第61話 思わぬ味方
集落へと戻ると最初訪れた時とは魔逆ともいえる待遇を受けてる。
あれだけ警戒していた竜人たちが、俺を見るなり慌てて頭を下げるのだ。
なんだかこっちまで緊張してしまうじゃないか。
ともかく勇者のネームバリューがここじゃ効かなかったのに対し、竜鱗の鎧殻すげえな。
そして全裸の上に鎧って落ち着かないから、実は早いところ服が着たいです。
「ささ、中へ」
フェレンゼーツの丁重な案内に不気味さを覚えながら族長の家へと入っていく。
族長のフェルニゲースは俺を見るなり目を見張り、落ち着いてからゆっくりと口を開いた。
「勇者よ、よく戻ってまいられた。しかも伝説の黒竜の鎧を身に着けてでとは」
詳しく話を聞くと、どうやら黒い竜が悪しき竜を滅ぼしたという伝説があるそうだ。
竜神バハムートのことではなく、そのお供だとか仲間だとか説がいろいろあるらしい。
とりあえずそんな黒い竜の鎧を身にまとってる俺は、一転してドラゴニュートたちから畏敬される存在になってしまったとのことだ。
「今まで試すようなことをして申し訳なかった。
変異の元凶たるファヴニール退治も誠にありがたい。
これほどの物しか出せぬが気の済むまで召し上がってくれ」
そうフェルニゲースが言うなりごちそうが出てきた、と同時に切り崩していく狼が一匹。
シャーリーさん、はええっすよ……。
「シャーリー! 行儀がなってません!」
「ふぁふぃふぃふぇふぁふぇふぁ」
「食べながら喋るなアホ犬!」
さすがにこれは酷いので俺も心を鬼にして口を出さねばなるまい。
「シャーリー、今度の手合わせ無しな」
「ふぁぁ!?」
がっくりとうなだれるシャーリー。
俺が新しい――それも強そうな――能力を手に入れたのだから力比べしたくて仕方が無かったはずだ。
「クロウ、夜のもか?」
「ごべぇ」
思わぬ反撃を食らった、パーティメンバー以外の人がいる前で言うのはさすがにやめてくれよ……。
「ははは、勇者殿は夜もお強いようで」
フェルニゲースさん、メリュセジーナさんとスピィンドーラさんたち女性陣が冷めた目で見てますよ。
さてドラゴニュートたちだが共にガルニアと戦ってくれることを明言してくれた。
ファヴニール退治で強さの保証もできたし、何より〈竜鱗の鎧殻〉が信用を一気に得るのに買ってくれたのが嬉しい誤算だった。
「フェレンゼーツ含めた若者半数を送ろう、ここの心配は要らぬぞ。不届き者はワシが返り討ちにしてくれよう」
聞けばフェルニゲースさんは戦略のプロだというから、村を守る若者が減っても安心らしい。
そしてフェレンゼーツはスピィンドーラと離れ離れになるのが嫌なのかそわそわしている。
それを見たフェルニゲースはため息をついて提案し出した。
「見事戦果を得られたならスピィンドーラとの結婚を認めよう」
「本当ですか長!!」
浮かれるフェレンゼーツであったがそれも一瞬のみ、フェルニゲースの鋭い眼光が光る。
「婿入りして、次代の族長としての教育を受けてもらうぞ」
「うげっ」
どうやら勉強嫌いなようで。
彼が族長になるには時間がかかりそうだ。
さてドラゴニュート達は後から来るというので島亀に乗って大陸に戻ることにする。
イリュリアも首を長くして待っているだろうしな。
あ、着る物はドラゴニュート達から頂きました。ほんとに助かった。
「敵襲!!」
アンナの掛け声で俺らも見送ろうとしてたドラゴニュートたちも一気に緊張する。
大地の震動も、海の波間にも変化が見られないなら残るは空のみだ。
「飛竜対陣列を組め!!」
フェレンゼーツが慌しく号令を敷き、ドラゴニュートたちが死角のないよう円陣を組む。
ぐるぐる回っていたワイバーンが急降下――と思いきや、すんなりと丁寧に降りてくるではないか。
一体なんだ?
「グウウウウウウ」
初めて聞く穏やかな唸り声を聞かせたかと思いきや、頭を垂れるワイバーン。
「もしかして……」
「調伏状態ね……」
アンナに恐る恐る聞けば、やはり調伏状態にあるという。
「なんだよ! 戦闘じゃないのかよ!」
シャーリーのやる気ゲージが削がれましたね。
「邪竜を倒した影響ですかね?」
エリザが最もらしい意見を出してくれる。というかそれ以外考えられないな。
「クロウ様はワイバーンすら手なずけるのね……」
最近余裕が無くなってきてますよ、グレースさん。
「どちらかというとクロウ……さんを恐れていますね」
フェレンゼーツ曰くビビってるらしい。
「というかワイバーンと心通わせられるのか、フェレンゼーツ」
「亜竜も元は竜ですから何となくなら」
よし決めた。
「フェレンゼーツ、こいつは任せた」
「ええっ!?」
「アンナですら心を通じさせるのは無理そうだからな」
アンナの方を見やれば首を横に振っている。亜竜は賊妖精の範囲外ということだ。
とりあえず何となくでも状態が分かるドラゴニュートたちに任せよう。
ドラゴニュートたちを襲わないよう言いつけたり、フェレンゼーツがおっかなびっくり触っても大丈夫だったから平気そうだ。
アスピドケロンに乗って距離を離しても襲うことはなかった。
もし問題が起きてたら泳いで戻らなきゃいけなかったな。
そして途中、海竜が数匹出てきたが、邪竜なんて格上に勝った俺らの敵ではなかった。
細切れにして魚の餌にしておいてやった。
シーサーペントは調伏されないみたいだ、ドラゴニュートたちに蛇竜とか呼ばれてたのに関係があるのかな?
