと任務を遂行していたのかは謎である。


「って云うか、あいつ、亀持って真っ直ぐ帰るつもりだったぞ・・・・」


あのオタクめ・・・・。


きっと今頃、薄暗い部屋で亀を眺めているに違いない。


あのオタクの事を考えると、何だかこっちもジメジメしてくる。


「辞めた辞めた!! さ!! ルリア婦人のアフターケアをしないとな」


バザーで置いてけぼりをしてしまった貴婦人が今も怒っているので、


其の怒りを鎮めなくてはならない。


過ぎ去りし過去より今の恋愛と云う花に水を遣る事が、


プレイボーイ白の貴公子の使命感を何よりも掻き立てるのであった。


こうして南部での異国バザーは終了したのである。

この御話は、これで終わりです。


異種たち、それぞれバザーを楽しみました☆


このゼルシェン大陸編を順番通りに読まれたい方は、


「夏の闘技会」から読まれて下さいな☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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