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救世の暗黒勇者(リメイク前エタ)  作者: 墨沼
第二章 北の地にて獣は吠える
39/81

第30話 象と虎と雪男と

体調不良が続いており少し休もうと思っています。

次の更新は少なくとも一週間後ぐらいを考えております。





目が覚める。

夜に女性陣からお説教を喰らっていたせいか、若干寝不足だ。

扉を開けるとアルヴィナが突っ立っていた。

警護ご苦労様です。


勇者軍首領となることで彼女と一緒にいる時間も増えたが、結局正体は分からない。

まあエリザやらハイド師匠でさえお手上げなのだから、この世界に来たばかりの俺に分かる訳がないだろう。

ただやはり彼女が日本人顔というだけでなく、何故か気になって仕方ないのだが……。



「クロウさんおはようございます」

「エリザおはよう」


アルヴィナの顔をしげしげと眺めていたらエリザがやってきた。

俺の血のおかげで朝が平気な吸血鬼ヴァンパイアと化したのだ。

もはやヴァンパイアとしてのアイデンティティは崩壊しかけてるのではないだろうか。



「やはりアルヴィナはクロウさんの同郷と関係ありそうですか?」


アルヴィナについてはアンナとエリザに既に相談してある。

アンナは隠し事するとおっかないし、エリザが一番アルヴィナと過ごしている時間が長いからだ。



「それは確かだろうし、それでいて見覚えがあるような気がするんだよなあ。

勇者も俺と同郷のはずだから彼らが作ったんじゃないかって思うんだが」


そう言うとエリザは何か言おうか迷っている顔をした。

お、遂に俺への隠し事が分かるのか?



「いつかは言おうと思っていたのですがクロウさんは勇者として特殊なのですよ」

「闇属性が、でしょ?すでに死神に驚かれているから分かってるよ」

「いいえ、そうではなく」


そうでないとしたら何だ?



「勇者はこの世界で人間ヒューマンとして生まれてきます。

そして王族の庇護の元、鍛えてから魔王討伐の旅に出るのですよ」


何だと?!

