第60話 邪竜ファヴニール(2)
お待たせしました。
色々なことでパンクして心身休めてる状態です。
切り離された胴体を見下ろす。
もはや痛みを感じることは無い。
帝国打倒と魔王退治を達せないまま終わってしまうことを受け入れるしかないのだろうか。
仲間達の顔が浮かぶ。
ブラドの館の住人であるマックス、レリーチェ、ジャスティン&ハイド、アルフォンス、エリック、ジャック。
北の遠征で味方に加わったシンフィー、リューカオー、アンガートゥール、ヘルヴォール。
生きて無くてもずっとボディガードになってくれているアルヴィナ。
まだ何か隠してはいるが、妖艶で知恵も男の大好きな場所も豊富なグレース。
実の父のように慕ってくれる闇の精霊のメリー。
呪われた声でも大好きな歌をうたいたいイリュリア。
まるで母親のように気配りに長け、普段の刺々しい態度とは裏腹に甘えん坊なアンナ。
冷静に物事を捉え、考え、適切な方向性を見出し、怪しく微笑みながら俺を支えるエリザ。
言葉も行動もストレートなお馬鹿に見えて野生の勘と思考を巡らし、俺の言うことを信じてくれるシャーリー。
ふざけるな。
ここで終わるのか、黒森朝太。
彼女達を置いていっていいのか!?
帝国を野放しにしていいのか!?
魔王に世界を滅ぼさせていいのか!?
突如脳に痛みが走り、まるで神経が悲鳴――いや、産声をあげるかのように脈動する。
ホルモンが分泌されているのか血が流れているのか分からないが、どくんどくんという感触が頭部を支配する。
「まさか……〈永久再生〉!?」
エリザの声を聞き、合点がいった。
九頭竜ヒュドラのマナによって得た能力がこんな状態でも発動している。
そう、たとえこの身が生首だけになったとしても!!
「うおおおおおおおおおおお!!」
猛る炎が再び己の内に灯る。
死にたくない――生きたい。
まだ死ねない――生きなければいけない!
脊髄から骨格が再生され、内臓が、肉が、順々に新しく形成される。
艶やかでいて、首をはね飛ばされる前の筋肉質な肉体が完全復活した。
『なんという再生力だ……』
ファヴニールは驚愕していた。
そりゃそうだ、首をはねられれば一般人のみならず歴代の勇者ですら即死する。
だが俺は違った、俺固有の能力であるマナの吸収能力でヒュドラの再生力を受け継いでいる!
「仕切り直しだ」
俺は真新しい足で着地した。
「クロウ、無理はしないで」
そう言うアンナを見やると彼女は涙を流していた。
俺が死んだと思って泣いているのだろう。
「大丈夫だ、でもいつも通り援護してくれ」
そう返すと彼女は力強く頷いた。
アンナのクロスボウの腕ほど信頼できるものは数少ない。
「クロウさん、私が皆の指示と邪竜の妨害をしましょう」
エリザが動揺を抑えながら言う。
戦況を見極めて周りに指示を出し、あまつさえ奴の動きを氷の魔術で封じにかかってくれるのはたいへんありがたい。
「撹乱はアタシに任せろ!」
シャーリーは持ち前のスピードと戦闘センスで引っ掻き回してくれるとの事。
戦いの回数を重ねているため、俺らの邪魔になるようなことはしないはずだ。
「……傷は私が癒すわ」
水魔術でグレースは回復役に回ってくれる。グレースは水属性が得意なはずなのに何でか氷の魔術しか使わないから治癒魔術が使える彼女を優先的に守らなければ。
「援護は任せてパパ!」
「…………」
メリーとアルヴィナは俺の動きを熟知しているのか、非常にありがたいカバーをしてくれる。
〈永久再生〉の能力といい、負ける気がしない!!
ファヴニールに向かって走り出す。
すれ違い様に横っ腹を切り、唸るように下ろされる尾を避ける。
シャーリー達も順次攻撃を加えていく。
奴が彼女らの攻撃には程ほどに対応しているのを見ると、俺を驚異としているのがよく分かる。
そして俺に専念しすぎると撹乱攻撃が直撃する。数の暴力は偉大ってことだ。
邪竜の口から紫色の炎が燻り出す。
「〈獄炎の吐息〉――」
俺も負けじと地獄の炎を放つ。
毒ガスごと奴の炎を打ち消していく!
