第20話 首を抱える騎士と石の鍛冶師と
講義が終わり昼休憩を終えた。
前回の魔王の名前は教えてもらえたが、勇者と聖女の名前は教えてもらえなかった。
エリザ様曰く、
「魔王に敗れた勇者と聖女の名は禁忌とされ、現在は女神教上層部しか把握してないと聞いております」
とのことだ。
嘘をついてる顔ではないが、多分この人は知ってても何か理由があって言わない雰囲気を感じた。
初対面からまだ二日しか経ってないのだし、信用を深めれば教えてくれるだろうぐらいに思ってるけど。
午後からは遂に剣の訓練だ。
最初だから素振りでもやるのだろうか。
庭に出ると驚くべくことに、草原状態だった雑草が刈られていた。
敷地内で体を動かせるように、という配慮だろう。
なんにせよ除草した人、お疲れ様です。
さて剣の師匠はどんな人だろう、と思いながら仁王立ちする鎧姿が目に入りギョっとする。
散々、不死者を見てきたからもう驚くことはないだろうと思っていた矢先である。
騎士だと思われる男の首は胴体から離れており、腕に抱えられているのである。
――デュラハンという言葉が頭をよぎる。
「ガハハハ!首を持ってる首無し騎士は初めて見たか、勇者クロウよ!」
デュラハンには違いないが、首を持ってるのは珍しいようだ。
首無し騎士なのに首あるじゃんとツッコミたくなった。
いや、あるべきところには無いんだけどね。
「吾輩がお主をミッチリ鍛え上げる騎士、アルフォンスである!
この通り、首を討ちとられたアンデッドではあるがな。ガハハハ!」
髪は短く、カイゼル髭を蓄えた厳つい顔。
身体つきは鎧を見る限り、かなりガッシリとしている。
体育の熱血教師みたいだな・・・。
苦手なタイプだ。
「では模擬戦を始めるぞ!」
……はい?
「あの、素振りとかしないんですか?」
「ケルベロスを倒した勇者には必要なかろう。
おお、そうだ。アンナから聞いたが精霊の補助は無しだ」
言われてみれば確かにそうなのだが、俺はメリーの補助無しでの一騎打ちは経験がない。
実戦でないのだからいい経験になると前向きに考えよう、そうしよう。
練習用の木剣を渡された。
アルフォンスさんの頭部は木箱の上に置かれ、俺と相対するのは首の無い身体。
デュラハンは戦場で首を討ちとられた騎士のアンデッドで、ある意味目の前の身体だけの姿が一般的なデュラハンとのことだ。
アルフォンスさんは胴体から切り離されてはいるが頭がある特殊なデュラハンで、しかも頭を手に持ってなくても視界に入れれば身体を操れるらしい。
「パパ、気を付けてね」
メリーが俺の影から離れ、心配そうにこちらを見てくる。
「大丈夫である。騎士の名誉にかけて、命をとるような真似は断じてせん!」
身体に木剣を目の前に掲げさせて誓うアルフォンスさん。
なんか内容を聞いている限り、怪我は仕方ないと言っているように感じるのですがそれは・・・。
「ではまず向かい合ってお辞儀から。殺し合いではないのだからな」
お互いお辞儀する。スポーツマンシップならぬ、騎士道精神というやつか。
戦場では挨拶もクソもないのだろうが、ゆえに試合では礼儀が大切なのだという。
と、木剣を携えたアルフォンスさんの身体が重厚そうな見た目に似合わない猛スピードで突っ込んできた。
「うお!?」
俺はそれをなんとか防ぐ。
凄まじい振動が手に伝わり、ビリビリする。
スピードもさることながら、とんでもないパワーだ。
俺も反撃するが、向こうは苦も無く受け止める。
というか逆にこっちに振動が伝わってきた。
速さ、攻撃力、防御力に優れるとか強すぎじゃないですか、やだー。
なんて考えているとその隙を突かれ、一気に攻め込まれる。
彼の凄さは各種の力だけではない。判断が異様に速いのだ。
隙ありと見れば剣を叩き込む。こちらが動いた瞬間、動きを合わせてくる。
なんという剣術、なんという慣れ具合。
5分ぐらい経ったか。
俺は喉元に木剣を突き付けられた。
「勝負あり、である」
「完敗です」
俺は座り込んでメリーが持ってきてくれたタオルで汗を拭う。
