第14怪 ミニスカサンタ彼女とか都市伝説でしょ
季節は移り、年の瀬が近づいてきた頃、世の中は浮かれた雰囲気にある。
十二月後半にそのような雰囲気を作るイベントと言えば? そう、クリスマスである。
僕こと勇児はクリスマスイブに、金剛の実家にてアルバイトをしている。高額の時給につられてのことである。
ミニスカサンタと一緒にケーキ屋でアルバイト、などという青春行為は都市伝説に過ぎない。
クリスマスイブに寺の掃除などを一緒にするわけにもいかないのだが。
そうは言っても、彼女と過ごすため、さすがに夜は空けてある。
もちろん瑠璃子から提案してきたのだが。
いつのまにか才谷家で自分の家族とともにパーティをする約束を取り付けていたときには戦慄した。
瑠璃子には着々と外堀が埋められている。
手際良すぎない?
金剛の実家の寺でのアルバイトは、街中でケーキを売ったり、ビラを配ったりするアルバイトに比べれば、精神的な打撃が少ないことから、彼女がいない男子高校生の間では比較的倍率の高いアルバイトである。
金剛の友人というコネにより、無事にアルバイトを勝ち取った僕は、冬休みのデート代その他確保を理由に、勤労に励むことになった。
やはり持つべきものはコネだな。
アルバイト内容は、寺の掃除であったり、無縁仏の掃除であったり、墓地全体の清掃と施設のチェックであったりする。
何もクリスマスにやらなくてもいいのだが、金剛の願いで行われているらしい。
クリスマス会に行くより実家の寺のことをしたいという金剛のまじめさの表れであると相模父は言っていた。
本当のところは、クリスマスのカップルが多数できる雰囲気に負けそうになっている自分を恥じているだけという、身もふたもない、煩悩の塊のような理由である。
友人の金剛にも意外と人間くさいところがあって、ちょっと安心した。
「まあ、金剛とクリスマスを過ごして金までもらえるってのは、うれしい話だよ」
「そういってもらえると小生もわがままを言った甲斐がある」
金剛と一緒に長い廊下を雑巾がけしたり、墓地のごみ拾いをしたり、井戸のねじの調整をしたりと、順調にアルバイトを進めた。
普段使わない筋肉を使っているようで、僕は、帰ったら筋肉痛だな、と思いながら黙々と作業をした。
相模父も感心したように坊主頭をぺかりと光らせつつ、ほめてくれる。
「才谷くん、金剛の友人だけあって、良い働きっぷりじゃないか。今後も縁があれば頼むよ」
「ありがとうございます」
アルバイト先でほめられるのは気分が良いものだ。
夕日が坊主頭を照らす頃、アルバイト料の入った封筒を受け取り、僕は帰宅する。
「じゃあな、金剛、メリークリスマス。あとちょっと早いけど、良いお年を」
「ああ、良いお年を」
学校も冬休みであり、年末までは大掃除におせちづくりにと忙しく、金剛と遊ぶ暇はなさそうなので、早めに年の瀬の挨拶である。
さて、帰宅途中で商店街に寄って、アルバイト代をさっそく使い込むとしよう。
自分のためではない。
瑠璃子へのクリスマスプレゼントだ。
アクセサリーショップで手ごろなものがないかを物色する。
これなんかどうだろう。
2本セットのヘアゴムで、デフォルメされた天使の装飾が付いたものと、悪魔の装飾のものが対になっている。
瑠璃子のツインテール用である。
家に帰った僕は、初対面のはずの自分の家族と瑠璃子が、違和感なく談笑している姿を目撃した。
なんだろう、もう完全に篭絡されていないだろうか。
外堀、外堀はどこ?
うん。
クリスマスにツッコミを入れるのも無粋だし、黙っておこう。
聖夜の奇跡か何かであると、ただ受け入れることにした。
瑠璃子はなぜかトナカイの格好をしている。
僕は、ミニスカサンタの格好をした彼女は都市伝説であると、改めて思ったものだ。
いや、サンタじゃないのかよ。
ちなみに姉の有栖はアルバイトでケーキ屋の呼び込みをしていたらしく、制服代わりにわざわざ自腹で購入したらしいミニスカサンタの格好をしていた。
姉は美人な方なので、それなりに売り上げに貢献したらしい。
だが僕は身内のミニスカサンタに興奮することはなかった。
「姉ちゃんのサンタ姿に興奮できなくて良かった気がするよ」
「何だよ、美人の姉のミニスカサンタだぞ」
「姉ちゃんをほめるより、今日は自分の彼女を目いっぱいほめたいよ」
「お? のろけとは成長したな、弟よ」
のろけ? のろけか。
姉はフライドチキンの骨をかみ砕くかの勢いでバクバクと食べている。
これでモテるというのだから世の男性には見る目がない。
隣に座った瑠璃子はフライドポテトを一つずつあーんしてくる。
「はい、あーん」
「ありがとう。でもそんなにポテトはいらないかな」
「え? でも私こんなに食べられないし。勇児にあげる」
僕は無限にわいてくるように思えるフライドポテトを食べきり、自分の取り分の料理を食べ終えた。
クリスマスパーティは順調に進み、姉がアルバイト先からもらってきたケーキを切り分け、一切れずつ食べる。
瑠璃子にはサンタの砂糖菓子、僕には“メリークリスマス”の“メリ”の部分、姉は“ークリスマス”の部分が取り分けられたので、それぞれ食べている。トナカイの砂糖菓子は父にとってあるらしい。
食事が終わり、瑠璃子が片付けを手伝っているため、手持無沙汰な僕は、リビングに向かった。
テレビの電源をつける。
イルミネーション特集をやっているようで、眺めているだけでも楽しい。
ソファーで休憩していると、家族がいるのも気にせず、茶色い塊が自分の胸に顔をうずめて抱き着いてくる。
瑠璃子のトナカイ衣装、フェルトでできた角が柔らかくて気持ちいいな。
ひたすら、角をにぎにぎしながら、頭をなで続ける。
しばらくぼけっとしていたら、母と姉には今まで見たことがないほどのニヤケ顔を向けられていることに気が付いた。
ため息をつきつつも、瑠璃子の角をにぎにぎし続ける。
二十時を過ぎた。
そろそろ女子高校生としては帰宅をさせた方が良い頃合いである。
瑠璃子は気に入ったのか、トナカイの格好のまま、上にコートを羽織って帰宅している。
いや着替えろよ。
そのままが良いというので、トナカイと手をつなぎながら家まで送った。
瑠璃子の家が見えてくると、瑠璃子の歩みが遅くなる。
「ね、勇児。寒いからぎゅーってしてくれない?」
「はいはい」
正面に回り込み、がばっと大げさに抱きしめた。
瑠璃子は耳元でささやく。
「ね、チューしようよ」
「しょうがないな」
せっかくのクリスマスであるので、お別れのキスをしてほしいと言われたお願いも聞くことにして、おでこに別れのキスをした。
こうして、恋人たちの聖夜は終了した。
瑠璃子が玄関から手を振っている姿を見ながら、僕は帰路についた。
帰り道では、ちらほらと雪が舞っていた。
続く
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今回の怪異
トナカイの角:無限にぎにぎ




