さよなら幼稚園 次のステップに移る正義
『卒園式』というのは、普通ならおめでたいセレモニーである。ところが、クリエイターのマハトロースは、度重なる失敗であまりにも追い詰められていたので、その辺の空気を読まずにいつも通りモノガーンを生成し、襲撃させた。勿論、会場は大パニック。結果的に子供達の心に『思い出』ではなく、『トラウマ』を植え付ける事になった。
そして、『転生体』である正義を見つけたモノガーンは、彼を食べるように捕獲。めでたい式典を荒らすだけ荒らして、主人であるマハトロースの元へ飛び立っていった。その際、真っ白い糞をブリッと出して。
そんな正義は今・・・・・・
「放せ、この鳥野郎!!さもないと、今晩のおかずにするぞ!!ヘルシーな油でカラッとジューシーに揚げてなァッ!!」
必死に叫んでいた。抵抗しているつもりなのだろうか。傍から見ると、鳥に咥えられた芋虫である。
あまりにも五月蠅かったのか、
「モノグェァアァァーーーーーーーッ!!」
モノガーンが彼を黙らそうと、咥えたまま叫ぶ。状態が状態なだけに、その声は正義の鼓膜にダイレクトに響いた。
「ぎゃあああああ!!俺を咥えたまま、声を出すなぁッ!!」
両耳を両手で押さえ、両足でジタバタするも、何の意味も無し。そのままマハトロースの待つ廃工場の敷地内に着地した。
「おお、早くも『転生体』を捕まえて来たか、モノガーン・グレートホーク。さあ、私の前に捕まえて来たガキを出せ。抵抗されないよう、特殊な手錠で『能力』を封じるからな。」
予想以上に早いモノガーンの帰還に、つい嬉しくなって笑顔になるマハトロース。右手に警察官が持っている形状の手錠を持ち、スタンバッている。念の為に言っておくが、彼は小さい子相手に『そういうプレイ』をしようと企んでいる訳ではない。あくまで『能力封じ』の為にやるだけだ。
主人の言葉に、モノガーンは口に咥えている正義を道端に唾を吐き捨てるように、ぺッと思いっきり地面に叩き付けた。
「うげぇッ!!」
何気に大ダメージ。体が未発達な事もあり、ダメージが余計に入り易いというのもあるが、これは大人子供関係無く痛い。正義は叩きつけられた衝撃で、体が痺れてしまった。
「何ィッ!?こ、こいつは・・・・・・」
彼の姿に、マハトロースが驚きの声を上げる。どうやら、動植物園の時の事を覚えていたようだ。
「う・・・うぅっ・・・」
痺れている体で、チラリとマハトロースの顔を確認する正義。互いの目と目が合うと、マハトロースは叫んだ。
「ちっ・・・がぁぁぁーーーーーーーーうッ!!確かにこいつは『転生体』だが、あのお方が求めている『チート・チルドレン』なんかじゃあないッ!!」
「グェェェ?」
彼の言葉に、首を傾げるモノガーン。何で自分の主人が騒いでいるのか、分からないようだ。
「ま・・・またお前か。トレハロース・・・」
「マハトロースだ!!」
正義の発言に、素早く反応するマハトロース。その後すぐに落ち着いて、
「・・・まあ、良い。『チート・チルドレン』じゃあなくても、何かの足しにはなるだろ。動植物園の時、『クリエイター』でも『チート・チルドレン』でもない『妙な力』を使っていたしな。だが、あのお方が求めているのは、あくまで『チート・チルドレン』!!もう一人『転生体』を捕まえて来い、モノガーン・グレートホーク!!」
と、モノガーンに命令を出した。
するとその時ッ!!
