第46話 狼女との夜
エロ回
夜になり馬車を止める。
いくら吸血鬼のエリザを筆頭に夜闇に強い面子といえども、無理は禁物だ。
アンナは耳がよく、シャーリーは鼻が利く。
グレースも闇の堕とし子として比較的夜目が利き、俺やメリーは自分の闇属性が強化される。
だが戦闘の疲れも残っているし、アンナの目の良さも活かせないとなれば休む方がいい。
焚き火を熾し、食事にする。
タンパク源は干し肉だが、アンナやシャーリーが山菜やらキノコやら採ってきてくれた。
もちろんキノコは例の寄生菌じゃないか念入りに調べてある。
貴重な岩塩を使ったスープは素朴だがとても美味しかった。
日本人としては味噌汁が飲みたいところが、俺は味噌の作り方を知らない。
再現は難しいだろうし、歴代勇者が転生者だとしても前世の記憶が無いだろうって話だから他人頼りも出来ない。
「……はぁ」
落胆のため息をついたのは試験管の中の毒液を眺めるアンナだ。
ちゃっかり魔蟹の毒は採取したが、ヒュドラは無理だったらしい。
曰く、入れた試験管が溶ける。そしてヒュドラ消滅後にその辺に残っていた毒も消えたため、例え確保出来ても残らなかっただろうとのこと。
「いいじゃないか、カルキノスのは手に入ったんだから」
「良くないわよ!! 伝説の魔獣の毒よ、強力な上にとんでもない価値になるわ!
……クロウの手に入れたヒュドラの能力が毒だったら良かったのに」
そしたら俺の右腕が生えてこなかったんですが……。
「クロウ様、おかわりをどうぞ♪」
「……おう」
グレースが甲斐甲斐しくスープのおかわりをよそってくれる。
そして俺の隣に陣取るエリザの周りの空気が氷点下に。
「メイドとして雇うにはいいかもしれませんね」
「そしたらクロウ様に手を出されて妾にしてもらうわ♪」
まーた始まってしまった。
剣呑な空気が漂い始めてるよ。
「クロウならやりかねないわね……」
「パパのエッチ!」
……アンナとメリーに信用されてないのはちょっぴり傷つく。
いやハーレム欲しいと思って勇者になったし、婚約者が相手だろうとさりげなくタッチしてりゃ言われても仕方ねえわ……。
「……ちょっと席外すぞ」
「念のため私も付いて行くわ」
トイレと見せかけた俺の意図を読んでくれたアンナが同行を申し出て、エリザも目配せしてくる。
シャーリーは干し肉を食うのに夢中だ――この先大丈夫かなこの子……。
メリーはグレースと話をしている。案外慕っているのが謎なんだよなあ。
いくらか離れた場所まで来て、アンナと向き合う。
「……グレースのこと、どう思う?」
「きな臭い感じ」
シャーリー程じゃないけど直球っすねえ。
まあ俺もオブラートに包んでも、内容は大して変わらない答え方をするだろう。
「まずエリザが初対面から嫌ってるのは個人的な感情もあるでしょうけど、同じ女として何か感じ取ってるからのはずよ。
私だって何か狙いがあるぐらいは感じるわ」
「そりゃ俺だって何か裏があるぐらいは感じるけど……でも〈誘惑の魔女〉って言われるようなことじゃない気がするんだ」
「……ただの勘?」
「まあ、なんとなくそう思っただけなのは認める。」
アンナは目を険しくした後、大きなため息をつく。
「良いことにしろ悪いことにしろ、傍に置いて見張るのはいい判断だと思うわ。
私かエリザが張り付いて一人にしないようにしとく」
「俺も手伝――」
「アンタと二人きりにさせたら何が起きるか分からないから駄目」
無表情で却下されてしまった……。
そんなに信用ないのだろうか、流石に危なそうだと思ってる女に手を出したりはしないぞ?
