第56話 竜人と竜神
アメリカの新大統領がトランプ氏になった騒ぎの中、私はスランプ気味でした。
それでいて台風トカゲは発生して頭は痛いわ、バイト先が回らなくなるわ、な感じです。
調子良い休みの日があったら書き溜めしますね。
謎の爬虫類型種族に包囲された。
二本の角が艶やかに光る。
鱗はまるで鎧のようで、革の防具が腹部を覆っている。
非常に強そうな者達だ。
(話として伝わっている亜人の蜥蜴人に似ていますが……動物を乗りこなしたり角が生えているのは聞いたことがありません)
(あの馬みたいなのを手なずけてる時点でかなり知能は高いと思うわ、防具も身に着けてるし)
(亜人だったり、敵対するなら戦うぞー!)
念話で婚約者達の意見を聞く。
確かにエリザが奴らの正体として挙げた、ゲームに出てきそうなリザードマンっぽい姿をしている。
しかしアンナの言うように亜人にしてはかなり知的ではないだろうか。
シャーリーのように意気込む必要はないが、戦いになる覚悟はしておいたほうがいいな。
「愚かな人間よ、この島に足を踏み入れてタダで済むと思うなよ」
キャー喋ッター。
うん。ふざけたことを考えられるほどには戦闘経験が身について余裕が出てきたけど、自重しよう。
ともかく言葉を話せるため亜人ではなかった。要するに交渉の余地がある。
しかしどの種族でもそうだったが、特にこの人たちにおけるヒューマンの信用度はガタ落ちのようだ。
ガルニア帝国のせいでヒューマンの印象がそこかしこで悪すぎる。
「待って、私達はあなたたちと交渉したいの」
申し出たのはアンナだ。ヒューマンに嫌悪感を持っている以上、俺や肌の白さが際立つ以外は見た目ヒューマンのエリザの話はあまり聞いてくれないだろう。
そこでアンナが切り出したわけだが――
「ヒューマンの幼子に交渉させるとは何事だ!! 我らが子の命までは奪わない誇りを逆手にとるつもりか!!」
見た目完全に亜人系だけどかなり高潔な種族だったらしい。
ゆえにアンナが申し出たことで逆に悪い印象を逆に与えることになってしまった。
そして子供扱いされたアンナの顔から表情が消え去ってる、やべえ。
「だったら戦――ふごぉ!?」
亀裂を生みかねない一言を言いかけたシャーリーの口をエリザが魔術で凍らせた。ナイスだエリザ。
「待ってくれ、俺は女神から使命を帯びた勇者だ。
他種族狩りをするガルニア帝国に抵抗するため君達と同盟を結びに来たんだ」
険悪なムードに包まれているのを打開するために素直に申し出る。
さすがに勇者のネームバリューさえあればなんとか――
「勇者か。確かに悪しき蛇竜を討伐したとは聞いているが、そのせいかヒューマンは後に竜を狩り尽くしたというではないか。そこの二体の亜竜たちがいい例だな」
先程声を上げたリーダーらしき人が指差す方向には飛竜と地竜の死体が横たわっている。
「蛇竜? 初めて聞く単語ね」
「ふん、やはり知らぬか。都合のいいように竜が言い伝えられているのだな」
グレースが首をかしげながら呟く。どうやら長い時を生きた彼女でさえ知らない事態に陥ってるようだ。
「その二体が先に俺達を襲ってきたんだ。逃げ切れなかったから戦った。
それのどこが問題なんだ?」
そこまで言うとリーダーはフンと鼻を鳴らした。
「なるほど我らの正体も知らぬか、ヒューマン共よ。
消えいく灯火に哀れみをもって答えてやろう、我らは――竜の子孫たる竜人である」
……なるほど合点がいった。
竜を信仰するのは彼らが竜の子孫だからだ。
更にさっきの亜竜たちの死体について言及したのだってヒューマンにとっては竜を悪だと決め付けて狩る、ゆえに俺らがドラゴニュートたちのことも狩るのだろうと思っているのだ。
というか俺以外は賊妖精、吸血鬼、人狼、森妖精、闇の精霊、自動人形なんですが。
「それは違――」
「問答無用!」
弁明の余地も無く、ドラゴニュートたちが槍を突き立ててきた。
もはや戦闘は避けられない。
俺達は各々の武器を構える。
「総員かかれ!」
ドラゴニュートたちの槍が全方向から差し迫る――
「「〈深淵の沼〉」」
俺とメリーとで彼らの足元に闇の沼を展開する。
出来れば彼らとは和解して味方につけたい、そのためには無血で勝利せねばならない。
「ぬおっ!?」
