第52話 闇属性の新事実
「さすがは勇者殿、魔獣ケトゥスすら屠るとは。
犠牲者も少数に収められたし感謝する」
俺達は海から人魚の集落に戻り、ピテュエスの下を訪れていた。
どうやら俺がいた時では犠牲は出なかったが、大烏賊を追っていた鳥人が二人ほど亡くなっていたらしい。
俺の知らない奴らなのに、やはりどこか虚しさを感じてしまう。
――思考が黒に染まる、またか。
「クロウ?」
アンナが心配そうに俺を見上げて声を掛けてくる。
「大丈夫だよ、ちょっと疲れて立ち眩みしただけだ」
俺の返答で分かったのか、それとも様子からすでに分かっていたのかエリザが真剣にこちらを見てくる。
さすが反帝国軍を長年率いてきた彼女には隠し通せないようだ。
俺の事情をまだ知らないイリュリアが、疲れてると信じて心配そうに寄り添ってきた。
「さすがの勇者殿も魔獣相手では体力を消耗されたか。
それと……ふふ、我が娘イリュリアが随分懐いておるな。
どんな口説き文句を言ったのやら」
ピテュエスは面白そうに――いや嬉しそうに俺とイリュリアを見て言った。
ローレライの長として毅然とした態度をとっていなければいけないが、やはり母親には違いない。
娘のことでたいそう心を痛めていたのだろう。
「勇者殿はこの後、竜の島に向かうのだったな。
イリュリアはその間に嫁入りの準備をせよ」
「……はい母様」
飛竜のいる島に彼女を連れて行くのは危ないからな。
さっきまでピテュエスが勝手にソリに乗ったイリュリアをびしびし説教してたし。
声色は変化ないのに言葉がキツくておっかなかった……。
「館までは海豹人たちに警護してもらい、海を渡って行って貰いましょう。
館での生活については鉱妖精たちに伝令の鳥を飛ばしましょうか」
「私がやっとくわ」
エリザの提案にアンナが請け負う。
イリュリアは下半身が魚のローレライだし、乾燥に弱かったりする。
世話役の侍女も数人ついていくとのことで、彼女らのための設備が必要だ。
「それじゃ休ませてもらいましょ♪」
グレースが頃合いを見計らって提案してくれたのでそのままお開きになることとなった。
さて、イリュリアも含めてローレライも彼女ら以外の種族も全員で休めるような部屋に来たのだが――
「で? クロウ様の立ち眩みって〈深淵の怪物〉と何か関係ある訳?」
いの一番にグレースが先ほどの件についてズバリと当ててきた。
エリザは頭を抱え、アンナは隠し通すのは無理だろうという目で俺を見てきた。
「そうだ、俺が闇属性の勇者ってのにも関係してそうだし他にも色々とな」
「……私から〈暗き海底の看守〉の話を聞いたのもそのためなのね」
「ああ」
グレースとイリュリアに向けて説明し、イリュリアの言葉に頷く。
「イリュリアの部屋でぶっ倒れたのもそうだ。
いつも見る黒い夢に俺そっくりの何者かが現れて意識を失った」
――イリュリアに顔を向けて話しながらグレースの方をチラ見すると、彼女は一瞬だけ目を細めていた。
彼女は明らかにこの件について興味を持っているのだが何故だ? 闇の堕とし子だからか?
「で、鬼女はその件について何か隠しているんでしょう? その話題になる度、物憂げな表情するのが一々癇に障るのよね」
グレースから出た言葉は予想外のものであった。
エリザが俺の夢について何か知っている? 婚約者である彼女がいくらか隠し事をしているのは目を瞑っているが、俺の件についてとなるとさすがに見過ごせないぞ。
「クロウさん、隠していてすみません。
お教えしてもいいですが、何故知っているかはまだ言えません」
まさか本当に何か知っているとは。
シャーリーはよく分かってないみたいだが、それでもエリザが良くない事をしているとは感じてるようでムッとなっている。
アンナもそれなりの付き合いであるとはいえ、さすがに不信感を持ったようだ。
メリーは――何だ? グレースに問いただした時の様な真面目顔だ。
「最初、魔王の仕業が考えられると申したでしょう」
「ああ」
そしてエリザの口から衝撃の事実が飛び出してくる。
「歴代の魔王は皆、扱う属性が闇だったそうです」
「なっ!?」
これにはアルヴィナとメリーを除いた全員が驚いた。
別の世界から肉体を得てやってきた俺だけじゃない、諜報を役割とする賊妖精のリーダーだったアンナでさえ開いた口が塞がらない。
「館を出る前までマックスと二人で情報は整理してるし、最近分かったことではないのよね?」
「ええ」
エリザは翳りのある表情で頷いた。
やはり前回の魔王ドラキュラと彼女は深い関係だったのだろうか?