あのクソ会社の事務員達によって、見た目に反した腹黒さを知っているからな。
「あとアンタ、グレースの身体見すぎ。
何? 私の体型に文句でもあるの?」
「イヤ、ナイデスヨ」
はい、そういう行いで信用がガタ落ちなのは理解しています。
結局そのままクドクドと怒られてしまった。
頭を撫でて誤魔化したけど。
焚き火に戻ってみるとエリザがグレースとまだ論争していた。
……実は仲がいいのではないか、と思い始める俺。
「クロウ様~、鬼女に虐められていた私を慰めて♪」
「ど・こ・が、虐められていたというのですかっ!
クロウさんが席を外した途端、口に出すのも憚られる言葉を私に向かって吐いた悪女がっ!」
グレースが傍まで寄ってくる。
個人的には婚約者のエリザの味方をしたいのだが、下手に肩入れするとエリザがグレースをいびりそうなんだよなあ。
ブラック企業で働いていた身としてはそういうことを許したくないし、見たくもない。
「エリザ、いつもの冷静さが欠けてるぞ。グレースも挑発しない」
仕方ないので二人とも叱っておく。
「……そうですね、私としたことがこんな女に感情的になってしまうなんて」
「あら、挑発してるんじゃないわ。事実を指摘してるだけよ」
何言っても結局いがみ合うんですねあなた達……。
他の皆は寝静まり、俺は火の番をしていた。
前は寝なくていい不死者のアルフォンス師匠がしててくれたが居ないからな。
男の俺が全部やろうと思ったが流石に寝ないとマズイので交代制だ。
アルヴィナは馬車の方で待機していてくれる。
「クロウ」
「シャーリーか。もう交代の時間か? というか次はアンナじゃなかったっけ?」
最近の出来事を頭の中で整理しながら火の具合を見ていると、背後からシャーリーが声を掛けてきた。
その表情はどこか憂いがあって、彼女らしくなかった。
「その……何か目が冴えちゃってさ」
「目を閉じているだけで大分休まるぞ」
視界に入る情報を脳が処理するため、目を閉じているだけでも脳を休ませることが出来るらしい。
シャーリーにそこまで言っても分からないだろうが。
「眠れなくてモゾモゾしてたらグレースにクロウと話して来たらって言われて」
「……そういうことなら話し相手になるぞ」
シャーリーは落ち着きの無い様子で俺の隣に座る。
耳がぴこぴこ動いてて、尻尾もどことなく揺れてて可愛いのだがどうしたのだろうか。
「皆のために戦っていた母さんを尊敬してたのは親父から聞いてるよな。
アタシさ、ずっと母さんより強くなりたいと思って生きてきた」
シャーリーの母親アシーナさん。
彼女は人狼の民のために戦い、そして散っていったという。
シャーリーが強さにこだわりがあるのはリューカオーさんから既に聞いている。
「それでクロウに出会って負けて。ああこの人なら帝国のヤローをぶっ飛ばしてくれる。
だから隣にいようと思った」
あの時のシャーリーは俺を男というよりアイドルとして見てたよな。
それで俺もすぐに娶ろうとは思わなかった。
「クロウにフェンリルから助けられて……それでクロウの事が本当に好きになって。
クロウの隣に並び立てるよう強くなろうって決めた」
……馬鹿な人でも精一杯悩みながら生きている。
いや、むしろ馬鹿だからこそ大きな悩みを抱えているのかもしれない。
ともかく俺が彼女を好きになったのは、悩みながらも真っすぐ頑張る姿勢を見たからだ。
人生を諦めて流されて生きながら死んだ俺には持っていない物を、彼女は持っていた。
だから惹かれて、シンフィー君と話し合ったとき嫁にしようと決めた。
――まあこんな俺を慕ってくれるってのもあるけどな。
「でもアタシはっ……! 母さんの背中にも届いていないし、クロウの隣にも並べていないっ!
