第15怪 おみくじのリセマラ
家族公認いちゃいちゃクリスマスパーティの後、僕と瑠璃子は、大みそかまで会うことはなかった。
SNSのやりとりや通話などで連絡を取り合う程度で、年末は過ぎていった。
瑠璃子は愛が重いと言っても、五分に一回メッセージを送ってくるとかはしない。僕に迷惑をかけないようにしているらしい。
その辺は、そんじょそこらのヤンデレとは違う。
そこまで配慮ができるなら、もうストーカー行為もやめてほしい。
大みそかの夜は、駅で待ち合わせて、年が明けた瞬間から、初詣をする約束をしてあった。
歌合戦の裏番組のバラエティを途中まで見て、程良い頃合いになったころ、僕は自転車で瑠璃子を迎えに行った。
初詣と言っても、瑠璃子も自転車移動なので、普通に洋服であった。
和装は似合うと思うんだよな。
日本人形みたいだし。
そんなことを考えながら、自転車をこいでいる。
彼女と年越しデートをするという初めての体験と、夜に出かけるという行為に高揚感を感じていたのか、僕も浮かれているようだ。
年の瀬のあわただしさと新年への期待を感じされる浜風を身に受けながら、僕らは宵ヶ浜神社への道のりを、ゆっくりと自転車で進んだ。
宵ヶ浜神社の近くの駐輪場に自転車を停めると、僕らは境内に向かって歩き出した。
お辞儀をしてから鳥居をくぐり、賽銭箱の列に並んだ。
年明けより前の到着を目指してきたおかげで、並びはしたものの、比較的すぐに、お賽銭を入れることができた。
二礼二拍手一礼をして、僕は今年一年の感謝と、来年の平穏を祈った。
「今年もありがとうございました。来年は都市伝説に遭遇せず、平穏に生きていられますように」
隣を見ると、瑠璃子は声に出さずに熱心に祈っているようだった。
僕の願い事も聞こえていないだろう。
お賽銭の列から抜けると、瑠璃子が話しかけてくる。
「勇児は何を祈ったの?」
「来年は都市伝説に遭遇しませんように」
「そっか。私は、勇児が一生私から離れませんようにって祈ったよ」
重いなぁ。
神様も困惑しただろうなぁ。
「善処するよ」
善処していいのかは悩ましいところだ。
お参りを済ませたあとは、二人でそのままおみくじを買いに向かった。
おみくじ売り場もそれなりに並んでおり、待っているうちに年が明けた。
列の前後からも新年のあいさつが聞こえてくる。
僕も瑠璃子にあいさつをしよう。
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
「ん、よろしくね」
そうこうしているうちに、くじを買う順番が来たので、僕はくじを引いた。
新年は都市伝説とか不審者とか、そういったものとの関わりが減るように、運気を高めておきたい。
「頼むぞ……」
くじを開き、折り目を広げていく。
一番上に書かれる文字は、……大凶であった。
待ち人欄に「すでに来た」とあって、瑠璃子は喜んだが、それ以外の欄が悲惨だったので、くじを木の枝に括り付けて、引き直すことにした。
ちなみに瑠璃子は大吉だったらしく、満足げな顔でくるくると回っている。
ツインテールがぶんぶん揺れている。
瑠璃子を待たせるのも悪いが、徐々におみくじ売り場も人が減ってきたので、並び直した。
リセマラと行こう。
僕は気を取り直して、新しいおみくじを引いた。
くじを開き、折り目を広げていく。
大凶が出た。
なるほどね。そういうパターンか。
まだ内容が良い可能性はあるからな。中身を確認しておこう。
待ち人欄に「隣にいるので失うな」とある。それを見た瑠璃子は喜んだが、それ以外の欄は「来年に期待|(意訳)」だったので、引き直すことにした。
みんな大好きリセマラの時間だ。
「もう一回引き直すよ」
三度目の正直である。
おみくじリセマラも三回目となると慣れたものである。
ダウンロード不要だしな。
列に並び直して、再挑戦する。
二回とも上の方から引いたので、今度はごそごそと底の方まで手を突っ込み、かき混ぜて、直感を信じ、新しいくじを引いた。
来い……!
