第29怪 修学旅行、狂都百鬼夜行(後編)
怪奇現象により、一人別の場所に飛ばされた僕こと勇児であったが、瑠璃子の(ストーカーの)力を信じて助けを求めた。
おかげで、班のメンバーも異空間に転移してきた。
ちなみに脱出方法さえあるなら全員来る必要はなかっただろうと思うのだが、瑠璃子が金剛を押し切って、無理やりついてきたらしい。
多恵は乗り気ではなかったが、瑠璃子に巻き込まれて一緒に来たらしい。
かわいそうに。
行きはよいよい帰りはこわい、ということで僕の持っているパワーストーンをもとに空間に侵入することはたやすい一方、脱出は金剛でも簡単ではないとのことで、巻き込んでしまって申し訳ない気持ちになる。
「この数の魑魅魍魎が揃うということは百鬼夜行か。だが今日は戌ではないぞ。ならば鬼の類いではないな。何者だ」
百鬼夜行は戌が割り当てられた日に起こるとされており、今週なら土曜日が該当する。本日は戌の日からずれており、本物の鬼ではないと金剛は説明した。
百鬼夜行の異空間に飛ばされた僕ら一行は周りを見渡した。
百鬼夜行の歩く道は入り組んでおり、その複雑さはまるで新宿駅といっても過言ではない。
いや京都にいるんだけど。
「おそらく、この空間を構成しているのは百鬼夜行の邪気だ。すべて祓えば脱出できるだろう。そうだな、まずは先頭の餓鬼を祓って様子を見よう。勇児、その折り畳み傘を貸してくれ。おそらく壊してしまうから、後で新しいものを弁償しよう」
金剛は折り畳み傘を勇児から受け取ると、カバンから梵字と漢字が書かれたお札テープを取り出し、傘に巻き付け始めた。
なにそれかっこいい。
僕も欲しい。
「拙僧は修業中の身の上だが、退魔の心得は多少ある。黄昏流僧式退魔術、青札の金剛、いざ参る! キェェェェ!」
金剛がテープを巻いた折り畳み傘で殴ると、百鬼夜行の先頭にいた、餓鬼らしきものの頭が砕けた。
青い煙のようなものが湧き出る。
あとで金剛に聞いたところ、あの青い煙が邪気らしい。
「おお、さすが寺生まれの金剛さんだ。あの奇声はどうかと思うが。何とか波ァみたいなかっこいい技名でもないし」
どうやら餓鬼は土偶のような存在らしく、割れて欠片が飛び散った。割れた頭の中は空洞になっている。
頭を砕かれた餓鬼は動きを停止した。
欠片に記された魔法陣をみて、金剛がつぶやく。
「土を使った式神の類だ。九芒星? この術式、通常の陰陽道のものではないな。最近悪い噂を聞く安倍の傍系か」
連へのお土産として折り畳み傘を買っておいてよかった。
ただ、餓鬼が硬かったのか、傘自体に強度がないのか、傘は途中でかなり曲がってしまっている。
あと二体か三体殴ると折れてしまいそうな危うさがある。
もう何本か買っておくべきだったか。
「お札テープはまだまだあるのだが、武器が足りないな。刀を模したとはいえ、折り畳み傘では最後まで戦いきれない。最悪はこぶしにテープを巻き付けての格闘もやむを得ないだろう。小生に格闘技の心得がないことは不安要素であるが」
僕ら一行は、金剛の言葉に不安を隠せない。
金剛が百鬼夜行と呼んだだけあり、式神らしき魑魅魍魎は百近い数がいる。
百鬼夜行といっても、鬼たちは怪異というよりは式神のような人造の存在である。
物理的に破壊しても京都に住む怪異から恨みを買うということもないらしく、問題はないらしい。
式神の製作者からは恨みを買うかもしれないが。
魑魅魍魎をかたどった式神たちは、自力である程度稼働するようだが、自衛行動も、周りへ危害を加える行動も、とる様子がなかった。
式神の製作者がまだ十分に準備をしていないのかもしれない、と金剛は分析した。
全部倒すにしても、空間内に元からあったものでは、魑魅魍魎に有効なダメージを与えられない可能性があるらしい。
自分たちで持ち込んだものだけが武器にできるということだった。
修学旅行中に武器を持ち歩くはずもなく、折り畳み傘を除けば、武器になりそうなものはほとんどなかった。
