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救世の暗黒勇者(リメイク前エタ)  作者: 墨沼
第一章 この世界で生きるために
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第25話 新生・反帝国軍

お待たせしました、第一章最後の話です。

体調不良が続いていますが週1での投稿を心がけたいと思います。





戦闘の後始末を終えて俺と主要陣は一足早くブラドの館に戻ってきていた。

何やら幹部で会議をするようで、ひと段落したら俺に要件があるのでそのうちアンナが呼びに来るという。


特にすることもないのでメリーに絵本を読んであげることにした。

ジャスティン先生が教材に、と使った絵本だ。

先生の教え方が上手いおかげで、異世界文字もある程度読めるようになった。



「あるところに闇がありました。

闇はひとりぼっちでした。

闇は寂しくて泣いていました。」



読んでいるのは児童向けの世界創造神話だ。

この絵本では最初に存在していた闇は疑似人格を与えられていた。


「可哀想だね」


メリーはすっかり聞き入っていた。

闇の境遇を聞いて瞳が悲しげに潤んでいた。



「そうだね。

闇の涙から光が生まれました。

光はやがて女の人になりました。

女神様です。」

「女神ルナティミス様!」


メリーは女神の登場にぱあっと笑顔になった。

この世界で女神は皆のカーチャンだ。

精霊であるメリーは勇者の補助を任されているし、メリーじゃなくてもマナの運営を女神から任されている。

彼女らにとって女神とはこの世界を作っただけでなく、自分たちに役割を与えた偉大な神なのだ。



「闇は喜び、女神様に力を渡しました。

四つの力を貰った女神様はもっと賑やかになるよう、世界を創りました。

火の力で太陽を、水の力で海を、風の力で空気を、土の力で大地を。

太陽の光が届かない夜のために光の力で月を。

そしてこの世界に住む私たちや生き物たちを。

私たちがこうして生きているのは女神様のおかげです。

ご飯を食べる前には女神様にありがとうと祈りましょう。

おしまい。」


と、まあメリーぐらいの子供ならフーンで終わってしまいそうな内容なのだが、彼女はなぜか号泣していた。

闇が可哀想、女神様が現れてよかっただのぼろぼろ泣いている。




「クロウ、会議終わったわよ――」




ノックもされずに開かれる扉。


泣いているメリー。


それを宥める俺。


そんな部屋の光景が目に入り固まるアンナ。




「クロウ、あんたメリーに何したのよ」


やばい、アンナさん怒りのアフガンモードだ。

顔から表情が消えてる。


「えっと、メリーに絵本を読ませてたらな……」




俺の説明とメリーの肯定の頷きになんとか納得してくれた。



「クロウのことだから手でも出したのかと思ったわ」

「しねえよ、メリーは娘のようなものだぞ」


信用度が低いとはいえ、さすがに娘同然の精霊を手籠めにしそうという評価には俺ですら不快に感じる。

だが次のアンナの一言でそんな感情も吹っ飛んでしまう。



「て、手を出すなら私にしなさいよ」



顔を真っ赤にしながら放ったアンナの一撃。

色々吹っ飛ばしすぎじゃないですか。

アンナは自分の気持ちを伝えるのがどうにも苦手で、告白というイベントをすっ飛ばして既成事実を作ろうとしているようなのだ。

マックスさんの入れ知恵なのかは知らないが、狩猟の訓練の野宿といい俺を野獣にさせるような言動が後を絶たない。

……告白するよりそっちのほうが勇気いりませんかね。



「アンナちょっと待ってほしいし、メリーの前でそういう話はだな……」


幼いメリーを理由に話を押しとどめる作戦を発動する。

