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冷凍された真夢  作者: 棺之夜幟
六章
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摩擦を呼ぶ声

 二人は、重なっている。双子の神秘だとか、そんな嘘臭いものではない。事実として、彼等は一種の共鳴をしている。

 日比野は頭を振った。恐らく、違和感が限界を超えたのだろう。ほんの数分、話をしただけでも、あれが無理のある立ち振る舞いであることはわかった。同時に、本来は正反対の性質をしていることも、所々で見られた。自覚があったかは問えない。けれど、今、それらが、ハラヤとの共鳴と、私が要因となって、剥がれ、崩れかけていた。


『白い、少女のような、少年(僕と似たもの)


 日比野のスマホからは、ハラヤの声が続いた。


『ノゾミという名前。幼い頃から知っている。悪意の一つも無い、一言で呼ぶなら、天使のような』


 ハラヤらしくない言葉ばかりだった。およそ人を褒める語彙を持ち合わせないアレが、こんな暖かなことを言えるはずがない。ハラヤは日比野の過去を、何かの形で知ったのだろう。

 ただ、目の前の彼を見るに、それは想定外だったに違いない。


「ハラヤ、君は何を見たんだ。何を知っている」


 ポロリと、日比野がそう吐き出した。


『僕の夢は真実ではなく、過去に則していた。そこまで言えばわかるだろう』


 往復する対話に、終わりが見え始める。当たり障りない方向にあった日比野の目線が、私に向いた。否、もっと、その先。私の工法より近づくシバを見上げていた。


「――――ハラヤ、なあ、それは脅しか」

『いいや、違う。どちらかと言えば、提案に近しい』

「それは相互にメリットがあれば、その通りだろうが」

『なら、僕の言葉に違いはない』


 二人の声を聞いていると、次第に独り芝居を錯覚する。声質は同じ。あるのは高低の違いだけで、口上も近しい。多分、その発想も、きっと、同じ。


『父親殺しをしたくはないか、日比野』


 そんな言葉が出たとしても、不思議なことではなかった。


「父……父親殺し、それは」

『願ってもいないことなんじゃないか。僕が聞いた話を繋げれば、必要なのは近親相姦の末の誕生、食人、その他諸々、外道の理……その中でお前に足りないのは肉親殺しだ。母親は既に僕が殺した。残るのは僕と父さんだけ。なら、僕が提案できるのは一つしかない』


 さらりと、簡単に紡がれる違和感に、少々の吐き気があった。ハラヤの母親殺しという言葉には、整合性があった。基よりそういう性質だ。私は知っていた。七竈ハラヤが、手段としての殺しに、家族に、何の感情も持たないことくらい。


「代わりに、僕は何を用立てれば良い。金か、それとも君の日常か」

『そのどちらも、今となってはどうにでもなる。僕が欲しいのは、機会だ』

「パーティのセッティングは得意だ。言ってみてくれ」


 そんな大それたものじゃない、とハラヤは一言置いて、息を吸った。日比野も、それを受け取るように、熱のこもった空気を飲んだ。


『ノゾミと会わせろ。白く、銀細工のようなアレ(食人鬼)と、現実で、僕は顔を合わせないとならないんだ』


 ハラヤの言葉を聞いた途端、私と日比野は目を合わせた。スマホを降ろして、彼は私の耳元に口を寄せた。


「……匡香ちゃん、ハラヤってこう……他人に関心を持ったことって、ある?」

「私が知る限りは、大して無いけれど……そうね、それこそ、アンタの感覚が、重なってしまっているんじゃないかしら」


 私はノゾミというその男を知らない。けれど、聞く限り、視る限り、日比野にとっては大事な人であることは理解出来た。


『確かめたいことがある。同時に、彼も僕と会おうとしている……気がする』


 どこかストーカー染みた台詞を吐いて、ハラヤは溜息を飲んだ。


『お前が今まで隠した理由も理解できる。アレはお前が人を辞めたかった理由だ』


 彼等が、愛情と呼んだもの。それが、そのノゾミという天使のような人らしい。


「なら一つ、こちらからも提案がある」


 何かを消化しきった様に、日比野はまた、演者のように笑った。


「匡香ちゃんを人質にする。彼女を渡す時、君をノゾミと会わせよう。この娘は君の理由にはならないけれど、君が嫌いな面倒事の一端だろう?」


 それじゃ、と、気軽に言って、彼は地面にスマホを叩きつけた。電子機器が跳ねる。大人しくなったそれを、今度は踵で踏みつけた。何度も、何度も、鮮やかなビーズのような部品が散った。

 私がよろと後ろに退こうとすると、シバに肩を掴まれる。


「今のところは危害を加えない――――多分?」


 首を五度六分傾ける彼は、軽快に離れ始めた日比野の足を見ていた。温かな彼の掌の熱と、背後に上がる煙が混じって、火刑を待つ魔女のそれが、脳を過った。

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