第29話 告白
突然のシャーリーの宣言に固まる俺とリューカオーさん。
そして黒いオーラを禍々しく放つアンナとエリザとメリー。
マズイ。
これはよろしくない。
「シャーリーよ、クロウ様と手合わせして負けたということだな?」
「そうだ、親父」
沈黙を破ったのはリューカオーさんだった。
さすが父親、このミサイル娘の猪突猛進振りには慣れているのだろう。
「クロウ様、この馬鹿娘は昔から自分を負かした者でないと結婚しないと言い続けてきたのです」
「なるほど。しかし同種族でなくていいのでしょうか?」
急に結婚する!なんて言い出したから訳が分からなかったが、どうやらシャーリーは自分より強い者でないと結婚しないと決めていたらしい。
それでも俺はこの世界では人間に分類され、彼女は人狼である。
別々の種族でもいいのだろうか。
そもそも長の娘ってぐらいだから、結婚したら俺が長を継がなくてはいけなくなるのではないか?
「本来であれば同じライカンとなのですが、勇者様となると……」
勇者の嫁に行くのは問題ないらしい。
むしろ名誉なこととか。
「長の後継者については、馬鹿娘と結婚させようと考えていた遠縁のシンフィーという男がいますので心配せずとも大丈夫でしょう。
クロウ様がシャーリーと結婚したいのであれば」
シンフィーという男のライカンの名前が出ると、シャーリーはあからさまに不愉快そうな顔をした。
なんか読めてきた気がするぞ……。
「シャーリー、一つ聞きたいことがある」
「何?何でも聞いてくれ!」
尻尾をぶんぶん振っている。
よし、ならば切り込ませてもらうぞ。
「君が俺と結婚したいのはシンフィーという男とくっつくのが嫌だからじゃないか?」
なーんかアンナとエリザに向けられる好意とは違うのよね。
そこでシンフィーの名前が出たときの彼女の顔を見てビビっときたのだ。
あ、ほら彼女の顔が青くなると同時に尻尾が垂れ下がったし。
「ち、ちがう!結婚したいと思ったのはクロウが私より強いからだ!
確かにシンフィーは私より弱いのに、頭がいいというだけで結婚の話が持ち上がってたけど」
んー、彼女の決め手が強さなのに間違いないみたいだけど、シンフィーとくっつけられるのが嫌で焦ってるような印象は拭えないんだよなあ。
「クロウさん」
と、ここまで冷気を混ぜたプレッシャーを放ちながらも黙っていたエリザが口を開く。
俺とリューカオーさんとシャーリーから冷汗が垂れる。
話に入ってこない間はなんとか平常心を保てたが、彼女が口を開いた途端に緊張の糸が一気に張り詰めたのだ。
「少々女だけで話し合いをさせていただいてもよろしいですか?」
「お、おう」
有無を言わせない迫力に俺は頷くしかない。
アンナ、エリザ、メリー、シャーリーの四人で話し合うのだろう。
シャーリー、骨は拾ってやるよ……。
「それじゃあ行くわよ」
「ちょ!クロウ!助けて!」
アンナとエリザに両腕をガッチリ固められて連行される被告人シャーリー。
俺はばいばいと手を振っておいた、また会えるといいな。
「パパも後で話し合おうね」
メリーの言葉に楽観的だった俺の心が打ち砕かれた。
「はは……お手柔らかに」
女性陣が退席してリューカオーさんと二人きりになる。
沸かしてもらった白湯をいただき、お互い一息入れる。
女の戦場は他に移り、この家に平和が訪れたのだ。
……俺はこの後戦場にひきずり出されるが。
「クロウ様はシャーリーのことをどう思っておられですか?」
リューカオーさんが真剣な表情で訪ねてきた。
そら馬鹿とは頭につけてるものの自分の娘のことだ、そら真剣になるだろう。
「素直でいい子ですし、将来美人になるでしょう。
しかし会ったばかりではまだ何とも」
アンナやエリザが初対面で俺に告白しても、俺は迷っただろう。
美人なエリザでもだよ、ホントだよ?
