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第27怪 再びの番愛連隊

 番愛連隊(ばんあれんたい)の噂を聞いたことがあるだろう。

 バレンタインにカップル直前じれじれ状態にある男女をカップルにするべく活動していた、自称キューピッドの末裔で構成されたヤンキー集団である。


 事実とはいえ、自分で言ってて意味わからんな。

 (※聞いたことがないという読者の皆様は、第16怪を参照してほしい。)


 番愛連隊の隊長、エクレアさん(古江(ふるえ)クレア)とは、なんやかんやで連絡先を交換してある。

 なんと、今回エクレアさんから、自分の恋愛を応援してほしいと連絡が来た。


 僕に。


 え、なんで僕なの?


 エクレアさん、痛恨の人選ミスだろ。


 気を取り直して、詳細の確認である。

 プロはこういうとき、動揺してはいけないとネットで読んだ。

 僕が何のプロなのかは知らないが。


 エクレアさんの彼氏候補の男性は、同い年のメガネ男子で、幼馴染だったが、未だ付き合うに至ってはいないそうだ。

 (自称)キューピッドとしての活動を終えて、そろそろ良い頃合いだということで、エクレアからデートに誘ったとのことだった。


 キューピッドに終わりとかあるんだ。


 エクレアさんからの依頼は、僕と瑠璃子にダブルデートに来てほしいという内容の恫喝(どうかつ)、もとい相談だった。

 なぜ……?


 昼休み、僕は瑠璃子とご飯を食べながら、彼女に愚痴っていた。


「よくわからないけど、番愛連隊の人たちと行けば良くない? なぜに僕たちなんだ?」


 瑠璃子は弁当から卵焼きを箸でつまむと、僕の口に突っ込みながら、返事をくれる。


「番愛連隊の中で彼氏がいる人はいないんだって。キューピッド活動を優先しているからか、自分たちのことは後回しだったみたい。あと、私の愛が大きくて重いから、見て学びたいんだって。ふふ」


 瑠璃子はうれしそうな様子でツインテールを触っている。


「……それは褒めているのか?」


 僕はあきれた声を返す。

 協力してほしいと言われれば、拒む理由はないし、了解した旨を返信し、日程を調整する。

 ヤンキーはこわいし。


 エクレアさんとは一度顔を合わせてデートの打ち合わせを行うことになった。


 慈砂羽(じさわ)駅近くにある個人経営の喫茶店に僕、瑠璃子、エクレアさんの三人で集まった。

 喫茶店だが、メニューにサバの塩焼き定食などがあり、()みログの星が3.4となかなかに高い。


 隣の客はチーズフォンデュを頼んだらしく、濃厚なチーズの匂いがしている。

 サバの塩焼き定食はまだいいとして、チーズフォンデュって何だよ。

 喫茶店の概念が崩れる。


 まずは、エクレアさんから、幼馴染の情報を聞き出すことが大切だ。


「真面目な奴なんだけどよ、実はボクシングをやっていたらしくて、不良に絡まれた時に助けてくれたんだ。あの黄金の左フックが忘れられねぇ」


 キューピッドを自称する割に、暴力に魅力を感じている……!

 ツッコミ待ちだろうから、ちゃんとツッコミを入れてあげないとな。


「エクレアさん、やっぱあんたはただのヤンキーだろ。祖先キューピッドは嘘だろ。祖先は戦乙女(いくさおとめ)か何かだろ」


 見た目ヤンキーのエクレアさんは、普通に喧嘩が強い男が好きであった。


 ****


 ダブルデート当日、慈砂羽(じさわ)駅から六駅、宇名島(うなしま)駅近くのパン屋の前に集合した僕と瑠璃子の二人は、エクレアさんとその幼馴染を待っていた。

 エクレアさんは幼馴染と一緒に、竜宮(りゅうぐう)宇名島(うなしま)駅から歩いてくる予定だ。


 竜宮宇名島駅は、その名のとおり、遠目に見たら城だと思うような、独特の見た目をしている。

 地域全体がデートスポットのような宇名島の中でも、人気の写真撮影スポットである。


 宇名島駅前でエクレアさんたちを待っている間、いい匂いのするパンがたくさんあるので、僕は思わず買ってしまった。

 駅から宇名島まで、軽食屋が多いというのに、我慢ができなかった。


 僕と瑠璃子二人で、買ったパンを半分ずつ交換して、もしゃもしゃと食べているとエクレアたちがやってきた。もしゃもしゃ。


 噂のメガネ男子は、目つきが鋭く、愁いを帯びた青みがかった瞳、銀色の細いフレームのクールな印象のメガネで、優等生っぽい雰囲気である。

 よく見れば、第一印象に反して、長い手足にはボクシングをやっているというだけあり、引き締まった無駄のない筋肉がついている。


「かっこいい人だな」

「勇児の方がかっこいいよ」


 間髪入れずに瑠璃子は僕をほめてくれる。

 瑠璃子はぶれないなぁ。


「そういうことじゃないよ」

 一般的には向こうの方がかっこいいと思うよ。


 瑠璃子は才谷勇児(ぼく)以外に興味を示さない。


 とりあえず挨拶しようか。


「初めまして。才谷勇児です。今日はよろしくお願いします」

「水川瑠璃子です。勇児の妻です」

「妻ではないんだよなぁ」


 初対面で夫婦漫才を披露させようとしないでほしい。


 エクレアさんの幼馴染は、意外そうな顔をしていたが、何気ないやりとりがツボに入ったのかゆっくりと笑顔になった。

 笑うとかわいいな。トゥンク。

 これはモテる。


「くくっ。クレアから話は聞いているよ。俺は一色(いっしき)月光(げっこう)。今日はよろしく頼むよ。新婚生活の先輩方」


 名前かっこよすぎない?