じゃあ俺はこの世界に放り出されたようなものか。

女神の加護があるとはいえ、よく生き残ったものだ。

てか何故そうなった、死神出てきて説明しろ。



「となると今までの勇者は転生者ってことか……?」

「転生?」


勇者の魂は向こうの世界から引っ張ってきてるって死神に聞いたが、俺の言葉にエリザは首を傾げる。

かわいい。

いやいやそうじゃない。

いや、かわいいけど今はそういう事を考えてる時じゃない。



「そういえばハイド師匠にも前世の記憶を持つ者はいないだろうって聞いたな。

勇者にも前世の記憶があったりはしなかったのか?」

「……ええ。そのようなことはなかったはずです」


エリザが若干暗い顔をしながら答えた。

ふむ。勇者は転生者かもしれないが前世の記憶は受け継がれていないってことだろうか。



そしてエリザは勇者と魔王関連の話になると陰りを見せる。

やはり彼女と魔王に関係があるのだろうな。



「エリザ」

「はい」

「言いたくないことがあるなら言わなくていい。

でも俺は信じてるからな」


昔彼女に何があったとはいえ、今は味方だと信じている。

でなきゃプロポーズしないし、好きにすらならない。

エリザはキョトンとした顔をした後、くすくすと笑い始めた。



「私が何か策を練ってるとは思わないのですか?」

「顔見てれば分かるよ」

「〈氷血(アイスブラッド)〉と呼ばれた私の表情を読むとはさすが私の旦那様です」


彼女は嬉しそうに腕を絡めてくる。

朝からイチャついてしまった。

前は爆発しろと言いながら壁を殴る側だったのになあ……。




「クロウおはよう……エリザ、また抜け駆けしたわね?」

「アンナおはよう」


廊下の曲がり角から現れたアンナは俺に挨拶した後、すぐさま空いてる方の俺の腕にくっついてきた。

なんか抱っこちゃん人形を思い出すな。




「クロウおはよ――う」

「シャーリーおはよう、リューカオーさんもおはようございます」


食堂に入るとシャーリーとリューカオーさんが待っていた。

アンナからは鋭いプレッシャーを、エリザからは冷気を当てられてシャーリーは一瞬固まる。

シャーリー相手に何もそんなに威嚇しなくても……。


ジャックは外で狩ってきた獲物を食べるみたいだし、アルフォンス師匠は不死者アンデッドだから食事は要らない。

メリーは俺の影のままだし、アルヴィナは俺の護衛、エリザはお付き合いで少量食べるだけ。

実質勇者軍側で一緒に食事するのは俺とアンナだけだ。



「エリザ殿、もう少し食べてはいかがだろうか」

「いえ私ヴァンパイアですので……食べれるのですが血に比べると」


と丁重に断っている。

創作によっては血しか飲めなくなるヴァンパイアもいたぐらいだが、この世界のヴァンパイアは味覚が変わる程度のようだ。

と、エリザが頬を染めながら顔を近づけて耳に囁いてきた。



「クロウさん、後で吸わせてくださいね……二人きりで」


甘い声色で耳元で囁くものだからゾクゾクきた。

脚は机の下でアンナに蹴られまくってガクガクする。

……最近またアンナに遠慮がなくなってきた、可愛いあのころのアンナに戻っておくれ。



「クロウ、なんで二人きりなんだ?」


囁いても耳のいい人狼ライカンには聞こえたようだ。

シャーリーはキョトンと首を傾げてる。

そういえば尻尾をモフるために俺と二人きりになっても彼女は平然としていたし、男女が部屋で二人きりになるという意味をよく分かっていない純情狼なのかもしれない。


リューカオーさんは聞こえていない振りをしていたが、娘の発言を聞いて眉間を押さえている。

男手一人で娘育てるって大変なんだろうなあ、メリーは姿と言動が幼いだけで精霊として結構年齢いってそうだからそこまで俺は苦労してないけど。クロウなのに……今の無しな。


「パパ?何か失礼なこと考えてない?」

「何でもないよ」


メリーがニコニコしながら出てきたが誤魔化した。

影で繋がってるせいか、考えが流出してる気がするんだよな。

全部じゃなくて、なんとなくだろうけど。






食事を終えて広場に行くと集落中のライカンが集まっていた。

俺たち、というより本命はシャーリーのお見送りだろうな。

彼女の婚約者のようなシンフィー君が戦場に行っているから、彼女は集落の防備に回っていたらしい。

でも特に何もなくて退屈してたらしく、彼女はテンションが上がっている。

平和が一番なんだけどなあ。


「シャーリー様、お気をつけて!」

「シャーリー様、巨人なんてぶっ飛ばしちゃえ!」

「シャーリー様、天幕で二人っきりになったら押し倒すのですよ!」


おい、なんかおかしい声援が混ざってたぞ。

というか男女逆だろそれは。



「皆も怪我しないようにな!」



シャーリーは手をぶんぶん振り続ける。

集落が見えなくなるまで。






さて戦場と化した熊人ベルンの集落に向かうため、更に北へ進む。

雪が深く積もり、かなり寒くなってきた。


「すきっぷー」

「どうかしたのクロウ?」


馬車の中で思わず歌ったらアンナが反応した。

いいや何でもないよ、と言っておく。

日本のオタク文化なんて分からないだろうしな。



アンナの代わりにシャーリーが警戒を務めることとなった。

獣化した彼女は服を着た狼が二足歩行したといった感じだが、恐ろしさよりも毛並みの美しさに見とれそうになった。


警戒の役が変わったのは彼女の方がこの辺の地理に詳しいということもあるが、馬鳥ばちょうが寒さに弱いのだ。

集落の時点でボギーの兄妹は馬鳥を野に解放した。

よってソーロル先導、シャーリーが周囲警戒、アルフォンス師匠が手綱、ジャックが御者台で待機となる。

俺とアンナとエリザ、アルヴィナは馬車の中だ。

……よく考えると密室で女性(アルヴィナは女性型自動人形オートマタ)に囲まれているんだよな。


「今度はなに鼻伸ばしてる訳?」


アンナに見咎められてしまった。

いかんポーカーフェイスでいなければ。


「そのクロウさん、今はいくらなんでも外の二人に聞こえますしアルヴィナもいますし」


エリザさんそれは勘違いですよ!!

そこまでやましいことは考えておりません!!



「ク、クロウ、さすがにそういうことは二人っきりの時に……」


アンナまで……。

って御者台の窓からすごい視線が!



「そういえばジャックに結婚の報告しないとな……」

「もうしたわよ、クロウになら任せられるって」


アンナさん早いですね、さすが賊妖精ボギーの元女頭。

連絡が迅速だ。


「という訳でジャック、妹さんは俺が幸せにするよ」


窓に近づき、ジャックに挨拶しておく。

ボギーはあんま礼儀にうるさくないけど、結婚の報告ぐらいはちゃんとしておかないとな。



と、ジャックはジーッと俺を見てから何かジェスチャーをし始めた。


アンナを指差し……アンナが?を?

目をゴシゴシ……泣く?