ローレライの集落に到着した。行き程の魔物との遭遇には見舞われなく、無事にたどり着くことが出来た。
「クロウ!」
待ち構えていたイリュリアが飛び込んでくる、背後からは女性陣の冷たい視線が突き刺さってくる……。
「……無事でよかった」
「危ない時もあったけど切り抜けて帰ってきたぞ」
首を切り離されるという、普通なら死ぬ体験してきたけどな。
「……すぐに引越しできるけどどうする?」
「一晩休んでいこうかな。ピテュエスとニコトエアとも話したいし」
「勇者殿、壮健そうで何よりだ」
「娘を託すのに更に相応しい雰囲気になられたな」
ニコトエア達との久々の会話では特段差し迫った情報は無かった。
しかし蹄人達の動きが更に怪しくなってきたので急いだ方がいいとのことだ。
一晩だけ泊まり、イリュリアと語り明かす。他の女性陣の嫉妬メーターが上がっていたので後で個別に対応しなきゃな……。
彼女との話は主に音楽のことで、俺はちっとも詳しくないのだが聞いていて新鮮な気持ちになれた。
「……クロウ、自由に歌えないけど私クロウのために歌う」
「イリュリア……」
会話が途切れ、沈黙をあえて楽しんでる最中のイリュリアの宣言。
それは呪歌を俺のために、果ては戦場で歌い上げる覚悟を示すものだった。
「イリュリアはお姫様みたいなもんだろ? 俺は心配――」
「他の女に負けたくない」
だからゆっくりしていて夜にお相手してくれればいいよゲヘヘ、と言おうとしたんだが。いやさすがに最後の下衆な笑いはしませんよ?
どうやら他の婚約者との競争に負けないためにも戦いで役に立ちたいらしく、目に闘志をめらめら燃やしていた。
こりゃご両親に伺って止めてもらったほうがよろしそうだな……。
「「駄目だ」」
朝一番、引越しの前の挨拶だけでなく会話の時間を長くとってもらい、イリュリアの口から要望が出た瞬間ニコトエアたちは反対した。
そらそうだ、彼らは可愛い娘を戦場に身を投じさせるような種族ではないのだから。
好戦的な人狼のリューカオーさんでさえ娘の扱いに困っていたし。
「護衛をきっちりつけて後方支援ってのはどうだろう」
親子喧嘩が終わらなくて、いつまでたっても出発できなさそうなので妥協案を出してみる。
というか実のところイリュリアが歌う機会に関して俺は彼女の意思を最初から肯定するつもりだった。
覚悟を試すつもりで聞き返し、この妥協案についてはすでにエリックに仕事を任せるため手紙を飛ばし済みである。
「うーむしかし……」
ピテュエスはお腹を痛めて産んだ子であるイリュリアが心配でしょうがないようだ。
俺だって戦闘に出てもらってはいるが、メリーにもしもの何かがあったら取り乱すだろう。
彼女は母親なのだから、俺には想像できないほどの心配になっているのではないだろうか。
「ピテュエスよ、イリュリアをこれ以上悲しませたくないのも事実だろう」
「う、うむ」
ニコトエアとしては歌って彼女に元気で居てもらいたい、そのために護衛月出戦場に出るのなら認めようといったスタンスのようだ。
「イリュリアよ、認めよう。しかし周りの意見はしっかり聞くのだぞ」
「かあさま!」
なんとか二人の許可をもらえたイリュリアはそれはもう嬉しそうだった。
ピテュエスもそんな娘の姿が映った瞳には涙がほんのりと零れかかっている。
「イリュリア、危ないことはしないよう」
「勇者殿よ、イリュリアを頼んだぞ!!」
遂にブラドの館へ出発する時間になった。
俺らにとっては帰宅、グレースとイリュリアにとっては新たな地への旅立ちだ。
馬車に繋がれた夢馬のユメもずいぶん待たされて暇だったからか、やる気に満ちている。
ドラゴニュート達もフェレンゼーツを含め揃っている。
調伏したワイバーンが飛来し、鳥人達がパニックになって治めるのが大変だった。
安全だと分かると全員が囲んで物珍しそうに観察していた。
「かあさま、とうさま、みんな! 行ってきます!」
イリュリアの挨拶を機にユメがゆっくりと動き出す。
さて次はタウロス達との戦いが待っているだろう、その準備をしなくちゃならない。