今回だってヒュドラの首を落としはしたけど、クロウの力には敵わないっ!」
「だから?」
「へ?」
俺が言葉を返すと間の抜けた返事が返ったきた。
涙目ながらきょとんとした表情の彼女はたまらなく愛しかった。
思わず手が伸び、頭を優しく撫でてやる。
「俺は勇者だ、この力は女神様からもらった物に過ぎないよ。
それにさ――」
シャーリーと目を合わせながら話す。
俺は極悪顔でも出来る限り柔らかく笑い言ってやる。
「シャーリーは俺でもアシーナさんでもない、シャーリーはシャーリーだ。
お前なりの強くなる方法があるはずだ。
そもそも真っすぐな強い心を持ってる時点で俺はシャーリーを尊敬しているよ。
……昔の俺は折れて諦めてしまっていたから」
俺はアシーナさんを知らないが、たとえ母娘でも同じ存在ではない。
俺が好きなのは真っすぐに突き進むシャーリーだ。
「クロウ……」
シャーリーがしな垂れかかってくる。
彼女の目は涙で溢れていたが、幸せそうに笑っていた。
「ところでもう一つ話したいことがあるんだけど……」
「まだ何かあるのか?」
シャーリーの頬が若干薄紅に染まっている。
こうして密着しているからだろうか。
ずっと忙しくて婚約者らしいことなんて全然してなかったなあ、そういや。
「馬車の中で寝る前に話してたんだけどさ……。
夫婦になる者同士やるべきことがあるって言われてもピンと来ないって言ったら、皆はクロウに手取り足取り教えてもらえって……で、眠れないから丁度いいかなって」
……そういえばそんな話があった。
それはいいとして、どうも彼女は眠れない今教えて欲しい様だ。
しかし馬車は他の女性陣が寝てるし、何よりここは屋根一つない夜空の下である。
「アタシちゃんとクロウの隣にいたい。
だから……」
「いや、今は駄目だ。此処じゃ流石にちょっと……」
正直俺も男だから欲望は溜まってるし、何よりシャーリーとそういうことは是非したい。
でも流石に外でする訳にはいかない。
いや、興味はありますよ。
けど駄目だ。
駄目なものは駄目だ。
駄・目・な・ん・だ!
「教えて」
シャーリーに上目遣いで迫られる。
女が持つ切り札をきられ、いとも簡単に俺を抑えつけていた理性が吹き飛ぶ。
シャーリーを押し倒し、俺は――
早朝。
俺は正座をさせられていた。
目に隈のある無表情のアンナ、頭を手で抑えて怒っているエリザから凄まじい殺気を浴びさせられている。
メリーは拗ねているし、グレースは面白そうに見物している。アルヴィナはこういう時は助けてくれず、静かに立っているだけだ。
シャーリーは顔を赤らめながら、怒られている俺を心配そうに見ている。
「私たちがクロウさんに丸投げしたのは間違いないですけど、時と場合を選ぶ理性ぐらいあるはずですよ……」
「ホントうるさくて眠れないったらありゃしなかったわ。
そもそも魔物でも盛ってるのかと思ったわよ」
あの後、俺はシャーリーをメチャクチャにした。
アンナより体格は大きいし、エリザよりもずっと鍛えられた彼女の引き締まった身体に大興奮してかなり激しくしてしまった。
そして二人で思わず大きな声を出してしまったのだ。
アンナが最初魔物かと思って偵察したようで俺たちの情事を覗いてしまい、怒ろうか悩んだが朝にしようと無表情で馬車に戻ったとか。
結局見張りも交代に行くに行けなくて、俺とシャーリーで一晩を焚き火の前で過ごした。
「シャーリーもちゃんとした場所で愛を育みたかったはずです、それなのにあなたは――」
「いや凄い良かったぞ!」
「「え」」
まさかのシャーリーから援護が飛んできた、というかもしかしたら変な扉を開いてしまったかもしれない。
「クロウはすごかったぞ……獣人化よりよっぽど獣染みてて、圧倒的な強さにアタシは捻じ伏せられた。
×××を×××されたり、×××を×××するなんて……愛は激しいってクロウは教えてくれたぞ」
何ヲ言ッテルンデスカコノ子ハ。
場が凍り付く。
アンナとエリザから血管が切れた音がし、
メリーは盛大なため息をつき、
グレースがくすくすと笑っている……後で覚えてろよ。
「クロウさんっ! あなたという人は無知なシャーリーになんてことを!」
「このド変態ッ! 私が成敗してやるわっ!」
ああ、今日も今日とて彼女らに怒られる。
……今度はシャーリーに優しくしてあげよう。