容姿と言動から俺も幼い子扱いしているが、本当に彼女が幼いかは分からないのだが。

しかし当のメリーから爆弾が投下された。




「パパ、浮気は駄目だよ」




冷ややかな笑顔から発せられた一言は3人を取り巻く空気を一瞬に凍えさせた。


「やっぱり手つけてるんじゃない!!この変態!!幼女趣味!!」

「違う!!違うぞ!!女神様に誓ってそのようなことは断じてしていない!!」



再び舞い起きた戦乱。

しかしそれは彼女の一言で停戦を告げられる。



「クロウ様、アンナ様、痴話喧嘩はご遠慮ください。

皆様が会議室でお待ちしています」



レリーチェさんだ。

俺らが来るのが遅いせいか迎えに来たらしい。


「痴話喧嘩……痴話喧嘩……」


周囲からそういう仲に見られていることが嬉しいのか、顔を背けてニヤニヤするアンナさん。

なんとか勘違いから来る怒りの矛先を収めたようだ、レリーチェさんグッジョブ。


ふとメリーの方に振り返ると片目を瞑り、舌をちょろっと出してみせた。

悪戯心からの一言だったようだ、勘弁してほしい。






レリーチェさんの手によって会議室の扉が開かれる。

両側の席にそれぞれアルフォンスさん、アルジーさん、ジャスティン先生、ハイドさん、マックスさんが座っている。

上座にはエリザ様が、その左斜め後ろにはアルヴィナさんが影のようにそっと立っている。

アンナはマックスさんの隣に座り、レリーチェさんはエリザ様の右斜め後ろでアルヴィナさんのように立つ。

俺はまるで王様に報告をしにきた兵士の如く、下座にあたる位置で立たされる。



「クロウさん、まずは感謝の言葉を。

此度の戦い、あなたが居なかったら大惨事を巻き起こしていたでしょう。

熊人ベルンの狂戦士を倒していただきありがとうございます。」

「いえ、一人では倒せなかったでしょう。みんなの助力があってこその勝利ですよ」


謙遜ではなく事実だ。

魔剣を持った左腕が封じれなければ俺は倒せなかっただろう。



「それでも感謝しているのですよ。

ここのところ帝国への妨害活動は失敗続きで士気が下がっていたのです。

今回の勝利で賊妖精ボギーたちの活気が高まりました」



確かにみんな嬉しそうに後始末をしていた。

今夜は飲んで飲んで飲みまくるだの、上等なタバコを引っ張り出して吸おうだの。



「そしてこれからの方針を話し合いたいのです」


そう言われてアンナの隣に座ることになった。

これからが本題のようだ。



「何故ベルンが北の地より下ってきたのかをソーロルより話を伺いました」



話はこんな内容だった。

魔剣に取り憑かれたベルンはヘイドラグという名前でベルンの族長だった。

彼らの集落は巨人に攻め込まれており、助けを求めてお供であるソーロルを連れてここまでやってきたのだという。


この世界の巨人は好戦的で野蛮らしい。

過去に魔王に従っている為、魔王の命でベルンの集落を襲っていることも考えられる。

巨人の動機が何にせよ、ベルンにとって深刻な事態は変わらない。


彼らは周辺の他種族に懇願して戦士を募ったが、それでも巨人に対する戦力が足らない。

闇雲に探し回る猶予は残っておらず、魔剣〈真の翼(トゥルウィング)〉に勝利を導く存在を求めた。

魔剣は願いを叶えて勇者である俺の元に導き、そしてヘイドラグ族長を乗っ取った。



そこまで聞いた俺に一つの疑問が浮かび上がる。


「魔剣に巨人を排するよう願うのは駄目だったのですかね?」


強い人材を探すなんて遠回りをせず、あの反則級チートな魔剣があれば勝てると思うのだが。



「あの魔剣は願いを叶えた後、持ち主を乗っ取り周囲のあらゆる者に対して殺戮を起こす。

だから自分たちの集落が近い場所でその願いは叶えなかったんだろ」


ハイドさんが説明してくれた。

集落の者を守るために魔剣に魂を売るのに、魔剣に乗っ取られた自分の手で害しては本末転倒という訳だ。

