ステラとの出会い
結局、名誉騎士として受勲したところで、過去のループと同じ破滅の結末を辿るだけだった。
だから俺は、迎えが来る前に逃げるように町を飛び出したのだった。
街道を外れ、鬱蒼とした森の中を進む。
頭をよぎるのは、どうすればこの強制的な成り上がりから逃れられるかという問いだった。
前科を作る程度の悪事では、世界の修正力が働いて勝手に美談にされてしまう。
ならば、もう直接人を殺めるような、取り返しのつかない大罪を犯す以外の選択肢はないのだろうか。
しかし、元サラリーマンとしての倫理観が邪魔をして、明確な結論は出ないままだった。
日が落ち、その日は森の開けた場所で野営をすることにしたのだった。
火を起こし、一息つこうとしたその時だった。
「――きゃああああっ!」
静寂を切り裂くように、森の奥から悲鳴が響き渡った。
気になった俺は、すぐさま声のした方へと様子を見に向かったのだった。
♦︎
そこには、一人の少女がいた。
薄汚れた服を着た彼女に迫り来るのは、醜悪な顔をした一匹のゴブリンだった。
完全に追い詰められ、危機的な状況だった。
俺は躊躇することなく、足元の小石を拾い上げて指で弾いた。
ただそれだけで小石は、ゴブリンの頭部をあっさりと粉砕した。
圧倒的な強さを見せつける、一撃の制圧だった。
「あ……え……?」
突然の出来事に、少女はへたり込んだまま目を丸くしていた。
やがて自分が助けられたのだと理解したのだろう。ホッと安堵の表情を浮かべた。
「あ、ありがとうございます……助けて、いただい……て……」
しかし、お礼を言う途中で少女は糸が切れたように意識を失い、その場に倒れ込んでしまったのだった。
――そして、1時間後。
「ん……っ」
「気がついたか?」
野営の焚き火の前で、少女はゆっくりと目を覚ました。
俺が差し出した温かいスープを飲み、少し落ち着いたところで、互いに自己紹介をすることにしたのだった。
少女の名はステラ。年齢は15歳。
俺と同じだった。
彼女の境遇は、酷く理不尽なものだった。
この世界では15歳になると教会で『判別の儀』が行われるが、彼女にはいかなるスキルも発現しなかったという。
その結果、「無能」「不吉な存在」と周囲から罵られ、故郷の村から無一文で追い出されてしまったのだという。
「そうか、それは災難だったな」
俺は納得しかけ、そして、強烈な違和感に気がついたのだった。
スキルが発現しないというのも驚きだが、疑問はそこではなかった。
何故、この娘はこんなにも『正常』なのだろうか、と。
この世界には、俺を絶対的な勇者(主人公)として祭り上げるための、強烈な『世界の修正力』が働いている。
本来であれば、俺が危機から救い出した時点で、相手の女性は無理矢理な解釈で俺を好きになってしまうはずだった。
瞳を潤ませ、顔を赤らめ、運命の出会いだと熱烈にすり寄ってくるのが過去99回の『お約束』だった。
しかし、目の前にいるステラは、命の恩人に対する真っ当な感謝と、初対面の相手に対する適度な警戒心を保っている。
ただの普通の女の子としての反応だった。
(もしかして……俺を強制的にモテさせる世界の法則が、この娘には通用していない……?)
何のスキルも持たない、無能と言われた少女。 俺はステラを見つめながら、一つの仮説に行き着いた。
もしかすると彼女は、このふざけたバッドエンドのループを打ち破るための、唯一の『特異点』なのではないか、と考えるのだった。




