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救世の暗黒勇者(リメイク前エタ)  作者: 墨沼
第二章 北の地にて獣は吠える
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第31話 熊人集落到着

お待たせしました。

牙虎を倒し辺りを見る。

雪象はすでにアルヴィナにより命を絶たれている。

氷の壁を砕いて、馬車の方を見ると中で待機させていたはずのエリザとメリーが外に居た。

そして雪男イエティの死骸が大量に積まれている。

どうやら襲い掛かってきたのは三匹だけじゃなかったようだ。

数が数なので、二人も馬車から出て戦ったのだろう。



折角なので雪象を解体して肉を食べることになった。

残った肉は差し入れとして熊人ベルンの集落に持っていくことにする。

シャーリーは全部食べたがったが尻尾を掴んで黙らせた。

「ひゃう!?」なんて変な声を出すもんだから、俺がエリザやアンナから小言を食らってしまった。



「上手に焼けましたー!」

「急にどうしたんだ?」


異世界人には伝わらないであろうネタをかましたらシャーリーに首を傾げられた。

焼けた肉にかぶりつく。

肉はとても柔らかくて頬張ると肉汁が溢れとても美味かった。


ちなみに牙虎は毛皮や爪は重宝されるが肉は食べたりしない。

雪象は草食なので臭みが無く美味いが、肉食の牙虎の肉は臭みがあって不味い。

その辺の法則は元いた世界と変わらないようだ。

日本人としては食うなんて考えられないが猫の肉は臭いらしいし、マタギがルールに従って食べたという悪名高い人食いヒグマも臭かったと記述が残ってたらしい。






一夜を過ごし、朝になって目が覚める。

今までの道のりでも馬車の中で女性陣と雑魚寝していたが、特に桃色な展開は起きなかった。

昨晩あったことといえばシャーリーの寝相が悪かったので、メリーが〈影の拘束(シャドーバインド)〉で床に縫い付けたぐらいだ。


朝から雪象の肉は重たかったので普通の兎の肉を食べる。

シャーリーには関係ないらしく、雪象肉に飽きもせずかぶりついてたが。






朝食を終えて出発し、しばらく歩いて時は夕暮れ。

ようやく目的地が見えてきた。

今や戦場と化したベルンの集落だ。




「戦闘中のようだわ」


アンナが耳をピクピクさせて言った。

戦闘音を拾ったようである。


「巨人か?」

「巨人にしては豪快な音が聞こえないから違うと思うわ。魔物じゃないかしら」


巨人ではないようだが襲われているとあれば急いだ方がいいだろう。




集落の門に近づくと人狼ライカンやベルンが一匹の獣を取り囲んで牽制しているのが見えた。

恰幅の良い、大柄な男たちはたぶん海豹人セルキーだ。

彼らは冷たい海に棲むため、脂肪が多いと聞く。



「ちっ、よりにもよって大喰い獣(グーロ)かよ」


シャーリーは獣を見て吐き捨てた。

獣は魔狼ダイアウルフと同じくらいの大きさで胴体もよく似ていたが、顔は猫のようでいて口が大きく裂けていた。



「グーロは腹が満たされるまで喰らい続け、獲物を見定めたら食らうまで追い続ける体力底なしの魔物なのである」


師匠がそう説明してくれた。

腹が減ってるのに追いかけ続けれるのは多分魔力がどうこうなのだろう。

さっきの肉の臭みのような現実的な法則もあれば、このようにいかにもファンタジーといった法則が入り乱れているのがこの世界だ。