それにしても俺らに呪われた自分の討伐を任せた上、巨人を倒してくれっていうのも虫のいい話すぎないだろうか。



「巨人共を倒せる実力があるなら呪われた自分も倒せるだろう、そういった考えがあったとソーロル殿が話してくれたのである」


アルフォンスさん曰く、ベルンたちも魔剣に頼るのは反対したが、族長が自らの命に代えても皆を守ろうと有無を言わせなかったらしい。

そんな事情をアルフォンスさんに話したソーロルさんは自分の不甲斐なさに打ちひしがれていたという。



「北の各種族への反帝国軍参加を望めるために我々は助力します。

魔王が関わってるとしたらクロウさんにとっても無視できない事態だと思いますが、あなたに参戦があるかの意思を聞こうと思いここに呼ばせていただきました」



ふむ、どうやら命令ではなく俺にその気があるか考慮してくれているらしい。

体長5メートルを誇る巨人を相手にするのは恐ろしいが、答えは決まっていた。


「もちろん行きますよ」


新しい人生を与えてくれたからには勇者の使命を全うする。

それにベルンの族長は自分の命を投げ打ってまで俺に助けを求めてきたのだ。

応えないという選択肢はなかった。



「了解しました。そしてもう一つお知らせがあります」


ほう、ご褒美だろうか。

それなら美味しいものが食べたいな。




「クロウさん、あなたは今日から反帝国軍の首領になっていただきます」




「はい?」


唐突な宣言に固まってしまった。

いや、いきなりすぎるだろ。

そもそも何故巨人と戦う意思は聞いておいて首領になる意思を事前に聞かないのか。



「ここに居るやつらってのは強さを重視する。

エリザですら倒せなかった魔剣持ちを倒しておいて、今まで通りクロウがエリザに従っているんじゃ下の奴らが納得しないんだ」


マックスさんが説明してくれるが大きな穴があるぞ。


「俺、首領としての業務なんて一切分からないですし、大勢の人の上に立ったこともありませんよ」

「私が引き続き業務は処理します。

皆の者への命令に関しても慣れるまでは、クロウさんを通して私が命令することしておきましょう」


実質エリザ様が仕事を負担してくれて、俺は慣れるまでほとんどお飾り職って訳か。



「ちなみに拒否権は」

「ありません」


即答された。



「つきましては全員のことは呼び捨てにするように。

私が副首領、アンナとアルヴィナが警護として支えましょう。

美人に囲まれるし悪くはないでしょう?」



自分で美人って言っちゃうタイプかー。

いや誰も否定できないほどの美女なんだけど。



「エリザ様」

「呼び捨てにして欲しいと申したはずですが」

「ではエリザさん、俺も今まで通りの呼び方で構わないと皆に伝えてほしいのですが」


一瞬思案して笑顔になるエリザさん。

妙案を思いついたらしい。

お手柔らかにお願いします……。


「では私へのさん付けと敬語やめていただければそのようにしましょう」

「わかりまし――分かったエリザ」


まあそれぐらいなら、と思ったがアンナがジト目でこちらを見てきた。

俺の警護にアルヴィナさんがつくと聞いた時もいい顔はしていなかったが、俺がエリザに砕けた態度をとるのが気に入らないらしい。

もちろんレリーチェさん――レリーチェのようにエリザに忠実という訳ではなく、砕けた態度をとってた異性が自分だけだったから嫉妬しているのだろう。

なんか周りもニヤニヤし出したし。

しばくぞ、首領の権限で。



そして残りの面々も呼び捨てにすることになったが、アルフォンスとハイドさんは師匠と呼ぶことにした。

アルフォンス師匠はガハハハハと笑いながら喜び、ハイド師匠は弟子はとらない主義なんだがなとカッコつけていたが満更でもなさそうだ。

ジャスティン先生はそのまま先生付けにすることにした。