「闇魔法だと!?」
次々にドラゴニュートを乗せた麒麟モドキは足をとられていく。
もちろん中にはかわした者もいる。
「クロウ様、おこぼれは私に任せて♪」
グレースの茨が〈深淵の沼〉に囚われなかった者を捕らえていく。
傷つけないようにと、いつもより棘がソフトだ。
「誇り高き我らを捕らえて奴隷にするつもりか!!」
抵抗出来ないようグレースの茨でぐるぐる巻きになっていくドラゴニュートたち。麒麟モドキはパニクってるがアンナが意思疎通して大人しくなっていく。
リーダーっぽい人がまだ騒いでるけど他の者たちは抵抗を諦めていく。
特にグレースの茨――ドルイド魔法は初めて見るのか驚いていたし、未知の力に対抗する気力が削げたのだろう。
アルヴィナやシャーリーが突っこむ前に無力化できて良かった。
「いやほんとに協力して欲しいだけなんだが……」
「騙されないぞヒューマンめ!」
どうすりゃいいんだ……。
「クロウさん、名案があります」
「お、なんだ?」
さすが我らが勇者軍の参謀役のエリザさん。何やら思いついたようである。
是非聞こうじゃないか。
「交渉のための人質にしましょう」
「…………」
はっ!? 思わず呆然としてしまった。
いやいやいやちょっと待って!
「さすがにそれはこじれると思うんだが……」
「大丈夫です。上手くやります」
笑みが黒くて心配なのですがそれは。
「エリザの常套手段よ、安心してクロウ」
「いや余計に安心できないからな?」
何事もないような顔してるアンナもアンナだ。
二人とも場慣れしてるんだろうけどさ……。
「じゃあ集落を探さなきゃね♪」
「ようし! 亜竜に出会ったら戦闘だ!」
「さすがにこの人数を引き連れて戦闘はマズイので回避しますよ、シャーリー」
この婚約者たちと候補、肝っ玉据わりすぎてて尻に敷かれる未来しか見えねえ。
いやもう敷かれてるようなものか。
「ほんっとアンタ馬鹿ね……そのくらい考えれば分かるでしょ」
「なんだとお!!」
アンナとシャーリーの喧嘩がまた始まった。
唯でさえ人質という扱いに気を揉まなきゃいけないのに勘弁してくれ……。
ジャングルの中を慎重に進んでいく。
流石に出発を告げると喧嘩を止めたアンナとシャーリーが警戒してくれてるおかげで亜竜に遭遇せずに済んでいる。
今回ばかりは仲裁する気力が出なかったから思う存分口論させたが、またワイバーンあたりが聞きつけて飛んでこないか心配なほど凄まじかった。
念のためメリーも子猫姿で先行してくれているし、アルヴィナもいるから完璧な布陣を保てている。
エリザは周辺にドラゴニュートが普段通っている道の痕跡がないか探しているし、グレースはそんな彼らを茨で束縛し続けている。
アンナに懐柔された麒麟モドキたちはそれぞれ捕まった飼い主を運んでいる。
「なあ、素直に集落の場所を教えてくれよ」
「…………」
俺はさっきからドラゴニュートのリーダー……もうめんどくさいから略してドラゴリーダーに話しかけているのだが、黙秘を決められている。
出来れば日が暮れるまでに着きたいのだが、探し当てるしかないようだ。
「お、こいつらの匂いが強くなってきたぞ!」
シャーリーがドラゴニュートの集落の匂いを嗅ぎつけたらしい。
「よくやってくれたシャーリー」
「おう!」
褒めてやったからか尻尾をぶんぶん振ってる、モフりてえけど今はまだ緊張を保たねば。
「待って、何か大きなものが見えるわ」
ところが目のいいアンナが何か捉えた、言い方からして嫌な予感がする。
「ふ」
ドラゴニュートのリーダーっぽいのが鼻で笑う。
亜竜らしき存在の遭遇でチャンス、という笑い方ではないな。
馬鹿にされてる感じがする。
「生き物の匂いはドラゴニュート以外のは漂ってこないぞ?」
シャーリーの嗅覚にはひっかからないようだ。
「とりあえず行ってみよーよ」
「そうですね」「そうね」
メリーの提案にエリザとグレースがハモって火花が散り始めた。
「さすがに身に危険が迫ってる可能性があるときはやめてくれ」
「ごめんなさーい、クロウ様ぁ」
「魔女!! クロウさんから離れなさい!!」
注意したらグレースが抱きついてきた。ほんと懲りてませんね……。
やわらかい感触で思わず彼女の接近を許しそうになるけど、まだ疑ってますからね!!