僅かな間に動いただけなのに汗びっしょりである。
この御仁、とんでもなく強い。
「剣術は下地があるのだから、模擬戦を繰り返す内に出来上がってくるだろう。
だがお主の剣は遅い。なぜだか分かるか?」
一呼吸おいたらそんなことを聞かれる。
俺の剣が遅い理由。
腕力、慣れ、姿勢、考えたら色々出てきたがどれもアルフォンスさんが望む答えではなかった。
「お主の剣にはな、余計な感情が乗っているのだ。
吾輩は無心で剣を振っている、ゆえにあの速さで動けるのだ。
考えず、生前に培った経験による直感ゆえに即行動に移れるのだ」
なるほど、あの速さに納得がいく。
踏んできた場数が違うのは分かっていたが、思考の有無でもここまで差が開くのか。
とまあ、関心するのはここまでにして。
「えっと戦術とか、技とかは」
「そんなもの習わなくとも、やっているうちに自然と出来ている」
……滅茶苦茶だ。
それ才能が無いと難しいんじゃないですかね……。
「卑怯な真似は騎士としてはしないが、正面から正々堂々と打ち負かしてもぎとる勝利こそ最大の誉れ。力こそ全てである!」
腕を組んでデデーン!と効果音がつきそうな仁王立ちで力説する騎士。
うん。
そんな気はしてたがこの人、
脳筋だ!!
最初から鎧で受け止めようとはせず、攻撃を避けたりもするのだからゴリ押しよりは酷くないのだけれど。
彼の技術は経験と直感で形成されているのだ。
「戦略を考えるのは生前から苦手でのう。
吾輩の真髄は馬上槍による突撃なのだが、ゆえに突撃馬鹿と呼ばれておったわ」
ガッハハハハと大爆笑していますけど、それ悪口で言ってた人もいたと思いますよ……。
「剣術の訓練はひたすら吾輩との模擬戦である」
「えっ」
「吾輩は指導はできぬが、模擬戦で相手することで自己の動きや反省点を見つめることはできよう。
考えて剣を振るのではない、感じて剣を振るのだクロウよ」
光の剣を使う騎士みたいなこと言われたよ。
勤めてた会社の上司も熱血系で同じことを言っていた。
要は自分じゃ教えれないと丸投げである。
アルフォンスさんは素直に自分から俺は馬鹿だから教えれないって言ってくれてる分、いいけど。
まあでも、考えることは大切でも机上の理論に過ぎないことなんて多々ある。
まずはやってみろ、ってやつだ。
前の世界で経験不足がいかに不利かは思い知ってる。
どうせ技とかは教えてもらえないのだし、木剣を打ち合って色々と編み出すしかあるまい。
その後、2時間ぐらいひたすら模擬戦をした。
相手の攻撃は防いでも振動で痛いし、逆にこちらの攻撃を難なく受け止められる光景はハッキリといって精神にくるものがある。
だが魔物がはびこるこの世界で生きていく、ガルニア帝国に喧嘩を売る、魔王を倒す、そういった現実により武術は嫌でも身につけなければならない。
前の世界では色々と疎かにした結果、使い捨てにして構わない人材という末路だった。その焼き直しをするつもりは毛頭ない。
しかも今回は世界に必要とされる勇者で責任もあるのだ、折れる訳にはいかない。
ところが、何故そこまで必死なのだと問うアルフォンスさんに勇者の責任の下りだけ話したら顔をしかめられた。
「それだ。お主の剣には勇者の責任とやらが乗ってるせいで遅いのだ。
良い志だが剣を振るときは忘れよ」
ちょっと衝撃を受けた。
ストンと未完成のパズルに最後のピースが嵌ったような。
相手してもらうだけで何も教えてもらえないだろうと腹を括っていたのだが、それは剣術についてであって精神的なものはその限りではなかったのだ。
「その思いが剣には重いのだ。なーんてな、ガハハハ!」
その一言で台無しになった。
さて訓練は終わったのだがアルフォンスさんに鍛冶場に案内してもらえることになった。
勇者の剣は魔力を注げば自己修復するのだが、いずれ着るであろう鎧などは鍛冶師に頼んで直さなければならない。
館から少し離れた石造りの小屋に着く。
ここが鍛冶場のようだ。
小屋から熱気が漏れている。
熱血デュラハンとの相乗効果で俺の周りの温暖化が急激に進んでいる。