だって初対面じゃ彼女の内面は分からないから。
俺が首領になって接する機会が増えて分かったが、まだ隠し事はしてるけど勇者軍の皆のことをよく考えてるいい奴だ。
でもシャーリーは元気っ子で戦闘バカってこと以外、俺は何も彼女のことを知らないのだ。
「あの子の母親はまだ我々が草原地帯に住んでいた頃、帝国との戦いで亡くなったのです。
強くていい女でした」
リューカオーさんは遠くを見るような眼差しで話し始めた。
まるで亡くなったシャーリーの母親、彼の妻がそちらにでもいるかのように。
「それからです、シャーリーが強さにこだわるようになったのは。
シンフィーは力では彼女に敵いませんが、頭は回るので長としては申し分のない男。
彼も彼女の事は満更でもないようなので、結婚させて長を継がせようと思ったのですが……」
「そのシンフィーは今どこに?」
「ベルンの集落です。巨人との戦いの作戦と指揮を担ってます。
勝利すればシャーリーも認めるだろうと思ったのですが、それ以前に厳しい戦いで……」
種族の安全とその行く末に大分思い悩んでいたらしく、彼は思わずため息をつく。
長として皆の前では弱音を見せられぬのだろう。
勇者で勇者軍首領という立場の俺に弱音を吐きたくなるのも分かる。
「シンフィーについては何とでもなるでしょう。
それよりあの子がクロウ様を見る目は英雄を見る目、つまりは憧れにすぎないと私は考えております」
その言葉で頭の中でモヤモヤしていた引っ掛かりがとれた。
あれは確かにアンナやエリザのような男を見る女の目ではなく、アイドルに憧れる少女の目だ。
……しかし適当に済まされているシンフィー君、不憫だなあ。
「ですがあの馬鹿娘があそこまで目を輝かせているのは、妻を亡くして以来初めて見ました。
あいつには寂しい思いをさせ、異常なほどの強さへの執着を持たせてしまった。
結婚はひとまず置き、クロウ様のお傍に居させてやりたいのです。
もちろん、お手を出したなら責任はとってもらいますが」
……強さへのこだわりにはそれなりの理由があるってことだ。
そこまで事情を聞いておいて無下にもできまい。
「分かりました、そのようにしましょう」
「ありがとうございます」
「パパ、こっちは終わったけどもういい?」
いつからか様子を窺っていたのかメリーがにゅっと現れてたずねてきた。
ライカンたちにもメリーの事は伝えているので、急に現れても特に問題はない。
「ああ、行こうか」
戦場に。
無表情の女盗賊と冷気を発する笑顔の女吸血鬼の下へ。
ミサイル娘シャーリーは撃墜されているだろう。
どうやら話し合いの場は俺らの馬車の中だったようだ。
中に入ると3人の女が俺の方へ顔を向けた。
予想に反してシャーリーは涙目にも死んだ魚の目にもなっていなかった。
少々、強い眼光が失われているので戦いは苛烈だったのであろう。
「ク、クロウ」
俺が座るとまずはアンナが顔を真っ赤にして切り出した。
「あ、あ、あなたのこと、す、す、好き」
噛み噛みだった。
でもアンナの気持ちはきちんと伝わった。
どれだけ俺の事を想っていてくれてるかが。
「クロウさん」
今度はエリザの番だった。
「私は500年以上、今の今まで必死に反帝国軍を統率してきました。
しかし今や帝国により大勢の味方が殺られ、これまでの抵抗は無意味だったのではないかという考えに囚われていました。
そんな中、あなたが現れて魔剣持ちを倒し、皆を笑顔にさせた。
私はそんなあなたを見ているうちに特別な感情を抱きました。アンナに教えられるまで分からなかった恋という感情を……私、あなたのことが好きなのです。」
エリザの年齢が500歳以上、そしてそんな長い間も恋にうつつを抜かす暇がなかったことに驚いたが、それ以上に真摯な彼女の想いが伝わってきた。
彼女が俺に何故好意を向けているか、ハッキリと分かった瞬間だった。
しかしどうするべきか……。
彼女らのことは嫌いではない。
しかしどちらか選ばねばならない。
エリザを選べばアンナは再起不能になるかもしれない。
じゃあ、エリザは500年という長い年月を得てようやく幸せを得ようとしているのを無碍にできるか?