「そうはさせるか。」
流離の竜騎士の声が聞こえた。
「何ィッ!?」
声のした方に振り向くマハトロース。するとそこには、竜騎士が木の枝の上に立っていた。
「『卒園式』とは、園児たちの成長をみんなで祝福し、彼等を次のステップへと上がらせる為の大切な式典。それをぶち壊し、台無しにするような輩は、この私が許さない。」
「竜騎士!!」
正義が彼の方を見て、名前を叫ぶ。
すると竜騎士は、
「無事だったか、正義。」
と、ホッとしたような笑みで彼を見た。実際には『無事』と呼べるか怪しいものだが、あまり細かい事を言うと話が進まないので、突っ込まないようにしておこう。そんな竜騎士をマハトロースが憎しみを込めて睨む。
「き、ききき・・・貴様ァ~、またしてもッ!!一体何の恨みがあって、いつもいつも邪魔をするんだ!!」
彼のその言葉に、竜騎士は冷たく返す。
「お前が悪い事をしているからさ。」
「ぐぎぎぃ~~~!!いっちょ前に格好付けやがって・・・・・・モノガーン・グレートホーク!!まずはあの男を始末しろ!!」
「モノグェァアァァーーーーーーーッ!!」
マハトロースの指示で、モノガーンが口を開く。するとその中に光が吸い込まれるように集まり、数秒後には竜騎士目掛けて、見るからに威力が高そうな太い光線が放たれた。
「何・・・ッ!?」
「ド・・・竜騎士ォォォーーーーーーーーーッ!!」
竜騎士が立っていた木どころか、その周辺の木々がモノガーンの光線によって破壊される。光線自体が太いので、攻撃範囲もその分広いのだ。
これならさすがにかわせないだろうと思ったマハトロースは、
「ハハハハハ!!いいぞ、モノガーン・グレートホーク。そのまま奴を骨ごと滅してしまえ。」
と、すっかりご機嫌になった。邪魔者が消えるのはとても気分が良い事なのだろう。
やがてモノガーンの光線が止み、竜騎士がいた場所を確認してみると、そこはまるで蓋を開けたばかりのアイスクリームをスプーンですくったかのように、地面がえぐれていた。生えていた木々は光線で灰になったのか、一本も残っていない。
「ふぅ~・・・これで邪魔者は消えた。」
目の前の光景を見て、勝手に竜騎士が死んだと思い込むマハトロース。しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「残念だったな。」
「!?」
急に聞き覚えのある声が背後から聞こえてきたので、驚いた顔で振り返るとそこには・・・・・・
「竜騎士!!」
ついさっきモノガーンの光線でやられた筈の竜騎士が、無傷の状態でマハトロースの背後に生えていた木の枝に立っていた。どうやらあの光線は彼に当たらず、ただ単に土地を荒らしただけだったようだ。
「こ、こいつ・・・いつの間に私達の背後に・・・!?ええい、構うものか。モノガーン・グレートホーク!!」
「グェァアッ!!」
さっきのが当たっていないのなら、また光線を吐いて当てればいいだけの事。モノガーンは、光線発射の準備に入った。
ところが、
「・・・ゲホッ、ゲホッ!!」
「!? どうした、モノガーン・グレートホーク!!」
光を溜める前に、唾が気管に入った人間のように、咳込んでしまった。その口からは、黒い煙が出ている。これを見た竜騎士は、困惑するマハトロースにこう言った。
「さっきので、光線のエネルギーを全部出し尽くしたんだよ。駄目じゃないか、ペットに無理させちゃ。」
「何ィ!?・・・チッ。」
それを聞き、マハトロースがモノガーンの方を見て、舌打ちをする。大方、『使えねえー』とでも思ったのだろう。モンスターに同情してしまう瞬間だった。
「だが、こちらにとっては好都合。申し訳ないが、このまま終わりにさせてもらうッ!!」
剣を抜き、一気に攻める竜騎士。狙いはモノガーンの目ん玉。そこを真っ二つしに掛かる。マハトロースもそれが分かったので、
