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int.8 使役神と死神のお仕事



聖都オリンピュネスの大聖堂、祈りの間。

聖女ジェーンと教皇カリスタは使役神ミカエラの化身である白い鳥を前に跪いていた。

三本の長い尾を揺らしながら白い鳥は羽ばたきながら下降し、やがて静止した。




『勇者と聖女が出会えるよう、具現化した精霊を遣わす』


白い鳥は透き通った威厳のある声で宣言する。




すると目の前に光が生まれ、やがて羽根の生えた人型となる。

光の精霊ピクシーの仮の姿である。


そして使役神の宣言通り、仮の姿で終わらずに小さな生身の人となる。

身に纏う服は白く清純で、髪はくしゃくしゃの綺麗な金髪だ。

背中の羽根が虫のように透き通ったものでなければ、天使と見間違えるかもしれない。



『汝らに女神の加護があらんことを』



白い鳥はそう告げると宙に羽ばたき、光となって散っていった。









舞台は狭間の世界に移る。

狭間の世界と言っても、灰色の大地でもなければ黒い海でもない。



それはクロウが見上げた、灰色の雲の上であった。

灰色の雲を抜けた先は、真っ白な世界。

空は白く、白い雲の海が広がる。

そんな中に白い島が浮かび、その上にはまるで自分が主役だと言わんばかりに白い厳かな神殿が鎮座していた。



神殿内地下。

幅が広い階段を降りていくと部屋が水没――いや水が沸く人工の泉のような場所に出る。

片膝をつき、泉を覗き込む女がいた。


泉の水面に映る女の顔は左眼に眼帯を付けた大層美しいもので、頭には羽根と十字架の意匠がある兜を被っている。




女神の伝令にして審判者、そして英雄の魂を率いる使役神ミカエラである。




彼女は片目を瞑り立ち上がる。

この泉は世界にて化身を操るための場所。

言うなれば泉の水面が液晶画面、化身はゲームの操作キャラといったところか。


ミカエラは泉の力を使って、化身である白い鳥となって聖女に具現化した精霊を遣わしたのである。

本来なら具現化した精霊は勇者の従者なのだが、今回は事情が異なる。


借り受けた女神の(・・・)力を使うまでもなく(・・・・・・・・・)、すでに勇者には具現化した闇の精霊(シェイド)が付き添っていた。

だからといって精霊を具現化させる女神の力を死蔵させておく理由はない。

使役神ミカエラは、現在離れ離れである勇者の下へ聖女を導く従者として、ピクシーの一人を具現化させたのだ。






ミカエラは泉を背に振り返り、階段を昇っていく。

やがて大理石のような、床も壁も天井も白い大部屋に出た。


大広間。

神が集い、食事や話し合いをする場所。

そして大きな食卓では黒ローブを纏った骸骨がザクロの実にかぶりついていた。




「おっ、ミカエラじゃん。おっつかれさっまー」




恐ろし気な見た目に反して陽気な死神グリムヘル。

死者の魂の導き手はザクロを食べる手を止め、ミカエラに労いの言葉をかけた。



「グリムヘル、あなたは神として行儀よく物を食べられないのですか?」


使役神の右目がジト目となってグリムヘルを捉える。


「いいじゃん、いいじゃーん!食っちまえば一緒だって!」



ぎゃはははと笑い飛ばすグリムヘル。

ミカエラは下を向き、ハアとため息をつくと自身も席に座った。

すると、食卓の上にあった空の皿に何個かの苺が現れる。



「女神ルナティミス様に感謝を」


そう祈ると用意されていたフォークで苺を突き刺し、口元まで運んで行儀よく食べる。


「手でひょいひょいって食べちゃえばいいじゃ――ナンデモアリマセン、ハイ」


ミカエラから不穏な気配を察してヘルグリムは軽口を止めた。

彼女を怒らせれば文字通り雷が落ちる。



「ところで聖女はどうだったのー?見てきたんでしょ?」


ピリピリした空気の中で、何もなかったように死神は尋ねる。

ミカエラはフォークを置き、布でわざわざ綺麗な口元を拭いてから話し始める。

口の周りにザクロの食べかすがついてそのままの死神とは大違いだ。



「至って健康良好かと。

具現化した精霊を遣わして、より気力に満ちていましたね」

「そうかそうか良かったねえ~、勇者降臨の神託がくるまで辛そうだったからねえ~」

「聖女は今のところ大丈夫でしょうが、帝国の王女の安否が分かりませんね」

「ああ、神託を聞かせたっていうあの子ね。魂は狭間の世界(シェオル)に来てないし、まー大丈夫でしょ」


ガルニア帝国第2王女カサンドラ。

幼名も皇族としてのガルニアの名も、母方の実家の家名すら取り上げられた少女。

それは他ならぬ使役神ミカエラが信託を下したからだ。

しかしミカエラは後悔していなかった。なぜなら――



「何としてでも帝国がこれ以上、怪しげな魔石を消費するのを止めなければ」



確固とした意志を瞳に灯し、呟くミカエラ。

マナの運営者たる精霊が消える帝都カルナリス。

紛れもなく魔石が関係していることは明らかであった。


それに対してグリムヘルは口調は変えないものの、声色にいささか真面目さを滲ませて答えた。


「勇者様になんとかしてもらうしかないねー、計画通り(・・・・)反帝国軍についてくれたし。

あ、今は勇者軍だったっけ?」

「そのようですね、さすがあの方(・・・・・・)の人望といったところでしょうか」



そこまで話し終えるとグリムヘルは席を立つ。


「んじゃ、下で魂の出迎えしてくるわー」

「長居しないよう気をつけなさい。

女神様がこの世界にいない(・・・・・・・・)今、あそこは神ですら無に還りかねない場所です」

「へいへい、分かってますって。使えそうなのいたら呼ぶからいつも通り星空界(エリュシオン)に転送したげて」

「ええ、期待しないで待っています」



星空界エリュシオン――白い空を越えた先にある爛々と星が煌く夜空の世界。

おとぎ話で度々語られる、死せる英雄が星になる結末。

それは架空の話ではなく、実際にグリムヘルとミカエラの手によって星となっていたのである。


星となった英雄たちは来たるべき時を闇の中で待ちながら、自らが生きてきた世界――青い星を照らし続ける。




そして、星々が光り浮かぶ闇から見た狭間の世界は白く光る球体であった。






――それは月と人々に呼ばれている。






知っているか、死神はザクロしか食べない。


そして明らかとなった異世界の月=狭間の世界という事実。

しかしまだまだ異世界の謎は残っていますのでお楽しみに。


次章、『北の地にて獣は吠える』(予定)


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