第5話
部屋の外が騒がしい。何か事件でも起きたのだろうか。それとも私が何かやらかしたか。
恐らくは後者なのだろう。『神殿』とかいう宗教的に超デリケートな空間において『加護』などというスキルを晒してしまっては、「謎の存在の庇護下にあります」と自己申告しているようなものだ。
現に担当者くんさんも私とスキル欄の辺りを交互に見比べては「えっ!? ……えっ!??」と叫んでいるし。怒鳴り声が聞こえたのも私のステータスウィンドウが表示された直後だし。真実はいつもひとつなのだ。
そんな馬鹿なことを考えていれば、バタン! と部屋の扉が開かれた。
「しっ……神殿長!?」
担当者くんさんが驚いた声を上げる。なるほどこの人が神殿長なのか。見たところまだ50代後半くらいで、白髪混じりのダンディーなおじ様だ。
「セメドリク家ご令嬢、アイリーカ・セメドリク様とお見受けする。私にご同行願えますかな?」
ぞろぞろと杖を持った人達が部屋に入ってくる。屋内でわざわざ魔法の行使に使う杖を持つ意味が分からない程私は子供でも無知でもなかったし、そこまで愚かでもなかった。
7歳の無力な少女である私には、大人しくついて行く以外に選択肢はなかったのだ。
別室――もとい地下室に案内された私は、椅子に座るように促された。石造りの部屋の中にある椅子と言えば、およそ荘厳な神殿に見合うようなものでもない、平民が使うような木製の椅子だったが。
向かい側には神殿長が座った。部下と思しき人に椅子を引かれて、さも当然に腰掛ける。
椅子を引いた部下はそのまま部屋のドアを陣取るようにして控えた。もちろん杖を持ちながら。
「さて、いくつか質問があるのですがよろしいかな」
「……はい、何なりとどうぞ」
「では遠慮なく。まず第一に……そうさな、これまで何か――不思議な経験はお持ちで? 例えば、知らない誰かに何かを与えられるというような」
「…………夢の、中でなら。初対面のお爺さんに、その――額を指で弾かれた、ということは覚えています。こう、ぺちっと。つい先日の夢ですが」
ひとまず、半分だけ真実を話しておく。下手なことを言って私が転生者だとバレたら大変そうだし。
「その老人は、どのような姿をしておられたのかな?」
「えっ? ……そうですね、髪もお髭も真っ白なおじいさんでした。腰は曲がっていませんでしたよ。お洋服も上質なものをお召しになられていました」
これは素直に答えられる。ハリーホ〇ッター
の校長先生みたいなお髭をしていた覚えがある。
「ふむ……では次に、アイリーカ・セメドリク様。貴女は――これまで、魔法を使ったことはありますかな?」
「いいえ、ありません。この度の鑑定で適性を見てから家庭教師をつけてもらう予定でしたので……」
「なるほど、それを聞いて安心しました」
そう言うと神殿長さんは立ち上がり、コツリコツリと足音を響かせながらこちらに近づいてくる。
「どういう……ことですか?」
「――貴女には、スタリク神に仕える巫女になって頂く必要があるからですよ。限りなく極秘に、ですがね」
予定の3倍くらいきな臭いんですよね