「させるか!!モノガーン・グレートホーク!!」
「モノグェァアァァーーーーーーーッ!!」
急いでモノガーンを鉄塔より少し高い位置まで飛ばさせた。成程、空中なら竜騎士の剣は届かない。それに例え彼が斬撃を飛ばすような技を持っていたとしても、距離が離れていればいくらでも対処のしようがある。
マハトロースは、ニヤリと口角を上げた。
「へッ、飛んでしまえばこっちのもんだ。このまま光線のエネルギーが溜まるまで、飛び続けろ!!」
「グェアッ!!」
「どうだ、これで手も足も・・・」
そう言って、チラリと竜騎士の方を見る。彼が悔しそうにしている顔を拝んでやろうと思ったのだ。
しかし、その期待は大いに外れる事となる。
「・・・『翼竜・跳躍脚』。」
「え?」
竜騎士がグッと両脚に力を入れ、膝を曲げる。そして次の瞬間、
「なっ・・・何ィィィーーーーーーーーーーッ!?」
天高く跳躍した!!その勢いはとどまる事を知らず、どんどん空中を飛んでいるモノガーンに近づいていっている。一刀両断されるのも時間の問題だ。
「じょ、上昇しろモノガーン・グレートホーク!!そして、そこから風を起こし、奴を吹き飛ばすんだ!!」
「モノグェァアァァーーーーーーーッ!!」
マハトロースの指示で、更に上昇するモノガーン。その位置からバッサバッサと、大きな翼で風を起こした。
「むぅ・・・ッ!!」
さすがに空中では成す術も無い竜騎士。そのまま地面に叩き付けられた。
「よし!!良いぞ、モノガーン・グレートホーク。奴がまた高く跳んだら、同じのを見舞ってやれ。」
「グェアァ!!」
マハトロースの言葉に返事をするように、モノガーンが空中を旋回しながら鳴き声を上げる。光線のエネルギーは、まだ溜まってないようだ。
「ド・・・竜騎士!!」
地面に叩き付けられた竜騎士に声を掛ける正義。体が痺れてさえいなければ、駆け寄って行くのだろうが、今の彼にそれは出来ない。
竜騎士はぐぐっと体を起こした。
「ぐっ・・・さすがに無理か。だったら・・・」
その時、空中でキラッと何かが光る。
そして、それから間もなく、
「グギャッ!!」
大きなプテラノドンが、上からモノガーンに体当たりをかました。サイズがどっこいどっこいなので、ここだけ見るとまるで『怪獣映画』のワンシーンである。
「グェッ・・・ゲェアァァァーーーーーーーーッ!!」
不意を突かれたモノガーン、そのままプテラノドンに押し込まれ、地面に叩き付けられた。
「・・・地上に落とすまでだ。」
そう言うと竜騎士は立ち上がり、倒れているモノガーンに近付く。
「残念だが、これで『終わり』だ。」
「グ・・・グェアァァ・・・」
起き上がろうとするモノガーンに剣を向け、そいつの目玉を左下から右斜め上(要するに『/』)に斬る。例によって、モノガーンは断末魔を上げながら粘土に戻っていった。
こうして、一人になってしまったマハトロースは、数歩後ろに下がりながら、
「そ、そんなの有りかよ!?大体、何だその翼竜は!?」
と、竜騎士の傍に着地したプテラノドンを指差して言った。
「こいつか?こいつは私の・・・」
すると、プテラノドンの体が光に包まれ、鸚鵡ぐらいのサイズに縮小する。そして、そいつが竜騎士の右肩にちょこんと乗ってから、
「・・・相棒さ。」
と、紹介した。
「(何ィ・・・相棒!?)」
「さて、お前の作ったモンスターは死んだ。この後はどうする?・・・私とサシで勝負するか?」
「ぐっ・・・」
逃げ腰のマハトロースが、更に一歩下がる。ここで逃げれば、また失敗した事になり、余計組織内での自分の立場が危うくなる。しかし、だからと言って、目の前の竜騎士をモンスター無しで勝てる程、彼個人の戦闘能力は高くない。向かうも地獄、退くも地獄といった状況の中、彼が選んだのは・・・・・・