ベッドの中で彼女が生娘だったのは確認済みだから、男女の仲では無かったのだろうけど。
「魔王がどのように生まれるかは知りませんが、彼らは闇属性だということは伝わっています。
ゆえに、勇者は対抗して光属性を女神ルナティミス様から授かったとも」
「その情報の出所は女神教でしょ? どうやって手に入れたかは……言わないつもりね」
「ええ。何故秘匿されているかと言えば、闇魔術師の者が差別されないためとは言えますけど」
グレースの言葉にエリザは顔をこわばらせる。
そして悲しげな表情で俺と向き合ってきた。
「クロウさん、再度申し上げます。
私はクロウさんの事が好きですし、そうでなくとも勇者に味方します。
帝国を打倒すれば全てお話しますから信じてください」
彼女の瞳は嘘をついてないと直感で判断する。
だが夫となる俺にすら言えない隠し事をしているのも確かだ。
「エリザ、個人的には何があっても信じてやりたいが……分かるよな?」
俺は女性陣の方を見やる。
メリーとアルヴィナ以外は皆エリザに懐疑心を抱いているし、そんな彼女を庇う俺に不満があるのは当然だ。
出会ったばかりのイリュリアでさえ不信感を露にしている。
「……分かりました、後は行動で示しましょう」
緊張感は続いたままだが、それでもこの件はひとまず置くことにする。
帝国ぶっ飛ばせば話してくれるって言ってるしな。
「うう……隠し事してる鬼女や出会ったばかりのイリュリアは婚約者にするのに私はダメなの? クロウ様」
折角落ち着いたのにグレースがわざとらしく崩れてよよよ、と嘆き始める。
いかんぞ! 今の一言でアンナもシャーリーも黙っていたがこれを気にとばかりに目を吊り上げるし、エリザは先ほどまでグレースに言われたい放題だったから怒りが爆発しそうだ。
「いやさ、イリュリアは元の――昔、苦しんでいた俺とよく似ていたんだよ。
だからほっとけなくてつい、俺と結婚して幸せにしてやるよって……」
「「「つい?」」」
一気に食いつかれた、おっかねえ。
だが彼女達は怒りを治めると、はあと深いため息をついて「仕方ないなコイツ」って顔で見てきた。
……なんかホントにスイマセン。
「そうよね。クロウのそうゆうところに私達惹かれたのよね」
「強くて優しいからな、クロウは!」
「……クロウ、顔怖いけどとっても優しい」
「じゃあ私にも優しくしてね♪」
「黙りなさい魔女」
一人まだ別件で怒っているようだが収拾はついたようだ。
あとイリュリア、顔の話はやめて。
「話を戻すけどパパって確かイリュリアの事で怒って倒れたんだよね?」
これまで静かだったメリーが元の話題を口にする。
そういえば感情が昂ぶった時に症状が出る気がするな?
……精神的な問題じゃなかろうな。
「言われてみればあの時――わ、私と夜を共にした後ちょっと口論になって調子がおかしくなったわよね」
「なるほど、それではクロウさんのストレスを和らげればいいのですね」
「それならとっておきがあるわねえ♪」
アンナとの時もそうだったな。
そしてグレースはエリザの言葉に反応して胸を寄せるのはやめてくれ、視界への暴力だ。
「……そういえばクロウ」
「ん、どうしたイリュリア」
イリュリアが俺の袖をちょんちょんと引っ張って尋ねてくる。
勢い余って婚約してしまったのはちょっと反省しているが、この可愛さを見てると後悔の念は全く皆無だ。
「……ローレライって結婚するまで肌を重ねるのはおろか、唇を重ねるのもダメなの」
な、
「なんだってええええええええ!?」
女性陣に白い目で見られながら嘆きの叫びをあげてしまった。
一晩をローレライの長の住居で過ごし、浜辺へと来る。
恒例の魔獣のマナによる新能力実験だ。
ハーピー達に辺りの確認をしてもらう。
声の衝撃派とかだったら大惨事になりかねないからな。
「いくぞ」
俺は皆に声掛けしてから自身に眠る能力を呼び覚ます。
深い海のような力、これだ――
あれ?
