第20怪 男の娘キャラは現状だと都市伝説的存在(新入生加入回だよ)
男の娘とは。
海に面した宵ヶ浜市に住む学生の間どころか、今では日本のそこかしこで見かけられるらしい、都市伝説的存在である。
最近は多様な性を許容する雰囲気が社会的に生まれてきたこともあり、都市伝説的存在ではなく、普通の光景になる日もおそらく遠くはない。
****
四月になって、宵ヶ浜北高校二年になったオカルト研究会の三人、僕こと才谷勇児、水川瑠璃子、円子多恵は同じクラスになった。
それに加えて、僕の友人である相模金剛も同じクラスになった。
クラスメートの男性陣は、時間があればイチャイチャしている僕と瑠璃子に嫉妬の目を向けることが多々あるが、女性陣は恋愛トークに興味津々な程度で、好意的な目で見ている。
クラスメートとして、恋愛トークをする程度であれば問題はないのだが、瑠璃子|(と多恵)はオカルト研究会所属の時点でキャラが濃いので、友人になろうと積極的にかかわろうとしてくる女子は少ない。
さて、年次が上がったということは、部活動勧誘の季節となったということである。
だが、宵ヶ浜北高校は部員が三名以上いれば、部活動として認められるため、オカルト研究会|(教師受けを考えて名義上は文芸部である)は特に新入生を募集していなかった。
部活紹介冊子に名前は載っているが、二年生以上なら、昨年の文化祭での、めちゃくちゃな内容の会報を見て新しく加入しようと思う変人はいない。
コアな薔薇マンガのファンは増えたようだが。
高校生で心機一転、文芸部に入ろうと思った新入生らしき生徒は何度か訪れたが、文芸部は名ばかりで、実態はオカルト研究会だと説明すると加入する者はいなかった。
かわいそうだ。
文芸部を別に立ち上げた方が良くないかな。
「こんにちは。ここは文芸部ですか?」
肩までの髪を三つ編みにした、見るからに美少女であるが、普通に男子の制服を着ている新入生がオカルト研究会の部室に来たのは、入学式が行われた次の週のことであった。
一応の部長である円子多恵が現状の説明をする。
「ワタクシは部長の円子多恵。ここは、名義上は文芸部ですが、実態はオカルト研究会が乗っ取ったような状況ですことよ。おほほほほ」
「毎度思うが、誰だ、お前」
新入生相手には、ござるキャラを封印し、お嬢様言葉で接することにしている多恵を見て、僕はきちんとツッコミを入れてやる。
多恵はキャラ付けがないと人と会話できないらしい。
初対面の新入生にござるは強烈すぎるからと、やめるように説得したところ、多恵はお嬢様キャラとなった。
極端か。
「そうらしいですね。ウチは皆藤連です。オカルト研究会だって聞いたから、入ろうと思ってここに来ました」
新入生は、臆することなく自己紹介をする。
美少女|(?)が加入しそうな流れを察知した瑠璃子が、僕の腕に抱き着き、皆藤をにらむ。
僕は瑠璃子をなでながら、皆藤の方を向く。
「僕は才谷勇児。彼女は水川瑠璃子。えっと初対面で聞く話題ではないと思うけど、皆藤くん……さん? は男の娘ってやつ?」
「皆藤さんか呼び捨てでお願いします。普段から女性の格好をしているから、世間一般ではそう呼ばれると思います。心は女性ですので、厳密には違うのかもしれません。制服も本当は女性ものを着たいのですが。ただ、ウチは女の子が好きですから、彼氏さんを取ったりしませんよ」
瑠璃子が僕をつかむ手を緩めた。
僕は混乱しかけたが、普段からオカルト研究会の面倒なキャラクターに翻弄されているため、すぐに立ち直って、普通に受け入れた。
成長である。
成長なのか?
「じゃあ皆藤って呼ぶね。どうしてオカルト研究会に?」
「都市伝説調査報告書みたいなものをやりたいと思ったからですね」
都市伝説調査報告書は、昨年、文芸部|(オカルト研究会)の会報に書いた僕のエッセイである。
皆藤が続ける。
「メリコンドル兄貴っているじゃないですか。あれ、ウチの親戚でして」
「えっ」
予想外すぎる。
「えっ」
多恵も驚愕の声をあげる。
「えっ」
瑠璃子はなぜか嬉しそうに反応する。
なぜ……
込められた感情は違えど、オカルト研究会の三人が同じ反応をする。
「都市伝説調査報告書のメリコンドル兄貴の記事を読んで初めて知ったのですけどね」
都市伝説調査報告書に書かれたメリコンドル兄貴の経歴を見て、もしかして、と思いストロングなアルコール片手に足を運んだところ、親戚であることが確認できたらしい。
メリコンドル兄貴は、生前の記憶の大半を失っているので、皆藤のことも親戚だとは認識できなかったらしいが。
「だから、他の都市伝説の調査も、もしかしたら誰かの役に立つかもしれないと思って、オカルト研究会に来ました」
多恵は感銘を受けた様子である。
「いい話でござるな~」
「多恵、地が出ているぞ」
「あっ。でももう身内だから普段のしゃべり方で良いと思うのでござる」
連は多恵のお嬢様キャラの崩壊に一瞬ビビった様子だったが、本来はこのしゃべり方だということを聞いて、すぐになじんだ。
三人からオカルト研究会の説明を受けた皆藤は、入部届に名前を書き、正式な部員となった。
皆藤の趣味は落語らしい。なかなか渋い。
落語研究会、落研もあるのだが、わざわざオカルト研究会に入ってくるあたりに、メリコンドル兄貴には強い思い入れがあるようだ。
オカルト研究会の面々は、仲良くなったら、それを聞けるといいな、と思いながら、新入部員をあたたかく迎え入れた。
皆藤以外に物好きが入ることもなく、今年のオカルト研究会は四名体制である。
****
「世間はあなたが思っているよりも狭い。それはある意味でとてもこわいことですね」
僕は今回のオチをつけようとした。
多恵が瑠璃子に何か耳打ちしている。
「ツッコミを入れるのも面倒だから、部室の隅でイチャイチャしていろ、って言われた」
瑠璃子にそう言われ、手を引かれて部室の隅に連行された僕は、多恵と連の見守る中、イチャイチャさせられた。
ちゃんとしたツッコミがこわい。
皆藤は熱いお茶を飲みながら、面白い先輩たちですね、と笑っていた。
皆藤が楽しそうならいいか。
熱いお茶もこわい。
続く
お読みいただきありがとうございます。
ホラーコメディということで、一回くらい、『まんじゅうこわい』をやりたかったんですよね。わからない方はググってください。
作者は好意的な感想もこわい。どんどん下さい。
今回の怪異
お嬢様言葉の円子多恵:新入生にだけ見せる形態。