強いて言うならカバンそのものだが、傘が折れるような強度の化け物に対しては難しい。
僕も素手での格闘を覚悟するかと思いつつあった。
ティラノバーガーでのアルバイト経験を活かす時が来たか。
マッチョと一緒に何かしたのは、ポテト揚げたくらいしか覚えがないけど。
金剛が次の目標に向かって走る。
そのまま破壊行動を起こす。
「フンッ! ホァ!」
金剛が餓鬼の後ろにいた異様に髪の長いこけしの式神と、小さい天狗の式神を破壊する。
折り畳み傘は完全に折れてしまった。
もはや使い物にならない。
結局、傘だからな。
刀を模しているとはいえ、殴ることを考えて作られたものではないし。
お札テープで巻いた武器があれば、破壊は可能であり、すべてを破壊すれば、この異空間は崩壊し、解放されるという。
ただ、数が多く、金剛ですら三体を倒した程度で、全体的に見れば先は長い。
金剛の持つお札テープはまだまだあるが、武器になるものもなく、かといって百体以上の鬼を相手にする武術は、金剛にも僕にもない。
瑠璃子は肝が据わっているのか危機感がないらしく、百鬼夜行の後ろの方にいる、嫁入り狐の式神を見ながら、こう言った。
「あの狐さんの白無垢、良いよね。勇児は結婚するなら白無垢とウェディングドレスどっちが良い?」
絶望的な状況で、瑠璃子がいつも通りであることに、僕は助けられたと思いながら、軽口を返す。
「どっちも着ればいいんじゃないか。けど、瑠璃子、残念ながら、僕と結婚するには元の世界に帰る必要がある」
「そっか……。そうだね」
瑠璃子の目からハイライトが消えた。
あれ?
「なら、邪魔者は排除しないと」
瑠璃子は、ふわり、と殺気をまとった。
何その殺気みたいなの。
ああ、そういえば、瑠璃子は番愛連隊の隊長、エクレアから、怪異対処法|(※ただの暴力)を習っていたっけ。
瑠璃子はカバンからバールのようなものを取り出すと、金剛が持っているお札テープを巻き付け始めた。
全体に巻き終わった瑠璃子は、百鬼夜行に突撃した。
バールのようなものを使い、百鬼夜行を蹂躙していく。
愛のキューピッド、番愛連隊直伝の怪異退治である。(※ただの暴力)
「『バールのようなもの』、都市伝説ではなかったのか……」
ばりん、と音を立てて壊されていく式神たち。
鬼たちの体からあふれる青い邪気のようなものがうごめく中、瑠璃子の髪がくるくると動き回る様子は、大海原で小さな黒竜が二匹、暴れているようであった。
声を出せないらしい魑魅魍魎の式神たちは、しかしその表情で苦痛を雄弁に語っていた。
バールのようなもので、なすすべもなく、続々と破壊されていく。
僕は頼もしい彼女の様子に安堵し、友人たちの様子を確認した。
あごが外れそうなくらい口を大きく開けて驚いた表情の金剛、瑠璃子の番愛連隊流の殺陣を見て創作意欲が刺激されたのかスケッチを始めた多恵。
金剛は落ち着いた頃に、小生もまだまだ修行が足りんな、と言って九字の印を組み始めた。
九字の印ってのは、りんぴょうとうしゃ、ほにゃららってやつだ。
かっこいいよな。
やがて鬼たちを蹂躙し終えた瑠璃子は、僕の方を向き直る。
「これで結婚できるね」
「え、あ、そうだな」
こわいなぁ。
浮気はやめよう。
もともと浮気するつもりもなかったけれど。
百鬼夜行を全滅させたからか、それとも、もともと夢だったのか、いつの間にか元の世界に戻っていた。
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「今回はガチでホラーだったな」
百鬼夜行からヤンデレパワー(物理)で抜け出した四人は、安堵の表情を浮かべた。
その後の修学旅行は、魑魅魍魎と接触することもなく、無難に終わった。
瑠璃子に結婚を誓ったことを、こわいとは思ったが、瑠璃子と別れない限りは問題ないと思いなおし、忘れることにした。
続く
大丈夫、ヤンデレの攻略法だよ。
今回の都市伝説
バールのようなもの:バールではない
次話は残された側視点での修学旅行回です。同時更新です。キェェェェ!