何も起こらない?
(ちゃんと発動してるよー)
(あれ、メリー何か変わったか?)
メリーが心の声でわざわざ伝えてきてくれたが何だろう?
(ちょ、ちょっと待って、頭の中でメリーの声が聴こえるんだけど!?)
(ど、どーなってんだよ!?)
(こ、これは……)
んんん!?
何故かアンナたちの心の声も聴こえるんですけど!?
(そう、みんな心の声で会話できるようになったよパパ!)
(そういえば鯨って超音波で仲間とコミュニケーションとるよな)
攻撃的な能力ではないが、かなり役に立つな。
声の聴こえたアンナとエリザとシャーリーは慌てた様子で、グレースとイリュリアは不思議そうにしている。
(まさか……)
(多分そうだとおもうよパパ)
メリーにジト目で言われる。
多分、愛し合う仲じゃないと出来ねえってことか。
(つまり魔女に内緒で会話が捗るということですね、素晴らしいです)
エリザさん、黒い笑み浮かべてますよ。
しかし二人にはどう説明すべきか……。
「愛し合う仲だとお互い強くなる能力みたいです」
「えー、私も早くクロウ様に愛されたいわ」
「……結婚までお預け」
(エリザが平気で嘘ついてるんだけど、信用していいのか分からなくなってきたぞ)
(ク、クロウさん違います!! 嘘をつくのはあの魔女相手だからです!!
イリュリアにだって後でコッソリ教えるつもりですよ!!)
エリザが珍しくわたわたと慌てだす。
それを見てニヤニヤしていたら、かわれていると気づいたエリザが冷たい笑顔になった。
あ、やりすぎた。
エリザに機嫌を直してもらい、メリー含めた五人で能力を試行錯誤する。
どうやら俺から声掛けしないと繋がらないようだ。
グレースとイリュリアは何やってるんだか全く分からないだろうな。
「パパー、名前はー?」
「んー」
恒例のネーミングタイムですよー。
ここは――
「伝心念話にしよう」
異世界系といえばヒロインたちとの念話が鉄板だからな。
以心伝心とかけてみました。
「さて竜の島に行くには動く島とやらに乗ればいいんだよな?」
「……うん、いつも通りならそろそろ来るはず」
竜の島に行くのに船を新たに用意するか、ソリを再利用するか考えていたのだがどうやらこの浜辺と島を行き来する小島があるらしい。
どういう原理で動いてるんだろうな。
「来たわよ」
目のいいアンナがまだ遠いが動く島を補足する。
それを聞いた近くにいたハーピーが俺達の出発を周りに触れ回る。
あちこちからローレライやらハーピー達がやってくる。
シンガ率いるセルキー達もだ。彼らにはここに残ってもらい、イリュリアの引越しについてローレライ達と打ち合わせしてもらうことになっている。
動く島が俺にも見える位置にやってきた。
背の低い芝生みたいな草が一面に生えた小さな島だ。
アルヴィナが一番に乗り込み、シャーリー、アンナ、メリー、グレースの順に、最後に俺がエリザをエスコートしながら上陸する。
「……クロウ、気をつけてね」
「ああ、ちゃんと戻ってくる」
イリュリアとはほんのちょっとだが、別れを告げる。
すると彼女は俺に急接近してきたかと思うと――
頬に湿った柔らかな感触。
――これって。
「……行ってらっしゃいのキス」
頬を赤くしたイリュリアを見て俺まで赤面してきた。
「あ、ありがとう――ってうお!?」
気恥ずかしいから後ろを向いたら黒いオーラが上がる婚約者三人。
また機嫌を治めなきゃいけなそうだ……。
三章終わりです。