「おーい、アルジーはおるかー!!」
鍛冶師と思われる人物の名を入口で大声で叫ぶアルフォンスさん。
すげえ、大声で空気が震えてる。
鼓膜が破けるかと思ったぞ。
「仕事の最中に大声出すなと何回言ったら分かるんじゃ、うるさいわ馬鹿もんが!!」
出てきてたのは俺の背の半分ほどの禿頭で白い髭がモッサモサの老人であった。
中の鍛冶場はかなり暑いのだろう、タンクトップにズボンみたいな姿だ。
賊妖精のように耳が少し尖っているが、彼らと違って身体は筋肉ムキムキのマッチョマンだ。
ドワーフ、そんな言葉が頭をよぎったが確信には至らなかった。
肌が灰色なのである。
まるで石みたいだ。
「紹介しよう、鉱妖精のアルジーである。アルジー、こっちは勇者のクロウである」
「若造よ、似てる地妖精と一緒にはしてくれるなよ」
「すいませんがどう違うのでしょうか?ドワーフを見たことがなくて」
デュルガーって確か悪いドワーフというポジションだったか。
「なんじゃ、妖精を先祖に持つ種族の特徴は聞いておらんのか」
と、驚きと呆れが混じった顔で説明してくれた。
元は妖精であった野妖精、デュルガーは生まれつきの心の在り方によって見た目すら変化して種族が分かれたという。
これは元の存在となった妖精が実体を持っていなかったため、生まれついた性格によりマナの構成に何らかの変化を与えるのではないかと言われているそうだ。
アンナから賊妖精の話を聞いていたから理解しやすかった。
温和な種族であるパックルから生まれたが、戦の種火になりかねない略奪行為を繰り返す彼らは見た目は似てても異なる種族ということだ。
一方でドワーフはデュルガーから分かれた種族だという。
デュルガーはいかに人を殺すか、と考えながら武器を鍛えて研ぎ澄ます種族だという。
そんな中から生まれたのは誇り高き戦士の志を持つドワーフたちだという。
「あやつらは誇りだのなんだのを死んでも曲げん。
生きててこその物種。どんな手を使っても生き残るべきと思わぬか?」
デュルガーとドワーフの違いでもあり、溝となっている差は戦い方によるもののようだ。
しかしその言葉で複雑な表情をしたのは熱血騎士アルフォンスだった。
「吾輩はドワーフほど話してて気持ちのいいやつはおらんと思うがな」
「お前もそんなんだから首と落とされる事態を回避できなかったのじゃ」
その言葉で呻いて何も言えなくなるアルフォンスさん。
中々にデリケートな話だし、聞きたいとも思わないからそっとしておこう。
誰しも話したくない思い出はあるのだ。
「ということは森妖精から分かれた種族はいるのですか?」
話の流れを変えるためにも聞いた。
まあ恐らくいるんだろうなって考えを確認したかったのもあるのだが。
ダークエルフという種族を。
「エルフから分かれた者はいるが種族名は無いな。彼らは闇の堕とし子と呼んでいる」
ダークエルフって名前ではないが、それらしい種族はいるようだ。
「何百年かに1人現れるそうじゃな。
生まれて自立できるようになったら追放という話しか聞いたことはない。
恐らくオッドミールの森から出てすぐ死んでしまうんじゃろうな。
まあ今やデュルガーも儂一人しかおらんようじゃが」
どういうことですか?と言いかけて慌てて口をつぐむ。
アルジーさんの顔に出ていたのは憎悪であった。
その顔ですぐに分かった。
ガルニア帝国に大勢殺されたのだろう。
「まあそれはさておき、愚かにも武具を壊したら儂に嘆願するがよい。
聞く耳は持ってやる」
この人も大分傲慢だなあと思っていたら、アルフォンスさんが俺にしか聞こえない声で「なんだかんだで治してくれるのである」と言った。
ツンデレかよ。
ジジイのツンデレって需要あるのか?
「おお、そうだクロウよ。勇者の剣を見せておくれ」
思い出したかのように言ったアルジーさんに勇者の剣を見せる。
「ほう、勇者の剣というからには馬鹿げた装飾があるかと思えば、中々に敵を屠るのにいい剣ではないか」
と、勇者の剣らしかぬ評価をいただいて鍛冶場を後にするのであった。