「ここはクロウさんに単独で倒してもらいましょう」

「全員で飛びかかった方が早くないか?」


エリザがソロで倒せと言う。


「彼等を認めさせるのに都合の良い相手だと私は考えます」


なるほど、つまりこうだ。

ミッドガルズ大陸の東に住む大体の種族は、力こそ全てと宣う者が多い。

さらに500年前よりガルニア帝国とドンパチしてれば更に重視するようになった。


例え勇者であろうと、俺は分類では人間ヒューマンと変わりがない。

帝国のせいでヒューマンに恨みを持っている彼らに受け入れてもらうためにも、グーロを独りで倒そうということだ。



「おうい!ソーロルだ!勇者様を連れてきたぞ!」

「おお!ソーロルじゃないか!」

「……!?何故シャーリー様がここに!?」


ソーロルの声にグーロを取り囲んでた面々が反応する。

ライカン達はどちらかというとシャーリーがいることに戸惑っていた。



「はいよっと」


馬車から降り、包囲網を飛び越えてグーロと対面する。


「何でここにヒューマンが!?」

「もしかして勇者なのか!?」

「おいあぶねえぞ!!」


包囲網の戦士たちは俺の登場に戸惑う。

中には初対面の俺の身を心配してくれる良い人もいるようだ。



戸惑う面々を差し置いて、グーロは新たに現れた俺に大きく口を開けて飛びかかってきた。


だが大振りなその攻撃が今の俺避けられないはずがなく。

いとも簡単に側面へ避けてグーロに勇者の剣を叩き込む。


「グギャアアアアァァァァ!」


耳障りな叫び声をあげ、グーロがよろける。


「そんな……グーロの皮は簡単には切り裂けぬというのに」


戦士の誰かが呟く。

なんかアフリカでいたよな、毛皮がダブついてて衝撃を吸収するやつ。



「グルアアアァァァ!」


聞いていた通り、グーロの体力は中々あるようで一撃では倒れない。

奴はがむしゃらに爪でこちらを切り裂こうとする。

俺はそれを全部受け流し、グーロの顔を切り裂く。

グーロは痛みに暴れ、攻撃どころではなくなったところに止めを刺した。

厄介と聞いたが、ちょっと硬くてタフなだけで良かった。



「すげえあのグーロをいとも簡単に」

「あれが勇者たる強さか」


戦士達が口々に話しているが、本当に大したことじゃないと思うんだけどなあ。



と、ジャックが何やら見つめてきた。

思わず尻を抑えた。


「グーロは兄貴でも手を煩わせるのに、スパッと斬ったクロウを褒めているのよ」


アンナ翻訳乙。

いやあ良かった。

遂に男すら攻略してしまったかと思ったのが勘違いで良かった。


でも解体魔のジャックですら手を煩うレベルって結構頑丈な相手ってことだよな。

ケルベロスやら狂戦士バーサーカーに比べたら屁でもないのだが。




「勇者よ、グーロを倒して頂き感謝する。

そして我らへのご助力、歓迎致します」


と、若い男のライカンがやってきて俺に挨拶する。

顔はフツメンだ。

それでも俺は厳つくて避けられることが多いので羨ましいが。


彼は困惑した顔で俺の後ろの方をチラチラと見ている。

……ああ、なるほど。この人が――



「ようシンフィー」

「……なんでシャーリーがここにいるんだ」


件のシンフィー君か。

あの不憫な扱いの。



「勇者であるクロウに負けたからお嫁にもらってもらうんだよ。

妻が夫に一緒についてくのは当然だろ?」


いやまだそういう関係じゃないだろ。

というか奥さんなんだから戦場にはついて来ないんじゃないか?

