第28怪 修学旅行、狂都百鬼夜行(前編)
海に面した宵ヶ浜市に住む学生の間でささやかれる都市伝説は、ローカルなものであり、他の土地では聞くことがない。
その代わりに、その地域に密着した内容の怪異がささやかれる。
また、宵ヶ浜の都市伝説は、大体がただの不審者情報なのだが、他の都市ではそうとも限らない。ガチの恐怖譚かもしれない。
特に、古の都である京都では、都市伝説の裏で本物の魑魅魍魎が跋扈している可能性が高いと、実家が寺の相模金剛は真面目な顔で語る。
正確に言うと、金剛は、「バッコバコと跋扈している」と言っていたが、僕は聞き流した。
バッコバコ。
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さて、なぜ僕が京都に思いをはせているのかというと、今の時間、ロングホームルームの話題になる。
宵ヶ浜北高校二年生では、修学旅行で京都大阪観光に行く。
数年単位で沖縄と関西の旅行先を切り替えているようだが、今年は関西方面であった。
オカルト研究会の三人、僕こと才谷勇児、水川瑠璃子、円子多恵と、僕の友人である相模金剛は同じ班になり、修学旅行の班活動を行うことを決めていた。
宵ヶ浜高校の班活動は最低四人であるから、あまりもの扱いされるクラスメートがいない限り、これ以上増えることはない。
修学旅行の行動時間表の説明があり、諸注意がなされたあとは、みんなが待っているだろう、班分けの時間になった。
幸いにも、このクラスではあまりもの扱いされるクラスメートはおらず、僕らは無難に四人班となった。
どちらかといえば、瑠璃子と多恵がそのキャラクターから敬遠されている感じなので、僕らがあまりものグループなのかもしれないが。
なお、就寝時の男子グループ、女子グループについては、班活動のメンバーから、部屋の大きさを考慮していくつか合併して決められている。
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旅行の準備は抜かりなく進み、夜中に夜這いをかけようとたくらむ瑠璃子をなだめては、準備期間はどんどん過ぎて、修学旅行当日となった。
修学旅行で夜這いをかけようとするのはやめてほしい。
東京駅に集まった僕らは、新幹線に乗り込んだ。
行きの新幹線では、二人掛けの席に僕と瑠璃子が当たり前のように座らされている。クラス内でもカップルであることから、気を使われているようだ。
京都までの間、駅弁を買う者、お菓子を買う者、トランプに興じる者、筋トレをする者など、それぞれ思い思いの過ごし方をしている。
通路でスクワットするのはやめろ。
オカルト研究会プラス金剛の班では、カタイと噂のアイスを買って、それぞれ格闘していた。
「溶けてきたから、食べさせてあげるね。はいあーん」
「あーん」
などとやっているカップルを見ても、一部の男子が血の涙を流して即死した程度で被害は軽傷であった。
いつものことである。
いい加減慣れてほしい。
悪いのは僕らだとは思うんだけど。
そうこうしているうちに、時間は経過し、京都駅に到着した。
京都についた僕ら一行は、さっそく自由行動である。
初日から自由行動とか、学校側のスケジュールがちょっと雑すぎる。
生徒の自主性を重んじているというよりは、ただの放任主義ではないだろうか。
自由行動なのはうれしいんだけどね。
京都内での班活動が始まり目的地までの間、オカルト研究会では後輩に買うお土産の談義がなされた。
「皆藤のお土産、何を買っていく? 刀みたいな折り畳み傘でいいか?」
「いいよぉ」
「異議なし」
哀れな後輩は、修学旅行で雑に選んだお土産ランキング上位の、刀みたいな折り畳み傘を送られることになった。
京都では城巡りから始めることになっていたので、拳銃城に向かう。
拳銃城は交通アクセスが良く、観光名所として人気であった。
駅から徒歩で移動し、帰りに寄る食事処のめどをつけながら歩いて行った。
変化が起きたのは、城門を前にしたときのことである。
班員全員が不穏な気配を感じた。
金剛が真っ先に反応したものの、オカルト研究会全員がおかしな雰囲気を感じ、足を止めた。
ぶぶぶぶぶ。
電話でもかかってきたのかと思ったが、そうではなかった。
僕のスマートフォンカバーにつけてあった、パワーストーンが振動している。
天界の鍵とか言われていたやつだな。
さらに震えが激しくなったあと、まばゆい光を放ち、閉じられているはずの門がガラガラと音を立てて開いた。
開いた門からこぼれてくる光は、徐々に強くなり、僕の方に向かってくる。
やがて光は僕を包み込み、門の中へと吸い込んだ。
あまりにまぶしすぎて、僕は目を閉じた。
最近の観光地は、アトラクションが過激だなぁ。
そんなわけないよな。
現実逃避はやめよう。
まぶしさから目をつむっていた僕は、光が収まったと同時に目を開けた。
周りには誰もいない。
一人だけはぐれてしまったようだ。
吸い込まれたのは僕だけっぽかったからな。
日頃の行いが悪いのだろうか。
日頃の行いといっても、瑠璃子とイチャイチャしているくらいしか思いつかないが。
……完全に日頃の行いだな。
それにしても。
「どこだここ?」
もともと門があったであろう元の道をのぞき込んでも、森があるだけで、完全に別の場所である。
拳銃城があるはずの場所には、低木に隠れて古びた祠がある。
古びた祠の先には、力士像や河童の像、餓鬼、こけし、鵺、天狗、狐の嫁入り行列、タヌキなどの像が並んでいるように見えた。
それらの像は、青白い霧に囲まれている。
青白い霧は少しずつ象の方に流れているようだ。
像の方に風が流れているのだろう。
霧は並んだ象の内部に吸収されているように見える。
しばらく見ていたところ、霧を吸い込み終わったらしく、像たちは、やおら動き出した。
「機械人形の館にでも迷い込んだ、というのが一番安全なパターンで、二番目はコスプレ会場に迷い込んだというパターンだが……」
僕はひとまず物陰に隠れて様子をうかがう。
中央付近にいた、腹の膨れた子供みたいな大きさの像、餓鬼であろうものが、先頭に移動していく。
道中、餓鬼は道端に生えていたヘビイチゴをもいで、モリモリと齧り、音を立てずに咀嚼する。
「あれはどう見ても、妖の類いだろうな……」
僕はいたって冷静であった。
慣れって怖いな。
こんなこともあろうかとカバンに忍ばせてあったオカルトグッズ、モールス信号送信機を取り出し、モールス信号を送信する。
持ってて良かった、オカルトグッズ。
春休みに風変わりな美人店員(性格はおっさん)から買っておいて良かった。
僕は瑠璃子(のストーカーパワー)に全幅の信頼を置いているからな。
ガチの怪異に対しても恐れることは何もない。
むしろ瑠璃子のストーカー能力の方がこわいまである。
それに、今回は金剛というオカルトに詳しい友人もいる。
『いかいに とじこめられた もとむ だつしゆつ ほうほう』
とモールス信号を送信した。
これで金剛が外から干渉するか、瑠璃子を通じて脱出方法を提示されるのを待つだけである。
友人のことも彼女のことも信頼している。オカルトグッズも他のものが実際に使えるものばかりだったので、信頼している。
あとは物陰に潜んで待っていればいいだろう。
しばらくした後、バリバリ、という音とともに人が数人現れた。
「愛の力だね」
「はあ、拙者まで来る必要はなかったと思うのでござるが」
「この数の魑魅魍魎が揃うということは百鬼夜行か」
頼もしい恋人と友人たちの声が聞こえた。
続く
後編も同時に更新です。




