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第16怪 番愛連隊(バレンタイン限定ヤンキーによる血みどろバレンタイン)

 番愛連隊(ばんあれんたい)を知っているだろうか。


 海に面した宵ヶ浜市に住む学生の間でささやかれる、都市伝説的存在である。

 水泳部の男子曰く、バレンタインデーを前に急遽結成された美人ぞろいのヤンキー集団なのだと、まことしやかにささやかれているとか。

 ヤンキー集団と呼ばれる割には実害がないと言われているが、本当のところは現時点では不明である。


 絡まれて血みどろになったという話もある。


 美人であれば、絡まれるのもやぶさかではない男性もいるのだが、そういう男性の前に現れることはないらしい。


 オカルト研究会としては、今回はスルーの予定であったが、顧問の韮沢(にらさわ)先生たっての願いで、調査が開始された。


 ヤンキーって、オカルトの範疇(はんちゅう)なのか?

 暴力とは無縁の世界に生きている僕としては、愚痴(ぐち)の一つも言いたくなる。


「さすがに僕もヤンキーの調査はしたくないのだけれど」


「それは拙者もそうでござるが、こればかりは韮沢先生の願いであるから仕方ないでござるな」

 多恵もしぶしぶという感じだ。


 韮沢先生は姉御肌の女性で、アラサーらしいが正確な年齢は知られていない。

 そろそろ結婚を見据えた交際を開始したいらしいのだが、周りの男性は、かっこいい系の彼女に気後れするばかりで、恋人になってほしいと声をかけられることはないのだとか。


 先生から声をかければ解決しそうなものだが。

 生徒に頼るなよ。


 韮沢先生は、その結婚願望の強さのためか、他の人より番愛連隊の噂に詳しかった。

 生徒に頼るなよ。


 番愛連隊は、ただのヤンキー集団ではない。

 もう少しで恋人になりそうな、じれったい関係の男女をくっつけることを目的とした

「ラブ・ハンター」である。

 ハントしては恋が成就しないだろうとツッコミを入れる者はいない。


 僕は韮沢先生の口から「ラブ・ハンター」なる単語を聞いて思わず吹き出してしまい、頭をわしわし、となでられてしまった。

 それをみた瑠璃子も、僕の頭をわしわしして一時収拾が付かなくなったが、韮沢先生が咳払いし、話を戻して、続きを話した。


 番愛連隊は、実は自称キューピッドの血を引く集団であるらしい。ただ、本当にキューピッドの子孫だとしても、血が薄まりすぎてもはや人間と区別がつかないのだと言われているそうだ。


「それはもうただの人間ですし、それだけわかっていれば調査不要じゃないでしょうか」

 オカルトよりヤンキーの方がこわい僕は、韮沢先生に意見するが、即却下される。


「あ? 本物のキューピッドなら私の恋愛をサポートしてもらえるかもしれないだろうが。私も結婚を前提としたお付き合いがしたいんだ!」


「えぇ……? それは自分で頑張ってくださいよ……」

 その熱意があれば何でもできるでしょうに……。


 こうしてオカルト研究会は、韮沢先生の婚活を手伝うこととなった。

 生徒に頼るなよ。


 ****


 番愛連隊が出没するという、廃ラブホ前の通りに着いた。

 廃ラブホってなんだよと思うが、田舎ではたまに見る光景である。

 田舎あるある。


 僕と瑠璃子が手をつないで歩き、瑠璃子の横を多恵が歩いていると、噂通りの美女ぞろいのヤンキー集団が現れた。

 圧もヤバいし、確かに美人ぞろいだし、すでに囲まれているし、どうしたものか。


「んん? 一見普通のカップルのようだが、なぜかアンバランスさを感じるぞ。おい少年、お前のラブを出しな」


 ヤンキー集団のトップだろうか。

 長い金髪をポニーテールにまとめ、スカートが足首近くまである特殊なセーラー服、いわゆるスケバンの格好をした女性が話かけてくる。

 令和の時代にスケバンが生き残っている時点で、都市伝説になるだけのことはある。


 ラブを出せって何だよ。

 金か? 金なのか?