互いの攻撃が交差していく。
避けて、防いで、カウンター。
邪竜の体に細やかな傷が蓄積していく。
〈永久再生〉で体力も回復したのか、疲れがとれてスッキリした体で驚くほど動ける。
「ふんっ!!」
奴の丸太よりも太い前足による攻撃を勇者の剣で受け止める。
どう見ても折れそうな細さでもそうならない。さすが勇者の剣。
『ぐうっ』
俺とファヴニールの力が拮抗してる間に魔術魔法矢斬撃の雨あられが降り注ぐ。
俺の勇者の剣による攻撃に比べれば邪竜にとって塵に等しい個々の力。
だがそれが重なるなら話は別だ、塵は積もれば山となる。
それなりのダメージが重なることで一瞬の隙が生まれた。
「凍て付く氷河よ、怨敵を封じ込め――〈氷河の寒獄〉」
エリザの氷魔術が炸裂。
奴の足が僅かに緩む。
「〈破滅の厳冬〉!!」
終わりを告げる冷気がファヴニールの表面を霜焼けにした。
たかが霜焼け、さえど霜焼け。一瞬だけ奴の動きが完全に止まる。
俺はこの隙を逃さまいと最速で動く。
狙うは額。
止めを刺す絶好のチャンスだ。
脚に力を入れて跳躍。
ファヴニールの目が驚愕の色を浮かべて見開く。
まるで映像をスロー再生しているかのように目に映る景色が流れていく。
勇者の剣が奴の脳天を突き刺した。
声にならない苦しそうな呼吸音を立ててファヴニールの身体が傾く。
俺は倒れる前に離脱。
大地を響かせながら邪竜の身体が地に伏した。
普通だったら致命傷レベルを喰らいながらも伝説の竜を倒したのだ。
各能力を使ったおかげで魔力が空っぽ寸前だ。
『さすがだ……』
ファヴニールは最期の力を振り絞るように唸った。
「どういう意味だ?」
『あなたが最後の勇者ということだ』
言い切った邪竜は息絶え、マナへと変わり俺の中へと吸い込まれる。
何やら意味深なことを言うだけ言って、逝ってしまった。
謎が深まるばかりで頭が痛くなってきた。
「パパー!」
「「クロウ!」」
「クロウさん!」
メリーと婚約者ズが駆け寄ってくる。
「ああ、俺なら大丈夫――」
「な、何見せてるの下隠して!!」
「何か着るものを!!」
「パパのへんたいーーー!!」
げっ!!
〈永久再生〉じゃ服は再生されないのか!
元の胴体から脱がして着るしかない。
「クロウ様の胴体、邪竜に踏みつぶされて服も着れる状態じゃないわ」
と、グレースがミンチ状態の俺の身体を見ながら言う。
よく直視できるな……というか彼女だけが何故か俺の下半身を見ないようにしてないか?
とりあえず手で隠す。
さすがに竜人の集落に素っ裸で戻るわけにはいかない。
「パパ、能力は?」
メリーが空気を読まずにいつものタイムをお待ちである。
というかアナタさっき俺を変態呼ばわりしたよね、地味に傷ついたんだからね……。
女性陣が自らの服で俺の服を作れないかあーだこーだしてるのに割り込めないし、やれることが特に見当たらないから試しにやってみるか。
意識を集中する。
邪竜ファヴニールのマナは雄雄しく、力強くコントロールが少々難しい。
だが俺は問題なくその能力を顕現させた。
驚く事に体が竜の甲殻で覆われていく。
黒く鋭角的な、それこそ鎧が身を包んでいく。
最後に目の部分に穴が空き、それこそ竜の口のような開け閉めできる部分がついた兜が頭部を覆った。
「すごーい!」
「「「…………」」」
メリーは大喜び、他の女性陣は呆然としていた。
俺だってビックリですよこれは。
「さ、触ってもいいですかクロウさん」
「お、おう。刺々しいから気をつけろよ」
エリザが慎重に指を這わせて材質を確認していく。
できれば裸の付き合いの時にやってほしいな、なんて邪念が頭部を支配しかけるが今は真面目に考証中なので振り払う。
「す、すごいです。間違いなくドラゴンの甲殻のそれです」
「わ、私も触っていいわよねクロウ様……」
「ちょ、ちょっと私も触るわ!!」
「アタシも触るぞー!!」
「メリーも!メリーも!」
だああああああああああああ!! おしくらまんじゅう状態じゃねーか!!