細心の注意を払って近づいていく。
徐々に灰色の岩のような大きなものが――いや岩だなこれ?
ただその形はアンナが警戒しても仕方がないものだ。
巨大な竜の彫刻だ。
雄雄しく、後ろ足で立っており背中の翼は六つ。
ワイバーンと違い、筋骨隆々とした腕も生えている。
指の先は敵を容易く切り裂きそうな爪が嫌でも目に入る。
「石像じゃねーか、アンナは何見てんだ」
「……アンタとは一回ケリ着けなきゃいけないみたいね」
今度はシャーリーが喧嘩売ってアンナが怒り始めた。
俺はもう見ない振りをしてエリザやグレースに向き直る。
「これがドラゴンなのか」
「いいえ……私が知ってる限りだと四つん這いなはずだし、翼も二対なはずよ」
最年長のグレースが違うと訴える。
それならこの竜らしき像は何を模しているんだ?
「は、これだからヒューマンは。我らが竜神様も知らぬとは」
「竜神?」
ドラゴリーダーが呟き、エリザが聞き返す。
更にはっ、と嘲笑するような声を上げて続きを話す。
「ドラゴンたちの偉大なる祖バハムート様だ、古き時代に生まれ女神様の使いであったと伝わっている。
勇者よりも古く、だ」
ふーむ、勇者に突っかかるのもこの竜神が関連してるようだ。
「基本この世界は六柱の神が運営してると誰もが知っているのですが……」
「知らない神がいたとしても不思議はないわ」
アンナとシャーリーとは違ってエリザとグレースは冷静に議論している。
というか対抗心よりも知的好奇心が勝ってて平和な感じがするな――と思ったら視線がきっついから顔や声に出さずに喧嘩してるなこの二人……。
「偉大なるバハムート様は忌まわしき蛇竜リヴィアタンが現れるまで世界を守っていたのだ」
「……なるほど蛇竜というのは海竜のことなのですね」
今更気づいたのかとも言いそうな目でドラゴリーダーはエリザを見てる。
爬虫類の瞳だから分かりにくいけど、そんな気がする。
「フェレンゼーツ隊長、竜神様のことを余所者に話すのは……」
ドラゴニュートの一人が恐る恐る声に出すと、フェレンゼーツと呼ばれたドラゴリーダーの動きが止まった。そしてエリザが黒い笑みを浮かべる。
うわあ、あの反応は口を滑らすのを誘導してたんだなあ。
彼女が敵ではなく味方どころか嫁になってくれるんだから頼もしい。いやホントに頼もしいのだろうか?
哲学じみた思考に陥りそう。
「しまったああああああああああああ!!」
叫んでうな垂れるフェレンゼーツ。
最初は高慢で嫌な感じだったが、おっちょこちょいなところがあって親しみを持て始めたぞ。
「勇者――殿、我々は島の外を余り知らないのです。
ゆえにあなたたちのことを侵略者か何かかと思ってしまったのですが、どうやら違う気がしてきました。
我らが隊長はこの通りなのでドラゴニュートの長と穏便な会話をして欲しいのです」
さっきのドラゴニュートが俺に話してくる。
元々の気質や実際気づいてくれたのかもしれないけど、多分勝ってっこないから白旗振ってる気がするなあ。
フェレンゼーツはぐるぐる巻きのままという条件で他のドラゴニュートを解放していく。
こっそり教えてもらったが隊長である彼にはいつも苦労をかけられるので、彼らの一種の意趣返しらしい。
もちろん放したら暴れだすというのが第一理由だ。
部下は大切にすべきだよとブラック企業の元社員は思います、はい。
「メリー? 石像がどうかしたのかー?」
シャーリーが未だにバハムートの彫刻を見上げ続けるメリーに声をかける。
するとメリーは首をぶんぶん振る。
「なんでもないよ、それよりドラゴニュートの村にいこ!!」
最近よくボーっとしてるけどどうしたのだろう。
はっ!?
彼氏か!?
お父さん許しませんよ!!
……うん、さすがにないな。
何はともあれ、彼らの長と話す下地も出来た。
集落目指して先へ進もう。