出来る訳がない。
ならば俺は俺の気持ちを真っすぐ伝えるだけだ。
アンナとエリザ、それにまだお預けを喰らっているようであるシャーリーは固唾を飲んで俺を見ている。
俺は――
「俺は同じくらい二人とも好きだ。
二人とも娶りたい」
さあ優柔不断と笑え。
ハーレムクソ野郎と罵れ。
俺は気にしない。
俺の二人への気持ちは本物だ。
……本当に気にしないんだからね(震え声)。
ああ、アンナの目に涙が――
「ほ、本当に私と結婚してくれるの」
違う、悲しみの涙じゃなく嬉し涙だ。
彼女は泣きながらにっこり笑っていた。
「クロウさん、妻として隣で支えさせていただきます。
よろしくお願いします」
エリザは裏表ない、ドキッとするような笑顔で頭を下げてきた。
「ふ、二人ともってことに不満はないのか?」
二人とも娶るとか自分で言いながら聞く俺。
……これだから駄目男なのである。
「勇者であり、多種族を率いるほどのお方が一人の妻で収まる器じゃないでしょう」
「ちょっとイラッとしたけど、エリザの言う通りだし、私の気持ちに応えてくれたのには違いないわ」
おお、思うところはあるようだが受け入られた。
よかった……。
死神グリムヘル、俺やったよ、ハーレム第一歩を踏み出したよ。
メリーはというと、しょうがないなやれやれといった感じで手を上げて頭を振ってる。
娘同然の彼女も受け入れてくれたらしい。
「あ、あのアタシもお嫁に……確かにシンフィーとくっつくのは嫌だけど、クロウの嫁になりたい気持ちも本当なんだ」
居たたまれない感じでシャーリーが切り出した。
ちょっと可哀想だったな、外に出てもらえばよかったか……。
そしてやっぱりシンフィー君は不憫だ。
アンナとエリザの顔が少し厳しいものになる。
そらポッと出の彼女に俺がいいよと言ったら、アンナがもどかしい思いをしたのは何だったのだとなる。
エリザが俺にアプローチし始めたのは最近だが、アンナとの付き合いは俺より長いから許容できるのだろう。だがシャーリーは違う。
「シャーリー、君の気持ちも分かった。
だけどお互い会ったばかりだし、リューカオーさんとも話し合ったが一先ず俺と行動してもらうことにする」
「……分かった」
最上の結果ではなかったためシャーリーは喜びはしないが、だからといって最悪の結果でもなかったので落ち込みもしなかった。
一先ず彼女を預かることになったのをアンナやエリザ、そしてメリーにも向けて話した。
……メリーの視線が冷たい、後で童話でも聞かせてやったほうがいいな。
「ところで正妻は私でいいんですよね?」
とエリザが爆弾を投下した。
「先につばつけた私が正妻に決まってるじゃない!」
ああ、ようやく平和になったのにまた争いが……。
……アンナも本人の前でつばつけるって言い回しは控えて欲しいかな。
結局正妻がどちらかは保留にしてソーロルの様子を見に行くこととなった。
集落についてから完全に彼のことはほったらかしだった。
熊人の避難所となっている、簡素な小屋群に向かうと彼は幼い少女と手をつないでやってきた。
「クロウ様、わざわざ足を運びいただきありがとうございます」
「えーっと、ソーロル、その子は……」
会うなりソーロルの背後に隠れた綺麗な金髪をした少女。
熊耳のない彼女はどこからどう見てもベルンではなかった。
「拾い子のウルスラです。ヒューマンでお互い色々苦労していますが私の大切な娘です」
帝国軍に反感を抱いているのはベルンも一緒だ、あとここにはいない海豹人も。
そんな中でヒューマンの拾い子を育てるのは並大抵のことではない。
「ヘイドラグ族長について行ったことで、私が彼女を育てることは認めてもらっています。
今だに風当たりは強いですが……」
「ソーロル、何かあれば俺に言え。ぶっ飛ばしてやる」
「ははは、ありがとうございます。でも穏便にお願いしますよ?」
血が繋がらず、種族すら違う娘がいるのはこちらも同じだ。
俺が娘を大切にする想いが伝わったのか、メリーも嬉しそうにしていた。
さて、集落で一番大きい長の家で泊まることとなった。
ジャックやアルフォンス師匠は遠慮して馬車で休んでいる。
女性陣はシャーリーの部屋で一緒に寝るようだがその前に……。
俺は宛がわれた部屋にシャーリーと一緒に居た。
彼女とやることは一つしかない。
「触るぞ……」
「う、うん」
彼女のお尻へと手を伸ばし……
もふもふっ!
勝利のご褒美に尻尾をモフらせてもらう!!
うお、ふさふさで毛並みが艶やかだ!これは素晴らしい!!
「うっ……あんっ……」
と調子に乗って強くモフりすぎたせいか、シャーリーがあぶない声をあげはじめた。
まずい、誰かに聞かれたら勘違いされること間違いなしだ。
ちょっと落ち着かせようと思った矢先にドアが勢いよく開かれた。
「クロウ?」
「クロウさん?」
「パパ?」
「クロウ様、約束通り責任をとっていただきますよ」
無表情のアンナ、冷たい笑顔のエリザ、頬を膨らませたメリー、そしてリューカオーさんまで乗り込んできた。
結果アンナは泣き、エリザに下半身を凍らされかけ、メリーは24時間ずっと見張ると言い出した。
誤解を解くのに2時間はかかったよ……。