後やっぱりこういうのは裸で――邪念を察知したアンナに睨まれた。
「とりあえず服の問題は回復したわね」
「クロウさん、維持はどれくらいまで出来そうですか?」
我がパーティの頭脳双璧、グレースとエリザが喧嘩抜きにあれこれ考え込んでいる。
「!?」
「ど、どうしたのクロウ!」
「ま、まさか維持できなくなって裸になりそうなの!?」
アンナが俺の驚愕に機敏に察知し、グレースが顔を赤くして手のひらで目を覆おうとする。
なんか初心っぽい反応見せてるけど、グレースは一体どうしたんだ。
「これ多分ずっと維持出来る」
「「「え」」」
全員で固まった。
そりゃそうだ。こんな強そうな鎧の能力がどいういう理屈か分からないけど、意識すれば永久に顕現させられるんですよ。
チートがさらに拍車をかけていくなあ。
「これで帝国も怖くねーな!!」
シャーリーは夫となる俺が更に強くなると大喜びしている。
うん、素直に喜べる彼女が羨ましい。
「念のため濫用は禁物ですよ」
「ああ」
エリザから注意を受けながら彼女の目線から意を汲み伝心念話〉を展開する。
(魔女のあの反応、何かあります)
(そうだな)
(ふふふ……弱みを握ればこっちのもの……)
黒い、黒いよエリザさん!!
俺が目を僅かに細めると、こほんと咳をつく。
良かった、いつもの冷静沈着なエリザに――駄目だ、一瞬ニヤついた。
「パパ!!」
「名前付けといきますか」
エリザの改心を諦めていると、メリーがぴょんぴょんと跳ねながら名前付けを要求してきた。
ドラゴンの鎧というだけあってすんなりとこれだ! というワードが脳内に浮かび上がってくる。
「〈竜鱗の鎧殻〉」
俺がそう言うとメリーがぱちぱちと拍手してくれた。
変態発言の傷が癒されたような気がしてきた……あれ、俺ってチョロくて甘くないか?
「クロウ様、私との婚約の件ですが」
グレースがいつもの何か感じさせるスマイルでくっ付いてきた。
いつもより密着度が高いけど、あいにくと幸せな感触は鎧で遮られる。
「鎧で痛いだろうから離れた方がいいだろう」
「お優しい……私を想ってくれているのですね」
気遣ったら変な風にとられた。
そして女性陣の視線が刺さる刺さる。
〈竜鱗の鎧殻〉を顕現してても精神ダメージは遮られない。
「それは……」
「駄目なのですか!? ここまで尽くしてきたのに!!」
いくら打算があろうと、彼女の尽力無しではここまで至られなかったのは確かだ。
(彼女の抱える何かには注意が必要ですが、婚約については反対しません)
(エリザ!!)
(――いざとなったら婚約破棄すればいいのですよ)
(さすがエリザ!! 頭いいな!!)
婚約者勢はエリザの論理を元に渋々了承してくれた。
さすがに駄目とは言えない立場まで追い込まれた。
決して豊満な胸に敗北したのではない、決して。
「まあ婚約なら……」
「してくれるのですね!! 長い時を得て女としての幸せがようやく得られるのですね!!」
グレースは大喜びだ。これが演技でないなら心を痛めるところだが、やはりどこか違和感がある。
グレースとの婚約締結の後、洞窟の入り口へと戻る。
フェレンゼーツが俺の鎧姿を見て腰を抜かしたと思えば、片膝をついた。
……ただでさえ疑問が増えていくというのに、フェレンゼーツお前もか。
「で、伝説の黒竜の鎧……い、今までのご無礼お許しください」
「……どうしたんだフェレンゼーツ」
次から次へと混乱が続くばかりである。
誰か説明してくれ。
「黒竜伝説については長から詳しい説明があるでしょう」
震えながらそう言って、集落への帰還を促す。
確かにさっさと出発しないと日が暮れそうだ。
ひとまず疑問は置いておき、彼の先導に従い集落へと足を進める俺らだった。




