小学生の正義
四月上旬。桜が舞い散る季節に、正義は晴れてピッカピカの小学一年生となった。『一年生になったら、友達百人出来るかな?』なんて歌があったような気がするが、今の彼にはそんなワクワク感やドキドキ感は全く無い。何故なら、既に小学校生活を経験した身であるからだ。
ああいう感情は、初めての人間が抱くもの。経験済みの人間は、小学校生活がどんなものか分かっているので、『異世界だから多少の違いはあるだろうな』と思っていても、そんなにワクワクしたりはしない。一年生になったからといって友達は百人出来ないし、その歳で富士山のてっぺんまで登れる気がしないし、日本中を一回り駆けられないのが『現実』だ。
「(まさかまたこれを背負う事になるとはな・・・もう二度と無いと思っていたぜ。)」
玄関に掛けられてある長い鏡に映った自分を見ながら、しみじみそう思う正義。背中に背負った光沢感のある黒いランドセルが凄く眩しい。まあ、新品なんだから当然か。そんな彼に母親の裕子が声を掛ける。
「何してるの?早く行かないと遅刻するわよ。」
「あ、はーい。」
正義はそう返事をすると、家のドアを開けて出て行った。
入学式が終わって、三日が経過した。
一年二組の生徒となった正義は、いつものように机の上に突っ伏していた。周りの子達は、新しく友達を作ってキャッキャッと騒いでいるのに、この男は小学生になっても相変わらずのようだ。
彼はその状態のまま、こんな事を思っていた。
「(『1-2』・・・か。そういえば俺、今までずっと『2』が付く教室ばかりだったな。義務教育も高校もずっと2組。そして、転生した後も2組と来た。ここまで来ると、腐れ縁だな。)」
どうでも良い情報である。
すると、ずっと突っ伏している事に飽きたようで、正義は席から立ち上がった。
「(眠くないのに、ずっと突っ伏しているのも飽きたな。ここは教室の本棚にある図鑑でも見て、時間を潰すか。)」
そう思い、ランドセルを入れるロッカーのとこまで移動する。彼のクラスでは、ランドセルを入れるロッカーの余った部分を本棚の代わりとして使っているのだ。低学年という事もあってほとんどが絵本だが、ずっしりとした図鑑もちゃんと入っている。
「さすが学校。中々良い図鑑を揃えていらっしゃる。え~と・・・これにするか。」
そう言って、正義が『動物図鑑』の背表紙に手を伸ばす。すると後から来た子も同じように、『動物図鑑』に手を伸ばしていた。果たして図鑑を手にするのはどちらか。伸びた手は、ほぼ同時に図鑑の背表紙を触った。
「悪いな。俺の手の方が先にこの図鑑を掴んでいた。後で回してやるから、今は別のを取りな。」
どうやら正義がタッチの差で早く触ったようだ。こういうのは早い者勝ち。よって、『動物図鑑を読む権利』は正義にある。
しかし、そうは言うても相手は子供。『納得がいかない』とかで、結局取り合いになってしまう可能性は高い。
もしそうなった場合、色々と面倒な事に発展してしまうので、正義は渋々譲る気でいた。
だが、そんな事は杞憂に終わる。何故なら、
「そうか。それじゃあ、『植物図鑑』でも見ていようかな。・・・・・・ん?」
「あ。」
その手を伸ばしたもう一人の子は、彼と同じ『転生体』だったからだ。
「お・・・お前は!!」
目と目が合い、思わず図鑑を持ったまま後ろに跳び、ファイティングポーズを取る正義。その先にいたのは、なんと去年の『秋の遠足』で行った動植物園で、たまたま出会った仏谷英一郎だった。
「君は確か動植物園の時の・・・驚いた、同じ小学校になったのか。そして、奇しくも同じクラス。これも『運命』ってヤツかな?・・・とりあえず何もしないから、その構えを止めてくれないか。」
「あ、すまん。」
『つい条件反射で』と、付け加えて腕を下ろす正義。
すると英一郎は、そっと彼に右手を出してこう言った。
「まあ、とにかく・・・同じ境遇同士、仲良くしよう。」
「・・・ああ、そうだな。」
渋々な感じに手を伸ばし、握手をする。別に正義は、彼が嫌いな訳では無い。
ただふと、
「(クラス替えするまで、何か面倒な事になりそう・・・)」
と、頭の中に過ぎったからだ。
この時、彼等は気付いていなかった。クラスメイトの一人が、自分達の様子を窺っている事に。
某所。『教祖様』と呼ばれし女性は、玉座に座ったまま、隣に立っている執事にある事を聞いた。
「今日までに集まった転生体の数は?」
するとすぐに執事が答える。
「はっ、十人でございます。」
「十人・・・あと二人か。」
フフッと、口角を上げる教祖。続けて他の事も聞く。
「それで『あの団体』については?」
「今の所、『これといって目立った行動は無い』との事です。」
「そう、それでは『引き続き監視をするよう』、貴方の口から頼んでおきなさい。」
「はっ。」
執事にそう指示を出した教祖は、玉座の前で跪いている三人の人間に目をやった。
「・・・さて、聞こえていたと思うけど、『例の計画』を実行するには、最低でもあと二人の『転生体』が必要。よって貴方達には、あと二人連れて来てもらう事になります。」
「はっ、お任せ下さい。」
彼女の言葉に、三人のリーダー格と思われる男が返事をする。
「頼りにしてますよ・・・『職人クラス』のクリエイターの皆さん。」