ライカン特有の価値観や習性なんだろうか。


シンフィーはシャーリーの話を聞き、尻尾を垂れさがらせる。

どうやらグーロを単独で倒した俺には敵わないと思ったらしい。



「リューカオーさんに頼まれて一緒にいるだけで婚約はしてない。

あと、次期族長はシンフィーに頼むとも言っていた」

「そうですか」


それでもシンフィーは複雑そうな顔をやめない。

シャーリーを取るつもりなんてなかったし、むしろ彼女の方からくっついてきたんだけどなあ。

恨まれたりしないといいけど……。



雪象の肉を戦士たちに渡してから、シンフィーに司令本部であるベルンの族長の家まで案内される。

途中で戦士たちがこちらに向かい、片手を胸に当て礼をしてきた。

最初は総司令であるというシンフィーに挨拶してるかと思ったが、どうやら俺がグーロを倒した話が先行して、俺に敬意を払ってるようだった。


「あいつは弱いからな、皆しぶしぶ従ってるんだろ」


シャーリーが小声で教えてくれるが絶対シンフィーに聞こえてるだろ。

耳がピクっと動いてたし。

不憫だ。



司令本部である大きめの天幕の中に俺、エリザ、シャーリー、ソーロルが入る。

後の皆は天幕外で待機だ。

中には男女二人組のベルンとセルキーの男が一人いた。


「アンタが勇者か俺はアンガートゥールだ」

「アタシはヘルボール」


ベルンの男女がまず名乗り出た。

アンガートゥールはソーロルより大柄な男だ。

ヘルボールは恰幅のいい女ベルンで、名前の通りボールの……睨まれた、なんでもない。



「オラはセルキー族長のヴァーガですだ、勇者様」


やたら訛った口調のセルキーの名前はヴァーガというらしい。

ヘルボールに負けず劣らずの恰幅の良さだ。


多分二人とも腹は脂肪だけじゃなくて筋肉の塊なんだろうな、お相撲さんみたいに。


「勇者軍首領のクロウだ」


俺も自己紹介をしておく。

後は副首領のエリザとライカン族長の娘シャーリーが挨拶しただけで他の面々は省略された。



「アンガートゥール様、ヘルボール様、ヘイドラグ族長の遺品です」

「結局おっ死んじまったかクソ親父は」

「最後まで聞き分けの悪いクソ親父だったね」


ソーロルが二人に首飾りを渡した。

どうやら二人はヘイドラグの子供だったらしい。

となると恐らく男のアンガートゥールが族長になるのだろう。

口では悪く言ってるが、彼らの目は潤んでいた。

それだけでどれだけ大切な存在だったかが伺えた。



「ではわたくしシンフィーが現状の説明をさせていただきます」


シンフィーから聞いた状態はこうだ。

事前に聞いてた通り積極的な巨人は四体。

その他は主に兵糧攻めで、積極的に攻撃はしてこないという。

そのおかげか死者は奇跡的に出てないが、こちらが食料盗難という損害を受けている。


「恐らく鬼共の北上が原因かと」


どうやら子鬼ゴブリン豚鬼オークといった鬼共が呪縛大陸に向かっているのが、今回の戦いに大きく関わっているようだ。

そいつらが巨人の領地の食い物を荒らした結果、食糧難となった巨人が攻めてきてるのではないか、というのがシンフィーの予想であった。


「魔王の指示、という可能性は?」

「それはないですだ、魔王が指示したなら全員死にもの狂いで襲ってくると思うだ」


俺の疑問にヴァーガが答えてくれた。

魔王の指示ならチマチマ兵糧攻めなどせず、巨人全員が直接襲い掛かってくるという。


「俺らの先祖から伝わる話でも、代々の魔王は敵の殲滅を掲げたし、指示に従わない奴は家族諸共皆殺しっていうからな」


アンガートゥールもどうやら魔王が関連してるのには否定のようだ。

姉だか妹だかは分からないがヘルボールも同じだろう。



「という訳で敵の狙いは分かっているのですが……種族同士のまとまりが無くて……」


シンフィーが言うに、どうやら違う種族同士の連携が拙く、四体の巨人を倒せないでいるようだ。


「それ以前にアンタは同種族をまとめられてないじゃないか」


ヘルボールがシンフィーに向かって毒を吐く。

どうやら彼の実力の無さにより同じライカンから信頼を得られてないようである。

相手方の狙いを推測してる分、リューカオーさんが言ってた通り頭はいいようだが。


「ま、あたしがいればライカンの皆は言うこと聞いてくれるだろ!」


シャーリーが腰に手を当て胸を張る。

シャーリーは負けても、戦闘中は勇者の俺に瞬殺されないほどの実力はあるからな。

シンフィーの耳と尾が垂れさがってる。

ほんと不憫な人だ。


「……三種族をまとめるためにもクロウさんに総大将になってほしいのですよ」


テンションの下がっているシンフィーからお願いされる。


なんと。

なんかどんどん昇進してないか?

勇者軍首領といい。


隣のエリザが絶対に受けろと言わんばかりに肘をつんつん当ててくるので了承する。

まあ五百年もの長い間、指揮を経験してきた彼女がサポートしてくればなんとかなるだろ。



「アンタはグーロに単体で勝ったって話だしな、従ってやるよ」

「もう知っているのか?」

「ああ、戦士たちの間じゃ話題が持ち切りだぜ」


グーロに単体で勝ったのが評価されて、ベルンの二人からもヴァーガ族長からも認められた。

俺が総大将なんだからアンガートゥールは敬語じゃなきゃいけないのだが、堅苦しい言い方はどうしても苦手だというし、俺も未だに敬られるのは慣れてないので了承した。




「失礼します!」

「おい貴様!会議中だぞ!」


一人のライカンが天幕に飛び込んできた。

シンフィーに注意を受けると反抗的な目をしていた。

本当に信頼を勝ち得てないようだ。


「緊急事態です!巨人が襲来しました!」

「何だと!?」


総大将の任命はまだ他には知らせてないのに、ここでの最強はあなただと言わんばかりに俺の方を向きながら報告した。

俺がグーロに圧勝したのが広まってるのは本当のようだ。

と、それよりも。




「近くにいる奴に足止めさせろ!決して無理はするなとも伝えておけ!行くぞ皆!」


俺はライカンに指示を出して立ち上がる。

俺の言葉に天幕内の全員が頷く。

着いたばかりだと言うのに。ゆっくりしてる暇もない。




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