「せっかくだが、ここは遠慮させてもらう。私は見ての通り、『武闘派』のクリエイターじゃあないんでね。」
『退く』方だった。もう一回モンスターを造ってから出直した方が良いと考えたのだろう。マハトロースは、すぐに姿を消した。
「立てるか?正義。」
そう言って、そっと正義に手を差し伸べる竜騎士。正義はその手を握ると、彼にアシストしてもらいながら何とか立ち上がった。その姿、まるで産まれたての小鹿である。彼は衣類に付いた土を軽く叩き落とすと、竜騎士にこう言った。
「ふう、有り難うございます。・・・それより、さっき思いっきり地面に叩き付けられてましたけど、大丈夫なんですか?」
すると竜騎士は、その言葉に微笑んで返した。
「心配ご無用。私は他人より頑丈に出来ているから、あれぐらい大した事ない。・・・それより、ガクガクじゃあないか。私が背負って、幼稚園まで送っていこう。」
「な、何もそこまで・・・うおぅッ!?」
彼の申し出を断ろうとした瞬間、急に正義の右膝がカクンと曲がり、崩れる感じに倒れそうになる。しかし、竜騎士が咄嗟に腕を使って彼の体を支えてくれたので、地面に付く事は無かった。
これにより、自分の足で卒園式の会場まで歩く事は不可能と思った正義は、
「・・・幼稚園の近くまでお願いします。」
と、竜騎士の申し出を有り難く受け入れる事にした。
ここだけの話、竜騎士におんぶしてもらっていた時の正義は、顔を赤くして凄く恥ずかしそうだった。まあ、見た目は幼い子供だが、中身は『高校生』という多感なお年頃のままなので、そういう反応をしてしまうのも無理は無い。
そして、それと同時にどこか懐かしさも感じた。丁度今ぐらいの歳の頃、父親におんぶしてもらった事があったからだ。今まで忘れていたが、竜騎士におんぶしてもらった事によって、蘇って来たのだろう。ふとした瞬間に昔の事を思い出すというのは、よくある事である。
それはさておき、モノガーンのせいで滅茶苦茶になった『卒園式』は、正義が戻ってすぐに近くの市民グラウンドで仕切り直した。せっかくの子供達の晴れの門出、中途半端に終わらせる訳にはいかないと判断したのだろう。当初の予定よりかなり簡易的ではあったが、何事も無く終わらせる事が出来た。
さて、これで来月から正義も小学生。これから先、彼は一体どんなことを経験し、成長するのか。それはまだ誰も知らない。
「あのプテラノドンめ・・・あいつさえいなければ、私の勝ちだったのに・・・」
ここは正義の幼稚園から少し離れた場所にある山の中。そこの地面に魔法陣を木の枝で描いたマハトロースは、いつものように材料をその上に並べていた。
「クソッ、このまま終わってたまるか。すぐに新しいモノガーンを造って・・・」
「いいや、これで終ぇーだよ。おめぇーはな。」
「何ィ!?」
突然背後から聞こえて来た男の声に、彼が振り向く。
すると次の瞬間、
「き、貴様はッ!?」
声を掛けて来た奴に、顔を右手でガッチリと掴まれた。その五本の指には、オレンジ色の『指サック』のような物が装着されている。そいつは握力が強いらしく、マハトロースが必死に顔から右手を離そうとしても離れない。寧ろ、そうすればする程、より強く顔を掴んで来る。
謎の男は、必死に抵抗する彼にこう言った。
「クライアントからの『解雇通告』だ。恨むんなら、仕事の出来ねえーてめぇーの『無能さ』を恨むこった。」
「なッ!?・・・うわあああああああああああああああ!!」
彼のはめている五つの『指サック』から、電気のようなバチバチとしたものが流れる。それをまともに喰らったマハトロースは、白目になって気を失った。
「・・・『記憶の削除』完了。さて、串カツでも食いに行くか。」
謎の男は、そう言って気絶したマハトロースをその場に投げ捨てると、お目当ての『串カツ』を食べに山を下りた。
次回、小学生篇 開幕。