手を首に横切る……首切り……。



アンナを泣かせたら解体バラバラにするぞ。



……わーお。

泣かせないようにしなければ……。




雪象ゆきぞうがいるぞ!」


と、いきなり外からシャーリーの声。

は?

こんな寒いところに象なんて――



「……マンモスじゃねえか」


横扉の窓から顔を出すと、少し離れたところに大きなマンモスがいましたとさ。



「美味いから狩っていこう!」

「却下、そんな暇はない。干し肉で我慢だ」

「そうですね、象はこちらから手を出さなければ攻撃してきませんし」


シャーリーの提案を即否する。

先行していたが、下がってきたソーロルも反対のようだ。



「げっ」


と、マンモス肉をお預けされてふてくされてたシャーリーが今度は嫌そうな声を出す。

そりゃ俺だってマンガ肉、しかもマンモスの肉にかぶりついて見たかったさ。



「今度は何だよ――うわあ」


また窓から顔を出すとライオンの雌みたいな猛獣がマンモス――じゃなかった、雪象を襲っていた。



牙虎がこだ!雪象が襲われている間にさっさと逃げましょう!」


ソーロルが叫ぶ。

がこ……牙虎……サーベルタイガーか!

どうやらこの辺は地球でいう氷河期の生き物が多いみたいだな。


夢馬ナイトメアのユメと首無しラバ――そういえば名前はパックフュラーというらしい――の駆けるスピードが上がる。



「普通雪象は群れてるから、はぐれていて絶好の獲物だったんだけどな……」


などとシャーリーが悔しそうに呟く。

……そんなに美味いのだろうか。




「っ!マズイぞ!」


雪象がこちらへ向かって走ってきた。

つまり牙虎もそれを追って走ってくる。



「なすりつける気か!こいつら魔物じゃないよな!?」

「違う!野生動物だ!」


俺の声にシャーリーが応える。

なんとまあデッカい野生動物なことで。

たしかダイアウルフも氷河期の動物だったと思うのだが、あっちは魔狼って別名がある魔物なんだよな。

牙虎は俺たちより雪象を優先してるみたいだけど、魔物だったら人を優先して襲ってくるからな。



「追いつかれたのである!!」


アルフォンス師匠が叫ぶ。

すぐ後ろに雪象が迫っていた。



「よーし、やるぞ!!」


嬉しそうにシャーリーが叫ぶ。

戦うにしても車は急に止まれない。

止まったら恐らく馬車が雪象に踏みつぶされる。



「凍て付く氷壁よ、我を害する者の行く手を阻みたまえ……〈絶氷の壁(アイシクルウォール)〉!!」


エリザが魔術を唱えると、馬車と雪象の間に大きな氷の壁がせりあがってきた。

この辺りの魔物や野生動物は寒さに耐性があり、基本的に窒息を狙う水はともかく氷の魔術は効きづらい。

だが足止めには絶好の魔術を彼女は放ってくれた。



「クロウさん、どうします!?」


エリザに指示を請われる。

雪象は氷の壁に激突し、勢いを失った。

ここで逃げて距離を稼ぐか……戦うか……。

とか考えながらも、俺の答えはすでに決まっていた。

複数の気配(・・・・・)を察知していたからだ。



「戦闘準備!新手の気配が接近中、警戒せよ!」


ボギー兄妹にシャーリーやソーロルも気づいていたらしく、既に身構えていた。

さて新たに現れた三つの気配の正体は――



雪男(イエティ)だ!」


シャーリーが叫ぶ。

茶色い毛むくじゃらの、直立歩行のゴリラのような奴が彼女らに飛びかかっていた。

イエティといえば白い毛のイメージが強く、どっちかというとビッグフットを連想させる姿であった。



シャーリーが舞うように双剣を振るい、イエティを斬り飛ばし、

アルフォンスの槍が勢いよく突き出されて、イエティを串刺し、

ジャックの鉈と手斧が嵐のように振る舞われ、イエティをバラバラにした。



「アンナ!アルヴィナ!」

「分かってるわよ!」

「…………」


ヒビの入った氷の壁を乗り越えると、雪象は満身創痍に、牙虎はそれなりの傷を負っていた。

いい具合に両方とも消耗してくれたようである。



アルヴィナのポールウェポンの重い一撃が雪象に落ちる。

骨の折れる嫌な音と共に雪象は崩れ落ちた。



アンナの放った矢が牙虎に迫るが躱される。

だけどそれでいい。

本命は俺の一撃なのだから。




「はあああああああっ!」


勇者の剣を振り下ろし、牙虎の首が飛ぶ。

戦いの幕が閉じた合図でもあった。




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