僕の頭の中では金色の確定演出が流れている。
開封すると……、超絶凶であった。
なんだそれは。
大凶より上があるのかよ。
大切なのは内容だ。
内容を確認するべし。
待ち人欄には「いつもお前の後ろにいる」とあった。
いや、確かにストーカー気味な彼女が常にいるとは思うんだけど。
「どんなホラーだよ」
「私のことだね!」
瑠璃子はその場でくるくる回っている。
相変わらずの瑠璃子であった。
多分これは瑠璃子の念が強すぎるせいで、おみくじの結果が悪いんだろうな。
これ以上引き直すことはやめよう。
別の手段で運気を高めよう。
「いい加減諦めて、パワーストーンでも買うよ」
おみくじ販売所の横で、一つだけ色が違う、紫水晶のキーホルダーを買った。
他のものと違って、紫が濃く、黒に近いかもしれない。
実はこのパワーストーンが本物であることを、このとき、僕らは知らなかった。
多分、神社の人も知らなかっただろう。
といっても効力を発揮するのは宵ヶ浜以外の場所なので、その時まで買ったことを忘れていたくらいであるが。
そのエピソードは機会が来たら話そう。
僕がくじ運の悪さを開運グッズでごまかしている頃、瑠璃子はお守りを物色していた。僕より熱心に見ているくらいだ。
オカルトが本当に好きなんだな。
やがてどれを買うか決めたようで、気に入ったらしい一つを買った。
安産祈願のお守りである。
安産かぁ。
そこに行くかぁ。
「今から安産祈願のお守り買うのは、さすがに重すぎない……?」
「いつか必要になるからいいじゃん。ね、なんなら今からお守りの効力を試してみる?」
「正月早々で申し訳ないけど、遠慮しておくよ」
新年早々、既成事実を作ろうとする瑠璃子には、もはや安心感すら覚えるな。
流されたりはしないが。
そのまま手をつないで、お神酒を配るスペースまで二人で歩いていく。
二人で甘酒をもらって飲んだところ、いつも以上に瑠璃子がべたべたしてくる。
あれ、これ本物のお酒なのかな。
未成年に配っている飲み物を遠目に確認したところ、ノンアルコールの甘酒になっている。
瑠璃子の持っている紙コップから一口飲んでみたが、酔っぱらった気はしなかった。
酔っ払いはみんな、酔ってないって言うって? そうかもしれない。
「これ、ノンアルコールじゃない?」
「うん。そうだよぉ。これはおまもりのこうかぁ」
安産祈願のお守りって媚薬でも入っているのか?
安産祈願ってそういう意味かよ。
「ゆうじ~、すき~」
べたべたとしてくる瑠璃子を引っ張って、邪魔にならないところに移り、しばらく待つことにした。
少し待って瑠璃子が落ち着いた頃、声をかけて神社を離れることにした。
初詣を終えた僕らは、そのまま初売りに向かった。
「初売り行きたいって言っていたけど、何かほしいものがあるの?」
「新しいバージョンの編集ソフトが入った初売りセットと、ヘッドホンかな。勇児の動画と音声を編集するの」
「いい加減隠す気ないけど、それって盗撮と盗聴だよね?」
「えへへ」
えへへ、じゃないんだよな。
おみくじで「いつもお前の後ろにいる」とか書かれるわけだよ。
瑠璃子は目をそらして、口笛を吹くふりをした。
なお、瑠璃子は口笛が吹けないため、ヒューヒューと細い息が流れていく音がするだけであった。
そのしぐさは、ちょっとかわいいな。許した。
年が明けても、二人の関係は変わらず、心の距離は近づいたが、僕からは一歩踏み出せずに、ぼんやりとした関係が続きそうであった。
新しい年になって、まさか、あんな流血の大惨事に巻き込まれるとは、僕たちはまだ知らなかった。
続く
パワーストーンの伏線が回収されるのはしばらく先です。
皆様が忘れたころになるでしょう。
不穏な予告をしながら、次回に続きます。