「ラブが何かよくわかりませんが、暴力をふるうのであれば、僕だけにしていただけますか?」

 ここは僕のとっておき、百八個ある土下座スキルの出番かな。


「あん? なんだ、普通に愛を感じるな。ならあれか、彼女の愛が重すぎるのか」

「お、よくわかりましたね」


 僕はこの短時間で瑠璃子の本性を見抜いたヤンキーに感心した。

 母親にも見抜かれたことないのに。

 キューピッドってのは、伊達じゃないな。


「私の愛は普通だよぉ」

 瑠璃子はここぞとばかりに僕に抱き着いてくる。

 全くビビっていない。


「瑠璃子の愛が普通なら、世界は今頃平和なんだよな……」

 いつも通りの会話の僕ら二人に対して、ヤンキーは自己紹介を始めた。


「アタシは番愛連隊のヘッドをやっている古江(ふるえ)クレアだ、エクレアって呼んでくれ」


 ヘッドって何だよ。

 やっぱヤンキーじゃん。


 よくわからないが、番愛連隊の隊長エクレア、本名、古江クレアと名乗る彼女から、話を聞くことになった。

 キューピッド|(自称)の能力により、付き合っているかどうか、互いに好き合っているかが見ただけでわかるらしい。

 大抵のカップルに関しては僕にもわかりそうだったが、特に口には挟まなかった。ヤンキーはこわいので。


 話の途中で、僕らの前から、初デートのような雰囲気の男女が歩いてきた。手をつなごうかどうか迷っている感じだな。


 じれったい雰囲気のカップル未満の関係の男女を見かけた番愛連隊は、頷きあって一呼吸置くと、襲撃をかける。

 単語のチョイスが間違っている気がしないでもないが、襲撃である。


 やっぱヤンキーなんだよな。


「ヒャッハー! ジレジレだぁ!」

 番愛連隊がカップル未満の男女を囲んで囃し立てる。

 僕らの時も思ったが、どう見てもカツアゲだ。


「ひい、これで勘弁してください」


 ヤンキーによるカツアゲかと思った男が、財布を投げ捨て、彼女を下がらせてから、土下座をしてやり過ごそうとした。

 あれは土下座百八の奥義の一つ、流星土下座だな。

 こいつ、できる。


 流星土下座は、財布の落下と同時に土下座を放つことで、土下座に説得力を持たせることができる。


「お前ら! あ、いやお金とかいらないし、土下座とかしなくていいって! お前らのラブを出しな!」

 エクレアさんが今さらフォローを始めた。


 男の方はひぃひぃ言いながら、土下座を続けている。

 あれは土下座百八の奥義の一つ、連続土下座だな。


 女の方が反応を返す。

「ラブ……ですか?」


「そうだぁ! おいお前、横の彼のことをどう思っているんだ? 好きか? 嫌いか?」


「即土下座はちょっと女々しいと思いますが、私のために逃げずに行動を起こしてくれるのは良いですね。……えっと、拓也くん、好きです」

「え? あ、由美ちゃん、僕も好きです」


 あ、なんかうまくいきそう。


 土下座から復帰した男性が、驚いた顔のまま、頬を赤らめている。

 自称キューピッドの番愛連隊が数人ラッパのおもちゃをパフパフさせている。


「カップル成立ぅぅぅぅ! 宴じゃぁぁぁあ! 宴の準備をしろぉぉ!」


 成立したカップルを囲んで、ヤンキー集団が手をつないで輪になり、ぐるぐる回りながら、青春、パフパフ、青春、ヒューヒュー、と(はや)し立てている。


 はあ、これは都市伝説になるわ。


 僕はつぶやいた。

「ウザいこと極まりない」


 瑠璃子は肩をつついて耳元でささやいてくる。


「ね、あの二人、カップル成立してよかったね」

「ああ、まあ、ヤンキーっぽい見た目なのとあのノリを何とかすれば、普通にいい話だったんだけどな」


 道行くカップルや、あと一歩踏み出せずカップルになれない二人の応援団、番愛連隊。明日からもキューピッド活動に励みつつ、通行人から恐れられるのだろう。


 番愛連隊の噂には、絡まれて血みどろになったという話もあるが、番愛連隊が暴力をふるう様子はなかった。

 ただのデマに過ぎなかったな。


「おほ、カップル成立に興奮しすぎて鼻血出たわ」


 番愛連隊の一人がガサツなセリフを吐く。

 結構な勢いで鼻血が出ている。


 きれいな顔が台無しなくらい血みどろだな、って。


「いや、血みどろになるのって、そっちなのかよ!」


 ヤンキーへの恐怖心よりも、ツッコミの方が大事だと思った僕は、きちんとツッコミを入れた。



 その後、エクレアさんとは連絡先を交換し、瑠璃子の愛の重さに耐えられなくなった時などに連絡して良いと言われた。

 一応、キューピッドの能力で恋人を新しく探せるのかを聞いてみたが、キューピッドの力は、互いに思いを寄せているかしかわからないらしく、韮沢先生の恋については、特に進展がなさそうであった。


 先生には自力で何とかしてほしい。


 職場恋愛でもして結婚願望を満たしてほしいものである、とオカルト研究会のメンバーとこっそりと話しながら帰る。



 調査終了後、多恵と別れて、二人で帰宅する最中、瑠璃子から好みのアンケート調査があった。


「勇児は、チョコレートコーデで私を食べてってするのと、意識が混濁して既成事実を作られるチョコレートを渡されるの、どっちが好き?」


 どっちで答えても既成事実を狙ってくるのか……


「ちゃんと聞いてくれるのはありがたいけど、謎の二択はやめてくれ。変なものが入っていない普通のチョコレートが良いかな……。血とかも入れるなよ。フリじゃなくて」


 フリじゃなくて。


 首を傾げた瑠璃子は、やがて納得したらしく、うんうん頷いている。


「普通のチョコレートをたくさん作って口移しで渡すね!」

「ああ、もう、それでいいよ……」


 良くはないのだが、変な薬物を入れられる可能性がないのなら、もうそれで妥協することにした。


 ************************☆彡 ☆彡 ☆彡************************


 バレンタイン当日、教室の端で、手作り弁当を食べ終わった僕の膝に、瑠璃子が座ってくる。

 ハートのチョコレートを加えた瑠璃子が顔を近づける。

 仕方ないのでチョコレートを受け取る。


「んん、ちゅ、んぐ、んん、はぁ。じゃあ次ね」


 衆人環視の環境で、ひたすら口移しでチョコレートを渡されることとなった。


「いやもういいんだけど……。あと、恥ずかしいんだけど……」

「だめだよ。まだチョコはたくさんあるし、昼休みも15分あるよ」

「じゃあ、残りは放課後部室で」

「しょうがないなぁ」


 周りは、またこいつらか、という感じでそれほど騒いではいないことが救いだろうか。女子は、アレ、彼氏にやろうかな、と一瞥(いちべつ)してから話題の一つとして扱っている。

 一部男子は血の涙を流したり、死んだりしている。

 成仏してくれ……


 こうしてクラス内に大量に死者を出して、血みどろのバレンタインは終了した。

 犯人は僕なんだけど。


 なお、韮沢先生に彼氏はできなかった。



 続く


お読みいただきありがとうございます。

韮沢先生の恋人は随時募集中です。


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