 一色さんの返事を聞いた瑠璃子は、今にもくるくると回りだしそうなそぶりで、こっそりと耳打ちする。


「一色さん、良い人だね。私たちのこと、夫婦だって」

「うん、まあそうだね」


 僕は面倒なので、否定せずに流す。

 名前もかっこいいし、気遣いもできるし、ただのヤンキーであるエクレアさんにはもったいないくらいだ。



 ここからは歩いて、宇名島方面に向かう。

 宇名島動物園が本日の目的地である。


 時間が余ったら宇名島に寄ることも可能だが、平日でもない限り、宇名島は人が多く、また、宇名島自体が山道でかなり体力を使うことから、奥まで行くのは計画には含めていない。

 恋人の聖地と言われる宇名島の名所に、エクレアさんは興味があるようだったが、それはまたの機会ということにしてもらっている。

 恋人になってから二人で行ってくれ。


 宇名島動物園までは、タピオカ屋やハンバーガーショップ、名物の海鮮丼屋が多数並んでいる。

 大食いの人たちに人気のある大盛り系のラーメン屋や、おもちゃ屋などもあり、道中店を冷やかしつつ、ゆっくり進んでいった。

 途中でクレープを二つ買い、僕と瑠璃子、エクレアと一色が半分ずつ食べさせあったり、宇名島プリンの店に寄って、中で紅茶と一緒に食べたりした。


 紅茶のあとは、人の流れに沿って宇名島動物園まで歩いた。入口で券を買って、中を回り始める。

 時間をかけてゆっくり回り、昼はそのまま宇名島動物園内の海鮮丼屋で、いくら丼を食べる予定である。


 グループデートとはいえ、動物園ではそれぞれの男女ペアで少し離れて順路を回っている。


「近所に住んでいるけど、宇名島動物園は初めて来たよ。瑠璃子は?」

「小さいころに、家族で来て以来かな……。昔は仲が良かったから……」

「ああ、ごめん」


 瑠璃子は高校に入る前、母親と仲があまり良くなかったため、最近は家族と遊びに行くということがなかった。

 僕と付き合うようになってからは少し関係が改善してきた様子であるが、まだ昔のようにとはいかないらしい。


「ん、勇児と付き合ってから、少しずつ歩み寄れるようになったから、大丈夫。そのうち両親に挨拶してね」

「まあ、そのうちね」


 こういう強がりが言えるなら、大丈夫だろうと僕は思った。

 家族仲が改善したら、彼氏として挨拶に行くことも、瑠璃子のためならできそうだった。

 だんだん外堀が埋められている気もするが。


 先を行く二人の様子を見て、瑠璃子が僕の袖をつかんだ。

「あの二人、いつ手をつなごうか、悩んでいるみたいだね」


 手をつなごうとしては、やめる、というのを繰り返すエクレアさんと一色さん、互いに好き合っているのが、キューピッドの末裔でなくてもわかるというものであった。


「こういう時こそ番愛連隊の出番だと思うんだが」


 やはり僕らは人選ミスでは?


 やがて決心がついたのか、エクレアさんの方から手をつなぎに行き、そのまま動物園を最後まで初々しいカップル感を出しながら回っていた。


 あちらはもう大丈夫だな。

 僕の袖をつかむ手を放して、左手に恋人つなぎでつなぎ直し、ゴリラの檻に向かって瑠璃子をエスコートした。

 ゴリラの檻を見に行くってのは、あんまりおしゃれじゃないけど、瑠璃子が楽しそうなのでいいか。


 そのままつつがなくデートは進み、お昼を食べて、宇名島の入り口の石碑で、四人で写真を取ったら、そのまま早めにダブルデート終了、それぞれが最寄り駅に向かう電車に乗って解散となった。


 ****


 後日、うまく付き合えることになったと報告を受け、お礼がしたいからということで、エクレアさんとまた喫茶店で会うことになった。


 コーヒーを飲みながら、エクレアさんは悩んだ様子である。

「お礼と言っても何をすればいいやら。ううん、二人はオカルト研究会なんだよな。じゃあ、怪異の対処法を教えておいてやるよ」


 思考が物騒すぎる。


 お礼にということで、瑠璃子はエクレアさんからキューピッド流の怪異対処法|(※どう見てもただの暴力)を学ぶことになった。

 やっぱ先祖は戦乙女か何かだろ。


 番愛連隊直伝の怪異対処法|(※ただの暴力)を身につけた瑠璃子が、その技術を生かす日が来ないことを祈るばかりである。

 怪異っていうか、僕を監禁するとかの理由で暴力をふるう可能性があるからな。


 エクレアさんは何かに気づいたようで、僕のスマホカバーについているお守りをつかんだ。


「お、このスマホカバーについているやつ、パワーストーンだよな。マジモンの天使パワーを感じるぜ」


 マジモンの天使パワーという表現の語彙力(ごいりょく)のなさよ。


「ああ、正月に神社で買ったやつですよ。マジモンってことはご利益があるんですかね」


「ご利益っていうか、うちの家宝の天界の鍵と同じ気配が……、いや、いい忘れてくれ」


「さすが自称キューピッド。家宝が天界の鍵なのか……」


 いや、天界の鍵って何だよ。

 使ったら死ぬのか?


 天界かどうかはともかく、鍵として働くオカルトアイテムを持っていることがリスクであることに、このときは、誰も気づくことはできなかった。


 人の恋路に協力させられた僕たちには、高校生活最大のイベント、修学旅行がすぐそこに迫っていた。


 続く


次回から数話にわたり、修学旅行回です。

一日でまとめて投稿予定です。


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