マックスやレリーチェからは呼び捨てにしてくれと強く言われたので呼び捨てに。

前者は堅苦しいのが苦手、後者はメイドとしての矜持のようだ。

アルジーさんは――


「アルジーはアル爺な」

「なんじゃその呼び方は!!」


彼以外の皆がどっと笑った。



夜は祝賀会を開くとの事でそれまではエリザから人の上に立つノウハウを教えてもらうこととなり、会議は終了した。






夜。

庭にボギーたちを招き入れ祝賀会が開かれた。

元オペラ歌手のエリックが歌をうたい盛り上がる。

見た目カサカサの高貴な木乃伊(ワイト)の喉から出ているとは思えない美声だ。

ボギーたちは大好きな酒を浴びるように飲んでいる。


料理は猪の丸焼きだとかが多かった。

前の世界ではファーストフードやらコンビニ弁当が常食の人間なので文句はないが、時々和食が恋しくなる。


俺の両隣に座るエリザとアンナが手酌をしてくれた。

アルコールが回ったのと、絶世の美女と見た目美少女の二人に挟まれて俺の口がだらしなく緩む。

ただエリザに手酌されたときもだらしない顔をしているとアンナに睨まれる。

するとそれを見たエリザが腕を絡ませてきてアンナが対抗してくる。

祝賀会前に首領の仕事の説明を受けていた時に分かったが、どうも彼女には可愛らしいレベルのSっ気がある。

アンナに意地悪していて本人は楽しいのだろうが、俺が後で何を言われるのか分からないから勘弁してほしい。

といっても今は悪い気はしないのだが。


俺の席の近くにはジャックがいた。

一応呼び捨てであいさつしたのだが怒りだしたりはしなかった。

だが安堵するには早いようで、アンナが手酌するのをみるたびに目を細めていた。


アルヴィナは俺の後ろを守るように立っている。

以前からちょこちょこと俺にくっついてきていたが、俺が首領となるとトイレと風呂などを除いてずっと警護するようになった。

メリーもそれをとやかく言わないで受け入れてるようなので良かった。





祝賀会を開く際にエリザから首領が俺になったことは告げられている。

引き継ぐまで、そして副首領として彼女から命令があるのは変わらないということも。

ボギーたちからの反対は一切なかった。

むしろ魔剣持ちを倒した勇者が俺らのボスということで大喝采を浴びた。



「よう大将、よろしくやってるか?」


マックスが酒瓶を手にしてやってくる。

訓練の野宿で腹を割って話したからか、自然と彼とは砕けた態度をとることができた。


「マックスも浴びるほど酒飲んでるみたいだな」

「おうよ、俺らボギーは地妖精ドワーフほどは飲まないが酒は大好きだぜ」


ドワーフはアルコールに強くて、ザルらしい。



「ところでさ反帝国軍って呼称、どうも後手に回ってる様で嫌だったんだよな」


酔った勢いでエリザの前でとんでもない発言をするマックス。

やばいマックスの氷漬けが出来てしまう。


「確かに言われてみればそうですね」


あっさりとエリザが認めた。

よかった、氷河期の到来は回避したようだ。



「では呼称を変えましょう――」


エリザが裏のある笑みを浮かべる。

嫌な予感がするぞ。


ボギーたちはいつの間にか静まり返っていた。

彼らは耳がいいからこちらの会話を聞いていたのであろう。

皆が固唾を呑んで見守る中、エリザが口を開く。




「勇者軍と」




そう言った途端、大歓声が上がった。

名実共に世界を救う勇者が率いる軍となったのだ。

モチベーションが違うのだろう。


そしていつの間にかやってきたアルフォンス師匠とアル爺が、野球団の優勝会のように酒を俺に浴びさせてきた。

後でぶっ飛ばそう。

そう思いながらも、みんなの笑顔につられて俺も自然と笑顔を浮かべるのであった。




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